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2話 友達

 謎の美少女との出会いから数分後。

 俺はその美少女と一緒に森を歩いていた。


 横目でチラリと少女を見る。

 桜色の髪に、ボーイッシュな顔立ち。

 年は俺と同じ十五歳くらいだろうか。

 顔にはまだ幼さが残りながらも、目にはしっかりとした光が宿っている。


「ボクはルルナ。キミは?」


 いつの間にかに俺の方を向いていた少女はルルナと名乗った。

 髪と同じ桜色の瞳に、吸い込まれるような感覚を覚える。


「俺はリュート。それにしても、こんなところに人がいるなんて珍しい。ルルナさんはどうしてこんなところに?」

「ボク? ……言ってもいいの?」


 顎を引き、何故か窺うような表情になるルルナ。


「え、うん、いいけど?」


 俺に不都合はないと思うのだが。

 俺の了承を得たルルナは、瑞々しい唇を開いた。


「森で鍛えてたら、なんか落ちてきたのが見えたんだ。だから何かなーと思って見に行ったら……キミが決め台詞を吐いてた」

「……な、なるほど」


 聞かなきゃよかったですね。俺の精神に多大なダメージが入りました。



 先ほどの俺の言葉を最後にして、会話が止まる。

 耳に入って来るのは木々のざわめきだけだ。

 ……やばい、相当気まずいぞ……!


 そもそも俺には対人経験が圧倒的に不足している。

 ここ数年で話した相手など、爺ちゃん婆ちゃん以外には麓の村の村長とそこにやってきた商人、あと面白がって話しかけてきたガキンチョだけだ。

 ……あれ、俺ってもしかして友達いなくない?

 気づかなくていい事実に今更ながら気づいてしまった俺は、肩を落として項垂れる。


「に、にしても凄いねリュートは! 二つの属性を同時に操れる人なんて滅多にいないよ! ボクも自分に自信持ってたけど、キミには負けるかも!」


 落ち込む俺を見て、ルルナは慌てて声をかけてくれた。

 なにこの子優しい……。

 ルルナの優しさに甘えっぱなしではいられない。なんとか気を取り直そう。


 とりあえずは魔法の話だな。

 自慢じゃないが、魔法の話ならいつまででもしていられる気がする。


「ルルナさんはどんな魔法を使うの?」

「無効魔法だよ。ボクが魔法を使うと、ボクの周囲の魔法は全て効力を失うんだ」


 あっけらかんと言い放つルルナだが、その内容は中々に衝撃的なものだ。


「……それってとんでもなくすごくない?」


 周囲の魔法を無効化するって、最強の魔法使いキラーなんじゃないの?


「まあ、大抵の人には勝てる自信はあるよ。これでも一応冒険者学園志望者だしね」


 冒険者学園って、爺ちゃんから聞いたことあったような……。

 ああ、そうだ。

 この国屈指の才能の塊たちが集まりしのぎを削る、世界でも有数の教育機関のことだったか。


「……ねえ、そこって当日いきなり行っても受けられるの?」

「うん、受けられるよ。受けるだけならタダだから、いっぱい人が集まるんだ」


 なるほどね。

 なら……。


「俺も行ってみようかな、冒険者学園」


 俺が外の世界でどのくらいのレベルなのかを知るいい機会かもしれない。

 まあ受かる訳がないとは思うけど、それはそれで経験にはなるだろう。


 そんな意図で発した俺の言葉に、ルルナは目を見開いた。


「ほ、本当っ!?」


 ルルナはこちらに詰め寄ってくる。

 端正な顔を至近距離まで近づいて、俺は少しドキリとした。

 な、なんか想像以上に食いつかれたぞ……?


「……っと、ごめんごめん。一人で盛り上がっちゃって。……恥ずかしいことに、ボク友達がいたことないからさ。一緒に受けてくれたらすごく嬉しいよ」


 寂しそうに言うルルナ。


「大丈夫、俺も友達いたことないから」


 俺はそう言って慰める。

 事実なんだけど、改めて言葉にすると悲しくなってくるな……。


「……もうこの話は止めようか」

「……そうだね、そうしよう」


 ここは互いに触れてはいけないところだ。


 話題を冒険者学園へと戻すルルナ。


「あそこを卒業しなくても冒険者にはなれるけど、やっぱりその後の伸び方が段違いだからね。やっぱりあそこは凄いよ。ボクもなんとかしてあそこに入学して、いつかトップの冒険者になって――ああっ!」


 唐突に声をあげるルルナに、思わずびくりと肩を震わせる。


「ど、どうしたの……?」

「まずい、地竜車の時間忘れてた……! 試験会場に間に合う最後の竜車だったのに、これじゃもう受けられない……」


 そう言ってルルナは肩を落とした。

 背中が丸まったルルナは一層小さく見える。


「……あはは。やっちゃったなー。まあ、また来年挑めばいいよ。チャンスはまだある。……うん、まだあるしね」


 そうやせ我慢をするルルナだが、その瞳は潤んでいた。

 一年間は長いよな。


 それにルルナは優しいからか言わないけれど、ルルナが地竜車の時刻を忘れたのはおそらく俺が原因だろう。

 俺が落ちてくるのを見なければ、ルルナは普通に森から出て今頃地竜車に乗っていたんじゃないだろうか。


 ルルナの目に溜まった雫は一筋の涙となって頬を濡らした。

 ルルナはそれを慌てて拭き取り、気丈な笑顔を見せる。


「あっ、これは違くて……ゴミ! ゴミが目に入ったんだ。だから違うんだよ?」


 ごしごしと目元をぬぐうルルナ。

 俺はもう、目の前の桜色の髪をした少女を見放すことなんて考えられないでいた。

 ルルナは俺にとって初めて会った同年代の人で――初めてできた友達だから。


「よかったら、学園まで俺が送ろうか? 場所わかる?」


 俺の言葉に、ルルナは戸惑ったような顔をする。


「ば、場所はわかるけど……」

「なら送るよ。丁度俺も受けようと思ってたとこだし、丁度いい」


 罠魔法を鍛えていてよかった。

 こうして人の役に立つことができるなんて、爺ちゃんと婆ちゃんには本当に感謝しなきゃだな。


「いや、でも遠いし無理だよ。ここから地竜車で六時間のところだよ? 気持ちは嬉しいけどさ――」

「大丈夫、俺ならいける」


 商人が乗っている地竜車を見たことがある。あれよりは俺のほうが早い。それも、格段に。


「さあ、乗って?」

「う、うん……」


 自信満々な俺に折れたのか、ルルナは遠慮気味に俺の背中に乗ってきた。


「ちゃんと掴まっててね」


 俺は自身の足元に罠魔法を発動させる。

反壁(はんぺき)】……効果は単純。弾力性のある壁を創りだす魔法だ。

 その上に乗った俺は、自身の体重を利用して前へと思いっきり飛ぶ。


「わ、わぁあ!?」


 ルルナが悲鳴に近い声をあげながら、慌てて俺の首に回していた手に力を込める。


 勢いが落ち、落下し始める俺たちの身体。

 だが、もちろんそのまま落下する訳にはいかない。


「次いくよ!」


 着地点にもう一度【反壁】を発動させる。

 ルルナを背負った俺の身体は、まるで重力の支配から解放されたかのように軽やかに宙を舞った。


「ひゃぁぁ! すごい、すごいよリュート! ボク空飛んでる!」

「よし、じゃあ行こうか。いざ、冒険者学園へ!」


 俺はルルナを背負って森の中を駆け始めた。

 待ってろよ冒険者学園!

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