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4話 試験結果

 俺はまず足場に【反壁】を、バギランとの間に【伏雷】を仕込む。

 肉体強化魔法の使い手が取る戦術は、基本的にそのスペックを活かした突進が多いと爺ちゃんが言っていたからな。


 バギランは俺の想像通り、俺の方へと足を進めてくる。

 罠のある場所まであと三歩、二歩……よしっ、踏み込んだ!


「……む? ふんっ!」


 バギランは一瞬動きを止めたものの、すぐに痺れを回復し動き始めた。

 おいおい、化け物じゃねえか!

 ビッグベアでさえ動けなくなるような魔法を生身で受けて平気だとは……これが冒険者学園の教師のレベルってことか。


 バギランは突進を止め、立ち止まっていた。

 俺の仕掛けた【伏雷】のあった場所と俺を交互に眺め、不思議そうな声を出す。


「小僧、どういうことだ。お前は罠魔術師じゃないのか? 罠魔法なんて、せいぜい落とし穴を作れるだけの土魔法の劣化版なはずだ。それなのに雷魔法を使うとは、これは一体……?」


 ……え?

 国で一番の教育機関の教師でさえその認識なのか?

 もしかして、この国の魔法のレベルって俺が思ってるより相当遅れてる?


「正真正銘の罠魔法ですよ。時代は日々進歩してるんです」


 俺はそう言って【反壁】に足を踏み込む。

 半透明な壁は俺の体重によって湾曲し、その勢いをそのままにバギランの方へと俺の身体を運んだ。


「っ!?」


 俺の目前にバギランの驚愕した顔が迫る。


「雷魔法に身体強化魔法……どんな仕掛けを使ったか知らないが、接近戦で俺に勝てると思わないことだな!」


 しかしバギランは即座に拳を構え、迫る俺に向けて振りかぶった。

 この一瞬でタイミングをばっちり合わせてくるとはさすがだ。


 でも、それは読んでる。


「ええ、勝てるとは思ってません」


 俺は自分とバギランの間に【隠炎】を仕込み、再度の【反壁】で方向転換しバギランの頭上を越える。

 結果バギランの拳は空を切り、発動した【隠炎】から発された炎がバギランの身体を包み込んだ。


「っ!? 火魔法もだと!?」

「まだまだここからですよ」


 燃えるバギランの背後に着地した俺は、自らを対象に【忍氷(じんひょう)】を発動させる。

 そしてバギランに触れた。


 すると、燃えていたバギランの身体が触れた先からどんどんと凍っていく。


「なっ!? 今度は氷魔法……お前、本当に何者だ!?」

「ただの罠魔術師ですよ」


 俺がそう答える頃には、バギランの身体は半分以上氷漬けになっていた。




「まだ続けますか?」


 俺は目の前の凍った試験官に尋ねる。

 口は凍らせていないから、喋ることは出来るはずだ。


「いや、もう充分だ」


 バギランは眼球を動かし、自身の身体を見つめながら言う。


「そうですか。では今解除を――」


 試験が終わった今、もう凍らせておくことはないだろう。

 そう思った俺の前で、氷漬けになったバギランが普通に歩き出す。


「……え?」


 バギランはそのまま二、三歩歩くと、「フンッ!」と吠えた。すると身体に纏わりついていた氷が瓦解していく。

 なんだよこの人、本当に人間かよ……。


「見事だ。俺から一本とるとはな。……小僧、お前リュートと言ったな?」


 呆然とする俺がかろうじて首を縦に振ると、バギランは頭を下げてきた。


「お前を見くびった諸々の発言、悪かった。謝罪しよう。お前は文句なしの特進クラスだ」

「あ、いえ。こちらこそ生意気にすみませんでした」


 頭を下げられとりあえず正気に戻った俺は、慌てて胸の前で手を振る。

 少し熱くなりすぎてしまったのは反省材料だ。怒りは時として視野を狭めてしまうからな。


「それはそうと、今度個人的に戦ったりしないか? どっちかがぶっ倒れるまでさ。こんな中途半端じゃお互いフラストレーションが溜まるだろ? 溜まるよな? 溜まりまくりだよな?」

「溜まりません」

「そうか……。残念だ……」


 顔に似合わないしゅんとした顔をするバギラン。

 なにこの人、どう考えても価値観が狂ってるんだけど……。


「ですが、鍛錬レベルでいいならば是非。命がけとかは御免ですけど」


 俺としても強くなることに不満はない。

 このレベルの相手と戦えるのは俺にとっても絶対にプラスになるだろう。


「リュート……っ! お前はいいやつだな! いい冒険者になれるぞ、俺が保証する!」


 うわぁ、目がキラッキラしてる。

 申し出を受けたのはちょっと早計だったかもしれない。


「悪いが試験があるんでな、詳しいことは入学してからだ」


 そう言ってバギランは校舎を指差す。

「手続きしてこい」という意味だと受け取った俺は、最後に礼をしてそちらへと向かった。




 色々と手続きを終えた後は、夜になっていた。

 俺は暗くなった敷地でルルナの姿を探してみるが、桜色の髪をした少女が視界に入ることはない。

 なにしろ広大な敷地である、会えると思ったのが間違いだったかもしれない。


「名前以外にも色々聞いておくべきだったなぁ……」


 そう一人呟くが、時すでに遅しだ。

 結局そのままルルナと出会うことはなかった。








 そして入学。

 冒険者学校には「誰も望んでいないから」という理由で入学式はないらしく、最初から教室での顔合わせとなる。


「ここ……か」


 しばらく校舎を彷徨った俺は、やがて『特進クラスA組』と書かれた教室を見つける。

 ここが俺の新しいクラスだ。

 冒険者学校は二年制なので、俺はここで二年間学ぶことになる。

 ……そう考えると、なんとなく緊張してきたぞ?


「……ふー」


 緊張をほぐす様に一度深く息を吸い、吐き、そして教室の扉を開けた。


 こじんまりとした教室の中心に固まるように四つの机が並べられている。

 どうやら俺が最後だったようで、すでに他の三つの席は埋まっていた。

 どんな人がいるんだろうと順番に確認していこうと思った俺の視界に、鮮やかな桜色の髪が飛び込んでくる。


 その髪の持ち主もまた、驚いた目で俺を見つめていた。


「あ! リュート!?」

「ルルナ! 君も特進クラスに!?」


 俺はルルナに近づき、隣の席に腰掛ける。


「そうだよ、会えてよかったぁ~! あの後二時間くらい探したけど見当たらなかったから、もう会えないと思ってたよ」

「俺も三時間探したけど、見当たらなかったんだ。会えてよかったよ!」


 両手を合わせ、再会を喜ぶ俺たち。

 ルルナと同じクラスなんて、ついてるな!

 目の前ではしゃぐ美少女に、楽しい学校生活が送れそうだと思うのだった。

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