シンデレラ
「シンデレラ、シンデレラ」
私はお屋敷中に聞こえるぐらい大きな声でシンデレラを呼びつけた。がしばらくたってもシンデレラが現れる気配はない。
場所を移動してもう一度呼んでやっとシンデレラが現れた。
「はい、なんでしょうお義姉さま」
「なんでしょう、じゃないわよ。なんで私があんなに大きい声で呼んでもすぐ出てこないの」
「ああ、申し訳ございません。お義姉さまに大声を出させてしまって」
「私が言いたいのはそういうことじゃなくて、なんであんなに大きな声で呼んだのに聞こえる範囲にいなかったのかって聞いているのですわ」
「丁度畑に収穫に行っておりまして・・・」
私は、シンデレラという少女の姉、アイリスである。姉といっても去年母が再婚した相手の連れ子なので血はつながっていない。
母が再婚した際に、連れてきた少女を見てこれはかの有名な「シンデレラ」の世界なのではないかと思った。
私には、生まれたときから前世の記憶があった。とはいえ、生活習慣が全く違うこの世界で前世の知識が生きることはあまりなかった。だが、シンデレラと会ってからは前世の知識を生かしバッドエンドだけは回避することができるのではないかと思っていた。
思っていたのだが、このシンデレラとにかく働き者なのである。
自分から率先して家事を受け持ち、いつの間にか裏庭に畑を作り農作をはじめ、何か指摘する間もなく次のことが完了している。まさに痒いところに手が届くタイプであった。そんなシンデレラに継母からいじめられる隙すらないのだ。
初めは私の母や姉がいじめてやろうと画策していたのだが、すっかり今では毒気が抜かれていじめのイベントは発生しない。
「ああ、可愛いシンデレラ。彼女を毎日見られる私はなんて幸せなの」
「ねえアンナ、今度のパーティではシンデレラにどんな服を着せようかしら」
「ええお母さま、どんな服もきっとシンデレラに似合うわ」
「迷ってしまうわね」
それどころか今ではシンデレラのいないところで、母たちはどれだけシンデレラを可愛くするかの話題で日々盛り上がっている。
そして、私がすることといえば姉と母から任命されたシンデレラの仕事の妨害だ。
なぜ私がそんなことをしているかというと、ただ単純に母と姉がシンデレラの仕事の妨害をすることで嫌われたくないけど、シンデレラの手が荒れてしまったり、肌が焼けてしまうのなんて嫌なのと私に言い続けたからだ。私はその話し合いに付き合うのよりもシンデレラの仕事の妨害が手っ取り早いと思ったため今に至る。
ここ1週間ほど定期的にシンデレラを呼びつけることによって仕事の妨害を試みた。
しかし、シンデレラがてきぱき動きすぎてどこにいるのかがわからないという問題点が発生した。しばらく呼び続ければ出てくるが、呼び続けるというか叫び続けた私を心配してお茶を入れてくれるため結果シンデレラの仕事が増えてしまうのだ。
妨害を試みて5日が経過したころには私が起きる前に主要な仕事は全て終わっているようになってしまった。
これでは私が妨害している意味がなくなってしまうどころか、シンデレラの睡眠時間を削ってしまっているため、母と姉にシンデレラの肌荒れがーとか言われてしまう。
何とかしなければ・・・
次に私が試したのは、シンデレラの仕事を奪うことだった。畑仕事は朝が早すぎるということとそもそも農作業の知識がない。また洗濯は技術が必要なのだとシンデレラが言っていたが、炊事と屋敷内の掃除なら私でもできる。なので、炊事と掃除の仕事をシンデレラから奪うことにした。
「お義姉さまが私に料理を作ってくださるなんて、ああなんて私は幸福なんでしょう」
私が作った料理を食べたシンデレラは泣きはじめ、
「シンデレラ、屋敷内の掃除はもう済んでいますわ。あなたが掃除するところなんてもうありませんの」
と伝えると
「ああ、お義姉さまにそんなことをさせてしまったなんて。手、荒れていませんか」
とオドオドしだした。
これは、失敗ですかね。
そんなある日、お城から手紙が届いた。そう、王子の結婚相手を探すための舞踏会への招待状である。
届いた招待状は3枚。我が家には4人の女性がいるため1枚足りないのだ。これを見た母と姉は
「シンデレラが行くのは決まりきっていますけど、残りの二人はどうしましょう」
「お母さまはご挨拶があるから行かなくてはいけませんし・・・」
ここで姉は私を見た。
はいはい、わかってますよ。お姉さまはシンデレラの綺麗に着飾った姿を近くで見たいんですよね。
「わかりま「そうですわ、ここは長女であるアンナお義姉さまが出席すべきですわ」
シンデレラが私の言葉を遮って、姉の舞踏会への参加を促した。
「シンデレラがそういうならば行かなくてはなりませんわね」
そして、舞踏会の日の私の留守番が決まった。
「いいですか、お義姉さま。お義姉さまの夕食は用意してありますからそれを食べてください。後、誰かが来ても絶対にドアを開けてはいけませんよ」
シンデレラがこう私に伝えるのは5回目になる。いい加減返事をするのが面倒くさくなってくる。
「はいはい」
「お義姉さま、私はお義姉さまが心配なのです。絶対に誰が来ても開けてはいけませんよ。いいですね?」
「ああ、うん」
なんかシンデレラが怖いのですが・・・
そして、シンデレラ達は舞踏会へ向かった。
トントントン
なんかドアのほうから音が聞こえますけど、気のせいですよね。
トントントン
きっと気のせいです。
トントントン
しつこいですね。誰か確かめたいですが、開けたら後でシンデレラに何と言われるかがわからなくて怖いですし・・・
このまま無視しましょう。
トントントン トントントン トントントン
うるさいですね。ここまでしつこいと知り合いの可能性もありますね。
「はー、ちょっといるんでしょ!開けなさいよー」
誰か叫んでいますが、知らない人の声ですね。これで、知り合いかもしれないという可能性はなくなりました。
「知らない人が来てもドアを絶対に開けてはいけません」これは転生前にも何度も大人から言われたセリフ。子供だって知っていることです。
「ちょっと、いい加減寒いんですけどー。っていうかなんで魔法使えないのよ。っち、シンデレラのやつの仕業ね」
なんか一人で話して一人で解決してる、怪しい人ですね。なんかシンデレラの知り合いっぽいですが、シンデレラに言われた通り絶対に開けません。
「これは、ぼっちゃんには悪いけど諦めてもらうしかないようね」
はー、やっと行ってくれましたか。
「ただいま帰りましたわ。お義姉さま、なんともありませんでしたか?」
若い女の子が舞踏会から帰って早々いうことがそれってどうなんですかね。
とりあえず、シンデレラの留守中に起こったことを伝えました。
「お義姉さま、私との約束を守ってくださったのですね」
まあ、破ったら後が怖かったのでとは言えず。
「当然ですわ」
「お義姉さまがその時ドアを開けていたら私は・・・」
なんか、シンデレラが怖いです。
とりあえず、開けなかったことは正しかったようです。
「やっぱりあの腹黒王子はアイリスお義姉さま狙いだったか。せっかく舞踏会行きは阻止したっていうのにあの若作り魔女を使いに出してまで参加させようとするなんて。全く油断できないんだから。でも絶対にそんなことさせないわ。アイリスお義姉さまは私だけのものなんだから」
義姉のことが大好きなシンデレラのお話。
シンデレラがシスコンすぎて王子様は登場できませんでした。