哀願(三十と一夜の短篇第2回)
オリュンポスの神々によって捏ね上げられた美麗の悪女パンドラは、神々の忠告にも関わらず、婚姻の際に贈り物であった甕の蓋を開き、人類に災厄をもたらした。甕の底には希望が残り、辛うじて「不幸の中の希望」という極めて陰惨な構図は免れたが、それでも我々男等は、今日に渡ってその「女」という悪性に直面せねばならなくなった。ああ、愚かなエピメテウスよ。貴様が、畏れ多き兄プロメテウスの言葉を聞き入れてくれさえいれば、パンドラと婚姻を結ぶことさえなければ、我々はあの軟弱・狡猾・下劣・低俗たるメスに睥睨されることもなかったろうに。プロメテウスは我々の崇めるところで最も貴き神である。プロメテウスは我々男等を創らしめ、幾度ゼウスの暴虐が我々を脅かそうとも、その甚だ高き知性を以て我々を守り、今日までに我々を生かさしめている。更に火は手元にあり、不自由ない生活が約束されている――女さえいなければ。全く女とは不遜で、そのふしだらな体は目に余る。知性に欠け、先見性が乏しく、いつも男の上げ足を取る。しかも、男が艱難辛苦でやり遂げたことを、平気で自分の手柄にしようとする。その卑しい盗人の性はまさにエピメテウスの妻に相応しく、我々プロメテウスの子孫には遠く及ばない。彼女等は間違いなく、ゼウスの悪意によって混ぜ込まれた、崇高なるプロメテウスの作品を著しく損壊させる夾雑物なのだ。そしていくらあのゼウスの洪水が我々の祖先を洗い流し、多くの女を冥府に送り出したとしても、ただ、唯一、たった一人、生き残ってしまった! ピュラが! デウカリオンの妻として存在し、他の女共とは多少なり知性を持っていたとしても、それはやはり愚盲夫妻の娘である。結局、ガイアの骨から産まれた理性的な人間達と交わってさえ、娘の胎から産まれた女共もやはりパンドラの血を継ぎ、未だその愚かさは衰退を知ることがない。現代の我々は不服にも、平等社会の名を下に彼女等から「無知性」という大損害を被っているのだ! 何故我々が抑圧を受けねばならないのか? 女を排して何が悪い? 男の方が理性や知性がある。逞しく有用な体がある。なぜ尊きプロメテウスは彼の傑作から異物を除かないのか? ああ、あの全能神ゼウスに勝負を挑んだ我らが父なるプロメテウスよ! 肝臓を穿られてなおその麗しき肉体を保つ頑健なるプロメテウスよ! 我らから、あの真なる男等を苦しませる甚だ心醜き失敗作を取り去り給え! 我らを広き世界へ、そのオリュンポス山の山頂に至るまで、この新宿二丁目から解放し給え!
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