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10話 タイムアタック

 そして夜は明け、翌日。

 森の中の澄んだ空気とは裏腹に、俺たちは熱く燃え上がっていた。


「よーっし、ボク頑張っちゃうんだから!」

「拙者もでござる!」

「ケロケロ! ゲロゲロゲロゲ!」


 皆もやる気はバッチリのようだ。


「なんだ? お前ら良い顔つきになったじゃねえか。これなら問題はなさそうだ。心配いらねえな」

「ゲロロロロロロ!」

「訂正していいか? お前だけは心配だ」


 ペティーシェを見て呟くバギラン。正直そこは先生に同意したい。

 と、バギランに他の先生から声がかかる。


「ああ、前半か後半かを決めるくじをしねえとな。誰か引いて来い」


 どうやらくじを引く人を呼んでいるようだ。


「因縁つけられたのはリュートだし、リュートが引いてきなよ」

「うん、わかった」




 俺はくじを引くために言われた場所に移動する。

 そこにはすでにエルギールが待っていた。


「君か。どうやら僕が恋しくて、いてもたってもいられず会いに来たのかな?」

「いや、くじを引きに来たんだけど」


 どう考えてもくじを引きに来た意外に俺が君に会う理由がないよね。

 しかし、エルギールは挫けない。


「なるほど、体の良い言い訳を得た君は、意気揚々と僕に会いに来たわけか」

「いや、だから――」

「ああ、良い良い。言い訳なんかしなくても君の気持ちはわかっているよ、リュート君?」


 そう言ってドヤ顔を披露するエルギール。

 なんだコイツ、凄いウザいな。




 くじ引きの結果、午前中がエルギールたちB組、午後が俺たちA組となった。

 一般クラスは何十チームとあるからくじ引きだけでも一苦労なんだろうけど、俺たちは二組で二チームしかないからすぐに終わっちゃったな。


「そっか、午後か」


 俺の報告を聞いたルルナは顎に手を当てる。

 何か考えることがあるのだろうか。


「午前の方が不利そうだよね。午後のボクたちは相手のタイムがわかるし」


 顔をあげたルルナの言葉に、俺は少し驚く。

 そっか、順番でも有利不利があるのか。エルギールとの会話に夢中で気づいてなかった。

 ……エルギールとの会話に夢中ってなんか嫌な響きだな。これじゃ俺がエルギールに夢中みたいじゃないか。


「多少は道もできそうでござるしな。ということは、前哨戦は拙者たち……いや、リュート殿の勝ちと言ったところでござろうか」

「そうとも言えんぞ。午前はまだ魔物たちも活動していないものが多いが、午後は活発になってくる。接敵が増えることを考えれば、トントンといったとこだろうな」


「なるほど……」


 皆頭が回るなぁ。俺なんて「邪魔な魔物は倒せばいいや」としか考えてなかったや。

 ちょっと反省しよ。







 しばらくして、午前のタイムアタックが始まった。

 タイムアタックのルールは「この場所から十キロほどのところにある祠まで行って帰ってくる」というもの。

 祠にも監視員がいて、不正は出来ないようになっているらしい。

 片道十キロだから、往復二十キロか。一般人ならともかく、ここにいる冒険者志望の人たちなら何もなければ一時間ちょっとくらいで帰ってこれるだろうな。

 魔物がでなければ、だけど。



 B組が帰ってきたのは、スタートから約二時間後のことだった。


「ふっ……皆、僕が帰って来たよ」


 そう言いながらマントをはためかせるエルギール。

 息は荒くなっていながらも優雅な動作を繕っているところは正直凄いと思うけど、それ以上に発言のウザったさがすごい。

 午後のスタートのために準備をしていた一般クラスの面々はそんなエルギールに嫉妬の視線や舌うちをしながらも、中には顔を赤くしている女子もいる。やっぱりイケメンって得なんだなぁ。


「特進クラスB組、タイムは二時間八分だ」


 それを聞いた周りからざわめきが起こる。だが無理もない。

 例年このタイムアタックでは、一般クラスが平均四時間、特進クラスが平均三時間らしいからな。

 このエルギールたちの成績は文句なしに優秀といえるものだ。


 エルギールは俺たちを見つけると、他の面々と別れて一人でこちらに近づいてきた。


「どうだい? これが僕たちB組の力だよ。これで僕がA組に入るのは確定したようなものだね」

「だから俺にそんな権限はないって言ってるじゃないか。……それに」

「それに?」


 尋ねるエルギールに、俺は不敵な笑みを浮かべる。


「――それに、負けるつもりもないよ」


 それを見たエルギールは一瞬瞳を丸くした後、ニヤリと笑みを浮かべた。


「……面白い。君たち平民がどこまでやれるか見せてもらおうか!」

「望むところだ。ねえ皆!」


 俺は皆を振り返る。


「いや、まあ、そうでござるな……」

「うん。だね……」


 え、何その反応?

 ……もしかして、俺だけなんか燃えてるみたいな感じになっちゃってる?

 は、恥ずかしい……!


「二人ともどうしたケロ?」

「いや、なんでもない。頑張ろうねリュート……リュート!?」

「恥ずかしすぎる……」


 俺は顔を両手で多い、その場にしゃがみ込んだ。

 なんか一人で舞い上がってたみたいになった……。

 よくわからないけど心臓がすごいドクドクいってる……。


「何を恥ずかしがっているんだいリュート君。……そうか、僕の顔が綺麗すぎてか。アッハッハッ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか! この僕に負けるのならば本望と言うことだね?」

「見当違いにもほどがある……」


 もう嫌だぁ……。






 それから四時間後。時刻が一時を回ったところで全チームがゴールしたという連絡があったので、続いて午後のチームがスタートを切る。


 その前に担任であるバギランが俺たちを激励した。


「お前ら、気張って行けよ!」

「頑張ります!」

「拙者も!」

「おいらも」

「俺も!」


 よし、今度は一人だけ張り切ってるみたいにならずにすんだぞ。

 ……って、そんなこと考えてる場合じゃないな。

 この森をB組より良いタイムで抜けることを考えなきゃ。


「では、午後のタイムアタックを始めます。三、二、……始め!」


 始まりの合図と同時に、俺たちは茂る森の中に向かって駆けだした。

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