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5話 クラスメイトは変わり者

 一通り喜び合った俺とルルナは、少しずつ気持ちを落ち着かせていく。

 そんな時、後ろの席に座っていた少女が俺たちに声をかけてきた。


「失礼、ルルナの知り合いでござるか?」


 振り向いた俺の目に、凛とした美少女の姿が映る。

 艶のある長い黒髪を後ろで一房に纏めた少女は、着物を着ていた。

 きつい印象を感じない程度のつり目に、控えめな胸をしている。


 ええと、こういう人のことなんて言ったっけ……ああそう、武士だ。

 目の前の少女は武士に似た佇まいをしていた。


 そんな少女に、ルルナは柔らかい笑顔で答える。


「あ、ツルギ。そうだよ、試験の日に知り合って凄く助けてもらったんだ」

「どうも、リュートです」


 ルルナの紹介に乗る形で頭を下げた。

 随分と気安げなルルナの態度からして、知り合いなのだろうか。


「拙者はツルギでござる。ルルナとは特進クラスの入学手続きの列で隣り合って仲良くなったのでござる。よろしく申し上げる。あ、それと、もっと気楽な感じでいいでござる」


 やはりそうだったようだ。


 これで俺以外の三人の内、二人とは会話をしたことになる。

 あともう一人にも話しかけよう――というところで、教室の前方の扉が音を立てて開けられた。


 そこから入ってきたのは厳つい顔の男、バギランだった。


「よし、席に着け! ……ん? もう着いてるか。こりゃ、今年の特進クラスは優秀だな」


 席に座る俺たちを見たバギランは感心したように呟く。

 優秀のハードルがこの上なく低い気がするのは気のせいだろうか。


「えへへ、優秀だって! やったねリュート!」


 あ、ルルナがちょろい。


「拙者が優秀……ありがたきお言葉でござる!」


 ツルギもちょろいのか。

 大丈夫かこのクラス……。なんか急に不安になって来たぞ……。


「このクラスを担当するバギランだ。お前ら、二年間よろしく頼む。それと、今年は特進クラスが八人出たので四人ずつに分けている。これほど豊作な年は異例だ」


 バギランが言う。

 改めて考えてみると、四人って超少数精鋭だよな。


「初日の今日は授業なしだ。明日から授業に入る。今日は互いに軽く自己紹介でもしておけ。クラスは特例を除いて二年間変わらないからな、仲良くなっておかないと苦労するのは自分だぞ」


 そう言ってバギランは教室を出ていく。

 清々しいほど短い挨拶だ。まあたしかにグダグダしたのは嫌いそうな顔してるけどさ。


 なんて思っていたら、一度出て行ったバギランは扉から顔だけひょこりと戻ってきた。


「リュート、俺はお前に期待してるからなぁ!」


 そう言ってウィンクし、今度こそ帰っていく。

 清々しいほどの手の平返しだな! ここまで見事だと呆れるよりむしろ称賛したい。




 風のようにバギランが過ぎ去っていた後、俺たちは再び談笑タイムに入る。

 バギランの言う通り二年間付き合っていく人たちだからな。ちゃんと仲良くなっておかなきゃ!


「あの『戦闘鬼』バギラン先生から期待されるとは……リュート殿、凄いお方でござる……!」

「あの人って凄い人なの?」


 正直あんまり凄い人って感じがしないんだけど。

 いや、いい人って感じはするけどね。ちゃんと謝ってくれたし。


「知らないのか!? バギラン先生は去年この学園に入るまで、十年以上にわたって冒険者の最先端で武を磨いてらっしゃた方でござるぞ」

「ツルギはバギラン先生のファンなんだよねー」

「うむ、あの方は私の憧れの人でござる」


 そこまで尊敬してるのかぁ。

 たしかに俺の渾身の魔法も余裕だったし、実力的には凄いのかもしれない。


 そんなことを考えていると、少し間の抜けた声が聞こえてくる。


「けろけろけろ~」


 その声の主は最後のクラスメイトだった。

 その服装は奇異の極みである。なにせカエルのパーカを着ているのだ。

 頭にかぶったフードには可愛らしくデフォルメされたカエルの顔が描かれている。

 その服装をした本人はといえば、眠そうな顔をした緑髪の美少女だった。

 座っているからはっきりとはしないが、おそらくルルナと同じくらいの背丈だと思う。

 体の凹凸は少ないが、この三人の中では一番主張の強い胸部をしている。

 そんな子が、けろけろと鳴いていた。


 ……なんだ、どうすればいいんだ?


「け、けろけろけろー?」


 とりあえず相手に合わせてけろけろと発してみる。


「あ、ちゃんと喋れるケロ」


 喋れるんかい! 俺バカみたいじゃん!


「あ、そ、そうなんだ。ごめん」

「ゲロッパ!」


 謝る俺に、カエルの少女はニヤリと口角を上げて親指を立たせる。

 どうしよう、意味が分からない。


 困惑する俺を置き、カエルの少女は自己紹介を始める。


「おいらはペティーシェだケロ。趣味は雨に打たれることだケロ。よろしくだケロー」


 そこまで言って、ペティーシェと名乗った少女はぺこりと頭を下げた。

 なんていうか、マイペースな少女だ。


「うんまあ言いたいことは色々あるけど、とりあえずよろしく。俺はリュートね」

「ゲロゲロー。リュート君、よろしくだケロー」


 喉を鳴らして俺の挨拶に答えるペティーシェ。


「ペティーシェ殿は変わっておられるなぁ。あ、拙者はツルギでござる」

「ツルギさん、よろしくだケロー」


 ツルギが驚いたように黒い瞳を大きくする。

 一方ルルナはといえば、ペティーシェに興味津々なようだ。


「ボクはルルナ、よろしくね! あの、ペティーシェさん、なんでカエルのフードを被ってるのかって聞いてもいいのかな? あ、嫌だったら答えなくていいよ!」

「ペティーシェで良いケロ、ルルナさん。カエルのフードを被ってるのは、趣味だケロ」

「しゅ、趣味……?」

「このフードを被ることによって、自身がカエルの亜人であるということを常に自覚することができるケロ。自己のアイデンティティの確立だケロ!」


「ちなみに語尾をケロにしてるのもそのためだケロ」と言うペティーシェ。

 同じ言葉で話しているはずなのに内容が理解できないなんて初めての経験だ。


 呆気にとられる俺を抜きにして、ペティーシェは大きく腕を広げる。

 若干パーカーの大きさが合ってないせいで手が半分くらい隠れちゃってるな、なんて現実逃避をしてしまう。

 ペティーシェは左手を自身の腕の前に持ってきて、そこをじっと見つめた。


「ここに『ケロ』があるケロ?」


 ないと思います。

 俺の声に出さない異議は、もちろん気づかれることはない。

 続いてペティーシェは右手を胸の前に持ってくる。


「ここにも『ケロ』があるケロ?」


 ないと思います。……ないよね?

 両方を胸の前に持ってきたペティーシェは、その掌をパチンと合わせた。

 そして満足げな顔をする。


「合わせると、『ケロケロ』になるケロ!」


 すげえやペティーシェ! 今の一連の話、一個も意味も分からない!


「なるほど、そういうことかぁ……」

「深いでござるな……」


 ウンウンと頷くルルナとツルギ。

 君たち本当にわかってるの!?


「ゲロッ、これが理解できるとは、さすがは特進クラスだケロ! おいら、このクラスで上手くやっていけそうだケロ!」


 俺は上手くやっていく自信がないよ……。

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