46 あめあめ・・・ 1ページ目
皆さんこんにちは。
今日は朝から雨が降っています。
早い物で、今日で2月も終わりです。何だか、怒涛の一月だった気がします。
先日帝都を発った、ヒースさん達は大丈夫でしょうか?
ヒースさん達は、リックさんがお迎えに来た時にお家にあいさつに来ました。
リックさんはヒースさん達が元々住んでいた所の「使用人」と言っていましたが、言葉や態度がとても丁寧なので上の立場の方だったのでは無いのでしょうか?
ヒースさん達は今までのお名前をそのまま名乗れるそうですが、爵位は取り消されているようでお屋敷は差し押さえられているようです。
ただ、ヒースさん達は未成年です。
「爵位取り消し」も本来の跡継ぎでは無い方がその権力を使った事によって行われた様なので、本来の跡継ぎであるヒースさんが成人をして「爵位申請」があれば、爵位を賜る事が出来るそうです。
領地の方は帝国から派遣された官僚の方が治めているみたいで、ヒースさんの希望があれば領地の様子を教えて貰えるようです。
リックさんがヒースさん達に対して「捜索願」を出したのが工業都市のギルドなので、ギルドに依頼完了の書類を出す為に工業都市に戻ったのが一昨日でした。
出発の日は、馬車乗り場までアスラさんとソールさんと一緒にお見送りに行きました。その時に、日持ちのする食べ物を渡したのですが、多分、中には見慣れない物もあるはずです。道中を楽しめるように入れてみました!
「おかしゃん、きましたよ~。」
ソールさんが来客を教えてくれます。こんな天気ですが、どなたでしょう?
玄関を開けて入り口を見ると、そこにはリープさんと一緒にリンカーラさんが居ました。
「急に来てしまってすまない。」
そう言って外套を脱いだリンカーラさんは、先日お会いした時のドレス姿ではありませんでした。本日のリンカーラさんは、騎士の隊服の様な格好をしていて「男装の麗人」と言う言葉がピッタリです。
リープさんが可愛らしいお姫様で、リンカーラさんがそのお付きの護衛の様な雰囲気です。凛々しいリンカーラさんのお姿は、夢見る娘さんであれば恋が芽生えてしまいそうです。
「こんにちは、ですの!」
リンカーラさんの足元にいらっしゃるリープさんが元気な挨拶をしてくれます。
「こんにちは。いらっしゃい。」
そう言ってお茶の準備をします。
朝、アスラさんが暖炉に火を入れてくれたので、室内は暖かくなっています。
リンカーラさんとリープさんの来ていた外套が乾くように、暖炉近くの外套掛けに掛けます。
「今日はアスライールは仕事なのかい?」
ソファーに座って一息吐いたリンカーラさんが尋ねて来ました。
リープさんはソールさんと一緒にソファーに座っています。
「そうなのです。アスラさんは今日は少し遅めの帰宅予定なのですが、何か御用でしたか?」
今日は遅めの出勤だったので、帰りも遅くなるようです。「先に休んでいても大丈夫です。」と言って頂けたのですが、日にちが変わるくらいまでは待っていようと思います。
来月からは以前までと同じように、お休みを挟んで「早出」「中継ぎ」「遅出」の出勤となるようです。
なので、今日の夕食はソールさんと2人です。
「そうか、リープが城に居た時に世話になっていたから礼を言いに来たのだが・・・。」
リンカーラさんは少し残念そうにカップを覗き込みました。
「リンカーラさんとリープさんは、今日は歩いて来たのですか?」
この雨の中歩いて来たのであれば、大変だったと思います。
「いや、ココまでは馬車出来たし、帰りは呼べば迎えに来るから気にしないで欲しい。」
リープさんとソールさんを見ながらリンカーラさんが答えます。
私達の視線の先に居るリープさんとソールさんですが、ソールさんの為(と称して自分の為に作った)巨大クッションで遊び始めています。
クッションの中には、アスラさんとソールさんの手によって無残な姿となったタオルや、着れなくなってしまった服を裁断して綿と一緒に入れました。コレがとても良い具合となっているので「1度座ったら立ち上がりたく無くなる」と言う効果が(私限定で)発揮されています。
大きめのクッションなので、ソールさんとリープさんお2人が乗っても余裕があります。
お2人のいる「ゴロ寝スペース」付近には、簡単なおもちゃと絵本を置いているので、ほぼソールさん専用の場所となっています。私はソールさんに絵本を読んだり、お話をしたりする時に「ゴロ寝スペース」に足を踏み入れますが、アスラさんは滅多に「ゴロ寝スペース」には近付きません。
「靴を脱ぐ」事はこの世界では結構普通です。・・・帝国だけなのかな?
帝国では外用の靴と室内用の靴があって、場所によっては靴を脱ぐ事も抵抗がありません。・・・まぁ、家族以外といる時には脱ぎませんが・・・。
ヴァレンタ家のお屋敷でも、私が使っていたお部屋では「室内用」の靴でしたからね。
貴族さまの外履きの靴は、素材が少し硬い物になり装飾が付きます。反対に、室内用の靴は柔らかく動きやすい物に変わるので、私はお家に居る時には室内用の靴を履いています。外に出る時には外用の靴に履き替えているので、アスラさんからは特に何も言われていません。・・・大丈夫ですよね?
「それに、フィーネリオン嬢にも世話になったと聞いたから、その礼も兼ねて来たんだ。」
リンカーラさんは「ありがとう」と、そう言って頭を下げます。
「そんな!気にしないで下さい。」
私はそう言いましたが、リンカーラさんは「そうはいかない」と言います。
「リープが城に送還されたのは『キールに怪我をさせたから』なんだ。
これは私に対して行えた事が他のヒトに対しては『出来ない』事を、リープが『理解出来ていなかった』事に気付いていなかった私の落ち度なんだ。
結果、キールは怪我をしてリープは城に送還された。
リープが送還された時に一緒に付いて行けば良かったのだろうが、奥宮殿への入場手続きに手間取ってしまってアスライールに任せてしまったんだ。」
リンカーラさんはそう言って「だから、会いに行ってくれて本当にありがとう」と言葉を続けます。
先日、ローラントさんにも同じように言われました。奥宮殿は皇族の皆さんの生活の場ですから、一般のヒトはおろか貴族であっても「立ち入り」の申請が必要となります。アスラさんは「騎士」ですから、ある程度申請して置けば奥宮殿に入れますからね。
「そんな、私もソールさんを迎えに行った時にリープさん達に気付いたのです。私もリンカーラさんと同じで、最後の日まではアスラさんにお任せ状態だったので、私はそこまでの事をしていませんよ?
・・・そうです!リンカーラさん、お腹空いていませんか?」
私は「ちょっと的外れかな?」と思いながらリンカーラさんに声を掛けます。
リンカーラさんも驚いたように私を見ています。
「こんな雨の日にせっかく来て頂いたのです、黄色ベリーアのパイを焼いていたのでどうですか?」
サクランボの様な「黄色ベリーア」ですが、昨日お買い物に行ったらお野菜を買っているお店で見つけたのです。籠にたくさん入っていたので、迷わず買ってしまいました。
今日はサクランボのジャムと、ビーエの蜜の瓶詰めを作っていたのです。そして、ソールさんのおやつ用に「サクランボのパイ」を作ってみました。
「ぱい・・・?」
リンカーラさんは不思議そうに私を見ています。
「ソールさん、リープさん。お茶にしましょう?」
私がそう言うと、ソールさんはパッとこちらを見て「あいっ!」と返事をします。
私たちがソファーの所に居たので、ソールさんとリープさんが下に座って食べれるように、マットを敷いてクッションを置きます。そして、お2人が座ったのを確認したら、パイを切り分けます。
「ほわ~~。」
リープさんは目の前に出されたパイを見て、不思議な声を出します。
ソールさんはニコニコしながら「いただきましゅ。」と言って食べ始めます。
「これは凄いな。」
サクランボのパイを一口食べたリンカーラさんもそう言ってくれます。
・・・実は、「ベリーア」の実は「赤」色の物が一般的です。
「黄色」「青」のベリーアはなかなか出回りません。商業都市では意識してお店を回れば見つける事が出来ますが、今の時期には「ピック」の方が出回っています。ライチの様なピックは甘さが強いのですが、冷やして食べるととても美味しいです。
前世の時のサクランボと大きく見た目が違うので、確信が持てるまでに時間が掛かりました。ただ、ベリーアの実は全部お菓子に加工できるので、とてもお手軽な果物です。
「おいしいでしゅの~。」
リープさんは一口食べて、幸せそうにそう言っています。
ソールさんは一生懸命頬張っています。そんなに焦らなくても、パイは逃げていきませんよ?
「アメリア嬢に聞いてはいたが・・・、美味しかった。果物をこういった形で食べるのは初めてだが、どこで覚えたんだ?」
リンカーラさんは、パイを食べ終わって一息ついた頃に聞いて来た。
前世の私が教えてくれるのですよ。
そんな事は言えません。
「家族が多かったので、イロイロ考えて作り始めたのです。」
無難な所はコレでしょうか?
「そうだったのか。・・・アスライールは、フィーネリオン嬢と一緒になれて良かったのだろうな。」
リンカーラさんはソールさんを見てそう言います。
???
「リンカーラさんは、違うのですか?」
私の口!!!
私の素直すぎるお口を怒りたくなります。
リープさんがリンカーラさんを驚いたように見ます。
「私かい?
・・・私は、・・・・どうなのだろう?」
リンカーラさんからは、さっきまでの様子とは違って少し弱い返事が帰って来ました。
・・・・えっ!?どうしたのですか!