85 ひさしぶりの・・・ 3ページ目
「おかしゃんはそーるといっしょでし!」
「いいえ、姉さんはボクと一緒に座るんです!」
みなさんこんばんは。ちょっぴり不穏な空気をまとっているソールさんとスバル君に挟まれて、少し困っているフィーネリオンです。
「おかしゃん!そーるといっしょでしよね!?」
「姉さん!ボクと一緒に座りますよね!?」
ソールさんとスバル君は私にこう言ってきます。今は、夕食を食べに家族皆でニリアさんの食堂に来ているのですが、この広い食堂で「わざわざ」2人掛けの席を選ぶ事も無いと思うのです。
お昼までは私の実家にいたのですがお父さん達はお仕事があるので、私達はお昼の2刻に一旦お宿に戻って来ました。そうして、夕食の時に学園組のティアちゃんとスバル君と再会したのです。
2人とも初めは「えっ!?」っと言って私とお母さん達の間を何回も視線を動かしていました。
そんな中、スバル君がいち早く状況を把握して「姉さん帰ってきたんだね!」と駆け寄ろうとしたのです。
・・・そう、駆け寄ろうとしたのです。
スバル君が私に駆け寄ろうとした「その時」にソールさんが「おかしゃん、そーるだっこ」と声を掛けてきて、スバル君がソールさんに気付いたのです。
ソールさんの視線はスバル君に向いていますが、その手は私のスカートを掴んでいます。
・・・気のせいかも知れませんが、2人の間に「何か」が飛び散った瞬間でした。
その後、ソールさんはアスラさんに、スバル君はお母さんによって少し引き離されたのですが、現状は変わっていません。食堂で合流してから、もうそろそろ夕食の準備が終わりそうな今の時間までソールさんとスバル君はずっとこのままなのです。・・・ニリアさん、そろそろ営業妨害になりますか?
私はお母さんが予約してくれている席を見ながら「私はあっちの席が良いなぁ・・・。」何て言ってはみるのですが、ソールさんとスバル君はどちらも譲る事無く「ここがいいの!」と言ってきます。
「ソール、あまり我が儘を言わないでくれ。」
「スバル。せっかく皆と来ているのよ?こっちにいらっしゃい。」
アスラさんとお母さんがお2人に声を掛けます。
ソールさんとスバル君は「むぅ~~・・・。」と言っていますが、料理は着々と4人掛けの席を2つ寄せて作った所に並んでいきます。
「お姉ちゃん。どこに座るの?」
そんな中、ティアちゃんが聞いてきます。
「ソールさん、スバル君。私はココに座ろうと思うのですが、2人は私の両隣りに座るのはどうでしょう?・・・ダメですか?」
お誕生日席にお父さんが座って、その近くにお母さんとアスラさんが座れば、後は自由でいいですよね?
「フィーナ、スバルを甘やかさないでいいわよ。ジスリニアとティアーナだってフィーナと話したい事があるでしょう?今回は、そちら側半分が男性陣、こちら側が私達。もう席は決めてあるのよ。」
お母さんの言葉に内心驚いてしまいましたが、確かにテーブルに並んでいる料理がそんな感じでした。「私の席」と言われた場所の隣りに小さな食器が並んでいるので、私の隣はソールさんなのでしょう。ソールさんにはテーブルの上が見えていないので「そーるはどこでしか!」とアスラさんに聞いています。スバル君は「なんで!?」ってお母さんに言っていますが、ソールさん向かいの席にお兄ちゃんが座っているので、スバル君はアスラさんの向かいの席になるのですね。・・・大丈夫でしょうか。
「お姉ちゃん、帝都はどんな感じなの?楽しい?」
「私も気になる。」
食事が始まってから暫く経って、ティアちゃんとニアちゃんが帝都での生活を私に聞いてきます。
私の隣がニアちゃんで、私の向かい側がティアちゃん、ニアちゃんの向かい側がお母さんです。
「わたし、お姉ちゃんが送ってくれたガラスペンがお気に入りなの。すっごく可愛いから、友達にも『どこで買ったの?』って聞かれるんだ。」
ティアちゃんは以前私が贈ったペンを気に入ってくれていたみたいです。良かった!
「私もあのペンが使いやすくて、授業で使っているわ。」
ニアちゃんもティアちゃんに同意するように言ってきました。
「帝都ですか?帝都はとても広くて大きいですよ。色々なお店があるので、見ているだけでもとても楽しいのです。」
私はあまり遠くまでお出掛けした事はありませんが、帝都の端から端を見て回るのには、最低でも1週間の滞在が必要ですよ?
「良いなぁ、お姉ちゃん。わたしも帝都に行ってみたいなぁ。」
「ティアーナ、そう言わないの。」
ニアちゃんがティアちゃんを窘めます。ティアちゃんも「えへへ、言ってみただけ。」と言っています。
私のお家はお店を経営しているので、「家族旅行」は年に1回あれば良い方です。
「そうですねぇ・・・。アスラさん、ちょっと良いですか?」
スバル君にちょっかいを掛けられてもしっかりと受け答えているアスラさんに話し掛けます。
・・・って言うかスバル君、アスラさんの食事作法にツッコミを入れるスキはありませんよ。ツッコミを入れられるのは食事の量だけですからね。
「フィーナ、どうしました?」
「えっとですね?・・・。」
「えぇ、大丈夫ですよ。それならば、父上にいっ「いえ、1階の空いているお部屋で充分ですよ!ねっ!」
アスラさんが言おうとしたのって、私の家族を「ヴァレンタ家のお屋敷に招待する」って内容じゃないですか?
ソレは本当に勘弁してください!絶対にダメです。ヴァレンタ家のお屋敷だなんて、みんな卒倒してしまいますよ!
私達の話を聞いていた家族はキョトンとしたように止まってしまいました。大丈夫です、みんなの心の平穏は私が守りますよ!
「アスラさんもこう言っていますし、良かったら夏の長期休暇中に帝都に遊びに来ませんか?」
私の言葉にお父さんは「う~ん・・・。」と考え込んでしまいました。
「あら、良いじゃ無い。何人くらい大丈夫そうなの?」
お母さんはノリノリです。
「そうですねぇ・・・。3人くらいなら大丈夫ですよ。」
私の言葉にアスラさんも頷きます。ソールさんは私とアスラさんを交互に見て「?」と首を傾げています。
「それなら、リューイ、ジスリニアとティアーナを連れて、・・・何日くらい?「1週間くらいなら」1週間、帝都を見てきなさい。」
お母さんがお兄ちゃんに言います。
お兄ちゃんはビックリしたようにお母さんを見ていて、お父さんとスバル君は「えぇっ!?」っと声を上げました。お父さんは「ジスリニアだけで無く、ティアーナも!?」と言っていますが、スバル君は「ボクは!」って言っています。本当は家族皆で来て貰えるのが良いのですが、コレばかりはどうしようもありません。
「・・・母さん、大丈夫なの?」
お兄ちゃんはお母さんにこう言っていますが、反対側に座っているソールさんのキラキラとした期待の眼差しに少しだけ苦笑いを浮かべています。
「もちろん大変よ?でも、ジスリニアとティアーナは、今年学院と学園を卒業する年でしょう?それなら、帝都を見に行くのも悪くないと思うのよ。アナタとフィーナの時には何も出来なかったから、だから帝都に行ってらっしゃい。・・・ただし、帝都から帰ってきたら、3人ともしっかりと働いて貰うわよ?」
お母さんの言葉にお父さんも納得したのか「大丈夫だから行っておいで。」とお兄ちゃんに言います。
「やったぁ!ニアお姉ちゃん、楽しみだね!」
「そうね。」
両親の許可が出たので、ニアちゃんとティアちゃんは嬉しそうにはしゃいでいます。
「ただし!アスライールさんとフィーナに迷惑は掛けないようにするのよ。」
お母さんは「リューイがいるから大丈夫でしょうけど。」と言っています。そうですよ、お兄ちゃんに任せていれば大抵は大丈夫です。私はそう思っていますよ。
「あと、スバルはもう少し大きくなったら帝都に行きましょうね。今回は私達が付いていけないからお預けになってしまうの、ゴメンね?」
お母さんの言葉にスバル君はハッとしたように「大丈夫です。」と言います。
「どうして、すばるはこれないでしか?」
いつの間にかお兄ちゃんの所に瞬間移動していたソールさんが不思議そうに聞いてきます。
「ソール、いつの間に・・・。商業都市の条例で決められている事なんだ。」
アスラさんもソールさんの瞬間移動に驚いています。ですが、さすがアスラさんです。商業都市の条例を知っていたのですね。
そう、商業都市では「10歳未満の子供」は両親と一緒じゃないと馬車に乗る事が出来ません。10歳を越えていれば成人している兄姉と一緒に乗る事が出来るので、成人しているお兄ちゃんと一緒であればニアちゃんとティアちゃんは帝都に来る事が出来るのです。
「お店を経営していると、どうしても外出が減ってしまうからね・・・。」
お父さんが困ったように言います。
ソールさんにはちょっと理解できないみたいで「???」と疑問符いっぱいに首を傾げています。
商業都市はお店を経営しているヒトが多いので、周囲の町や村に住んでいるヒトからは「裕福」と思われがちです。なので、商業都市では「誘拐」防止の為にこの条例を布いていると習いました。多分、他の都市にも同じような条例があるのでは無いでしょうか?
ソールさんとスバル君の噛み合っているようで噛み合っていない会話に皆で笑い合っていましたが、次の日もお店があるので夜の8刻に夕食会はお開きとなりました。
「フィーナ、ちょっと良いかい?」
「どうしました?お兄ちゃん。」
アスラさんと両親は何かお話し中です。なので、ニアちゃんとティアちゃんがソールさんとスバル君の事を見ています。
「今日、急に帝都に行く事を決めてしまったけれど、本当に大丈夫なのかい?」
お兄ちゃんは帝都滞在について心配のようですね。
「アスラさんも大丈夫って言ってくれたので、大丈夫ですよ!お兄ちゃん、帝都では一緒に観光しましょうね!」
私の言葉にお兄ちゃんが「フィーナは変わらないね。」と言って頭を撫でてくれます。
私とお兄ちゃんがほのぼのとしていたら、駆け寄ってきたソールさんが「そーるも!」と言ってお兄ちゃんに頭を差し出して来ました。そこにスバル君が「ボクの兄さんだぞ!」と言ってソールさんと同じように頭を差し出して来たので、お兄ちゃんは苦笑いしながら「はいはい。」と言いながら2人の頭を撫でていました。
ニアちゃんとティアちゃんが楽しそうに「わたしも!」って言いながら私達の方に来ました。お兄ちゃんの腕は2本しか無いので、ニアちゃんとティアちゃんの頭は僭越ながら私が撫でさせて貰いましたよ!
妹は正義、可愛がるものです!・・・もちろん、弟も可愛がりますよ!
私の家族が帰った後、私達はそのままお部屋に戻ってきたのですが、アスラさんはとても真剣なお顔でソールさんとお話しをしていました。お風呂の準備が出来た事をどのタイミングで伝えれば良いのかが分からないのですが、どうしましょう?
「・・・ソール。今更の確認なんだが、・・・ソールの契約者は私で良いんだよな?」
「・・・?あい。おとしゃんでし。」
「・・・そうか・・・。」
「?」
アスラさんの言葉にソールさんは首を傾げます。あと、アスラさんのお話しの中にお兄ちゃんの名前が出ていたのですが、どうしたのでしょう?
元々自分の家の宗家が商業都市の領主と言う事もありますが、アスライールは騎士なので商業都市以外の都市部の条例も騎士学校で習っています。変更があった場合は騎士団に通告があるので覚えなくてはいけません。
ソールはリューイの所に瞬間移動した訳では無くて、テーブルの下を「通って」リューイの所に行きました。種明かしは小さい幼児ならではの移動方法でした。




