45 わかくさの・・・ 2ページ目
ヒースさんとリリーナさん。
お2人は緊張しているのか、あまりお話をしてくれません。
ネコさんとソールさんの(暑苦しい)モフリあいは、見ているだけで熱くなりそうです。
今回「のんびり&まったり」をスローガンに公園に来たのですが、ヒースさんは足を怪我していますし・・・。女の子であるリリーナさんと公園を駆け回るのも憚れます・・・。
・・・もしかして、失敗でしたか?
太陽はまだ登り切っていませんから、お昼御飯も早いですよね・・・。
「ふにゃっ!」
ソールさんのそんな声に思わず笑ってしまいましたが、ソールさんの姿が見えません。
あれれ?さっきまでネコさんとモフリあいをしていましたよね?
そう思って確認しようと思ったら、立ち上がったアスラさんがネコさんの反対側に「落ちていた」ソールさんを抱えて戻って来ました。
「ふふふっ・・・。」
リリーナさんが声を抑えて笑います。ヒースさん、お顔を下げていても肩が震えているので笑うのを堪えているのは失敗していますよ?
「ふふふっ。ソールさん、大丈夫ですか?」
そんなお2人の様子を見て、私も笑ってしまいます。
「そーるね、ねこにのぼったの!」
転がり落ちた時に付いたのでしょう。ソールさんはアスラさんに葉っぱを落として貰っています。
「すぐに反対側に転がり落ちてしまいましたけれどね。」
アスラさんはそう言っていますが、ソールさんはネコさんと戯れているのが楽しいのでしょう。
またネコさんの方に向かって行こうとしたので、水分補給をして貰う為にコップを渡します。
・・・精霊さまって、脱水症状になるのでしょうか?
ポットに冷たいお茶を入れて来たので、ソールさんの持っているコップにお茶を注ぎます。
ソールさんはゴクゴクとお茶を飲んでいますが、現在アスラさんに捕まっている状態なので不思議な光景となっています。
ヒースさん達にも「水分補給はしましょうね。」と言ってあるので、本当に各自が自由な状況です。
「ネコさんは、お水を口にしないで大丈夫でしょうか?」
少し心配になってきたので、アスラさんに聞いてみたら「出かける前に口にしていますから大丈夫ですよ。」と返って来たので、ちょっと様子見です。
それからヒースさんとリリーナさんとも少しずつお話するようになって、お昼となりました。
皆さんにおしぼりを渡して、お弁当を広げます。
今日は外で食べるので、なるべく食べやすい物を選んでみました。
ヒースさん達はご飯を口にした事が無いはずなので、おにぎりは少なめのサンドイッチ多めです。
パンが無理そうならばと蒸しパンも作ってみたのですが、どうでしょう?
その他に、唐揚げや卵焼き、ウインナーやポテトフライ。キュウリをお酢で漬けた物・・・。
それなりに数は作って来たはずです!
「さぁ!食べましょう!」
私がそう言うと、ソールさんは真っ先に「きゅうりの酢漬け」に手を伸ばします。ソールさんのリクエストでしたからね。
ヒースさんとリリーナさんは戸惑ったようにお弁当を見ています。
つい最近もこんな風景を見ましたが、何だか楽しいですね。
そんなお2人に「手で持って食べて下さい」と伝えると、驚いていました。
取り皿を配ってあるので「おかず類は好きな物を取って下さいね」と続けて言ったら、益々驚いていました。
・・・そうですよね。貴族でしたら、一品ずつ取り分けて貰うのが普通なのでしょうね?
私の向かい側に座っているアスラさんが「貴族」の基準となっているので、その辺が良く分かりません。
お2人は、恐る恐ると言った感じでサンドイッチを食べていますが・・・。
「お口に合いますか?食べられそうですか?」
つい、聞いてしまいました。
「はい。初めてこうやって食べましたが、とても美味しいです。」
ヒースさんはハムのサンドイッチで玉ねぎとマヨネーズが使われています。こちらでは玉ねぎを「チョイ」と言います。リリーナさんは卵のサンドイッチを選んでいました。
「おいしいです。」
そう言ってお2人がご飯を食べてくれるので、良かったです。
・・・ところで、精霊さまって食べてはいけない物とか有るのでしょうか?
今更なのですが、ソールさんは食欲旺盛です。アスラさんも良く食べるのですが、ソールさんの食事量は私が不安になるくらいです。弟のスバル君が小さかった時はもう少し控えめの食事量だったので気になる所です。
そして驚いた事に、最近のソールさんはキュウリの酢漬けを好んで食べます。最初はアスラさんが外で活動する時もあるので、日差しが強いとお弁当が傷むのを防ぐためにと作ったのです。「暑くなってきたから、お酢を使った料理を・・・!」と思って気楽に作った物だったのですがソールさんはとても気に入ったようです。
まさかキュウリを調味料と合わせたお酢で漬けて、その「味見」をした時にここまで気に行って貰えるとは思いませんでした。アスラさんも気に入ってしまった為に、急遽お店で「ハンの種ってありますか?」と聞く事になったのは懐かしいお話です。今は順調に育っているので、来月にはシッカリと実が出来るのではないでしょうか?収穫が楽しみです!
ポリポリと、手に持ったキュウリを齧っているアスラさんの姿はシュールに見えます。
・・・いえ。「美味しいです」と言ってくれるので良いのですが、イケメンさんとしてはどうなのでしょう?その隣でソールさんもキュウリをポリポリと食べているので、何だか面白くなってきます。
「?」とアスラさんが私を見ますが、私は「楽しいですね。」と言います。
アスラさんも「えぇ。」と言ってくれますが、私が笑っている「理由」とアスラさんの解釈は大分違うと思います。私から訂正はしませんので、そのまま「綺麗な」解釈のままでいて下さい。
食後に「ピック」と言うライチに似た果物を食べようと思っていたのですが、思いの外お腹がいっぱいになったので「もう少し経ってから食べましょう」となりました。
ご飯を食べ終わると、日差しも暖かいのでソールさんは眠たそうです。
ネコさんは木陰でお休み中なので「ソッとしておきましょう」と言ったら、ソールさんは自分もお昼寝する事に決めた様です。
「・・・こんな風に過ごす事がまた出来るなんて、夢のようです。」
ヒースさんがポツリと言います。
「はい・・・」
リリーナさんも頷きます。
「ヒースさん、リリーナさん・・・。」
私は何も言えませんでした。私がヒースさんと同じくらいの時には、商業都市のお家で家族と一緒に暮らしていました。お父さんとお母さんは、私達兄妹を等しく可愛がってくれていました。
従業員の皆さんもいましたから、本当にたくさんの方達に見守られていたと思います。小さかった私達の仕事はお店の「お手伝い」程度です、ヒースさんの様に朝からの「労働」はありませんでした。もしかしたら、見えない所ではこういった事が「普通」なのかもしれません。
「確かに、今回のヒース達の事は私達も把握出来ていなかった事案でした。その事については、何と言えば良いのか「いえっ!違うのです!私は、こうして妹と一緒に入れる事に感謝しているのです。お2人には本当に感謝しています!」
ヒースさんはアスラさんの言葉を聞いて言葉を遮ります。
「私達はまだ良い方だったのです。私達よりも先にあの屋敷に連れて来られたヒトの中には、もっとひどい扱いを受けていたヒトもいたそうです。私が治療を受けている時に聞いてしまいました。
・・・私は、その事を知っていましたが、それを見ない様にしていました・・・。」
ヒースさんはそう言いながら俯いてしまいます。
「お兄さま・・・。」
リリーナさんがヒースさんの傍に寄り添います。
「ヒースさん、リリーナさん。それは、仕方のない事です。」
私のこの言葉に、ヒースさんが驚いたようにお顔を上げます。
「ヒースさん、ヒースさんはまだ『子供』です。体格の違う『大人』に、しかも相手の方は簡易的にとはいえ、武装していたと聞きました。それならば、なおさら敵う筈がありません。むしろ、ヒースさんが無事でいたから、新緑祭の時にアスラさんに声を掛ける事が出来たのです。
ヒースさんが助けを呼ぶ事が出来たのですから、他の皆さん・・・、お屋敷に囚われていた方が助かったのです。
なので、ヒースさんは皆さんの『ヒーロー』なのですよ?」
私がそう言うとヒースさんはお顔を歪めて泣いてしまいました。
「・・・そうです。相手に無闇に立ち向かう事はありません。
自分の出来る事をして『生きて』助かる事が前提で無いと、せっかく助かっても悲しむ方が出ます。」
アスラさんの言葉にヒースさんはハッとしたように、隣に居るリリーナさんを見ます。
「お兄さまが・・・。お兄さまが居なくなったら、わたしは1人ぼっちになってしまいます・・・。
わたしを置いて行かないで下さい・・・!」
リリーナさんがヒースさんに抱き付いてそう言います。
お屋敷から助け出されて、ほぼ2日意識が戻らなかったヒースさんの傍に居たリリーナさんの不安は大きかったと思います。傍を離れたら居なくなってしまうのではないかと、手を繋いでずっとそばに居たのですから。
ヒースさんもリリーナさんに「ごめん!」と言って泣いています。
・・・・公園の外れで良かったと思うべきか、周りに居る方達から気にした様子は見られません。
一頻り泣いたお2人はスッキリしたようです。
「・・・すみませんでした。」
ヒースさんがそう言います。リリーナさんも恥ずかしそうにしています。
泣いて目元が腫れているので、アスラさんにお願いしておしぼりを冷やして貰いました。アスラさんの魔法は本当に優秀ですね。ライチもひんやりと冷えて食べ頃でしょう。
ソールさんはお2人が泣いている時に目が覚めていて、良く分からない様子でしたが私の膝の上に乗って来たのでそのままです。・・・・熱くなんて、ありませんよ!
ライチの皮を剥くのにソールさんに膝の上から下りて貰おうとしたのですが、今までには無い感じに「あれ?」と思っておでこに手を当てると・・・。
あっつい!
ソールさんのおでこはビックリするくらい熱くなっていたので、思わずお弁当を入れてきたバスケットの底に入れていた氷を取り出してソールさんに持たせます。
「ちゅめたい」
ソールさんは、そう言ってウットリと氷を抱えています。
「ど・・・どうしましょう?」
私はアタフタとアスラさんに聞きます。
そんな私を気遣ってか、アスラさんは「大丈夫です」と言ってソールさんのおでこを触ります。
「どうやら、はしゃぎ過ぎてしまっただけの様です。」
「いえいえ、それだけでココまで熱が出るなんて・・・。」
私はそう言いますが、アスラさんは気にした風も無く言います。
「・・・ソールが、こういった感じに出掛ける事は『初めて』だと思います。なので、今日は楽しくて仕方が無いのでしょう。・・・今日のソールは、はしゃぎ過ぎです。」
ソールさんを見て、アスラさんは冷静にそう言います。
・・・初めて、ですか。
ハッとした様に私は、アスラさんとソールさんを見ます。
「アスラさん、ソールさんとお2人で暮らしていた時の休日って、何をしていたのですか?」
思わずアスラさんに聞いてしまいました。
「・・・そうですね、「あっ!今は答えないで下さい!お家に帰ったら聞きますよ。今言ってしまったら、ヒースさんとリリーナさんの『素敵なアスラさん』像が壊れてしまいます!大変!」
答えようとしたアスラさんの言葉を、とっさに遮ります。お2人の中では「素敵な」アスラさんのままで居て欲しいですからね!
「あははっ・・・。す、すみま・・・ははっ!」
「ふふふっ。」
ヒースさんとリリーナさんが声を出して笑います。
お2人の楽しそうなその様子からは、朝の憂鬱とした様子は見られません。
私も、アスラさんと顔を合わせて一緒に笑います。そんな様子に、熱さが落ち着いてきたソールさんも笑います。木陰で休んでいたネコさんも傍に寄って来ました。
結局、帰るまでにライチは食べれなかったので、ヒースさんとリリーナさんにそれぞれ1個ずつ渡して騎士団で別れました。
朝よりもスッキリしたお顔の2人は「お世話になりました」と言って私達と別れ、建物の中に入って行きます。
夜は、アスラさんの「休日の過ごし方」についての話を聞いたのですが、どうしてお休みの日に騎士団に行っているのですか!「お休みの日に職場に行っても、周りが困惑してしまうだけですよ!」と言ったら、ハッとした様に「そうだったのですね。道理で驚いたように声を掛けられるな、と思っていたのです。」と返って来たので、それに私が驚いたのは間違いでは無いはずです。
お休みは、シッカリと休みましょうね?アスラさん。




