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91 はじめまして 3ページ目







少し事件はありましたが、昼食を終えて暫く過ぎた後、私達はお屋敷に戻ってきました。




本当はもう少し滞在しても良かったのですが、青空だった空に雲が多くなってきた事で「雨の降る前に」と帰宅したのです。ギリアムさんとシルミアさんのお茶会は私達が到着する少し前に終わっていたみたいで、コルネリウス義兄さんが「お帰り。」と和やかに出迎えてくれました。コルネリウス義兄さんは今日のお客様のお見送りをしていたようで、私達がお屋敷に到着した時が丁度一息ついた所だったみたいです。


ギリアムさんの婚約者プリシエラさんは、こちらに昨日から1週間滞在なんだそうです。1週間後にはご自身のご家族がいる領地に向かうと聞き、私は貴族の皆さんが小さな時から領地を渡り歩いている事にとても驚きました。







「まぁ!ラヴィアーネ!素敵な髪型じゃないの!」


コルネリウス義兄さんとお茶を楽しんでいたら、少し離れた所からオフェリアさまの声が聞こえます。


ラヴィアーネさまの髪型は、あの場に「髪型」を直せるヒトが誰も居なかったので私が整えさせて頂きました。ピクニックに出かける時に、使用人さん達は「最低限」の人数で出発しましたからね。身の回りの事は「基本的な事」であれば自分達で出来る私達なので、お付きの皆さんは食事周りと警護の使用人さん達中心で選ばれていたのです。


ラヴィアーネさまの髪の毛はとても触り心地が良くて、「シャンプーのCM」が出来そうな感じです。私のクセの付きやすい髪の毛では、楽しめない触り心地ですよ。どことなくアスラさんの髪の毛を思い出します。ソールさんが期待の眼差しで私を見ていましたが、あえてスルーさせて頂きました。あっ、でも髪の毛は櫛で梳きましたよ。ふわふわの髪の毛も触り心地が良いですよね!



モデルであるラヴィアーネさまが美人さんなので何パターンか髪型を披露したのですが、お空の雲行きの関係上、ユーレインさまの評価が良かった「髪の毛でリボン」を採用しています。両サイドを編み込んで、頭の後ろでリボンを作りました。ユーレインさまとゼーセス義兄さんが感心したようにこの髪型を見ていた事に、少しだけ笑ってしまいました。


ユーレインさまはアスラさんと手合わせをする為に模擬剣を持ってきていたのですが、ソールさんの視線を感じ取ったのか、私達とお茶を嗜んでいました。


・・・すみません、ソールさんの「なんちゃって剣」を持ってくるのを忘れてしまったのです。






「お姉様!私も!私もラヴィアーネお姉様と同じ髪型にして下さい!」

ラヴィアーネさまの髪型を見たシルミアさんが私に突撃して来たのは、コルネリウス義兄さんとマッタリ「明日の出発には天気が回復するといいね。」なんてお話をしていた時でした。


私と一緒にご自身のお父様が居たので驚いていましたが、シルミアさんは猛者でした。



「お父様!これから私はもっと可愛くなります!なので、お姉様を私に返して下さい!」

と言ってお部屋の中を静かにさせました。



・・・シルミアさん?いつの間に私はシルミアさんの所有物となったのでしょう?



「フィーナは私の妻なので、その言葉には賛同致しかねます。」

アスラさんは冷静にシルミアさんの言葉に返事を返します。・・・まさかのツッコミ!?



そう、この場にはコルネリウス義兄さん以外にアスラさんとアシュトンさん、お屋敷の従僕さんとメイドさんも居ます。




・・・なんでしょう、何故か居たたまれない気分になりました。




「そうだよ、シルミア?急にどうしたんだ?」

コルネリウス義兄さんはそう言ってシルミアさんを手招きます。


「お父様!ラヴィアーネお姉様の髪型を見ましたか!?髪の毛がリボンだったのです!とても可愛らしい髪型に、私、とっても感激したのです!・・・それで、私も同じ髪型にして欲しいと思いましたの!」

コルネリウス義兄さんの隣りに座ったシルミアさんは「とっても素敵だったの!」と言っています。


「えぇっと・・・?私は見ていないから良く分からないけれど、髪型であればペリッシュに頼んだらいいのでは?」

「ペリッシュも『初めて見ました』と言っていました!他のメイドも『出来ない』と言っていたので、お姉様にお願いしに来たのです!」

シルミアさんはコルネリウス義兄さんにこう言っています。



・・・シルミアさん?「お願い」の仕方が大叔父様に当たるスターリング候爵さまとよく似ていますよ?



「シルミア、『お願い』って言うのはね・・・?」

コルネリウス義兄さんがシルミアさんの言葉に頭を抱えています。



シルミアさんとコルネリウス義兄さんの会話は、なかなか交わりません。お話の「目的」が違うので、きっとお互いに分かり合えない会話となっていますよ?



「フィーネリオン様、こちらの部屋に必要な物は揃えますので、宜しければシルミアお嬢様の『お願い』を叶えて頂けませんか?アスライール様もお願いします。」

コルネリウス義兄さんとシルミアさんを見ていたら、アシュトンさんからソッと声を掛けられました。



ビックリなんてしていませんよ?ちょっとだけ「ビクッ」ってしましたが、私は平常心を保っていますよ。



「えぇ、フィーナが大丈夫なら私は構いません。」

アスラさんはそう言って私を見ます。


「私は大丈夫ですよ。と言っても、それ程難しい事も無いので、どなたか覚えられる方が居るのでしたら傍で見ていてはどうでしょう?」

私の言葉に反対側のソファに座っていたシルミアさんが「お姉様ありがとうございます!」と言っています。可愛らしいシルミアさんの為ですからね、出し惜しみはしませんよ。






「アスライール、ソール殿は大丈夫なのかい?」

コルネリウス義兄さんはとても心配そうにアスラさんに聞いてきます。




ソールさんは、ピクニックで利用した馬車の馭者席に興味を持ってしまいまして・・・。「さぁ、帰りましょう!」となった時に、さんざん駄々をこねまして・・・。

帰りはゼーセス義兄さんと馭者席に乗ったのですが、ソールさんは途中で飽きたのか急に馭者席から立ち上がってしまったみたいなのです。


いえ、ゼーセス義兄さんは全く悪くないのです!・・・ただ、ソールさんの立ち上がったタイミングが本当に悪かったのです。


緩やかなカーブの時に急に立ち上がったソールさんは・・・、コロンと転がり落ちたのです。




そう、コロンっと。




ゼーセス義兄さんも警護の使用人さんも、ソールさんの落下にとても驚いたと思います。ゼーセス義兄さんの叫び声と馬車の急停車に驚いた私達は「襲撃」かと固まりましたが、こういった時に真っ先に外に飛び出しそうなアスラさんが目を覆った状態で「だから言っただろう・・・」と言って、馬車の扉を開けて外に出ていました。

アスラさんが開けた扉からは、少し遠い所から「ぴぎゃ~~~~っ!おとしゃ~~~ん!」と言って泣いているソールさんの声が聞こえます。転がり落ちたソールさんに驚いたのはゼーセス義兄さんだけでは無く、警護で付いてきていた使用人さん達も一緒だったようで「大丈夫ですか!?」と素早い治療の準備がされていました。




一応、使用人の1人がお義母さんに報告の為に先にお屋敷に向かったのですが、私達だったら「怪我」所の騒ぎでは無い所なのですが、流石「精霊様」であるソールさんは頑丈なのでしょう。骨折も無く「かすり傷」ですんでいました。ですが、ソールさんは余程ビックリしたのでしょう。怪我の治療をしている間も、馬車に乗っている間もアスラさんから離れる事はありませんでした。

報告を受けてお屋敷で待っていたお義母さんは、ソールさんの無事に安堵したようにしていましたが、ナゼかゼーセス義兄さんに「馬車の掃除」という罰を与えています。


アスラさんはゼーセス義兄さんの擁護をしたのですが、お義母さんは静かに微笑んだだけで「罰」の撤回はされませんでした。ゼーセス義兄さんも「気にするな」と言って馬車掃除をしているので、何だか申し訳なく思ってしまいます。




ソールさんも「気まずい」のでしょう。アスラさんには、さんざん「立ち上がるな」と言われていたのに立ち上がってしまい、その結果「大好き」なゼーセス義兄さんに「罰」を与えてしまったのです。ソールさんは帰ってきてからずっと、アスラさん着ているジャケットの前合わせの所に潜り込んでいます。




ソールさんはこちらからの問いかけに答えないので、アスラさんが「暫くそっとして置きましょう」と言った事で、私達はソールさんが自分からアスラさんのジャケットから出てくるのを待っています。






「アシュトン様、ペリッシュただ今参上致しました。」

シルミアさんのメイドさんであるペリッシュさんが、シルミアさんが使っているリボン類を持って私達のいる部屋にやって来ました。他に同じ服装のメイドさん2名もいます。



「お姉様!よろしくお願いします!」

私の前に座ったシルミアさんはワクワクしたようにお顔を輝かせています。私の両脇に経っているメイドさんの目力に怯みそうになりますが、シルミアさんの期待には応えましょう!



「見ていて下さいね、この髪型の基本の状態は・・・。」


そう言って私はシルミアさんの髪の毛を両側から掬い上げてリボンで括ります。

リボンで纏めた髪の毛を上下で分けて、上部分の髪の毛を2つの輪っかにして大きさを揃えます。輪っかにした部分はリボンで形を整えます。


メイドさん達はメモを取りながら私の説明を聞いています。


「こうしたら、この括った髪の下部分をココに通します。」

私は、輪っかにした部分の下部分の髪の毛を違うリボンで固定して始めに括った所の根元に通します。


メイドさんが驚いたようにしています。


「2回くらい通したら、この上の髪の毛を通した所と、下の髪の毛を出した所をピンで留めます。」

髪の毛を通すのは1回でも良いのですが、下に縛っているリボンが見えてしまうので2回通しました。銀色の髪の毛は綺麗なのですが、下に結ぶリボンを選びますね・・・。


「そうしたら、輪っかにした所をこう広げて・・・、完成です!どうですか?簡単でしょ・・・う!?」

後半、私は説明に集中していたので、振り向いた時にペリッシュさんが涙を流していた事に驚きました。・・・ビックリしない方が無理なお話ですよ!メモを取っているメイドさんの様子を見ながらシルミアさんの髪型を作っていたので、ペリッシュさんが私の後ろで感動していた事に気が付かなかったのです。



「わ・・・、私は感動致しました!このような髪型があるなんて!」

ペリッシュさんはその言葉の後に「お嬢様!私はもっともっと精進致します!」と言って扉の向こうに消えていきました。



・・・あれ?こんな光景を何処かで・・・?



「ペリッシュはオフェリア様の『姪』なんです・・・。」

シルミアさんが「いつも通り」と慣れたように私に説明してくれます。



・・・そうなのですね、「血筋」でしたら仕方がありませんね。



私とシルミアさんは「仕方が無い」と頷いていましたが、私とシルミアさん以外は私達の様子に首を傾げていました。



残っていたメイドさん達が、シルミアさんのお部屋から持ってきた道具類を片付けて部屋から退室していきました。






コルネリウス義兄さんはシルミアさんの髪の毛に驚いていましたが、お2人がお義母さんに呼ばれてお部屋から退室したのを「丁度良い」タイミングだと思って私達もお部屋に戻ってきました。




「ソールさん、のどは渇きませんか?」

レモニで作ったレモニ水を準備しますが、ソールさんはアスラさんから離れません。



「ソール、何時までこうしているんだ?」

アスラさんは私が別に差し出したレモニ水を一口飲んでソールさんに問いかけます。



「・・・・そーる・・・。そーる、ぜーせすにあやまらないと・・・・。」

しばらくの沈黙の後にソールさんはこう言って、顔を上げてアスラさんを見ます。



「・・・そうですね。ゼーセス兄上は何も悪い事はしていませんからね、それが良いでしょう。」

アスラさんはそう言ってソールさんを撫でます。


ソールさんは「自分以外、誰も怪我をしていない」状態であれば、誰も怒らないと思ったのでしょう。ですが、例えそうであっても、ソールさんを知っている私達は「ソールさんが怪我をした事」を心配します。

今回のゼーセス義兄さんへの「罰」は、今回のピクニックでの「年長者」であるゼーセス義兄さんへの「注意不足」を指摘してのお義母さんからの指示なのでしょう。ソールさんが駄々をこねて馭者席に座ったのに、今回のソールさんの事故は「ゼーセスさんが注意をしていれば防げた」と判断されてしまったのです。



・・・確かにそうなのかも知れないのですが、ソールさんの動きはいつも一緒にいる私達にも予想が付かないのです。シートベルトも安全バーも無い御者席では「どうぞ転がり落ちて下さい」と、無言でソールさんに言っているようなものなのです。「確実な安全」を求めるならば、私達は何が何でもソールさんを馬車に乗せるべきだったのです。




「そーる、あやまってくる!」

アスラさんのお膝から降りたソールさんは、ハッキリとアスラさんにこう言います。


「そうか、それなら私も一緒に行こう。」

アスラさんがソールさんにこう言って私を見ます。


「ふふふっ、いってらっしゃい。」

私は明日持って行く物を纏めましょう。



「おかしゃん!そーるいってくるの!」

レモニ水を飲んでのどを潤したソールさんは、元気に手を振ってアスラさんとお部屋を出て行きました。



やっぱり、ソールさんには元気な笑顔が似合いますね!
















今回の罰にはマゼンタにも建前があります。

「精霊様に怪我を負わせてしまった」事に対する罰をゼーセスに。

「自分の行動で『誰か』が罰を受ける」と言う事を理解して欲しいので、その罰をソールに。


・・・マゼンタは、ようやく仲良くなったソールに嫌われるのは嫌だったので、今回の「罰」はもの凄い葛藤がありました。でも、ソールがゼーセスに謝罪に言った時にフィーネリオンから「お義母さん、今日は嫌な役を演じさせてしまってすみませんでした。本当に有り難うございます」と言って貰えたので、本当に嬉しかった。その後、ソールにも「ごめんなさい」と言って貰えた事と、抱きしめても嫌がられなかった事が嬉しかった。


いろんな嬉しさが重なって、その日の内にカーマインに連絡しました。





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