第二話 異世界
扉を開けるとそこは異世界でした。
どうやら市場みたいなところにいるらしい。人が多い。
というか人じゃないのも混じってる。あ、あれ飛んでいるのドラゴンじゃね?
「私たちの世界と全然違うんですねー」
女の子も僕と同じようにきょろきょろしている。ちなみにヤンキー君は鋭い眼光で通行人をビビらせている。
……とりあえず、友好関係の第一歩として。
「自己紹介しようか。僕は寺田和臣」
「あ、えっと槙島紫です」
「……小倉凪」
その瞬間、ぐぅーと誰かのお腹が鳴った。
「すみません、私です」
顔を赤らめながら槙島さんが小さく手を挙げた。
「じゃあご飯にしようか。そこで今後のことについて話そう」
僕が提案すると、二人は黙って頷いた。
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「なあ、これなんだ」
「……多分何かの生物の姿焼き?」
「食えるか」
手近な店に入ってメニューを開くと、よくわからないカタカナが羅列していたので適当に頼むと案の定失敗した。
小倉君は目の前の皿に睨みをきかせている。怖い。
対して槙島さんはもの凄いスピードで食べていた。
「お腹がすいていたのでがっついてしまいました」
食べ終わると(小倉君は付け合わせの葉っぱだけ食べて、本体を槙島さんにあげていた)、満足げに槙島さんは笑った。
……さっきの勢いがなければ和風美女で通るのに。もったいない。
「これからどうしようか」
「まともな食事」
「ほんとごめんね、小倉君……とりあえず観光でもしてみる?」
「なんであんたと一緒に観光しなきゃいけないんだよ」
「えー一緒にこっちに来た仲だし、一人だったらつまんないよ」
「私も行きたいです」
「はい2対1で決定ー。異議は認めませーん」
「多数決なのか!?」
店に入るまでにも楽しそうな店が多かったし、何よりここがどういうところなのか見たい。
そう考えるとなぜか心が痛くなった。
――お前は忘れたいんだろう?
誰かが、嘲笑うように言った。
「寺田さん」
気がつくと槙島さんが心配そうに眉を下げていた。
「大丈夫。ちょっとぼーっとしただけだから。ここ、出よっか」
僕らは立ち上がって会計へと向かう。頭に猫耳をつけた若い女の人が三十ソルです、と聞き慣れないお金の単位を言ったのでとりあえずもらったお札を全部出した。
「お金足りません」
猫耳女性は笑顔でそう言った。
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「……ほんとにごめんね、二人とも」
夜、僕らはご飯を食べた店の二階にいた。
あれから足りないお金の分を働かされ、真面目に働いていると行くとこないなら二階に泊まりな、と店長に言われた。
異世界は優しい世界なのかもしれない。
「でも寺田さんのおかげで寝る場所も、晩御飯もここの賄いで食べれましたし」
槙島さんは最初より随分笑ってくれるようになった。
会った時、彼女はどこか貼り付けたような笑みだった。でもいつの間にか自然な笑みへと変わった。
小倉君も最初はずっと睨んでいたが、今ではちょっと緩くなった気がする。彼はバイトで接客業をしていたらしく、最初は皆ビクッとするが、帰る頃には彼の適切で真心のある接客により、客は皆ありがとうと言って帰っていった。人は見た目で判断すべきじゃないと改めて思った。
「でも一つの部屋を三人で使う羽目になっちゃったけどね。槙島さん、ごめんね」
「大丈夫です!狭い部屋で寝るのは慣れてますし。むしろ蜘蛛の巣が張ってなくて掃除する必要がないくらい綺麗です」
「お前どんなところで寝てたんだよ」
槙島さんは時々どんな生活を送ってたのかわからないことを言う。
「じゃあ明日は夕方から観光しよう」
店長が僕らの働きに感激して、四日間寝るところを貸す代わりに、働いてくれないかと言ってくれたのだ(ほとんど小倉君のおかげだ)。明日は店長に用事があるとかで夕方に店を閉めるそうだ。
「どんだけあんたは観光行きたいんだよ」
「楽しそうじゃないか。あと妹に話してやりたいし」
「妹さん、いらっしゃるんですか」
「うん。……ちょっと今離れて暮らしてるけど」
「お土産でも買って行かれたらどうですか?」
「……そうだね」
それができたらいいけど。
そして、異世界体験一日目が終わった。