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「話がそれました、すみません。」
お茶を飲んで落ち着いた騎士さまは、ソファーに座ったまま一礼しました。
「話を戻します。
一度に大量の帝国民が帝都に集まったので、帝都は人で溢れました。それによってでしょう、帝都では犯罪が横行し、窃盗や強盗などが日常的に起きるようになり、治安が一気に悪くなったそうなのです。
・・・その時には、通常勤務の騎士と兵士団だけでは対応が追いつかなくなり、周辺監視の騎士にも応援要請が来るようになったとも聞きました。
・・・ちょうどその辺りでしょうか。精霊様の世話をしていたメイドも気が付かないほど、本当に小さな変化が精霊様に起きたのは。」
商業都市での生活では感じれなかった当時の外の世界の出来事が、騎士さまの言葉で私に語られていきます。
「最初に精霊様の変化に気が付いたのは、皇妃様でした。
皇妃様は『精霊様達との目線が最初にあった時よりも、位置が低いように感じる』と魔術師長に相談したようです。魔術師長も精霊様とは一番最初にお会いした以外、精霊様とは接点が無かったので初めは『まさか』と思ったようでした。なので『気のせいですよ』と王妃様に言葉を返したそうです。
ですがどうした事か、次に次女頭と侍従長、次に精霊様の身辺を守っていた護衛兵とメイド。ついには皇子様方にも同じ事を聞かれるようになったそうです。
それで、困った魔術師長は直接精霊様のもとにお話を聞きに滞在している部屋を訪ねたそうです。」
・・・何と言いますか、魔術師長さまへの無茶振りが激し過ぎます。
私が学園で習った職業の説明では、『魔術師・・・様々な魔法を使って民の生活を助ける職業』だった気がします。学院で習った時もさほど変わらない説明だったと思います。・・・ただ『長』って付くからとても偉い人何だろうなぁって思いますが・・・。
魔法は、自分の体内にある魔力を外に放出する事で使えるようになります。
魔力は、みんな生まれた時に同じくらいの量を持って生まれます。だけど体外に魔力を放出する力がそれぞれ個人で違うので魔法威力が、みんなバラバラになってしまうと言われています。使う魔法属性によっては魔法使用時の反動がそれぞれ違うようなので、たくさんの種類の属性を扱う人や魔法使用の反動が大きい人は反動を抑えたり受け流せる訓練をする為に魔術師の塔に行くのです。
そうそう。一般的には『自然界の魔力と精霊さまは別』と言う考えがこの世界では定着しています。
精霊さまと私たちの魔法使用の原理が一緒っだった場合、精霊さまは魔法を使って暫くお休みになれば魔力を回復する事が出来ます。しかし精霊さまが自然界の魔力と同じ存在となると、精霊さまと自然界の魔力が一心同体と考えられます。そうなると精霊さまが魔法を使う時に大きな魔法はたくさん使えますが、使った分の自然界の魔力が無くなってしまいます。自然界の魔力は長い年月をかけて少しの量が作られているので、精霊さまが魔法を使い続けるた場合、御自身の姿を維持できなくなるので消滅してしまいます。なので(余程、精霊さまに自己犠牲の精神が無ければ)、精霊様には魔法が使えない事になるはずだと言われています。
「それぞれの精霊様達を訪ねた魔術師長は、それぞれのお部屋で精霊様を見て驚いたようです。何せ初めにお会いした時は『青年』『婦人』と言える風貌だった精霊様が、『ようやく大人に近づいた少年・少女』程の見た目になっていたのですから。」
こちらでの成人は18歳。見た目の区切りは、大まかな判断で『青年』が17歳くらいから上の男性に使われます。『少年』と呼ばれるのが6歳から14歳。その間は、・・・まぁ、見た目でどちらかになります。30歳くらいからは『壮年』って呼ばれるけれど、一般的には40歳くらいから『~おじさん』呼びになります。
個人の呼ばれ方は、名前呼びが多いでしょうか?後は、騎士さまのように就いている職業や、貴族であれば爵位で呼ばれる事が多いですね。
女の人の場合は、成人は男性と同じ18歳。『少女』は6歳から18歳。19歳より『婦人』となります。個人の呼ばれ方は、『お嬢さん』だったり名前で呼ばれます。19歳からは名前呼びが多いのですが、結婚している場合が多いので『~夫人』とかそんな感じで呼ばれる場合もあります。でも、商業都市に住んでいる人は、40歳を超えていると大抵が『~おばさん』と呼ばれているのです。(私だったら名前を知らない人に呼ばれるのは仕方が無いにしても、前から付き合いのあるご近所さん以外に言われたら腹が立ちそうです!)女の人が結婚していない場合は、周りの人たちも名前で呼んだり、気を使ってか『お姉さん』って使います。前世の記憶では、女の人も『青年』って区切りがあったのですが、こちらでは男性専用です。
騎士さまのお話を聞いて、単純に考えても精霊さまには5歳から10歳分以上の年齢の誤差がでてますよ?時間逆行は先程切実に望みましたが、周りから切り離された自分だけの逆行は少し嫌です。周りのお姉さま達から色々と追及されそうですし・・・。
「以前お会いした時はとても聡明な様子でしたのに、その時は言葉も話したくないといった様な雰囲気で精霊様は酷くお疲れのように見えたと聞きました。なので魔術師長は、精霊様達の変化にとても驚いたそうです。魔術師長は精霊様とお話しされて、『帝都に来た人達が精霊様達にとって有害である』と判断し。直ぐさま、宰相閣下にお話をされたようです。
そうして『帝都滞在に問題無し』とされた者達を除いた、他の者達は騎士や冒険者達の護衛によって元住んでいた場所や帝都以外の望んだ場所に帰って行きました。
・・・そうして、精霊様は少しずつ回復して元の姿に戻っていったようです。」
・・・魔術師長さまはMVP選手並みの働きをしたのですね。専門外のお仕事、お疲れ様です。
「・・・ですが、精霊様達の契約者はその後、一向に決まりませんでした。」
あれ?まだ続くの?
「それに困った陛下は、精霊様達に『精霊様ご自身で、気になる人物を契約者に選んでみてはどうでしょうか?』と仰ったらしいのです。
その提案に頷いた精霊さま方は、それから毎日、帝都中の気配を探っていたようです。
そうして、陛下のお言葉から2年が過ぎた頃、精霊様によって契約者が選定されました。1人は共和国との国境を守る辺境伯のご令嬢。もう1人が、ギルドに籍を置く冒険者。最後の1人が帝国の騎士。この3人が精霊様の契約者となったのです。」
「精霊さまはずいぶんと大変な思いをされたのですね。選ばれた皆さんは帝都にいらっしゃらなかったのですか?」
皇帝陛下が精霊さまに言った言葉にビックリしてしまいましたよ。それって問題をマルっと精霊さまに丸投げですよね?騎士さまの言葉に対する私のツッコミがつい口から出てしまいました。
辺境伯のご令嬢は貴族ですかね?その方は、帝都の学園なり学院には行かなかったのでしょうか?・・・もしかして、ご結婚の準備の為の帰省をしていたり?それとも、卒業して領地に帰っていたのですかね?冒険者の方はギルドに登録していれば帝国中を動けますから仕方がないにしても・・・。騎士さまに至っては2年もの間、どちらに居たのでしょう?
「あぁ・・・、やはりそう思いますよね。
精霊様に選ばれたご令嬢はリンカーラ様と言って、私より年上だそうです。帝都の学院を卒業した後、領地にお戻りになっていたそうで、契約者に選ばれた時は妹君のお顔を見るために帝都に来ていらしたそうです。
もう1人、精霊様に選ばれた冒険者の方がローラント殿です。ローラント殿は私よりも年下と聞いています。確か、フィーネリオン嬢の兄君であるリューイ殿と変わらないくらいだったと思います。ローラント殿は普段は他の都市にいたようで、契約者に選ばれた時は配達の依頼を受けて帝都に来ていた時だったそうです。
・・・後は・・・、・・・。」
・・・
・・・・
何だか、最後の一人の説明が始まりません。
同僚さんのお話だからなのか、しきりに「あ~」とか「う~」とか言って頭を抱えています。
悩ましげなお顔は、私の心臓に攻撃を与えてくるので止めて欲しいです。カメラが欲しい。
「・・・最後の一人、帝国の騎士は『私』なのです・・・。」
・・・
・・・・・
・・・はい?
「・・・精霊様に契約者として選ばれた帝国の騎士は、私、アスライールなのです。」
騎士さまが絞り出すような声で仰った言葉に対して、私があからさまに「何言ってんの?この人」みたいな視線をとても自然な流れで騎士さまに送ってしまったのは、仕方がないと思うのです。
・・・本当にすみません!
ですが、騎士さまは『帝国騎士』の肩書をお持ちだったと記憶しています。それなのに、混乱していた帝都を2年間も離れていただなんて・・・。
「・・・一応、説明させてください。私が騎士学校を卒業したのが、16歳の時になります。
通常、騎士学校を卒業後から4年間辺境伯領へ赴任となります。その後、帝都に戻り第1師団から第7師団の何れかに配属され、帝国中へ移動するようになるのです。
ですが、私達が辺境伯領から帝都へ帰るその年に、皇帝陛下のお触れが発令されたのです。
まず、私達が『辺境伯領での騒ぎを鎮めるため』と、『他の都市部の騒ぎを鎮めるため』に次に駐留予定の『師団』が駆り出されたので、辺境伯領への滞在が半年延びました。
ようやく到着した次の辺境伯領駐留部隊の師団との駐留交換の報告をしている時に、帝国からの早馬によって『帰還部隊は帰還途中の都市部および近隣の町村の騒動を抑えつつ帝都へ帰還せよ。』との指令を受けたのです。
その時には、帝都より返される集団が騎士団や冒険者によって他の都市部や町村に送られていましたから、ある程度の騒動は治まっていました。・・・ですが、騎士学校を卒業したばかりで辺境伯領駐留していた私達は、その同時期に駐留期間が終わる『先輩騎士達に付いて行く』と判断してしまったのです。
部隊を纏めていた隊長が北の町へ行くと言えば、その後に付いて行き。南の漁村に行くと言えばその後に・・・。
そんな行動をしていた隊長が、ようやく『帝都へ戻る』と言った時には既に帰還命令から2年が経っていました。その時になって、ようやく他の隊員達が私達新人騎士の存在に気が付いたのです。
帝都へ帰還してみれば、自分達よりも後に卒業した後輩達がそれぞれの騎士団の部隊に配属され、周りも私達をどう扱えばいいのか判断出来ない状態になっていました。
・・・まぁ、結局私達はそれまで付いて行っていた『第3師団』に収まったのですが・・・。」
「ははは・・・」と笑いながら騎士さまはお話になっていますが、そのお姿には何とも言えない哀愁が漂っていました・・・。
・・・騎士さま、そのお話で小説が書けそうですよ?
説明が多すぎて話が進まない・・・