70 かんげきの・・・ 2ページ目
緞帳が上がり、演劇が始まります。
演劇の内容は、小さな国の王子様の冒険譚でした。
「戦争が終わった後」という設定の冒険のお話しで、王子様は紆余曲折を経て「希望の地」に辿り着くといった内容です。
演劇のお話しはとても面白くて、物語の合間にある休憩の時にアスラさんと「この先はどうなるのでしょう?」なんて話しをしながら、先程給仕の方が運んできた(!)軽食を食べながらお茶を飲みました。
こういった内容のお話しであればソールさんも楽しめるかも知れません。
・・・ただ、長いお話しですし大人しく座席に座ってはいられないかも知れませんね。こういったボックス席だったら大丈夫でしょうか?
アスラさんのカップにお茶のお代わりを注いで、緞帳の上がった舞台を見ます。
「この調子でいくと、舞台が終わるのは夜の10刻くらいでしょうかね?」
「えぇ、そのくらいになると聞いています。」
アスラさんが舞台の終わる時間を確認してくれていて良かったです。
「今日は屋敷の方に泊まって、明日帰りましょう。」
アスラさんの提案には大賛成です!お屋敷からお家に戻ったら、着替えをしたりするので日が変わる頃になるかも知れません。眠っているソールさんを起こしてしまうのは不本意ですから、そのままお世話になった方が良いですよね。
第2幕が終わって、演者達が舞台上で挨拶をして幕が下ります。
「とても楽しかったです!」
「えぇ、本当に。」
アスラさんと舞台に向かって拍手をします。
主人公だった王子様達がもう1度舞台上に上がって挨拶をすると、より一層の拍手が会場に響きます。
個室から出て階段を降りると、ホールには帰る人で溢れていました。
「アスラさん。王子様達がいますよ。」
ホールには主演の王子様の役を演じた俳優さんや、パーティーメンバーがお見送りしています。
たくさんのヒトに囲まれているので近付く事は出来ませんでした。実際にこの帝都の皇子さまを見ているとアレですが、なかなか格好いい俳優さんです。アスラさんには劣りますが。
ヒロイン役の女性も近くにいて、ファンの方からでしょうか?花束を貰っているようです。
「フィーナ、馬車が来たようです。行きましょう。」
「はい。そうですね。」
俳優さん達を見ていた私は、アスラさんの言葉に気が付いてアスラさんの方を見ます。
馬車に揺られてヴァレンタ家のお屋敷に帰ってきます。
「ソールさんは、もうお休みしているでしょうか?」
「時間も時間ですから・・・・。」
馬車の中ではそんな事をアスラさんとお話ししていました。
お屋敷の入り口の扉を開けて貰ったら、お屋敷のホール中央にとても見覚えのあるソールさんがいました。
ソールさんは入ってきたアスラさんを確認すると、それは見事な一直線を描いてアスラさんの足に突進して来ました。
・・・ソールさんごめんなさい。私には、軽くホラーでしたよ。
「おとしゃーーーーん。」
ソールさんは、そう言いながら抱き付いたアスラさんの足にグリグリと頭を擦りつけます。
その声はとても眠たそうだったので、アスラさんがソールさんを抱き上げます。
「あら、お帰りなさい。楽しかった?」
私達はお義母さんの声がした方を見ます。
「ソールさんはアスライールがいなくて寂しかったみたいよ?フィーナさんの準備してくれた『ぴあんぱい?』や焼き菓子を食べて落ち着いてくれたのだけれど、やっぱりアスライールが良いみたいね。」
お義母さんはアスラさんのお膝に乗って満足そうにしているソールさんの様子に「あらあら。」なんて言いながらほっぺを突きます。
ソールさんもされるがままなので、だいぶ距離が近付いたのでは?と思います。
そのままサロンに向かって、出して貰ったお茶に口を付けてしまいましたが・・・。
「私、着替えて来ようと思うのですが、大丈夫ですか?」
ドレスを汚したら大変です!隣に座っているアスラさんにソッと言ったつもりだったのですが、反対側に座っていた義両親にもシッカリと聞こえていたようで「大丈夫ですわよ。」とお義母さんから了承を頂きました。
着替えた後、1刻くらい義両親とお話していたのですが、お義父さんは次の日もお仕事なのでお部屋に戻って来ました。
お義母さんはマシュマロにとても感動したようで、少し残したマシュマロをスターリング侯爵夫人に渡しても良いかと聞いていましたが、昨日作った物なので涼しい所に保管して貰えば明後日くらいまでだったら大丈夫なはずです。それに、もともとお義母さんの為に作った物だったので「大丈夫ですよ。」と言ったら、とても嬉しそうにしていました。
お部屋まではアスラさんソールさんと一緒に戻って来たので、お部屋の前で「おやすみなさい」と別れました。
お部屋の窓からは小さなお月さま「テティス」が見えます。
大きな月の「レティス」から離れている時は、普段の黄色掛かった色では無くて赤い色に見えるから不思議です。レティスは空をグルグル回っているのに、テティスの位置は変わりません。普段寄り添っている2つの月が離れるのは1月の間に2、3日くらいあります。この期間は魔獣の被害が増えるので、外出するヒトはグッと減ります。領地に向かう義両親の出発が8日になったのも、そういった関係みたいです。
「おやすみなさい。」
私は、窓の向こうにそう言って眠りにつきました。
「・・・。」
「・・・・・・・・。」
どういった訳か、私の目の前に大きなモフモフがいます。
結構長い間見つめ合っていますが、その素敵モフモフな毛皮にダイブしても良いですか?
「・・・。」
大きなモフモフさんは前足に顎を乗せて、ジッと私を見ていて動く気配がありません。
ソッと手を伸ばしてモフモフさんに触ろうとしたら、モフモフさんに避けられてしまいました。
「怖くないですよ~。少しモフモフさせてくれたら大丈夫なので、・・・さぁ!私にモフモフされて下さい!」
そう言ってまた手を伸ばします。
『ヒトの子よ、我に触ると汚れが移る。我に触るのは止めた方が良い。』
モフモフさんから声が聞こえます。
どうやら触ろうとしているのは理解できているようなので、問題はありませんね。
「大丈夫ですよ!モフモフさんが真っ黒なのは自前なのでしょう?
モフモフさんが汚れているようには見えませんし、後で手を洗いますから安心して下さい!」
目の前に立派なモフモフ毛皮があるのです。
良く分かりませんがモフモフさんとは会話が成立しているので、意思疎通が出来ています。後はモフモフさんが「良いよ。」って言ってくれたら、私がダイブするだけですよ?
『・・・変な娘だ。』
モフモフさんがそう言って私を見ます。
「よく言われます。・・・それでは!」
モフモフさんのその言葉を、私は「良いよ!」って言う言葉に変換しましたよ!
手を伸ばそうとしたら、急に私の体が重くなったのです。立ち上がれないくらい体が重いのに、モフモフさんは『迎えが来たようだ、ヒトの娘よ今度は迷わぬように。』と言っています。
いえ、体が動かないので助けて欲しいです!
「ぐふっっ!」
私のお腹に衝撃が来て目が覚めます。
今、女の子が滅多に口にしないような声が出た気がするのですが・・・!?
「な・・・何が起き「おかしゃん!めっ!」・・・ソールさん?」
私のお腹の上には「良い仕事をしましたよ!」っていうお顔のソールさんがキリッとして私にそう言いました。
「フィーナ、大丈夫ですか!?」
慌てたように扉を開けてアスラさんが入ってきます。その後ろからジーナさんも入ってきたので、何か起きたのでしょうか?
「えっと・・・?アスラさん?・・・おはようございます。何かあったのですか?」
「いえ、ソールが急に『フィーナが大変だ!』と言って消えたので・・・。」
アスラさんはそう言うと、私のお腹の上にいるソールさんに気付きます。
「・・・ソールさんですか・・・?」
「そーるがんばった!」
私、アスラさん、ジーナさんの3人に見られているソールさんは、私のお腹の上でムイッっと胸を張ってそう言います。
「・・・ソール、少し私と話し合う事があるようですね。」
アスラさんのその言葉にソールさんは「褒められる」と思ったのでしょう。「あいっ。」と言って満面の笑みで私のお腹から降ります。
ガッチリと捕まえられたソールさんは気付いていないのでしょうか?アスラさんの声が少し低かった事に。
私の覚醒したばかりの頭ではそう聞こえましたが、もしかしたら普段通りの声だったのでしょうか?ソッとジーナさんを見ますが、ジーナさんは微笑みを浮かべながらアスラさんとソールさんを見ています。
どうやら、私の勘違いだったのでしょう。
アスラさんに「確保」されているソールさんもニコニコしていますから、問題は無いのでしょうね。
まだ起きる時間には早かったので、2度寝と行きますか!
お布団に包まって幸せな夢の続きを見ましょう!
・・・・?あれ、どんな夢を見ていたんでしたっけ?
まぁ、「2度寝が出来る事」が幸せですよね!
起床後、朝食を食べてお家に帰るまでソールさんは私にピッタリとくっついていました。
どうしたのでしょう?
アスライールとジーナのダブルパンチだった模様。




