表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/163

62 きんだんの・・・ 2ページ目








最近は日差しの強い日が続きます。




ですがそんな状況の中であっても、今日の私とアスラさんの気持ちはドンヨリと急下降です。

私とアスラさん、2人でテーブルの上に積み上げられた本を見ていますが、一向に「読みたい」と思える興味が湧き起こりません。


・・・そうです。以前、アスラさんがお義母さんから「読むように!」と渡された「例の」本の新刊が先日発売されたようで、今日お義母さんのお使いの方がわざわざ持ってきてくれたのです。

私もそうだったのですが、アスラさんもその本の存在をスッカリと忘れていて中に入っていたカードに「新刊よ!」と書いてあるのを見て存在を思い出したのです。



「・・・新刊ですか。」

「・・・えぇ、新刊のようですね。」

「しんかん!」

私とアスラさんの様子が面白いのか、ソールさんはアスラさんを見上げて楽しそうにしています。



「アスラさんは今日もお仕事ですし、とりあえず明日のお休みの時に読むようにしてはどうでしょう?」

解決策の見つからない問題をとりあえず先送りしてしまうのは、私の前世からのクセですが今こそ使うべきですよね?


「いえ、取り敢えずある程度読んでおこうと思います。」

真面目なアスラさんはそう言って1巻を手に取ります。





私はアスラさんの読書のお邪魔をしないようにソールさんと一緒にゴロ寝スペースで絵本を読んでいました。何度かアスラさんの方を見ているのですが、アスラさんは情報を整理しているのか途中何回も本を閉じながら読み進めているので、思うように先に進んでいないようです。



途中「息抜きにどうぞ」とお茶をアスラさんに差し入れますが、「本の内容が難しいので、なかなか先に進みません。」とアスラさんはそう言いながら閉じた本を開きます。

真剣に読んでいるアスラさんには言い辛いのですが、多分その本の内容にはそこまで重要な事は書いていないはずなのです!精々が流行のお菓子やドレス、その時に有名な方がモデルの登場人物くらいですよ!



タイトルに「騎士」と入っていますが、メインヒロインとヒーローのキャッキャウフフがメインのお話なので、騎士らしい事をしている描写は(私が読んだ1巻の時点では)ありませんでした。


アスラさん、あまり考えすぎるとお仕事に差し支えが出ますよ?ほどほどにして下さいね。







昨日、お隣さんからたくさんのトマトを頂いたので、お昼はミートパイにしましょう!

お隣のお家では今年はお野菜が豊作だったようです。我が家のキュウリも毎日収獲できているので、作物の当たり年だったのでしょう。お隣さんは家族5人暮らしなのですが「大量に出来たから、ぜひ貰ってちょうだい!」と渡されたので、ありがたく食べています。


お肉は挽肉にして、みじん切りにしたタマネギとキスルと言うニンジン(緑色でした!)に似たお野菜と一緒に炒めます。

メイの粉を入れて少し炒めたら、ココでトマトを入れます。トマトは昨日の内に湯剥きしていたので、そのまま入れてしまいましょう!煮込んでいる内にトマトの形が無くなっていくので、問題ありません。

そして、調味料で味を調えて煮込んでいきます。水分が無くなってきたら火を止めます。


耐熱皿にパイシートをセットして、炒めた挽肉を入れてパイシートでフタをすれば後は焼くだけです。


時間を確認したら、今から焼き上げれば少し早いかも知れませんが、アスラさんに食事で息抜きをして貰いましょう。調理中にアスラさんとソールさんをチラチラって見ていましたが、そろそろアスラさんの理解力が追い付いていないみたいです。ソールさんもコロコロするのに飽きてきたのかお絵かき中です。


サラダも準備すればバランスが採れたお昼になりますよね?アスラさん、今日の読書はソコまでにしましょう?ね?





「ふぉ~~!」

ソールさんがキラッキラした目でミートパイを見ています。焼き上がりまで時間があったので、先に炊いていたご飯をおにぎりにして一緒に食卓に並べます。

・・・ソールさん、サラダもしっかりと食べて下さいね?








「・・・フィーナ、いくつか聞きたい事があるのですが大丈夫ですか?」

「どうしました?」

昼食の後、神妙なお顔をしたアスラさんがそう言って来たので「重要なお話ですね!」と思ってお話を聞く体勢になります。


「『レースやフリルのついていないドレスを着て外を歩く』と言うのはいけない事なのでしょうか?」

一瞬、アスラさんに言われた事が理解できなかったのですが、その手に持つ「例の」本を見て何となく理解しました。



「どうやら、この本に出てくる女性がその事について周りから非難を受けているようなのです。」

アスラさんは不思議な所を疑問に思ってしまったのですね。だから気付いていないのかもしれません。



・・・私の普段着がドレスではないと言う事を。



『ドレス』それは女の子であれば1度は夢見る衣装(らしい)です。

ふわふわのパニエ(鳥かごではありませんよ!)でドレスのスカート部分を膨らませ、レースを重ねフリルとリボンで飾った、夢と希望と野望を詰め込んだ1着(らしい)です。

私が持っているドレスはお義母さんのお眼鏡に適った物なので、私の希望とかけ離れてはいますがとても良い品です。さすが、本場の貴族であるお義母さんです。選ぶ物に間違いありません!




・・・ですが私、アスラさんと結婚をして初めてドレスに手を通したのですよ?




レースもフリルもケイトの所で扱っている商品でしか判断が出来ませんが、貴族のご令嬢さま方は周りに居る方が全ての事をこなしてしまうので、そういった物が付いていても問題無いのでしょう。ですが、平民の普段着にあんな物が付いていたら何も出来ませんよ?

たとえ付いていても、胸元のアクセントだったりですからね?・・・そもそも、ドレスが必要じゃない。



ですが、アスラさんは純粋に疑問なのでしょう。



「・・・そうですね・・・。ドレスにも流行があるようですし・・・、もしかしたら、若いご令嬢にとってはレースやフリルが付いているかどうかは重要なのかも知れませんね。」

絞り出した私の言葉に「なる程・・・。」とアスラさんは相槌をうっています。

平民だった私の周りに「普段着」でドレスを着ているようなヒトはいませんでした。学院に通っていた時に帝都から来ていた貴族のクラスメイトも、普段着はワンピースでしたよ?ドレスは1人では着られませんからね。その子にはお付きのメイドさんがいたのですが、私達に合わせていたのでしょう。


フリルやリボンは安価な物もありますが、レースは高級品です。

レースは「レース職人」と言う専門の方が1枚ずつ織り上げています。

模様の入った生地もそれなりのお値段なのですが、それぞれ使う糸が違うので1枚織り上げるのに掛かる期間が倍以上差が出るようです。前に妹のティアちゃんのお誕生日の贈り物をリボンにしようとして、レース仕様の物を作ろうとしたら制作が間に合わなくて断念した事があります。結局、刺繍をしたリボンを贈りましたが、レース用の糸は私の裁縫箱の中に入ったままとなっています。いつかはリベンジしますよ!



「あっ!アスラさん!そろそろお仕事の準備をしないといけませんよ!大変です!」

ふと見た時計の針がお昼の1刻を過ぎていました。アスラさんは中継ぎの時にはお昼の2刻出勤なので、1刻半にお家を出ています。なので、結構ギリギリの時間です。


私の言葉にアスラさんも焦ったように2階へ上がっていきます。


ハッと気付いたのは、アスラさんのお弁当です。

作る準備はしていたのですが、お弁当の形になっていません。



「フィーナすみません!直ぐに出ます!夜は食堂で食べるので大丈夫です。」

ナゼかソールさんを抱えて降りてきたアスラさんにビックリしましたが、今はアスラさんの様子に流されましょう。・・・ソールさん、どうしてそんなに満足そうなお顔をしているのですか?


「アスラさん、良かったら騎士団の皆さんと食べて下さい!」

そう言って昨日から準備していた焼き菓子をアスラさんに渡します。ご飯は無理でも、デザートは準備できていましたよ!


「あいっ!」

ソールさんは、抱えられている状態から両手を伸ばしてバスケットを受け取ろうとします。



アスラさんを見ると、バスケットを見て固まっています。


「あれ?今日はソールさんも一緒にお仕事ですか?」

「・・・いえ、ソールは連れて行きません。」

アスラさんは私の言葉で現実に戻ってきたようです。


「こちらは・・・?」

ソールさんを下ろしてバスケットを受け取ったアスラさんは、困惑気味に聞いてきます。


「実は、昨日ソールさんと一緒にクッキーを作ったのですが、作りすぎてしまったのです。

どうしようか困ったので、アスラさんの同僚の皆さんにも手伝って貰おうと昨日から準備していたのです!」

「おいしいの!」

アスラさんに下ろされたソールさんは両手を出してクッキーをおねだりしていますが、お家にもまだまだありますから心配しなくても大丈夫ですよ。


昨日、少し残っていたメイの粉をクッキーにしようと思ってクッキーの生地を作ったら、思いの外たくさん出来たので冷蔵庫に仕舞おうと思ったのですが、冷蔵庫には(私の)生クリームが入っていてクッキーの生地を入れる所がなかったので全部焼いたのです。お隣さんにもトマトのお礼に渡したのですが、まだまだ残っていたので苦肉の策で「騎士団の皆さんに配る」と言う案を捻り出したのです。


「食事の時でも良いですし、休憩の時でも良いので皆さんで食べて下さい。」

「そーるも!」

ソールさんが一生懸命アスラさんの持っているバスケットを見ているので「おやつの時に食べましょうね。」とソールさんに言ったら、ソールさんから「あいっ!」と元気なお返事が返ってきました。



そんな私達の様子をアスラさんが見ていましたが、時間は刻一刻と「遅刻」へと進んでいます。



「アスラさん、お仕事、体に気を付けて下さい。」

「がんばって!」

私とソールさんはネコさんに乗って出勤するアスラさんを見送りました。




私はネコさんの可愛らしさを信じています!

大丈夫、門番さん達もその可愛らしさで癒やされているはずですから、少しくらいの遅刻は見逃して貰えるかも知れませんよ!



・・・ダメですかね・・・?
















アスライールは、しっかりと遅刻しました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ