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1話 人生の転機

 人生の転機というのは誰にでも訪れる。

 俺、リュート・ドラウグルにとってのそれは、今この時だった。

 十五歳になった俺は、生まれ育った家を出ていくことに決めたのだ。


「じゃあ行くね。爺ちゃんと婆ちゃんも元気で!」


 俺は爺ちゃんと婆ちゃんに声をかける。

 俺たちが住む家は地殻変動によって局地的に隆起した土地にある。要するに、周りを崖に囲まれている。

 二人はこの村から数百メートル下、地上の森に捨てられていた俺をここまで育ててくれた最大の恩人なのだ。

 爺ちゃんは白い髭を立派に蓄えているし、婆ちゃんも腰が曲がりだしてはいるが、二人とも性格の良さが顔に出ている。


「いつの間に大人になったんだねえ……。私ゃ悲しいやら嬉しいやらで……」

「婆さん、笑って送り出してやろうじゃないか。それに、リュートならどうとでもなるじゃろ。なんせリュートは天才じゃからな! 元王国騎士団団長の儂が保証するわい!」


 爺ちゃんはこの手の冗談をよく言う。

 爺ちゃんによると、婆ちゃんも元宮廷魔術師長らしい。

 ほら吹きも大概にしてほしいよ、まったく。俺は軽く笑う。

 人里離れた崖の上に家を構えたりして、少し信憑性がありそうなのが余計立ち悪いところだ。

 ……まあこれでしばらくお別れだし、爺ちゃんの冗談に乗ってあげてもいいか。


「元団長の爺ちゃんにそう言われるなら安心だね。じゃあ、行ってきます」

「おう、精々楽しんで来い! そんでめんこい子がいたら儂に紹介してくれ! こんな場所じゃ出会いも何もありゃしないからのぅ、カッカッカッ!」


 爺ちゃんは俺に向かって清々しい笑顔を浮かべ、サムズアップする。

 ……あーあ、余計なこと言わなきゃいいのに。


「ほうほう……爺さん、お主の遺言はそれでいいんじゃね?」

「ちょっ、待っ……あ、愛してる婆さん! 儂婆さん一番好き! もう大好き!」

「今更取り繕っても遅いわい!」

「た、助けてくれリュートや! 儂死ぬよ!? このままじゃ儂死んじゃうよ!?」

「気にせんでいいからねリュート。爺さんは殺しても殺せないようなやつじゃから」

「あはは、二人とも元気でねー」


 本当に愉快な二人だ。

 爺ちゃんの断末魔を聴きながら、俺は住み慣れた家を出る。

 この家の周りは崖になっているのだから、家から出ていく方法など一つしかない。

 そう、飛ぶのだ。


「よーし、行っくぞー!」


 俺は眼下に広がる森へ向け、両手を広げて飛び降りた。

 この先には何が待っているのだろうか。うーん、楽しみだなぁ!






 数分後。

 魔法を使って無事に着地した俺は、地上の森を歩いていた。

 今まで爺ちゃんや婆ちゃんと一緒に何度も通った森も、これからその先へ行けるのだと思うとなんだかいつもより明るく見えてくる。

 ルンルンと半ばスキップのように足を弾ませながら森を進む。


 すると、目の前の茂みから魔物が飛び出てきた。

 そこにいたのはビッグベア。俺の髪色と同じ黒い毛並みをしている。


 前には魔物。対する俺は無手。


 だが、俺は慌てない。

 人類には魔物にも負けない武器があるからだ。


 ――それは、魔法。


 例外はもちろんいるが、大抵の人間は一種類の魔法しか扱えない。

 俺の場合は罠魔法だ。

 罠魔法は爺ちゃんや婆ちゃんに言わせるとあまり強い魔法ではないらしい。

 落とし穴しか使えないという性質上、主に補助として使われることが多く花形とは言いにくい魔法だ、と苦い表情で教えてくれたのを思い出す。

 それでも俺はこの魔法に無限の可能性を感じていた。

 そして二人の協力も得て研究に研究を重ねた結果――創りだしたのだ。

 今までの常識を覆す、俺だけの独自魔法を。


 俺は向かってくるビッグベアの足元を指差す。

 体内の魔力がそこへと移動する感覚を感じながらも、油断はしない。

 ビッグベアは強い魔物だからね。


 ビッグベアは俺に襲い掛かろうと、俺が指差した場所を通り――そしてその身体に電流が走った。


「グガアッ!?」


 戸惑った表情を浮かべるビッグベア。

 今のは【伏雷(ふくらい)】。指定場所を通過した生物を雷魔法で動けなくする魔法だ……なんて、言葉の通じない魔物にはわざわざ説明する意味もないだろう。


 俺は衝撃で動けないビッグベアに近づき、もう一つ罠を仕掛ける。

 その名も【隠炎(いんえん)】。効果は単純、指定場所に通過した生物に火魔法で反撃する魔法である。

 さて、その指定場所を俺自身にするとどうなるか。


 未だ痺れているビッグベアの鼻先に触れる。

 すると【隠炎】が発動し、ビッグベアは瞬く間に火だるまになった。

 そしてそのまま息絶える。


 そう、俺は『罠魔法』という魔法一つで、雷や火などいくつもの属性の魔法を扱うことに成功したのだ。

 これを実践して見せたとき「魔法界の革命児じゃ!」と爺ちゃんと婆ちゃんが大層慌てたことを思いだす。

 二人も大げさだ。

 たしかに凄く頑張ったが、俺が数年で出来ることが都会で発見されていないわけがないのに。

 ……まあ、頭をぐしゃぐしゃされて褒めてもらえたのは嬉しかったけどさ。


 俺は息絶えたビッグベアを見下ろす。

 これが俺の冒険の記念すべき第一歩なのだ。

 そう思ったら、なんか自然とテンションが上がって来るな。


「俺に触れると火傷するぜ……なんちゃって」


 自分で言っててちょっと恥ずかしくなってしまった。

 照れた俺は視線をビッグベアから森の茂みに移す。


「……ん?」


 なんかいる。

 そこには桜色の髪をした美少女が、息をひそめて丸まっていた。

 名も知れぬ彼女は俺に小さく手を振ってくる。


「……こ、こんにちは?」


 まるで鈴の音のような声だ。


「こ、こんにちは……」


 俺も挨拶を返す。しかし頭の中はある考えでいっぱいだった。

 ……絶対さっきの独り言聞かれてたじゃん。何これ死にたい。

『魔法? そんなことより筋肉だ!』という作品も書いてます。

よろしければそちらもどうぞ!

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