表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/163

49 ざあざあ・・・ 








初めまして皆様。ポーラです。



3月に入り、長雨の季節になりました。


「帝都の騎士団より、ヒース様とリリーナ様保護の連絡が来た!」

リックがそう言って私の住んでいる息子夫婦の家に来た時が、昨日の事のように思い出せます。







・・・あの日、私達が御当主様のご子息ゲイル様と奥様であるローゼ様からお屋敷を出された後、ヒース様とリリーナ様の事が気になって領地に留まっていたのですが、最後まで屋敷に残っていた庭師のジンが慌てた様に私達の所に来て「ヒース様達がヒト買いに売られた!」と伝えに来た時には目の前が真っ暗になりました・・・。



御当主様と奥方様と一緒に、大切に見守ってきたヒース様とリリーナ様。



御当主様が懸念されていた事が本当に起きて・・・。

・・・いいえ、それよりももっと酷い事が起きてしまったのです。



私とリックは、その日の内に領地を出ました。



ジンと解雇された元使用人達も「領地に居て2人の不正の証拠を集める。」と言って見送ってくれたので、私達はヒース様達を探す事にしたのです。



此処から1番近いのは工業都市です。ヒース様達がヒト買いによって領地から連れ出されたのであれば、工業都市に立ち寄る事は無いのかもしれません。ですが、工業都市には兵士団だけでなく、帝国騎士団の詰め所があります。私達は一縷の望みを掛けて、工業都市へ向かいました。




1番冷え込む9月を過ぎて、10月になってもこの西の地はとても寒いのです。この西の地ではまだ雪が降ります。

着の身着のまま連れ出されたお2人が風邪をひいていないかとても心配でしたが、私達が居たワイズロット領から工業都市まで馬車で片道4日の距離です。


リックと私、お互いに無言でしたが、幸いにも馬車は乗る者が少なかったので、気にするヒトはいませんでした。






工業都市に着いて真っ先に帝国騎士団の詰め所に向かったのですが、年の終わりの月という事もあって工業都市の騎士団詰め所はヒトで溢れていました。


そのヒトが溢れている様子に驚きましたが、此処で尻込みしてしまっては全てが間に合わないと私がそう思った時にリックが「ギルドに向かいます。」と言って、来た道を引き返します。

私も付いて行こうとしたのだけれど、丁度騎士団の詰め所入口から出てきた孫に声を掛けられ足を止めたのです。



私の孫はヒース様の補佐官に選ばれていて、この工業都市で勉学中だったのです。



・・・恥ずかしい事にその時の私は酷く興奮状態だった様で、孫に宥められて何とか現状を伝える事が出来たのです。


私の言葉を聞いた孫は驚いていました。

孫はヒース様に仕える為にこの地で勉強をしていたのです。近い将来に自分が仕える予定だった人物が「売られた」だなんて、本来ならば有り得ない事です。


随分前に「こんな田舎には居たくない。」そう言って出て行ったゲイル様の補佐官になる予定だった私の息子は、自身が仕える筈だった方の言葉に落胆していました。その代わりに、旦那様がお孫様に当たるヒース様を引き取り育てている姿を見て、自分の息子を「ヒース様の補佐官に」と旦那様に進言していました。旦那様も快諾していましたが、本当に大丈夫だったのでしょうか?



私の話を聞いて、孫は自身の父に・・・、私の息子に連絡をしてくれました。



孫からの連絡を受けて駆け付けた息子は私を見て驚いていましたが、私にはまだやらなくてはいけない事があります。



ギルドから帰ってきたリックと合流をして、息子の案内で領主館に向かいます。



領主館入口の受付でリックは工業都市の領主様であるトライデント候との面会を求めましたが、年の終わりという事もあって面会は出来ませんでした。その事は私達も覚悟していたので、リックは御当主様が亡くなる前に預かっていた手紙と「領主印」「当主印」を受付の方に渡しました。


リックの徒ならぬその雰囲気と渡された品々に受付の文官は「少々お待ち下さい」と席を立ち、私達はその場で待ちました。



暫くたってトライデント候の補佐官様の元に案内され、事の流れを説明したのです。



今、領地に居るゲイル様はワイズロット領の後継ぎでは無い事、本来の後継ぎであるヒース様がヒト買いに売られた事、一緒に妹君であるリリーナ様も売られている事、領地の現状を領地に居る元使用人達が調べている事・・・。


私達が伝えられる事を、補佐官様に伝えます。




「手紙もワイズロット男爵の物で間違いないようですね。領主印も当主印も本物と確認致しました。領地の方はどうにか出来ますが、後継ぎ殿の方は時間が掛かるかも知れません。

こちらから、騎士団と兵士団の方に捜索の要請を出しましょう。」

補佐官様のお言葉に希望が出て来ました。



「・・・お2人が無事に見つかる事を祈ります。」

補佐官様はそう言って退席したのです。




その言葉を聞いた時、私達は「最悪」の場合が待ち受けている事に気付いてしまいました。






それからは、朝起きる時に「今日こそお2人が見つかりますように」と祈り、夜に眠る時は「明日こそ、お2人が見つかりますように」と祈って目を閉じていました。






今年は、酷く寒い年明けを迎えました。


年が明けて、ワイズロット領の不正や横領が明るみに出て、領地を荒らしていた「貴族崩れ」が捕まった事を息子から聞きました。近くの宿に泊まっているリックにその事を伝えに行ったのですが、リックは既に知っていました。






私達は幼かったゲイル様を知っています。


ゲイル様のお心は、幼い時には領地に有ったと思います。学園に行くようになってから領地から離れて行き、学院を卒業した時には帝都に向かっていました。


学園でお会いしたローザ様と心を通わせたゲイル様は、学院を卒業する前に御当主様に連絡の無いまま御結婚してしまいました。そこまでは御当主様も奥方様も冷静でいらっしゃいました。



その後、学院をご卒業して領地に帰ってくるのをご当主様と私共はお待ちしていました。



しかし、待てども待てどもゲイル様がお戻りになる気配は無く、奥方様がこちらから送った手紙には返信もありませんでした。

御当主様は気落ちした様に「あ奴に期待した私が愚かだった・・・。」と呟いていたのが記憶から離れません。

奥方様も「旦那様に申し訳が付かない・・・。」と塞ぐようになったのです。御当主様の奥方様はお身体が弱く、お2人のお子様はゲイル様お1人だったのです。




そんな中で、ある日突然ゲイル様が帰って来たのです。


その足元に小さな子供が居た事に驚きましたが、何よりもゲイル様の帰宅です。私達は「ようやくお帰りに!」と安堵したのですが、ゲイル様は直ぐに居なくなってしまいました。


屋敷に置いて行かれた子供はゲイル様の御子息だと判明し、ゲイル様が「廃嫡」となりその御子息が「後継ぎ」となったのです。



お後継ぎ様のお名前はヒース様。


始めの頃のヒース様は、何に対しても反応がありませんでした。奥方様が傍に付いて、話しかけても上の空でしたから、私が最後にお会いした時からは想像も付きません。



ヒース様が御当主様と一緒に領地を見回りに出たり、奥方様との生活で表情を変えるようになってからの日々はとても明るいものでした。ヒース様を引き取って4年後に妹君のリリーナ様もお屋敷に引き取られ、幼かったリリーナ様は御当主様や奥方様に大層可愛がられ、離れた工業都市に住んでいたヒース様までも虜にしてしまったのです。


もちろん私達使用人一同も、ヒース様とリリーナ様がソファーに仲良く並んで居る姿を見るのが好きでした。


ゲイル様と違い、この地を大切に思っているヒース様は御当主様自慢の後継ぎでしたから、御当主様ご自身に何かあった時の為にリックに手紙を渡していたのでしょう。




投獄されたゲイル様達がどういった刑罰を受けるのかは、私達には分かりません。

ワイズロット領のお屋敷を調べても、ヒース様達への手掛かりは何一つ見つからなかったようです。





1月がただただ過ぎて、2月に入った時には私達に「諦め」が出てきていました。



リックも私も心のどこかで「もしかして・・・」と思っていたのかもしれません。「身元不明の死体が・・・」と聞けば確認に行き、違う人物だった事に安堵のするのです。



2月に入り、周りが「新緑祭」で浮かれている事もあってか、私は領地に戻る事を考え始めていました。私は息子家族にも負担を掛けていたのでリックに相談したところ、リックも同じように考えていたようです。



息子夫婦には「3月に領地に戻る」と伝えましたが、一生懸命ヒース様達を探している孫には伝える事が出来ませんでした。





工業都市滞在も残りわずかとなった時に、リックが年甲斐も無く興奮した様に「ヒース様とリリーナ様が保護された!」と私の所に来て時は本当に驚きました。



ヒース様とリリーナ様は帝都の貴族の所に居たようで、ヒース様はお怪我をしているけれど御無事だと聞いて体から力が抜けてしまいました。かろうじて立っている事は出来ましたが、リックの言っている事がずっと遠くで聞こえるのです。


息子夫婦もリックと一緒になって喜んでいます。


この場に居ない孫に「連絡しなきゃ!」と息子の妻が言って扉の向こうに消えて行き、息子とリックは迎えに行く手続きをする為に騎士団の詰め所に向かいました。



「よかった・・・。」

私の目からは涙が止まりません。何時の間にか戻っていた息子の妻も同じように涙を流していました。








ヒース様達が工業都市に到着予定の今日は雨が降っているけれど、私達には「喜びの雨」の様な気がしてなりません。


息子達も「今日はお祝いだ!」と言って朝からお迎えの準備をしています。

ワイズロット領に居る皆にも「ヒース様達が見つかった!」と簡素すぎるけれど、間違いのない確かな手紙を出しました。今、ワイズロット領は帝国の管理下に置かれています。


私が出した手紙の返信によると、「元」使用人仲間達は以前と同じようにお屋敷で働いているようです。



このような事があったので、ヒース様がワイズロット領を継いでくれるのか?



皆はとても心配していましたが、馬車から下りて杖を付いているヒース様は私を見て笑っています。


ヒース様がワイズロット領を引き継ぐのは、まだ先のお話です。ヒース様とリリーナ様、お2人が元気に手を振ってくれているので、私達はもう少し、ゆったりと過ごしたいと思います。




この雨はきっと、恵みの雨なんですよ。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ