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12話 魔物との戦闘

 悲鳴のした方向へと急ぐ。


 木々を掻き分けた先には、ぽっかりと穴の空いたスペースがあった。

 まるで広場か何かのように、この場所だけ木も草も全く生えていない。

 地面は円形状に黒く色づいていた。これは……。

 確認しようとした俺の耳に、悲鳴とつんざく様な鳴き声が同時に聞こえてくる。


「たすっ、助けてっ!」

「グルルルゥゥ!」


 そしてそこにいたのは魔物にとらわれた学園の生徒たちだった。

 八人の生徒が地に伏せている中心に、黒く長い尾をした魔物が一匹。

 黒と白のまだら模様の体表と、ギンギンと怪しく光る眼が特徴的だ。


「この魔物があの人たちを……」

「グルルル!」


 魔物は俺たちを新たな敵と認めたのか、体勢を低くとり唸り声を上げる。

 そして涎の滴り落ちる牙に魔力を迸らせた。

 それを見て、俺は背筋が冷たくなるのを感じる。

 ……おいおい、いくらなんでも魔力の質がおかしくないか?

 あれだけ高密度な魔力、爺ちゃんと婆ちゃん以外じゃ見たことないぞ。


「皆、ボクの周りに!」


 ルルナの声に、俺たちはルルナの周りに固まる。

 と同時に魔物の牙に収束していた魔力で形で作られた水魔法が俺たちに向かって射出される。

 ルルナの無効魔法によって、魔物の水魔法は姿形もなくなった。


「さすがルルナでござる。これなら――」

「マズイっ……あの魔物の攻撃、強すぎる! ボクの魔力じゃそう長くは持たないよ」


 やっぱりそうか。

 あれだけの魔力を無効化するのは相当な魔力を使うはずだ。

 しかもアイツ、見た目からして近接戦闘もかなりできそうときてる。

 こりゃヤバいかも……。


 焦る俺たちの前で魔物は俺たちに狙いを定め、前脚をクンッと曲げて重心を落とす。

 来るっ!


「皆下がって!」


 俺は向かってくる魔物の真ん前に【反壁】を創りだした。

 飛び込んできた魔物は逆にその勢いで後方へと跳ね返る。

 よし、少し話す時間が出来た。


「俺がアイツをひきつけるから、その間にペティーシェが土でトロッコか何かを創って怪我人を救出して。ツルギとルルナはそれの補助を頼む。魔法をルルナが無効化して、直接攻撃はツルギが対応すればすぐに先生たちのところに戻れるはずだ」


「そ、それじゃリュートは――」

「時間がない、早く先生たちに連絡を! 多分、もう一匹いるっ(・・・・・・・)!」


 俺の言葉に三人の顔色が変わる。

 しかし、俺は確信を持っている。

 アイツが使ったのは水魔法。でもこの辺りは一面焼けただれてる。

 この黒こげになった地面を見れば一目瞭然だ。おそらくもう一匹、火か雷の魔法を使う魔物が近くにいる。

 このレベルが複数体なんて、俺たち冒険者の卵が対応しきれるレベルじゃない。早く先生たちを呼んできてもらわないと。


 指示を出した俺の言葉を聞き終えたツルギが腰に付けた剣を抜いた。

 何をする気だと訝しがる俺の前で、ツルギは剣を空高くに飛ばす。


「剣を一本打ち上げておくでござる。これで場所がわかるでござる」

「助かるよ、ツルギ」


 ペティーシェは怪我人を集め、土を変形させてリアカーのようなものを創りだした。

 かなりの重量になっていそうだが、自身の腕を変形させて力を増すことでなんとか押していけそうではありそうだ。


「リュート君、あとで会うケロ」

「絶対だからね、リュート!」


 ペティーシェの創ったリアカーを協力して押しながら、三人は先生たちのいるゴールの方向へと向かって行った。


「さて……と」

「グルルルル……!」

「早いとこお前を仕留めたいんだけど、死んでくれるかな」


 俺は魔物と向かい合う。

 魔物は焦点の合っていないギョロギョロとした目でこちらを見た。

 その口からは涎がダラダラと漏れ出ている。


 俺は足元に【反壁】用の魔力を浸透させておく。

 飛びかかって来られてから用意したんじゃ間に合うかわからない。

 用意を終えた俺は、次に魔物の足元に【隠炎】を発動させるべく魔力を移動させた。

 魔物と目線を合わせたまま、ばれぬように、ばれぬように。


「グルル!」


 しかし魔物は魔力の変化を敏感に察知し、逆に俺の方に突っ込んでくる。


「まあ、そう簡単にはいかないよね……!」


 激しく動いている最中ならまだしも、止まっている相手を罠にかけるのはやはり無謀なようだ。

 魔物の突進を足元の【反壁】で上へ避け、魔物の反対側へと着地する。


 マズイな……。

 想像してたよりも魔物の動きが速い。

 それに魔力はもう結構消耗してしまっている。

 創れる罠は【反壁】なら多くてあと十個、それ以外ならその半分ってとこだ。



 魔物はちょこまかと逃げ回る俺に痺れを切らしたようで、口を大きく開ける。

 チャンスだ!

 俺はすでに疲労困憊の身体に鞭を撃ち、立ち上がる。

 おそらくまた水魔法が来る、威力は強いがその分隙も大きい。そこを突けば――。


「……え?」


 そう考えていた俺の思考は、目の前の光景によって強制的に止められた。


「グルルルル!」


 目の前の魔物は、牙に収束させた魔力を雷魔法に変換していた。

 ……二属性使い!? 魔物が!?

 そんな話は古今東西聞いたことがない。しかし現に目の前の魔物は水と雷、二種類の魔法を使いこなしている。


 そんなことを考えた思考は、この現状において致命的な時間のロスとなった。

 すでに魔物の牙からは眩い光がほとばしり、準備は万端といった様子だ。


「グルルララァァ!」


 ヤバい、防御、とにかく【反壁】を――!


【反壁】を創れるだけ創りきった次の瞬間、辺りは轟音と共に鮮烈な閃光に包まれた。







 匂いがする。

 木々が、草が、土が焦げた匂いがする。

 地に伏せた俺の鼻には、それらの匂いが鮮明に感じられた。


 魔物がこちらを窺っているのがわかる。べったりとした捕食者の視線が、俺の全身をくまなく観察しているのだ。

 だが、俺は逃げることすらできそうにない。

 なんとか死は免れたものの、動けるようになるまでにはまだ数分は必要そうだった。

 やっばい、もう身体動かないや……。


 魔物はのそりのそりと近づいてきて、地べたをはいずる俺を見下ろす。

 そしてそのまま俺の腹部に思い切り噛みついた。


「キャンッ!?」


 その瞬間、俺の身体に仕掛けられた【忍氷】と【伏雷】と【隠炎】が作動し、魔物はその場に倒れこむ。

 魔物はビクンビクンと身体を地面の上で跳ねまわらせている。

 とりあえずはもう脅威はないと思ってもいいのだろうか。


「はぁ……死ぬかと思った……」


 俺は安堵のため息を吐く。

 魔物の雷魔法が発動される前に自分を対象に罠を仕掛けていた甲斐があった。

 その分【反壁】が十全でなくなった結果今こうして倒れているのだが、それでも死んでいないのだから俺の勝ちだろう。

 頭からいかれてたら最悪死んでたな。腹でよかった……。


 でも痛いもんは痛い。

 俺はプルプルと震える腕で服をめくる。

 噛みつかれた腹部には、くっきりと歯型が刻まれていた。


「……無茶、しすぎたなぁ」


 俺は目の前で苦しむ魔物を見ながら自戒するのだった。

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