69 かんげきの・・・ 1ページ目
皆さんこんにちは!お貴族さまの世界に驚き尽くしのフィーネリオンです。
私は今、今日の夕方からの演劇を見に行く為にヴァレンタ家で準備をしています。
帝国劇場で演劇を見るので「とても良い」よそ行きのワンピースを着て着たのですが、お義母さんから「ドレスで行かないと、ダメよ?」と言われたので、お着替えが決定しました。
どうやら貴族の世界では演劇を見る時間が決まっていて、未婚者や女性は日中に見に行くのが普通で、既婚者は夕方からなんだそうです。へぇ~~。
それは置いておいて、私の視界には可愛らしい光景が目に入っています。
「おかしゃ~ん。そーる、おるすばんでしよ~。」
私の正面にある鏡から後ろのソファーでコロコロしているソールさんが見えます。
ただ今のソールさんは盛大に拗ねているようなのですが、私の準備に忙しいメイドさん達はソールさんを放置状態です。ごめんなさいソールさん。私もここから動けないのです。
ソールさんはお屋敷にくる間に泣いたりする事は無かったのですが、ドナドナされている気分だったのでしょう。いつもよりもテンションの低いソールさんは、移動中のアスラさんに抱き抱えられている時からとても静かでした。
お屋敷に着いてから、ソールさんとのこのやり取りも何回目か分かりません。
何やら、帝国劇場にはドレスコードが有るみたいなのです。
メイドさん達がここぞとばかりに晴れやかな笑顔でアレコレ合せてくるので、完全「お任せモード」の私はメイドさん達が選んだ(私の見た事の無い)ターコイズ色のドレスを着ています。
今は髪型のセット中なのですが、私の視界にソールさんが入ってきたのは見計らったように鏡台の椅子に座った時なのです。
ソールさんはソファーの上でコロコロと転がって、鏡越しに私をチラ見しながら先程の台詞を言ってくるのでメイドさん達も笑っています。
「えぇ、そうですね。ソールさん、お義母さんとお義父さんと仲良くお留守番して下さいね。」
「ぴぃっ!」
このやり取りも何回目でしょうか?
「そーるがいっしょじゃないでしよ!おかしゃん!」
ソールさんはソファーに座りなおしてこう言って来ますが、コレばかりは・・・・。
「ソールさん、アスラさんに『一緒に行ってもいい?』って聞いてみて下さい。アスラさんが『良いよ』って言ったら、一緒にいきましょう?」
「・・・・、・・・・でし。」
私の言葉にソールさんがプルプルと震えながら何か言いますが、私の所までその声は届きませんでした。
「おとしゃんも、そういってたでし!」
そう言ったソールさんは「ぴぇ~~ん!」と言って扉の先に消えていきました。
閉まっていた扉のノブに手が届かなかったので、ピョンピョンしている姿がとても可愛らしかったです。扉はメイドさんに開けて貰っていましたよ。
「アスライール様の所でも同じようにしていたようですよ。髪型はこちらでよろしいですか?」
私の(ほぼ)専属のジーナさんがそう言って来ます。
「そうだったのですね。・・・ソールさんも連れて行きたい気持ちはあるのですが・・・。あっ、素敵な髪型ですね。ありがとうございます!」
「今回はちょっと・・・。ソール様をお連れするのは、控えて頂けると助かります。」
「ですよね・・・。」
そうなのです、ソールさんを連れて行く事は、多分「可能」なのです。
アスラさんに言ったらオッケーしてくれると思うのですが、今日はソールさんにとっては「初めて」の「嬉し恥ずかしお祖父ちゃんとお祖母ちゃんのお家でお留守番」の日になるのです。記念日ですよ!
お義母さんはウキウキした様に私達を出迎えてくれましたし、お義父さんは今日は定時で帰れる様に「頑張った!」と言っていました。ご領地に戻る日も近付いているというのに、義両親の今日へのこの力の入れように私とアスラさんは何も言えなくなりました。
あっ、ちなみに、ご領地に戻るのはお義母さんだけだそうです。
お義父さんはお義母さんと一緒に領地に向かうのですが、お仕事があるのですぐに帝都に戻って来るみたいですよ。皇帝陛下への恨み節が聞こえたなんて、そんな事はありませんでしたよ?きっと、暑かったので聞き間違いだったんだと思います。
何かを思い出して少し遠い目をしていたジーナさんは、私に「今日は楽しんできて下さい」と言ってアスラさんに私の準備が出来た事を伝えに行きました。
その後、深いターコイズ色のジャケットを着たアスラさんが私の部屋に来ました。もしかしたら私のドレスと合わせたのでしょうか?とても良くお似合いですよ!
「ぴえ~~~~ん!おとしゃーーーーん!おかしゃーーーん!そーるも~~~!」
ソールさんは、まるで「今生の別れ」の如く私達を引き留めようとしますが、お義母さんと手を繋いでいるので大丈夫でしょう。
「アスライール、フィーナさんをキチンとエスコートするのよ!フィーナさんも気を付けてね?知らないヒトに付いていってはいけませんよ?」
お義母さんはとても真剣なお顔でこう言ってきましたが、私は良く周りのヒトに同じ事を言われます。帝都では普通なのでしょうか?商業都市では「幼い子供」に対する言葉ですよ?
和やかに手を振るお義母さんと、ギャン泣きのソールさんと言う正反対のお見送りで馬車に乗り込み帝国劇場へと向かいます。
帝国劇場に着くまで「ソールさんは大丈夫でしょうか?」とか「とてもよく似合っています。」なんてアスラさんとお話をしていました。いやぁ、「某有名なRPGのCG技術は凄いねぇ!」なんて前世の私は思っていましたが、目の前のアスラさんを前世の私が見ていたらフローリングの上をゴロンゴロン回りながら「イケメン最高!」と悶えていますよ!現に今、それが私に許されるのでしたら遠慮無く転がりたいです。
イケメン万歳!です!
帝国劇場に着くまで、アスラさんを見て「アスラさんが「アノ」ゲームのキャラクターだったら・・・」なんて不穏な妄想をしていました。ニヤニヤしていたらごめんなさい。
帝国劇場に着た時、先に馬車から降りたアスラさんは私が馬車から降りるのに手を差し出してくれます。
いやぁ、アスラさん、絵になりますねぇ・・・!
馬車から降りて、人生初の帝国劇場に感激してしまいました。
「フィーナ、行きましょう。」
そう言ってアスラさんは私の手を引いて先に進みます。
何だか周りから注目されているような気がしますが・・・、アスラさんはどこに行ってもパンダさんになってしまうのですね。何だか鼻高々ですよ!
アスラさんに手を引かれて建物の中に入ると、とても煌びやかな内装に算盤を弾きたくなります。
今、公演されている演劇は「サロン王と約束の地」と言う大陸の方のお話で、ずっと昔のベストセラーなんだそうです。とても有名なお話みたいで、年配のヒトは大抵が諳んじてどんなお話なのか話す事が出来るようですよ。
・・・私は読んだ事ありませんけどね!
劇場ホールへは正面の扉から入るのでしょうか?立派な扉が観客を誘うように開かれています。
不思議なのは普通の服を着た方がいる事でしょうか。
「?フィーナ、どうしました?」
入り口ホールの演目板の所で止まってしまった私に、アスラさんが不思議そうに聞いてきます。
「!!そう言う事ですね!」
アスラさんを見て、ハッと気付きます。
なるほど、「貴族には」ドレスコードが有るのですね。
商業都市の劇場で演劇を見た時には、私は「平民」の身分だったのでよそ行きのワンピースで大丈夫だったのでしょう。今は「貴族」だからドレスでの観劇になるのですね。
何だか納得できたので、アスラさんに「どうしたのですか?」ともう1度聞かれて、説明するのに思わず笑ってしまいました。私の説明を聞いたアスラさんが不思議そうにしていますが、この辺は元々の身分が違うので捉え方が違うのかも知れません。
劇場ホールから座席の方に向かうのかと思いきや、アスラさんは階段前の男性に声を掛けます。
「フロウズ子爵夫妻ですね。こちらからどうぞ。」
そう言って、男性は階段前から横にズレます。
アスラさんに促されて階段を上りますが、2階席があるのでしょうか?
・・・この建物ならば、確かにありそうですね。
私達が階段を上ると男性は、また先程の階段前の位置に戻りました。何だか門番みたいです。
「こちらです。」
アスラさんがそう言って案内した先は、舞台を一望出来るボックス席でした。
「ふあぁ~っ!凄いですね!特等席ですか!?」
思わず手摺りの所まで駆け寄ります。
「いえ、特等席は皇族専用席でしょう。ここは我が家で使える席です。母上も『好きに使って良い』と言ってくれたので、フィーナも気になる作品がありましたら使って下さい。」
アスラさんはそう言って準備されている椅子に私を誘導します。
このお部屋の広さは4.5畳くらいでしょうか?壁際には茶器が置いてあります。
・・・さすがに「ちょっと、帝国劇場に行ってきます。」は出来ませんが、アスラさんと一緒だったらまた来たいと思います。
そんな中、開演を告げるファンファーレが劇場内に響きます。
「そろそろ開演ですね!」
私とアスラさんも椅子に座って舞台を見ます。
ファンファーレが終わると、舞台の幕が上がって開幕です!




