目
−君の目はとても綺麗なんだ、見せちゃいけないほどにね
−君の目はとても醜い、見るに耐えないほどに
とても暑い日に少年は少女に拾われた。
少年の右目は白い布で覆われて、少女の左目もまた白い布で覆われていた。
家に連れて行くまでに少年は言葉を発さず、表情による意思表示もしなかった。
だけど、少年は捨て子ではない。
少年の着ている物は汚くは無く、むしろ綺麗で、なにより右目を覆っている包帯は真っ白だったから。
反対に少女の着物は埃っぽく、左目を覆う包帯は暑さによってか茶色いしみが出来ていた。
暑い日の中で少年は少女に字を、言葉を、表情を、生きることを教えた。
少年を拾って数日して少女の家には幾許かの食べ物が届けられた。
食べ物だけではなく、衣服も、包帯も、薬も。
少女が欲しいと願ってたものがいとも簡単に手に入れられて、さも当然のように少年は服を着替えて、包帯を巻きなおしてもらい、薬を飲む。
全部、全部少女が教えた事、なのに用意されたのは一人の分とほんの少しのお情けだけ。
「ねぇ、お姉さま。私、お医者様に言われたの。私の目を隠しているのはとても綺麗なままにするためだって」
「そう、いいお医者さまなのね」
うん、と満面の笑み。
どうして不細工だと言うのにこれほど自信を持って笑えるのだろう。
人間にしてあげたのは私なのに、どうして私は養われているなんて思ってしまうのだろう。
何より憎いのは目の前の笑顔に本当に悪意が感じられないこと。
突然の事で声も出なかった。
振り向いた私の目はきっと睨むようなものだったと思う。
「お姉さま、私の目をあげます」
どういうことだろう、何を言っているの。
「お姉さまが外に出なくなってしまったのはその目のせいでしょう。だったら私の目をあげます。なんだってお医者様が綺麗だと褒めてくれたものですよ」
「本当に良いの」
口に出してみて自分の浅ましさが分かった。
でも、それよりも目玉が欲しかった。
包帯を解いて固く閉じていた瞼を指でをこじ開ける。
空気に触れてこなかった目からは涙が流れてくる。
その涙を指につけて更に奥深くへと入れていく。
左右から空洞を進んで行きながら指が棒の様な物に当たる感触がする。
指を内側に曲げて一気に力を入れて引き抜く。
すると木の根のようなものを残してとても汚いものが出てきた。
色は黄色じみていて形はところどころしぼんだようになっている。
違う、違う、違う、違う違う違う違う違う
掴んでいた汚物を投げて左手でもう片方の瞼を開け放す。
今度はより慎重に右の指を眼底に突き入れる。
右の手のひらで包むようにして取り出したものは
とても鮮やかな赤色に彩られた綺麗な目だった。
目の前で悶える者が今、初めて愛しいと思えた。
きっと微かにしか残っていなかった母性が出てきたのだろうか。
自分の左目の汚物を取り出しながら、抱き寄せる。
ぽっかり開いた穴の中に綺麗な目を入れながら片方の腕できつく抱きしめた。
「ありがとう」
「大好きだって分かった」
涙は尽きる事がなかった。