81 しゅっぱつの、のその後で・・・
皆さんこんにちは。スーラです。
今月に入って他の師団が順番に休暇に入っていますが、私の在籍している第5師団は「騎士団唯一」の魔法部隊(治療部隊とも言われていますね・・・。)なので、師団ごとでは無く部隊ごとの休暇となっています。これは騎士団で師団が出来た頃から続いている事なので気にもしていなかったのですが、何と言う事でしょう、来週からの休暇に心躍らせていた私の在籍している部隊に厄介な仕事が回ってきたのです。
聞けば、何と「危険魔獣」に名を並べている「ダグリジュ」の雛の救護依頼だと言うではありませんか!ダグリジュと言ったら「討伐対象」じゃ無いですか!依頼を出した方も、受けた方も何を考えているのでしょう!?
確かに、騎士団では第5師団が魔術師用の部隊となっていて、他の騎士とは少し違った扱いを受けています。私が在籍している第2部隊は、所謂「治療部隊」と呼ばれていますが、魔法部隊の名に恥じないように攻撃の魔法も(一応)使えます。戦闘になった場合、一般的な魔獣の相手は出来ますが、空を飛ぶ魔獣に対しては大きく貢献は出来ませんからね!そういった魔獣に対しては一般の騎士の方が向いていたと思うのですが!どうなのですか!?
・・・今回の依頼については「魔獣の治療」という事で、私の在籍している部隊の隊長が他の部隊長に「押し付けられた」感じになっていて、私達もあまり乗り気ではありませんでした。
しかも、今回の出勤は「緊急要請」という事で「準備ができ次第早急の出発を。」と言われたそうです。
私達が帝都を出発した時の心境は「死地に向かう兵士」だったという事だけは、忘れないでください。
・・・ですが、どうした事でしょう!
私達が目的の場所に着いた時、信じられない光景が待っていたのです!
「お待ちしていました!」
その言葉に、一瞬前までの荒んだ心が浄化されていったのです。キラキラと輝く金色の髪は本当に不思議で、何て可愛らしい衣装を着ているのでしょう!フワフワしたその姿は「妖精」と呼ばれても納得です。
驚いた事に、とても可愛らしい方が出迎えてくれたのです!
・・・でも皆、気付いているよね?
その隣りには、師団は違うけれど私達の同僚で有り、皆とは(顔とか、イロイロと)比べる事が出来ないくらい立派な「旦那様」がいる事に。そして、その後ろには騎士団に巣くう「破壊神(小)」が駆け回っているよ。
・・・そう言えば、同僚が「結婚した」って(ヤケ食いしながら)言っていましたね。おめでとう。
皆、その可愛い子は、騎士団の「氷の魔術師」が旦那様なんだよ?一般の帝国騎士としては規格外の「上級魔術師」だからね?気を付けてよ!
隊長達はアスライールさんとダグリジュの雛について話し合っていて、私は野営の準備をしながら金色の妖精さんをチラ見しているのですが、「ヴァレンタ家の妖精さん」は魔法に興味津々の様で、防御結界を張っている隊員の所や、魔獣避けの魔法を掛けている隊員を見たりしています。見られている隊員の皆が緊張でガチガチになっているのは見ていて楽しい!
私の弟も、ガッチガチになってダグリジュの雛の治療をしていたから、見ていて物すっごく楽しかった!
・・・でも・・・。
「良かったら、一緒に夕食を作りませんか?」
夕食の準備を始めようとしたら、私はこんなお誘いを受けてしまったのです!
とてもじゃありませんが、このお誘いを断る事は私には出来ませんでした。その上、その際に「フィーネリオンです。よろしくお願いします。」と自己紹介までしてくれたのです!嬉しい!
他の隊員に手伝わせ・・・、げふんっ!声を掛けようと思っていたところだったので、本当に驚きました。
・・・何だか隣に立っているだけで良い香りがしてきます。私、産まれてくる性別を間違えているのかもしれません。離れた所にいる隊員の皆がこっちを羨ましそうにチラ見しているけれど、こんな役得は誰にも譲らないからね!
「フィーネリオンさん。夕食はどうしますか?」
少し考えているフィーネリオンさんに声を掛けます。
「そうですねぇ・・・。」
そう言いながらフィーネリオンさんは私達の持ってきた食材を確認しています。その横に、フィーネリオンさんが自分の持っていた食材を並べています。・・・あれ?それ、結構出来上がっていません・・・?
フィーネリオンさんは私の視線に気付いていないのか、お肉を見て「うんうん」と頷いています。その様子も可愛らしいのですが、私はそのお肉を適当な大きさに切って焼こうと思っていたのです。
フィーネリオンさんは、お肉を薄く切って調味料に漬けています。「切る」事は得意なので、見様見真似で同じように切って行きます。「ふわ~。綺麗な切り口です!均一に切れています!」と言われて調子に乗って全部切ってしまったのは、秘密です。
でも、フィーネリオンさんが「半分は明日の朝用に取っておきましょう。」と言ってくれたので、問題は無かったと思うのよ。
「チョットした裏技で、パンはすぐに焼けるんですよ?」
フィーネリオンさんはそう言って、メイの粉を捏ねています。「ただ、日保ちはしませんけれど」と続きましたが、短時間でパンが焼けるのは凄い事です!パンなんて、焼いたら焼いただけ食べてしまうので、日保ちなんて気にしなくて大丈夫なんです。
「手っ取り早く、お鍋で焼いちゃいましょう!」
フィーネリオンさんはそう言うと、鍋の内側にバターを塗ってパン種を入れます。結構大きめの鍋だけど、大丈夫なのでしょうか?心配です。
それから野菜を切ったりしたのですが、不意にとても良い匂いがしてきました。フィーネリオンさんの「あぶない、あぶない。」の言葉に、ハッと気づきました。これはパンが焼けた匂いです。
調理用として出していた机に鍋を逆さにしたら、パンが出てきました。フィーネリオンさんはそれを半分に切って「熱を逃がしましょう」と言って戻ってきました。
その後、炒め物用の鍋でお肉と一緒に野菜を炒めていました。そこで、フィーネリオンさんは徐にお肉を炒めていたお鍋にマニエを投入したのです。思わず「えぇっ!?」って言っていましたが、フィーネリオンさんは私の事を不思議そうに見ています。マニエはそのまま食べる物ですよね!?
・・・あぁ、マニエ嫌いのウチの子は食べられないかも・・・。
そんな私の様子なんて気にした風も無く、フィーネリオンさんはもう一つのお鍋で茹でていたお芋の様子を見ています。夕食準備の様子を見に来ていた(フィーネリオンさん目当てじゃ無いよね?)部隊長にフィーネリオンさんは「お願いしても良いですか?」と言って、何やら手伝って貰っていました。これが、後に騎士団で爆発的に人気が出る「まよねーず」との出会いです。私は手放せません。
そうして「まよねーず」が出来上がったら、フィーネリオンさんは「ありがとうございました。」と言って先程、机に出していたハン(?)を隊長に渡しています。隊長は「えっ!」と戸惑ったようにしていましたが、一口食べて「美味い!」と言っていました。えっ!?
そうして、茹でたお芋と「まよねーず」を混ぜた物が、我が部隊では「定番」となったのです。
パンをある程度薄く切って、千切りにしたターンと炒めたお肉を挟んだ物と、「まっしゅぽてと(とフィーネリオンさんが言っていました。何だか可愛らしい名前です)」とハンを何かで漬けた物を器に乗せて、スープをよそったら夕食の完成!
・・・えっ?夕食の大半はフィーネリオンさんが作ってたって?・・・気のせいですよ!
パンとお肉を炒めた物はたくさんあるから、足りない時には各自で取って食べて貰うようにしました。
私は弟の様子を気にしながら食事を摂りますが、パンに挟まっているマニエは意外性があってとても美味しかった!添えられていたハンもサッパリとした味付けで驚きました。どうやって作るのでしょう?少し離れた所に座っているフィーネリオンさんが(破壊神)ソール君を連れてお代わりに席を立っています。ソール君は楽しそうにしていますが、フィーネリオンさんが一緒にいるので心配はいらない・・・・のかな?
ですが、その時に驚いた事が起きたのです!
夕食のお代わりは各自で行うのですが、弟がお代わりしていたのです!良く見てみたら、弟は(嫌いな)マニエの入った炒め物を、パンに挟まずにそのまま食べていたのです!
私は自分の目を疑いました!
食べてる!しっかりとマニエを食べてます!実家にいるお母さん!ついに、弟がマニエを食べましたよ!
夕食の片付けは他の隊員がしてくれたので、私はフィーネリオンさんの所に向かいました。
もちろん「お礼」を言う為だったのですが、嬉しさから「ありがとうございました!」とそう言った時に抱き付いてしまいました。フィーネリオンさんは驚いていましたが、私がお礼の「理由」を言ったら、フィーネリオンさんはとても申し訳なさそうにしていました。ですが、私達は本当に困っていたのです。今の時期、マニエほど食卓に出しやすい食材は無いのです。お母さんだけでは無く、騎士団第5師団の食堂で食事を作っている皆さんにも面倒を掛けているのです。
あ!アルト発見!夕食の種明かしをしてあげよう!もう、明日からマニエを残させないからね!
フィーネリオンさんに「良い夜を。」と別れを告げてアルトの所に向かいます。
「あっ。姉さん!フロウズ夫人にあまり迷惑を掛けないようにしてください!」
私に気付いたアルトはそう言っていますが、ふっふーん!私とフィーネリオンさんの仲に嫉妬ですか?私達は同性同士なので、何も問題はありません!(多分だけどね!)
その後、アルトは私の爆弾発言(夕食のマニエ)に呆然としていたけれど、「この機会に食べられるようになる。」と意気込んでいたから、お姉ちゃんは応援するよ!
少し離れた所にフィーネリオンさんがアスライールさんと居るんだけれど、一般の騎士の結婚率って低いんだから、程々にしてあげてね?この部隊にも「独身」の隊員がたくさん居るから、幸せそうな姿が目に毒過ぎる。
私?ふっふーん!婚約者が居るので、問題ありませんよ!
話は大きく変わりますが、次の日の早朝。朝一でダグリジュの襲撃がありました。
・・・アスライールさん、どうして騎士学校に行ったんだろう?
魔術師の塔に入っても良かったんじゃ無いの?って言う感じの魔法を使いますよね?隊長も「凄いな。」って感心していたので、問題なく「魔法部隊」にも入れますよ?
・・・上空に向かって半円形に氷の障壁を作るとか、普通は考えませんよ?昨日、防御結界を張っていたリッタが泣きそうなんだけど、どうしよう。
アスライールさんはダグリジュの雛とアスライールさんの騎獣が興奮しているので、抑えてきてください!
その後、ダグリジュが落ち着いた所で私達も通常通り(?)に戻りましたが、アスライールさんがフィーネリオンさんを連れてダグリジュの所に来ました。
フィーネリオンさんとダグリジュは何やら会話をしているみたいだったのですが、暫く経ってフィーネリオンさんがダグリジュに抱き付いた事に驚きました!初めの内はダグリジュも驚いたようにしていたのですが、少し経つとフィーネリオンさんの好きな様にさせている感じです。
暫くして、フィーネリオンさんが「とても良いモフモフでした。」と言ってダグリジュから離れた事で、ダグリジュの親子は飛び立っていきました。
その後、朝食にしては遅めの食事を摂って私達はアスライールさん達と別れました。
・・・でも、可愛かった。
「もふもふ」って言いながらダグリジュに抱き付いていたフィーネリオンさんは、とても可愛かった。ダグリジュを見送るのが切なくなるくらいだったのよ。
・・・ダグリジュって、騎獣になるのかな?後で隊長に聞いてみよう!
この世界の騎士の結婚率は全体的に言うと高いのですが、それは「元々婚約者の居る」貴族出身の騎士が底上げしています。
平民や貴族の3男辺りには婚約者が居ない場合もあって、「騎士になって恋人(婚約者)を作る!」と自分を奮い立たせて騎士学校を卒業した騎士も居ます。
・・・だけど、現実はとても残酷で「騎士になってから婚約者を見つけて結婚できる」のは、本当に一握りの幸運を掴んだヒトだけなのです。
まず、異性との「出会いが無い。」その事に泣いた騎士も多い。・・・らしい。
アスライールには婚約者が居なかったので、ソールが居なかったら辺境伯領帰還後にマゼンタの指令で「強制お見合い」させられる予定でした。




