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22話 約束

 ある日の教室。

 そろそろ定期試験が近づいているということもあり、一般クラスの人たちの雰囲気が若干ピリついているのを感じる。

 試験の結果いかんでは特進クラスへの編入も検討されるらしいから、皆必死なのだろう。

 もちろん必死なのは俺たちも同じだ。成績次第では特進クラスでいられなくなる可能性もある。


「やあ、僕が来たよ」


 そんな中やってきた彼は、とても余裕そうな顔をしていた。


「エルギール君、どうしたの? もしかして迷子になっちゃった?」

「僕が迷子になる? フッ、あり得ないね」


 応対したルルナの前で自らの金髪を弄る。

 相変わらずカッコつけてるなぁ。

 でも実際カッコいいのがちょっとムカつく。


「でもキミって人生の迷子になってそうだよね」

「ルルナさん。君の今の言葉が僕の心にグサグサきているのだけれど」

「はぁあ……!」


 あ、ルルナが嬉しそうだ。


「リュート君、この人おかしくないかな。困っている僕を見てなぜか嬉しそうにしている」

「ああ、ルルナだから仕方ないよ。ルルナは人が困ってるのが大好きだから」

「仕方ないって何さリュート。ボクだってニヤつきそうになる頬を必死で抑えてるんだからね!」


 ニヤつきそうになってる時点でもう手遅れ感があるよね。


「それで、なんでここに?」

「君に宣戦布告にきたんだよ、リュート君」

「ああ、そのことか。すっかり忘れてたや」


 それを聞いたエルギールはフッと僅かに笑みをこぼした。


「おやおや、すっかり負けた気になっていたのかい? まあ僕が相手じゃそれも無理ないけど……君は僕の生涯のライバルなんだ。もう少し強気になってくれると僕も嬉しいね」

「いや、単に忘れてただけなんだけど……」

「なんでさ! 僕だぞ!? 僕と戦えることを誇りに思ってくれよ!」

「え、うん。なんかごめんね……?」


 このところ色々あって完全に頭から飛んでしまっていた。

 素直に申し訳ない。

 俺はエルギールに頭を下げる。


「普通に謝らないでくれ、余計惨めになるじゃないか!」


 ええ、じゃあどうすればいいっていうのさ……。


「あぁあ、二人とも困ってる! もっとその顔をボクに見せて!」

「ルルナはちょっと黙っておいた方がいいと思うでござるよ……?」


 ナイスだツルギ。その調子でルルナを頼む。



「勝負はテスト明けの連休でやろう。それなら互いに体調も万全で戦えるだろ? ルールは一対一の決闘。先生にあらかじめ伝えておけば、きっと回復系の魔術師にも来てもらえるはずだ」

「わかった、やろう」


 そこまでやる気になっているなら受ける以外にないだろう。


「僕に勝てると思わない方がいいよ。なんてったってこの僕は、学園始まって以来の麒麟児――エルギール・フォン・イストレアなのだから!」


 毎回フルネーム言うのなんとかならないかな。

 もう若干食傷気味なんだけど。


「また会おうリュート君。今度は決戦の場でね」


 そう言ってピッとカードを飛ばしてくる。

 そこには決闘の日時と場所が記されていた。


「勝ったら僕がA組だからな!」

「それいつまで言うの!?」

「無論勝つまでさ。ハッハッハッ! 安心してくれ、きちんと学園側の許可もとったよ!」


 笑いながらエルギールは自分のクラスへと帰って行ってしまった。

 どれだけA組の看板に拘るんだあの人は……って、学園側の許可もとった!?

 てことは、これで負けたら俺はA組の皆とはお別れってことか?

 それじゃあ、絶対に負けられないじゃんか!





「リュートも面倒な人に目をつけられたねー。エルギール君ってあんな感じだけど、実際凄い強いって聞くよ。少なくともB組で一対一しても滅多に負けたりしないんだって」

「噂では現一年生で一番強いって言われてるでござるな」


 教室からエルギールが出て行ったあと、ルルナとツルギが俺に言う。


「それは……今のままの俺じゃ、勝てないかもね……」


 あの全身から漲る自信は実力の裏付けってことか。

 もしかしたら今の俺にとって、エルギールは格上なのかもしれない。

 俺はエルギールから渡されたカードを見る。

 日時はテストの三日後。それまでに鍛え直しておいた方がよさそうだ。

 なにせ俺の進退が懸かってる。


「ケロっ!?」

「どうしたのペティーシェ、これがどうかした?」


 ペティーシェの視線はエルギールから貰ったカードに向いている。

 特段変わったところもにカードだと思うが、どこか気になるところでもあったのだろうか。


「もしかしてそれ……ラブレターケロ!?」

「今までの全部見逃してたの!?」


 見てたらわかるでしょ、絶対!


「リュート君、リュート君が思ってるほどおいらはリュート君ばかり見ているわけじゃないケロ。少し自意識過剰なんじゃないケロ?」

「ぐはっ!」


 その通りすぎる……!

 俺はいつの間にエルギールと同じような考え方になってたってことか?

 どうしよう、凄いショックだ……!

 ショックを隠し切れない俺は机に突っ伏す。


「じゃあペティ殿は何をしてたのでござるか?」

「どうしてこの世は諸行無常なのかについてと、あとはゲロッパケロケロについて考えていたケロ」

「よくわからないけどその二つって同時に考えられるものなの……?」

「ゲロッパ!」


 口角を上げてサムズアップをするペティーシェ。

 あれだね、ペティーシェの思考を凡人の俺が理解しようとしたのがそもそも無理だったね。

 だって言ってる意味がまるっきりわからないもの。ついていけないよ!







 授業後。

 職員室へと戻ろうとするバギランの背に声をかける。


「バギラン先生、ちょっといいですか?」

「どうしたリュート、質問か?」


 くるりと振り返ったバギランは厳つい顔だが、それでもどこか優しげだ。

 そんなバギランに、俺は言う。


「……入学試験の時の約束、覚えてますか?」


 入学試験の時の約束。

 すなわち、『個人的に戦おう』という約束だ。


「……ああ、あれか。……つまり本気の俺と戦う気になったと、そういうことか?」

「はい。テスト期間に入る前ならいつでもいいので……なんだったら今日の放課後にでもよろしくお願いします」


 俺はバギランに頭を下げる。

 今の俺は教えを乞う立場だ。なりふり構っていられない。

 エルギールに勝つためだったらなんだってしてやる。俺はA組の皆と離れたくないんだ。


「わかった。今日の放課後、修練場で待っとけ。……安心しろ、殺しはしねえさ」


 バギランは俺に了承を伝え、再び俺に背を向ける。

 背中越しにビリビリと伝わってくるその雰囲気は、紛れもなく一線級の冒険者のものだった。

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