92 はじめまして 4ページ目
「ねぇ?フィーナさん?明日には保養地に向かうのでしょう?良かったらなんですが、保養地に1日長く滞在してはどうかしら?」
夕食の後、本当に色々な事があったので、ソールさんはいつもより随分と早く夢の世界へと旅立ちました。
そんな中でのお義母さんの言葉に驚きます。
「お義母さん、どうしてですか?」
私はお義母さんの言葉に思わず聞き返してしまいました。
「実は、別荘の管理人から聞いたのですけれど、保養地の方で興行が行われているみたいなの。フィーナさん達が保養地に着いた頃には丁度『中日』みたいだからどうかしら?って思ったのだけれど・・・。急いでいるのなら無理にとは言わないわ?」
お義母さんは「フィーナさん、帝都での興行も楽しんでいらしたみたいですし」と続けます。
1月の興行の時ですね。
えぇ、とても楽しんでいましたよ。アスラさんとソールさんを引き連れまわしていた気もします。
「保養地の・・・。あぁ、カンフォレッタの興行ですね。」
私とお母さんの会話にアスラさんが参加してきました。
・・・・!
「アスライール!熱があるのでは無くて!?大丈夫なの!?」
「えぇっ!それは大変です!アスラさん、すぐにお薬を!」
アスラさんの言葉に私とお義母さんは驚きました。サロンにいたのは私とお義母さんだけではありません。
少し離れた所にはコルネリウス義兄さんがゼーセス義兄さんと座っています。そんなに離れた場所に座っていた訳では無かったので、私達の会話が聞こえたのでしょう。お2人は「信じられない!」と言ったお顔でアスラさんを見ています。
「?いえ、大丈夫です。・・・フィーナ、熱はありませんよ?」
私は「アスラさんは熱があるのでは?」と思ってアスラさんのおでこに手のひらを当てますが、確かに熱は無さそうです。
「・・・いいえ!症状が出ていないだけで、もしかしたら大病なのかも知れませんわ!」
急遽、お義母さんの言葉でお屋敷の治療師さんとお医者さんが緊急招集されました。
結果から言うなら、アスラさんは「とても健康です」と治療師さんとお医者さんから褒められていました。アスラさんはどうして治療師さん達が呼ばれたのかが分からなかったみたいですが、ご自分の胸に手を当てて「過去のご自身の言葉」をよくよく思い返して欲しいです。
「流行り物」の名前がアスラさんのお口から出てきた事が、今まであったでしょうか?
・・・いいえ!私はアスラさんとのお付き合いは浅いのかも知れませんが、それでも4ヶ月は一緒にいました。その間、私はアスラさんのお口から「(世間様で)流行っている物」の名前を聞いた事がありません!
「騎士団での『警戒』の任務に興行関係も入っているのです。」
お義母さんに問い詰められたアスラさんは不思議そうに「種明かし」をしてくれました。
どうしてアスラさんが不思議そうにしているのかが私達には分からないのですが、有名な興行一団の名前をアスラさんが知っていた「理由」は分かりました。騎士団は帝国中で行われている興行を把握しているみたいです。・・・って言うか、騎士団に報告していない興行は「違反」興行となるので、罰則が付くようです。
確かにたくさんのヒトが(物理的に)動く「興行一座」は「ヒト攫い」の隠れ蓑になっている場合があるそうなので、騎士団では申請の無い都市部での興行は「取り締まり」の対象なんだそうです。「生活が掛かっているなら、先に手順を踏んでくれ。」が違反興行主への決まり文句らしいです。
「アスライール、『カンフォレッタ』と言ったら帝都でも有名な興行一団なのよ?」
お義母さんの言葉にアスラさんは首を傾げながら「担当は第7師団の・・・、第5?第6?部隊だったと思います。」と的の外れた返事をしていますが、誰も騎士団の担当部隊の事は気にしていませんからね?
コルネリウス義兄さんとゼーセス義兄さんも「あぁ・・・。」とか「違うから・・・。」なんて言っていますが、アスラさんへのツッコミはもっと強く言わないと伝わりませんよ?
その後、オフェリアさまとラヴィアーネさまがサロンに来たので違うお話になったのですが、こんな会話が昨日の夜に行われていました。
「アスライール、道中は気を付けるのよ!フィーナさんもソールさんも気を付けてくださいね!」
「道中は本当に気を付けるんだよ。」
「帝都に行く時には顔を見に行くからな。」
今日は「快晴」と言った天気ではありませんが、雨は降っていません。保養地には6刻~7刻くらいで到着するみたいなので、今日の空の様子から「雨が降る前に・・・」と早めの出発となりました。お義母さんとコルネリウス義兄さん、ゼーセス義兄さんに見送られてお屋敷を出発します。
出発の時間も早かったので、スターリング侯爵家の皆さんとは挨拶が出来ませんでした。お義母さんは「伝えておくので気にしないで。大丈夫よ」と言ってくれましたが、少しだけ気になったのでメッセーカードをアスラさんに書いて貰いました。アスラさんは快く「定型文」を書いてくれたのですが、カードを見たソールさんが余白に丸い「何か」を描いていました。・・・大丈夫ですよね?
私達がお屋敷を出発して暫くの間は天気も落ち着いていたのですが、小休憩の時に雨粒がポツリと落ちてきました。
「フィーナ、雨が降ってきたので出発しましょう。ソール、外套をしっかりと着るんだ。」
アスラさんはソールさんの外套の前合わせをしっかりと閉めてフードを被せていきます。その時のソールさんはアスラさんにされるがままの状態となっていました。私も外套の前合わせをしっかりと閉めて、フードを被ります。ネコさんには予め騎獣用の雨避けが装備されていましたから、ここから保養地までまっすぐ向かえます。
「そーる、おかしゃんのとこがいい。」
ソールさんの言葉にアスラさんも賛成なのか、アスラさんと私の間にソールさんが座ります。
「少し急ぎますので、手綱は絶対に離さないでくださいね。」
アスラさんのこの言葉を、私は軽く受け止めていた。
・・・本気を出したネコさんはとっても早かったです。商業都市出発の時のスピードなんて「可愛い」早さだったのです。
ネコさんのいつものコロコロしている姿からは想像も付かない走りです。まさか、ネコさんが「走り屋さん」だったとは・・・。
ソールさん用の手綱は、私の手綱が付いている所に結び直しているので、ソールさんも手綱をしっかりと握っています。今日の天気では周りを楽しむ余裕が無いので、ソールさんは前に座っているアスラさんの背中を見ています。
それから暫くの間、私達はネコさんに乗ったままでしたが、雨脚が弱まる事はありませんでした。街道には保養地に向かう定期馬車も走っていたのですが、ネコさんはそれらを追い抜いて進みます。
ふと私の前に座っているソールさんが小さく震えている事に気付きました。ソールさんの小さな体に、この雨はとても冷たいのでしょう。
ネコさんのスピードには何となく慣れてきていたので、私は左手でソールさんの手を触ります。ソールさんはビックリしたように私を見上げますが、ソールさんの手はとても冷たくなっていました。
こんな時は前世の冬で大活躍した「カイロ」が欲しいと思ってしまいます。
気休めにしかならないのかも知れませんが、ソールさんの手を握りながら保養地への到着を待ちました。
保養地の入り口門に到着した時に、私達の様子を見たアスラさんにはとても謝られたのですが、アスラさんはネコさんに指示を出さないといけません。それに、後ろに座っている私達の事を気にしすぎて到着が遅れたら、ソールさんだけで無く私も寒さに耐えられなかったかも知れません。次のお出掛けには「手袋」も準備するようにしましょうね。
入り口門の審査待ち中に建物の中に入れて貰えたので、ソールさんと一緒に暖炉で暖まりながらアスラさんと「お出掛けの必需品」リストの見直しをしていました。寒くなったら、マフラーも要りますよね。
元々、別荘地に別荘が有る事と、別荘の管理人さんの方から連絡があったみたいなので、私達の審査は「貴族さま仕様」のサラッとした感じの内容でした。天気の事もありましたが、保養地は「観光地」でもあるので審査には時間が掛かると思って早めに出てきたのです。思いも掛けなかった審査時間の短さに、私とアスラさんはお互いに顔を見合わせて笑ってしまいました。
ソールさんの体が温かくなって、私達も一息ついてから審査用の待合室から出たのですが、雨は降り止む気配がありません。ネコさんに乗ってヴァレンタ家の別荘へと向かいます。
流石に街の中ではネコさんを走らせる事が出来ないので街路からお店を見る事が出来ました。でも、天気が「雨」と言う事もあって、通りもお店も閑散としています。今日の空の様子では、これから直ぐに晴れる事は無さそうです。
「着きました。」
アスラさんがそう言ってネコさんを止めた場所は、別荘地としては外側に建てられている一軒家です。
とても可愛らしいカントリー風の一軒家に思わず「可愛い!」と言ってしまいましたが、アスラさんはネコさんから降りて先にソールさんを下ろします。その後に私に手を差し出している時にお家の扉が開いたのです。
水たまりを覗き込んでいたソールさんは、驚いたように「ぴぃっ!」と言ってアスラさんの足にしがみつきます。
「あらあら。驚かせてしまったみたいですね。ようこそ、アスライール様。奥様もお疲れではありませんか?」
そう言うのは品の良さそうな女性です。
「・・・?マルガ・・?」
アスラさんは女性を見て、不思議そうに名前を呼びます。
「まぁ!名前を覚えてくれていたのですね!アスライール坊ちゃん!」
女性はパァッと笑顔になってアスラさんに言葉を返します。
・・・坊ちゃん・・・!
私の衝撃は誰にも知られていないと思うのですが、ソールさんは私をジッと見ています。ソールさん、気にしてはいけない時も時にはあるのですよ?
「マルガ、何時まで皆さんを外に立たせているつもりだい?積もる話は中に入ってからにしなさい。」
これまたナイスミドルの素敵な小父さまが扉の奥から顔を出します。
ソールさんが私の外套を引っ張りながら「めっ!」と言っていますがどう言う事なのでしょう?もしかして、私の煩悩はソールさんに筒抜けなのですか?
・・・今度、ゆっくりと話し合いましょうね?ソールさん。
フィーネリオンの「強い」煩の・・・「思い」は(傍にいるので)ソールに筒抜けです。
他の精霊2人にも、フィーネリオンの近くにいる時は筒抜けです。
ソールからアスライールに抜けていく時があるので、アスライールは(フィーネリオンがベタ褒めしているので)キールに対しては内心複雑です。リューイに対しては「諦めの境地」となっています。
ただ、フィーネリオン的には「ローラント」と「キール」を比べているので、アスライールに対しては「どちらとも」比べていません。ただ、長い付き合いなので、やっぱり「リューイ」がふとした時に出てきてしまいます。
このツッコミは、フィーネリオンからすると「無意識」で行っているので、どうする事も出来ません。
ちなみに、フィーネリオン以外の一般のヒトも同じように「強く」思うとソール達に筒抜けです。
契約者達も同じなので、ソール達には「自分達から聞いた事」を「伴侶」と「家族」「他のヒト」に言わないように「しっかり」と言い聞かせています。でも、「伴侶」から自分達の事を「聞いた」時には自分達への「報告」を義務付けています。契約者特け・・・、「何か起きた時に対応できるように」と言い聞かせています。




