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7話 それぞれの魔法

 魔力を練り上げた俺は、足元に【反壁】を作りだす。

 そして思い切り踏込み、宙へと身体を投げ出した。


 その勢いが殺されないうちに、進行方向に全身を覆うサイズの【反壁】を作る。

 半透明の壁は俺の身体を包み込むように湾曲し、そして俺を放出する。


 その繰り返しによって、俺はまるで飛行魔法か跳躍魔法でも使っているかのように宙を自由に駆けまわった。


「す、すごいでござる……」

「ゲロ……」


 二人の呆気にとられたような顔が視界の端に入る。

 自分の身体の速度が十分出ていることを確認し、俺は最後の段階へと移る。


 進む先に連続して【伏雷】【隠炎】【忍氷】【隆土(りゅうど)】【狂風(きょうふう)】を仕掛け、その上を高速で通り抜けていく。

 俺が通った場所からは、雷、火、氷、土、風の色とりどりな魔法が弾けるように飛び散った。


「……とまあ、こんな感じです」


 着地した俺は、黙って見つめる皆に言う。


「二、三、四、……五属性!? む、無茶苦茶でござる!」

「おいらは全身が驚きで満ち溢れているケロ……」

「キミあの日使った魔法が全部じゃなかったの!? ボクまで驚かされたよ!?」


 三人は各々の言葉で俺に驚きを表現した。

 バギランでさえ、その厳つい顔を驚愕に歪ませている。


 しかし、ここまで驚かれると逆に俺の方が驚きたくなる。


「いや、これ以外にあと回復系の【快癒】とか潜伏用の【偽影(ぎえい)】も使えるんだけど……」


【快癒】は範囲内に入ったものを癒す回復魔法で、【偽影】は対象を一定時間認識しにくくする魔法だ。

 付け加えた情報に、ルルナは眉をひそめた。


「……リュートって、本当に人間?」

「そこまで!?」


 やっぱりおかしいな。

 どうも俺の認識と、周りの認識に食い違いがあるような気がするぞ……?

 俺は抱えた疑問を担任のバギランにぶつけてみることにする。


「先生、これって普通じゃないんですか?」


 バギランは厳めしい顔に戻り、フルフルと太い首を横に振る。


「普通なわけあるか。基本的に魔法は一人一種類だぞ。二種類以上の魔法を使えるのは例外中の例外、この国でも五人いるかどうかだ」

「いや、俺も一種類ですよ。罠魔法です」

「それが俺にはいまいち信じられないんだが……。審査は万全なはずだし、間違いないんだよな……」


 バギランは自分に言い聞かせるように小さな声で言った。


「罠魔法ってこんなに便利な魔法だったのでござるか……。てっきり土魔法の劣化版なのかと思ってたでござる……」


 そしてこのツルギの言葉。


 ……やっぱり。

 俺は確信する。

 どうやら俺が思っている以上にこの国の……いや、この分では世界レベルか。この世界の魔法は俺の想像より大幅に遅れているようだ。

 でもまあ、理論で勝てても先生に勝てるかと言えばそれはまた別の話だしなぁ。

 実力で言えば、きっと俺はまだ先生には敵わない。

 いや、先生だけじゃなく同じクラスのルルナたちにすら勝てるかもわからない。


「何もかも捨てて強くなる」なんて気はないけど、強くなっておいて損することはない。

 まだまだやらなきゃいけないことは多そうだなぁ。




「じゃあ、次は拙者がいくでござる」


 次はツルギが魔法を披露することになったようだ。

 俺は地面に座り込み、低くなった視線からツルギを見上げる。


 ツルギはピンと伸びた背筋で腰に付けた刀を抜き放ち、それを空中へと放り投げた。

 投げられた刀は弧を描き、頂点に達した後重力に従って落ちて――こない。


 刀は何の支えもなく、宙に浮いていた。

 しかもその浮き方はふわふわとしたものではなく、まるで誰かが刀を握っているかのように確固としたものである。


「これが拙者の魔法、金属魔法でござる。単純至極、金属を操って戦う魔法でござる。拙者は未熟故、未だ刀程度しか操れぬが、それでもこの程度は出来るのでござる。ご覧に見せよう!」


 そう言うと、ツルギは腰に付けた刀を次々と宙に投げ始めた。

 その数、総計十二本。

 二桁の刀を周囲に漂わせながら、着物の少女は一人佇む。

 十三本目の刀を自らの両手で握りしめたツルギは、自信に満ち溢れた目で俺たちに宣言する。


「拙者は魔法の扱いは皆に劣るかもしれない。魔力も皆に劣るかもしれない。……それでも拙者は誰にも負ける気はござらん。誰よりも立派な冒険者になると、この十三本の剣に誓ったからでござる!」


 そう言ってツルギは両腕を天に掲げ、そして振り下ろす。

 浮いていた十二本の刃がツルギの目の前に突き刺さった。


「いい気迫だなツルギ。その調子で頑張ればいつか俺のようになれるぞ」

「っ! あ、ありがたきお言葉にござる! 精進するでござる!」


 バギランに褒められたツルギはとても上機嫌だ。

 バギランみたいになったツルギ……なんか嫌だな……。

 バギランの身体にツルギの顔が乗った姿を想像してしまった俺は、人知れず眉をひそめたのだった。




「ケロケロケロー」


 次はペティーシェの番に決まったようだ。

 正直この子がどんな魔法を使うのか、まるで想像がつかない。


「おいらの魔法は特に危険もないケロ。だから安心して見ておいてほしいケロー」


 そう言うとペティーシェはしゃがみこみ、水かきのついた手で地面の土を集め始める。

 ……何をしてるんだ?


 手の平一杯分ほどの土を集めたペティーシェは、広げた両手の上にその土を乗せた。

 すると、その土がまるで意思を持ったかのようにうねうねと動き始める。


「ゲロゲロゲロ~……ゲロッパ!」


 その掛け声とともに手の平に現れたのは、土でできたカエルの人形だった。

 一見しただけでは本物と見間違えるくらいの精密さである。


「おいらの魔法は変化魔法だケロ。変化魔法とはその名の通り、物質の形を『変える』魔法だケロ! ちなみにおいらはカエル亜人だケロ。カエルだけに変えるんだケロ。ゲロゲロっ!」


 ペティーシェは唐突にカエルジョークを披露した。

 なにがなんだかわからない。


「その変化魔法とやらは、カエル以外の形にもできるのか?」


 しかしそんなペティーシェにも、バギラン先生はしっかりと対応する。

 やっぱり大人ってすごいや。俺には無理だ。


「もちろんだケロ。例えばこんなのとか作れるケロ」


 ペティーシェは地面にぺたんと手をつき、そこに魔力を流し込んでいく。

 するとペティーシェの周りの地面が隆起していき、土の天然牢が完成した。


「まあ、ざっとこんな感じケロね」


 魔法の披露を終えたペティーシェは乱れたフードを直しながら平坦な声で言う。

 バギランは顎に手を当て、今のペティーシェの魔法を評した。


「ふむ……形成スピードはもう一歩といったところだな。だがその魔法はとても有用だろう。多くの環境に対応可能だろうしな」

「ゲロッパ!」


 ペティーシェは手を開いたり閉じたりする。そんなペティーシェをバギランは厳しい目線で見つめる。


「そのゲロッパと言うのはどういう意味だ?」

「ゲロローンがアマガエルだとしたら、ゲロッパはガマガエルケロ!」

「そうか。どうもお前とは会話が通じそうにないな」

「ゲロローン」


 にべもないバギランに肩を落とすペティーシェ。

 なんだかんだで息が合ってる気がするのは俺の気のせいなのだろうか。




「じゃあ最後はルルナだな。前に出ろ」

「はい」


「じゃ、じゃあいきます……!」


 ルルナは緊張した様子で少し前傾姿勢になり、拳を握りしめる。

 ルルナは無効魔法を使うんだっけか。魔術師にとってこれほどの天敵はいないだろうな。


「ボクが使えるのは無効魔法なんだけど……じゃあリュート、ボクに魔法を撃ってくれる?」

「へ? 俺が?」


 突然指名され、俺は狼狽える。

 もう俺の番は終わったと思って完全に観戦モードに入ってたよ!?


「だってキミ以外に普通の魔法使える人いないじゃん。お願いだよリュート」


 周りを見回すが、たしかに俺以外には普通の属性魔法を使える人がいないな……。

 かろうじてペティーシェが土を変形させられるくらいか。


「やってやれリュート。俺じゃ無理だからな」

「わ、わかりました」


 俺はルルナから十メートルほどの距離に立つ。


「じゃあ行くよ?」

「うん。来て、リュート」


 ルルナの返事を聞いた俺は、自らの右手に【忍氷】を仕込む。

 遠くから飛ばさないといけないから、今回はいつもより攻撃力を重視した。

 今回の罠の作動条件は、「魔力が通った存在が触れたら」だ。

 俺はルルナに向けた右手に左手で触れ、すぐに左手を離す。

 罠から飛び出した氷は、ルルナの元へと飛んで行った。


 ルルナの元へと飛んだ氷塊はしかし、ルルナの周囲三メートルほどに入った段階で突如消失する。

 さきほどまでたしかに存在したはずの氷の塊は、物の見事にその存在を消していた。


「はい、ということでボクの魔法はこんな感じに周囲の魔法を任意に消去できる魔法かな」


 ルルナは何でもなさそうにそう言うが、俺は興奮を抑えきれない。


「すっごいな。こんな魔法使えるならもう敵なしなんじゃないの?」

「そんなことないよ。例えばツルギみたいな魔法とは相性悪いんだ。操る力を無効化しても、刀の勢いは無力化できないからね」


 なるほど。消せるのはあくまで魔法だけで、魔法がかけられた物質は消せないって訳か。


「だけどそれでも凄い魔法だよ!」

「そ、そうかな? えへへ、ありがと」


 照れたようにはにかむルルナ。かわいい。


「よし、それぞれの魔法が分かったところで、これから魔法を鍛える! といってもお前らはまあ根本的に魔法の扱いに慣れてないやつが多い。特進クラスといってもそれは同じだ。例えば貴族などが幼いころから受ける魔法の英才教育、あれよりも数段厳しくいくから覚悟しておいてくれ。なぁに、すぐに慣れる!」


 そんなバギランの一言で、俺たちは魔法を使って使って使いまくった。

 数十分もすると俺以外の皆は全員魔力が枯渇してしまったようで、グラウンドに倒れこんでしまう。

 一方の俺はというと、まだまだ魔力には余裕があった。

 その様子を見たバギランが俺に声をかけてくる。


「リュート、お前中々やるな。ここまで持つのは特進クラスでも珍しいぞ」


 まあ、子供の時からずっと爺ちゃんと婆ちゃんに魔法の訓練してきたし、魔力量なら負けない自信はある。

 罠を作り続ける俺に、バギランは暑苦しい笑顔でサムズアップする。


「さすがリュート、俺が見込んだ男だな! 俺は最初からお前の溢れんばかりの才能を見抜いていたぞ!」


 先生本当調子いいな!

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