65 だんらんの・・・ 2ページ目
アスラさんがお屋敷に向かう準備が終わって、昼食を食べ終わった頃に私の身の振り方を話し合ったのですが・・・。
病気中なので来客には応じない。
この事に重点を置いていれば、他は普段どおりの行動で大丈夫とアスラさんと決めました。それで、何かあっても(よほどの事がない限り)お家の1階には降りずに私のお部屋で過ごす事になりました。
お屋敷の方から馬車が来るみたいなのでネコさんはお留守番だそうです。
リンリンリンリン
どうやらお迎えが来たようなのでお見送りしようと思ったのですが、扉が外側からいきなり開いたので驚きました。
お家の扉はいつの間に「自動ドア」になったのでしょう?
「お嬢様!ご無事ですか!」
お家の中に飛び込んできたのは、なんとマリーさんです。
その後ろからジーナさんが入ってきたので「何かあったのかな?」と思いましたが、アスラさんの方は驚いた風も無く「あぁ、なる程・・・。」と言っています。
私にも分かるように説明してください!
ソールさんはマリーさんの登場に余程驚いたのか、アスラさんに飛びついていました。
その飛びつき方がとても見事すぎて、思わず2度見してしまいました。ソールさんには申し訳ないのですが、とても面白かったです。
「奥方様の命により、本日はお嬢様のお世話をするべく参上いたしました。」
ジーナさんの口上にポカーンとしてしまいましたが、アスラさんの「助かります」の言葉に現実に戻ります。・・・なるほど、お義母さんですか・・・。
「フィーナ、あまり無理はしないで下さい。後、私が出た後に何かあったら連絡を下さい。」
アスラさんはそう言います。ですが、マリーさんの「さぁ!馬車の準備は出来ているので、アスライール様は出発して下さい!」の言葉で馬車に押し込まれてお屋敷に向かって出発しました。
・・・マリーさん、「不敬罪」って言う言葉を知っていますか?一応、アスラさんはマリーさんの雇い主さんの息子さんですよ?・・・まぁ、アスラさんならば笑って許してくれそうですが。
「お嬢様、本日1日の間、窮屈かも知れませんがよろしくお願いします。」
ジーナさんはそう言って私に一礼します。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」と返事をして、ふと気が付きます。
「・・・・あれ?ソールさんはどちらに隠れているのでしょうか?」
私の言葉にジーナさんが「そう言われてみれば・・・」とお家の中を見渡します。
「ソールさーん、どこですか~。」
ゴロ寝スペースのクッションの中や、1階の使われていないお部屋の中や「もしかして」と思ったお庭をマリーさんに確認して来て貰いましたが、ソールさんのお姿はどこにも見あたりません。
「・・・もしかして、誘拐ですか!」
マリーさんが不吉な事を言って来ましたが、この静けさはとても不安を感じます。
「ど・・・、どうしましょう・・・!」
私がオロオロとし始めたら腕輪の魔石に反応がありました。
『・・・フィーナ、今、大丈夫ですか?』
「アスラさん!大変です!ソールさんがいな『ぴえぇ~~~~っ!おかしゃーーーん!』・・・・?って・・・、ソールさん・・・!?」
相手はアスラさんからでした。不思議な事に、通信の向こうからソールさんの声が聞こえます。
『・・・そうなのです。ソールも私と一緒に馬車に乗ってしまったので、もしかしたら『ぴえぇぇぇ~!そーる、むぎゅぅ・・・。』と思って連絡をしました。このままソールも連れて行きます。』
アスラさん、ソールさんのお口を物理的に塞ぎましたね・・・。
「大丈夫ですか?ソールさんが無理そうならば、お屋敷に着いてからこちらに送り出して貰えないのでしょうか?」
『向こうに着いたら様子を見て判断します。なので、フィーナはソールの事は気にせずにゆっくりと休んで下さい。』
アスラさんはそう言いますが、『ふがっ』『ふがっ』っと抵抗(?)しているソールさんの事が気になって仕方がありません。
アスラさんとの通信が終わった後、お家の中は何とも言えない空気に包まれています。
「マリー、あなたアスライール様を送りだす時にソール様の事を確認しなかったの?」
「ソール様が小さくて見えなかったのよ~。」
ジーナさんがマリーさんにそう言いますが、マリーさんはジーナさんの絶対零度の視線を気にしていないのか「あはは~。」って言いながら流してしまいます。
・・・ジーナさんのお顔がとても恐ろしい事になっていますよ!マリーさん、大丈夫ですか?
「・・・とりあえず、ソールさんの気が収まるような物を準備するので、お屋敷に持って行って欲しいです。」
ジーナさんとマリーさんのやり取りの雲行きが怪しくなって来たので、ちょっとした提案です。
お出掛け用のバスケットに何種類かのぬいぐるみと、おやつのマシュマロを入れて不穏な空気(特にジーナさん)のお2人に向けてバスケットを差し出します。
「はい!是非とも!私がそのお役目を任されたいと思います!」
マリーさんが(ジーナさんの方を見ないようにしながら)綺麗にまっすぐ手を伸ばして、立候補したのでお任せしましょう。
・・・やっぱり、ジーナさんの視線が怖かったのですね・・・。
・・・そして今、私はベットの住人となっています。
「行ってきまーす!」と元気に旅立ったマリーさんを見送って、ジーナさんに「さぁ、お部屋に向かいましょう。」と手を引かれた時には、こんな事になるとは思っても居ませんでした。
私は、優雅に日向ぼっこをしながらダラダラしているはずだったのですよ!
「お嬢様、今日はゆっくりとお休みになって下さいね。」
そう言ったジーナさんの手によって、私はあれよあれよと「おやすみなさい」の格好へと変身してしまいました。ジーナさんが優秀すぎて、抵抗が出来ませんでしたよ。・・・恐るべし、メイドさん・・・。
お屋敷に向かったマリーさんは夕方頃に帰って来ました。私は2階に居たので良く分からなかったのですが、私の傍で刺繍をしていたジーナさんがとても良い笑顔をしながら出迎えに行ったので、階下に響いた怒声は「気のせい」だと思います。ご近所さん、今日も元気ですね~。
その後、少しヨレヨレのマリーさんがジーナさんと一緒にお部屋に入ってきました。
マリーさんのお話では、どうやらアスラさん達は本家であるスターリング侯爵家のお屋敷に居るようで、私がマリーさんに渡したバスケットはヴァレンタ家のお屋敷から別の方が運んで下さったようです。
・・・マリーさん、道草は程々にしないといけませんよ?
事前に遅くなるようならば、連絡さえ入れば怒られませんからね?
私も帰りが遅くなると、良くお母さんに怒られました。・・・怖かったなぁ・・・。
ジーナさんとマリーさん、お2人と刺繍をしながらアスラさんとソールさんのお帰りを待っていたのですが、夕食の準備をする時間になったので「どうしましょう」とジーナさんに声を掛けたら、「夕食は、アスライール様が帰る時にお屋敷で準備した物を持って帰ってくるみたいですよ。」とマリーさんから聞いたので、とても楽しみです。
・・・でも、晩餐をご両親と一緒に取らなくて良かったのでしょうか・・・?
本家のお屋敷に居るのなら、尚更心配になります・・・。
暫く経って、外が賑やかになりました。ソールさんの声です。
窓は鎧戸から閉めてしまっているので開く事が出来ませんが、馬車から降りた時の楽しそうな声は確かにソールさんの物です。
「私はお嬢様の準備を手伝いますから、アスライール様とソール様のお出迎えを頼みます。」
「分かったわ。」
ジーナさんとマリーさんが2手に別れて行動をします。
元々が元気な私にお手伝いはいりませんよ?
そう思ってジーナさんを見ますが、結局、とても良い笑顔のジーナさんによってお着替えが終了しました。
階段を降りて行くと、ソールさんが私に気付いて駆け寄ってきます。
「おかしゃん!おかしゃん!あのね!そーるがんばったの!」
そう言ってエヘンっと胸を張る姿はとても可愛らしい姿です。
「本当?スゴいです!」
そう言ってソールさんの頭を撫でていたら、アスラさんもこちらに来ました。
「フィーナからの『支援物資』がとても良い効果を出しました。」
アスラさんの言葉に一瞬首を傾げてしまいましたが、直ぐに理解できたので「お役に立てたのならば良かったです。」と言って私が準備したバスケットを受け取ります。
「それでは、私共はお屋敷に戻らせて頂きます。お嬢様、お体には気を付けて下さいませ。」
「まだまだ暑い日が続きますから、気を付けて下さい。」
ジーナさんとマリーさんのお2人は、そう言ってアスラさん達が乗ってきた馬車でお屋敷に戻っていきました。
確かにまだまだ暑い日は続きます。
むしろ、これからが本番になりますからね!体調管理はしっかりしないと!
この週末が終わると、週明けからは4月が始まります。
アスラさん達騎士団の長期休暇が始まります。旅行の準備も始めないといけませんね!
「おかしゃん、そーる、おなかがすいたの。」
・・・そうですね、まずは今日の夕食からですね。
アスラさんが持って帰って来てくれた料理はとても美味しかったです。さすがお屋敷の料理です。
私のお腹はそれで満足していたのですが、片付けを始めた私にソールさんは不思議そうに「ぴあんぱいは・・・?」と言ってきた事に戦慄を憶えました。アスラさんも「お皿の準備を手伝いますよ」と言ってまとめたお皿をシンクに運んでくれます。
「え・・・?今日はもう良いかな?と思うのですが・・・?」
思わずそんな言葉が口から出てしまいましたが、お2人は不思議そうに首を傾げています。
・・・えぇ、お2人ともしっかりと「食後のデザート」まで口にしましたよ。
アスラさんのお腹はハードルが高いので、ソールさんのお腹をソッと撫でてみましたがお腹に大きな変化はありませんでした。
・・・解せぬ!
悔しくって、今日の夜は眠れそうにありません!




