41 おまつりは・・・ 3ページ目
前回の続きです。
魔石越しでお義母さんに「帝都で『白い木』、もしくは『白いお花が咲く大きな木』の植えられているお屋敷を知っていますか?」って聞いてみたのですが、あまりに多くて困ってしまいました。
「何かありましたの?」
と心配されてしまいましたが、この内容を言っていいのか私には判断が付きません。
「ちょっと・・・。あの・・・。」
と歯切れが悪くなってしまいましたが、大雑把に「犯罪の予感が・・・。」とお義母さんに伝えたら「少し待っているのよ!」と通信が切れました。
「大丈夫ですか?」
アメリアさんが心配そうに私を見ていました。そのお隣のステイさんも、私の隣に座っているソールさんも私を見ています。
「お義母さんが『待っていて』と言うので待っていようと思います。」
どう頑張っても、帝都に住んでいる期間が2ヶ月の私には解らない事の方が多いのです。
「ここで悩んでも仕方がありません!アメリアさん、一緒に食事の準備をしませんか?」
お腹が空いてはナントヤラ・・・ですよ!
「・・・食事の、・・・準備ですか・・・?」
アメリアさんは不思議そうに聞き返してきます。
「ローラントさんはアスラさんと一緒に出ているので、一緒では無くてもこちらに寄ってから帰ると思うのです。それならば、アメリアさんもここで待っていた方が良いですよね?その時にお腹が空いているかも知れないので、ご飯を食べれる様に準備しましょう!」
ドーンと私がそう言うと、アメリアさんも最初は微妙な表情をしていましたが、何か納得出来たのか「そうですね。」と言ってくれました。
ソールさんとステイさんは「???」状態ですが、「ご飯を作る」事は理解出来たようです。
アスラさん達が帰って来た時に、夜ご飯が有るか無いかは結構重要だと思っています。ローラントさんがここでご飯を食べるか食べないかは、取りあえず置いておきましょう。
「・・・コレはメイの実ですよね?フィーナさんは自分で粉に挽いているの?大変じゃない?」
アメリアさんはメイの実を知っていたようです。
「メイの実を炊いてご飯にするのですよ?」
私がそう言うと、アメリアさんは一拍置いて「えぇっ!」と驚いていました。
「メイの実をそのまま食べるなんてビックリです!初めて聞きましたよ!?」
アメリアさんの様子にステイさんも私の傍に寄って来ます。
ソールさんは・・・・・。
そっと後ろを見てみると、台所手前からこちらを見ています。・・・かわいい。
私が台所で怪我をしたので、ソールさんなりの「線引き」みたいです。
刃物を持っていないので大丈夫だと思うのですが、火を使っている時も危ないので暫くはこの距離で見ていて貰うのが「安全」なのかも知れません。
お水を飲みたい時は、声を掛けて貰えれば私やアスラさんが対応できるので問題はありませんしね。
窓の外は日も落ちてきて夜を迎えようとしています。
ご飯を炊いている時にお義母さんから連絡が入ったのですが、お義母さんの情報網が気になるくらいの事が出てきました。
とある貴族のお屋敷に変わった木が植えられている事。
本人家族とは違った人物の出入りが多い事。
それほど高くない身分であるのに、羽振りが良い事。
周辺の浮浪児が居なくなった事。
孤児院に里親の紹介をしている事。
・・・・などなど。
たくさん出てくる怪しさ満載の情報に、アメリアさんが息をのんでいました。
お義母さんから「今日はこちらに帰って来てはどうかしら?」と言って頂きましたが、お義兄さん達もいますしイレイズさんがいらっしゃったら大変です。それに、今日はアメリアさんとステイさんもいます。お義母さんにはその事を伝えて、遠慮させて頂きました。
取りあえず、お義母さんが総合的に「怪しい」と思ったお屋敷は2軒でした。
両方とも「男爵」の地位にいらっしゃるので、それなりの身分があります。貴族の所に兵士団は踏み込めませんし、ただ「怪しい」だけでは騎士団は動けません。それで、今まで放置されていたようです。
私は諸事情によりソールさんの魔石からアスラさんに連絡をしました。理由を聞いてアスラさんは驚いていましたが、アスラさん達騎士団の方でも似たようなお屋敷が候補に出ていたようです。
ローラントさんも冒険者ギルドで情報を集めたみたいで、騎士団と冒険者といった変わった組み合わせでの捜査になっています。
アスラさんからは「今日は帰りが遅くなりそうなので、先に休んでいて下さい。」と言われました。
アメリアさんもローラントさんから連絡を受けていて、今日はこちらにお泊りです。
「ふふっ。少し焦げてしまいましたね。」
ご飯が炊き上がる頃にお義母さんやアスラさんと連絡を取っていたので、ご飯は少し焦げていました。
ですが、炊き上がったご飯はとても美味しそうです。
「メイの実をこんな風に使うなんて初めて見ました!」
アメリアさんがそう言ってお鍋を覗き込んでいます。ステイさんとソールさんはゴロ寝スペースで絵本を読んでいましたが、興味を持ったのかこちらに来ました。
「『ちらし寿司』を作りましょう!」私はそう言ってご飯をお鍋から出します。
・・・はいっ!皆さんポカーンとしています。ソールさん、ご飯はまだ食べてはいけませんよ!
「『ちらしずし』とは・・・?」
アメリアさんが「???」と疑問符を浮かべて聞いてきます。
「このメイの実を炊いたご飯を使って作ります。ご飯が炊けたら、後は具材を混ぜるだけなので簡単ですよ?」
調味料の「お酢」と「お塩」「お砂糖」を分量を量って混ぜていきます。そうしたら、ご飯と混ぜるのに「ヘラ」と「扇子」を準備します。
「アメリアさん、このご飯を『切る』様に、こう、混ぜて下さい。」
始めは私が実演をします。ステイさんとソールさんには扇子で扇いで貰えるので、混ぜる事に集中できますね!アメリアさんも最初こそ戸惑っていましたが、コツを掴んでからはシッカリと混ぜています。
その間、卵を薄く焼いた物と、そぼろ状に炒めたお肉を作ります。
もっと時間があったなら具材も揃えられのですが、そうもいきません。「ハン」というキュウリの様な野菜を千切りにして、冷めた卵焼きも細く切ります。ご飯を乗せるお皿も準備します。
「こんな感じで大丈夫ですか?」
材料を持ってテーブルに行くと、アメリアさんがステイさんとソールさんと一緒に待っていてくれました。
「はい。ありがとうございます。・・・そうです!少し変わった感じにして食べましょう!」
少し小さなミルクパンを持ってきます。
アメリアさんは「えっ!」っといった感じにミルクパンを見ていますが、これしか代用品が思い付かなかったので許して下さい。
少し余っていた「すし酢」をミルクパンの中に居れます。ストンとしたミルクパンなのでシッカリ詰めたら大丈夫だろうと思います。・・・成功を祈ります。
「最初にハンと卵を薄く入れます。アメリアさん、ご飯をこの辺くらいまで平らに入れて下さい。」
「は、はい!」
アメリアさんが戸惑いながら、平らに5センチくらいご飯を入れます。
「そうしたらステイさん、このお肉を白い所が見えないようにかけて下さい。」
「はい。」
ステイさんはスプーンでシッカリとそぼろを敷き詰めていきます。
「ソールさんはその上にこの卵を乗せましょう。」
「あいっ。」
おしぼりで手をしっかりと拭いたソールさんが卵を乗せていきます。
「アメリアさん、もう一度先程と同じ様に残っているご飯を詰めて下さい。」
「はい。」
今度は慣れた様にご飯を詰めていきます。同じようにもう1度繰り返します。
「はい。そうしたら、ぎゅ~っ!とご飯を圧します。」
押し蓋が無いので丈夫そうなお皿でご飯を圧します。
「そうしたら少し待ちましょう。」
「まつの?」
「待つんですか?」
「まつっ!」
アメリアさんと一緒に使った物の片付けをしていた時に、ふと外を見ます。外はすっかり暗くなっていて、空には月が出ています。
お祭り期間中だからでしょうか、外を歩いているヒト達も楽しそうです。
お昼に買ったカイナを温めなおしてお皿に移します。ソースとマヨネーズは必要ですか?私は必要ですよ!冷蔵庫から出しましょう。飲み物は紅茶をポットに作っているのでそちらで大丈夫でしょうか?義実家から頂いた果物もあるのでそちらも出しましょう。
「『ちらしずし』美味しかったです!今度、私も作ってみようと思います。」
アメリアさんが夕食の片付けをしている時にそう言ってくれました。
アメリアさんとステイさんの「初ご飯」でしたが、気に入って貰えて嬉しいです。ソールさんもご飯は何回も食べていますが、今回の「寿司ご飯」はとても気に入ったようです。
今回の「ちらし寿司」は押し寿司の様に作ったので、1人1人の分を包丁で切り分けて食べたのですがそれも楽しかったようです。屋台で買って来た食べ物もあったので、6等分に切って余った分は冷蔵庫に入っています。
食後にゆっくりして、お風呂ですね。
「あっ。アメリアさん、着替えは私の物になりますが大丈夫ですか?ステイさんの着替えはソールさんので代用しようと思うのですが「えっ!」・・・?」
あれ?アメリアさんが固まっています。私の服はお嫌ですか・・・?
「・・・ちょ・・・、ちょっと、待って下さい。・・・えっと、失礼します。」
そう言ってアメリアさんはおもむろに私のウエストを・・・
ぴにゃ~~!アメリアさんは私のウエストをおもむろに触っています!私のお腹は今日までリミット解除中なので、大変危険な状態です!アメリアさん!落ち着いて下さい!このお腹は間違いなのです!明日にはダイエットを再開するので許して下さい!
「・・・。」
アメリアさんが無言の状態が続いていますが、私は羞恥心でどうにかなりそうです・・・・。
「そーるも!」
いつの間にか傍に来ていたソールさんとステイさんに驚きましたが、ソールさんお腹を差し出さないで下さい。
・・・大丈夫ですよ。ステイさんには新しい寝間着を出しますからね。
アメリアさん・・・、横着した私がいけなかったのです。確かクロゼットに新しい寝間着が入っていたはずです。そちらを献上いたしますので、この状態から脱出したいです。
「・・・すみません。『着替え』と言われて服の方かと思ってしまって・・・。」
アメリアさんが気まずそうに寝間着を受け取ります。
いいえ、大丈夫ですよ。私の気の緩みが全ての原因なのです。
私の使っているベットは広いベットなのでアメリアさんと一緒に眠っても問題ありませんでした。
ステイさんはソールさんと一緒に眠ってしまったので、その様子を見てアメリアさんと一緒に「可愛い」とベットの中で会話をしながら夜を過ごしました。
新緑祭は後2日。帝都はお祭り気分のヒト達や、そうでないヒト達で溢れています。
あの少年が妹さんと一緒に無事であるようにと、そっと祈りながら私は眠りにつきます。




