76 しゅっぱつの・・・ 2ページ目
みなさんおはようございます!
ただ今、朝の4刻半です。最近はこの時間でも外が明るくなっていますよ。
私は昨日の夜に準備していた今日の朝食の用意をして、昼食をバスケットに詰めていきます。
先程アスラさんが起きてきたので、そろそろソールさんを起こしに行った方が良いでしょうか?
昨日の夜、ちょっぴり興奮気味のソールさんはお目々パッチリの状態でゴロ寝スペースでコロコロしていました。なかなか訪れないソールさんの「眠気」に、最後の手段としてホットミルクを3人分準備して、アスラさんと「私のお父さんとの向き合い方」を超真剣に話し合いました。話の内容はそこまで濃い物では無かったのですが、ソールさんにはとても難しい内容だったのでしょう。ソールさんはいつもよりも少し早い夜の7刻半に「おやすみなさい」が出来ました。
ソールさんはアスラさんの帰りを(中番以外では)大抵待っているので、夜の8刻から夜の9刻の間が就寝の時間となっています。・・・まぁ、いつもと殆ど差は無い気がするのですが気分ですよ。
「ソールさん、朝ですよ~。」
「・・・むぅ・・・、そーる、ねむい・・・。」
案の定、私の言葉にソールさんは抱き枕にしがみついたままで、離れる気配がありません。
「ソールさーん。あーさーでーすーよー。おはようですよ~!」
私の言葉に、ソールさんは抱き枕にしがみついたままコロンと私に背を向けます。
その行動に少し悶えてしまいましたが・・・、「えっ!?何コレ、可愛い!」何て思っていませんよ!思っていませんからね!?
「ソールさん!」
ソールさんの背中をポンポンしながら一生懸命名前を呼びますが、抱き枕にお顔を埋めているソールさんからは一向に起きる気配がありません。
「ソールさ「ソール、置いて行きますよ。」・・・えぇっ!」
私の後ろから自身の準備が終わったアスラさんがそう言います。その言葉に思わず驚いてしまいましたが、ソールさんには効果覿面だったようです。
「・・・やなの!そーるもいっしょにいくの~~~~~!」
ソールさんはそう言って起き上がり、私に抱き付いてきます。
「ソールさん、おはようございます。ソールさんも一緒に行きましょうね。まずは、お着替えしましょう。」
ソールさんが私に抱き付いているので、そのまま1階に向かいます。
階段を降りた所でソールさんをアスラさんにお願いして、私も自分の準備を始めます。
昨日準備した騎獣用の服は明るい新緑色です。
髪の毛を縛るリボンもこの色に合わせて緑色にします。ネコさんに乗っている間に髪の毛が邪魔にならないように、しっかりと編み込んで三つ編みにしていきます。この上から外套を羽織ったら大丈夫ですかね?姿見で全体を確認して、クルッと回って見た感じでは大きな問題は無さそうです。
準備が終わったので階段を降りていきます。
階段を降りていくと、ソールさんの着替えが終わった所でした。
私が降りてきたのを確認したアスラさんは、ネコさんがご飯を食べ終わったかを確認する為に外に出ます。
「おかしゃん。そーるね、おかしゃんとすわるの!」
朝食をテーブルに並べていたら、ソールさんがぽてぽてっと私に駆け寄って来てそう言います。いつもの食事の時、ソールさんはいわゆる「お誕生日席」に座っているのですが、今日は私の隣の席に座ろうとしています。そんな様子のソールさんもとても可愛らしいです。
「いつもの所じゃ無くて良いのですか?」
ソールさんに確認しますが、ソールさんは「あい。」と言って頷きます。「それなら・・・。」と私の席を横にずらして、ソールさんの席をアスラさんの前にします。
アスラさんが戻ってきた所で朝食にしました。
昨日の夜に準備しておいたのは、豚カツです。(・・・こちらではプギカツ?になるのでしょうか?)朝食からお肉は少しキツいので、私は少なめにしましたが、アスラさんとソールさんはモリモリ食べていましたよ。・・・その食欲(?)に驚きです!それでもお昼休憩が取れるまでずっとネコさんに乗っているので、しっかりと食べますよ!アスラさんはソールさんの席が変わった事に驚いていましたが、それ以上は何も言わずに朝食に手を付けていました。
朝食の片付けをして、忘れ物が無いか確認をします。
アスラさんがネコさんに鞍と荷物を設置している間、私は飲み物を準備していました。
そんな中、ソールさんがポシェットを開いて私に言って来たのです。
「おかしゃん!そーるのおやつがないでしよ!」
そうでした、ソールさんにはとても重要な事でしたね。ソールさんのおやつは昼食を入れたバスケットの横に準備していたので、巾着に入れたままのゼリービーンズをソールさんのポシェットに入れます。
たちまちソールさんはニコニコ笑顔になって、アスラさんの所に向かって行きました。
飲み物はソールさん用とアスラさんと私用、後は補充用の3つに分けて準備します。
お弁当と飲み物を持って外に出ると、ネコさんにはしっかりと鞍が付けられていました。
・・・あれ?後ろの鞍にも鐙と持ち手がありますよ!?
「も・・・、もしや、・・・特注品ですか!?」
ネコさんに近付き、荷物を取り付けていたアスラさんにそう聞きます。
何てことでしょう!
どうしましょう!
・・・義両親なら作ってしまいそうです・・・!
ネコさんが付けている鞍を見てそんな事を思っていたのですが、アスラさんが気まずそうに「違うのです」と言ったので、なんだろう?と思ったら・・・。
「・・・リヒトには騎士団で使っている鞍の方が『特殊』と言われまして・・・。元々、こちらの形状の鞍が2人乗りの時に使われる一般的な形のようなのです。」
アスラさんはとても言い辛そうに私に言います。
ネコさんとソールさんはキョトンとしていて、まるで「どうしたの?」と言っているようです。
「・・・特注品では・・・」
「・・・多分、ありません」
「無理を言って作って貰った訳では・・・?」
「・・・無い、と思います・・・。」
「・・・?アスラさんが準備した物では・・・?」
「・・・すみません、父上が準備した物なので、確実に『違う』とは言えないのです・・・。」
私とアスラさんの会話にソールさんは興味を無くしたようで、ネコさんとモフモフしています。
「・・・ですが、良かったです。手綱が付いているなら、アスラさんに抱き付いていなくても大丈夫そうですよね!」
私の1番の杞憂が無くなりました。私にずっと抱き付かれていたら、アスラさんだって窮屈ですよね?
ソールさんに飲み物の入った水筒を斜めに掛けます。
最近は日差しが強いので、脱水状態にならないようにスポーツドリンクを常備して行きますよ。
普段のアスラさんも外での活動が多いので、「昼食用に・・・」とお弁当と一緒に渡している飲み物はこっちに切り替えました!
騎士団では毎年熱中症になる騎士がいるようなので、ナゼかお母さんから大量に送られてきたレニモ(レモン)を使って作った「レモンの砂糖漬け」を「熱中症対策にどうぞ。」とアスラさんが中継ぎ出勤の時に差入れしたのですが(何か泣いている騎士さんもいました。スッパイのが苦手だったのでしょうか?)、その時に外から帰ってきた騎士さんの中に熱中症で倒れた騎士さんがいたので経口補水液を作って騎士団に広めましたよ!
今、第3師団は「熱中症知らず」となっているようですが、適度な休憩と水分補給をしっかりと行っていれば大抵「熱中症」にはなりませんからね?熱中症はとても危険な症状なので、あまり無理はしないで欲しいです。
アスラさんがネコさんに全ての荷物が積み終わったので、お家の鍵を閉めます。
門までは歩いて行く事にしたのですが、アスラさんはソールさんをネコさんに乗せます。
「アスラさん?」
不思議に思ってアスラさんの方を見たら、アスラさんが「転んだら大変そうです」と言ってソールさんを見ます。
改めてソールさんを見ますが、左右にポシェットと水筒を携え日除けのフードを被っているソールさんはナゼか「むいっ」とキリリとした表情をしながら前を見ています。
「ソールさんは可愛らしいですねぇ・・・。」
私の口からはそんな言葉が出てきましたが、アスラさんは「フィーナも可愛らしいですよ」と言ってくれました。
くっ・・・!眩しいっ!その邪心の無いアスラさんの微笑みに溶けてしまいそうです!
「ありがとうございます・・・。」
こう言うのが精一杯ですよ!
・・・あれ?おかしいなぁ・・・。実家にいた時には結構受け流せていたと思うのですが・・・?
お家を出て、商業都市に向かう北門を目指しますが、私とアスラさんは手を繋いだままでした。そんな私達を見てソールさんが「そーるも!」と言っていましたが、アスラさんが華麗にスルーしていましたよ?
ネコさんは私達の歩く速さに合せてくれるのでお家を出て半刻掛かりましたが、アスラさんと「天気が良い状態が続くと良いですね。」なんて話しながら相変わらず立派な北門が見えてくるまで歩いて行きました。
門の前にはそれなりにのヒトがいましたが、通勤ラッシュを思わせるようなヒトの数では無かったので、門の受付のをしていた騎士さんに通行証を発行して貰って大きく開いた門を出ます。
騎獣に乗るのは門の外からになるので、通行証を発券する時にはソールさんもネコさんから一旦降りました。
門番の騎士さまはアスラさんの知っている方のようで、私とソールさんを見てニヤリと何とも言えないお顔をしました。そのままアスラさんを詰め所に連れて行ってしまったので、私とソールさんがアワアワしてしまいましたが、もう1人いた騎士さまに「大丈夫ですよ。」と言われたのでそのまま待っていました。私とソールさんがチョッピリ飽きてきた頃にアスラさんが帰ってきたのですが、何だか荷物が増えていますよ?
アスラさんはその手にピタンの実(見た目リンゴの味はパイナップル)を持って帰ってきました。
「ふふふっ。お帰りなさい。」
何だか疲れたようにしているアスラさんをソールさんと迎えます。
「コレを頂きました。」
私にピタンの実を見せてくれますが、今は持てないので昼食を入れてきたバスケットに入れます。
「ありがとうございます。後で頂きますね。」
騎士さまにそう言ったら、騎士さまは「いえ、良い旅路を。」と言って持ち場に戻って行こうとしたのですが、その後ろをソールさんが付いて行って「あいっ」と、ソールさんはご自分のおやつであるゼリービーンズを渡していました。
ゼリービーンズに戸惑った騎士さまに「お菓子です。甘い物が苦手でしたら、無理をしないでください。」と言ったら、騎士さまは「ありがとう。」とソールさんに言ってゼリービーンズを口に入れました。
ゼリービーンズを食べた騎士さまは、数回瞬きをして「とても美味しいです。」と言ってソールさんを撫でます。
「フィーナ、ソール。そろそろ出発しますよ。」
アスラさんの声が聞こえて、ソールさんは踵を返すようにポテポテっと走って行きます。
「道中お気を付けて。」
騎士さまがそう言って会釈をして持ち場へ戻っていきます。
私がアスラさんの元へ戻った時には、ソールさんはキリリとした表情でネコさんに乗っていました。
・・・どうしてそうなってしまうのでしょう?
私が戻った事を確認して、アスラさんが先にネコさんに跨がります。その後に私もネコさんの鐙に足を掛けますが、意外と反対側が遠かったので躊躇いました。
ですが、そんな時にあの言葉が脳裏に呼び起こされるのです。
女は度胸!
「えいっ!」と勢いを付けてネコさんに乗りましたが、騎士団での練習の時と違って鐙と手綱があるお陰でしょうか?それとも、私の後ろに積まれている荷物のお陰でしょうか?とてもバランスが取りやすくなっています。
「フィーナ、大丈夫ですか?」
アスラさんが聞いてきます。
「はい。大丈夫そうです!」
「・・・危ないと思ったら、私の方に掴まってくださいね。」
不意のアスラさんの言葉に「ぴよっ!?」と声が出てしまいましたが、アスラさんは笑っているのか肩が震えています。「もうっ!」と言って手綱をしっかりと掴みます。
「しゅっぱつでし!」
ソールさんの言葉で帝都の北門を出発しました。
・・・日焼けが怖いので、フードはしっかりと被らせて頂きますよ!
ようやく旅立ちます。




