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36 おどろきの・・・ 5ページ目








皆さんこんにちは。



今日は領地にいらっしゃるアスラさんのお兄さん家族と次兄さんが帰って来るので、朝からパタパタしていました。


アスラさんは今日もお仕事です。「本当ならば私もフィーナと一緒に出迎えられれば良かったのですが・・・。なるべく早く帰れるようにします。」と申し訳無さそうに出勤して行きました。

お義父さんもお仕事で、お義母さんに「大丈夫ですわよ!任せなさい!」と言われていました。ギースさんに「何かあったら連絡するように。」と言っていましたから、息子さん達が帰ってくるのが楽しみなんだろうなぁ。って思いました。


お義母さんと一緒にお迎えの準備をしていましたが、私とお義母さんはお昼過ぎ頃に離れの方に戻ってきました。






お義母さんが申し訳無さそうに「フィーナさん、今日はこちらの離れから出ない方が良いわ。」と言います。


お義母さんが言うにはアスラさんのお兄さんであるコルネリウスさんの奥さんであるイレイズさんは、選民主義的な考え方を持つ方でアスラさんと結婚した私の事を良く思っていない様なのです。

驚いたのが「貴族」であるアスラさんが「平民」である私と結婚した事を知った時に、ご自身のご実家を通してヴァレンタ家に抗議して来たようです。これにはコルネリウスさんも驚いて「アスライールは『騎士』であるから身分を問わずに結婚が出来る。」と何度も伝えたようです。奥方さまのご実家は早々に抗議を撤回して謝罪していますが、その事で奥方さまは益々頑なになってしまったようです。

ご結婚していても不満があったらご自身の実家からでないと意見が言えないのでしょうか?やっぱり「貴族って面倒」です。

ご領地に居る奥方さまの中での私は「あの手」「この手」でアスラさんを「騙して」結婚した「悪女」になっているようです。


そういった理由があるので仕方がありません。

私は元々が平民ですから、ある程度言われている事に関しては気にしません。ですが、私にはお義母さんやお屋敷の皆さんが申し訳無さそうにしている事の方が気になります。


私の為に争うのは止めて欲しいです。・・・何だかどこかのヒロインさんみたいですね。




お屋敷の本館と私達のいる離れは大きな扉で仕切られていて、普段は誰でも行き気が出来るように解放されています。

元々この離れは、次代当主夫婦がお屋敷を継いだ時に前任の当主一家の生活の場になる場所の様です。そういった場所を私達に提供されていると聞いて、驚いたのは最近のお話です。

「お部屋はたくさんあるから好きに使ってね。」とお義母さんは言いますが、大抵は個室があれば何とかなる物だと思うのですよ?私が使わせて貰っている所だって出入り口は1つですがお部屋自体は2部屋ありますし、お風呂とトイレが付いているホテル仕様の間取りです(ここは客室ですよね?)。

ギースさんには「御当主様と奥方様のお部屋は、別にキチンとございますのでお気になさらないで下さい。」といわれています。ですが、既にこの1ヶ月で「私専用」と言わんばかりの台所と衣裳部屋が作られています。お義兄さんの奥さんに「義両親とアスラさんを騙している」と思われているならば、この時点で私が「悪女」と呼ばれても良い要素が散りばめられている気がするのです。


今回は事情が事情となるのでこちらの扉を閉める事になりましたが、ギースさんとリヒトさん(アスラさんの侍従さん)が鍵を閉めに来た時にも「申し訳ありません。」と言っていました。





こちらの離れ側には、いつも私のお世話をしてくれているマリーさんとジーナさんが残っています。

折角なので親交を深めようと思うのですが、何をしましょう。







「こうなった時にはこちらの方が色がキレイに見えますよ。」


そして今、私はマリーさんとジーナさんを相手に刺繍の講習を行っています。


あっ!お義兄さん家族と義次兄さんは先程到着したようですよ。

先程までは開けていた窓から到着を告げる声が聞こえたのです。それを聞いたマリーさんが窓を閉めました。「そこまでしなくても良いのに・・・。」と思うのですが、風が冷たくなって来ていたので特には言いませんでした。



ですが、こんな時で無いと言えないと思うので私は思いきってお2人に言いました。「お友達になって下さい!」と。お2人からの「申し訳ありません。出来ません。」との返事に泣きそうになりましたが、ココで諦めないのが私です。諦めずに「仲よくして下さい!」と私が言うと、お2人は衝撃を受けた様に「一生懸命お仕えさせて頂きます。」と私に言ってきました。



・・・違う。違うのです!



「そうではなくて・・・。」と私が言葉に詰まると、私共は「『仲良く』と言うのをどうやったら良いのか分からないのです。」とお2人から言われてしまいます。


・・・そうですよね、アスラさんと結婚した私は義理とは言え雇用主の娘になるのですよね。そんなヒトとは距離が出ますよね。




「むーーーん。」と考えますが、良い考えが浮かびません。前世の記憶よ!「友達作り」の案を何か出して!







・・・・と言う事で、お2人と一緒に刺繍をしています。


刺繍は旦那さんや子供の持ち物にイニシャルやワンポイントの模様だったり、ハンカチやストールなどの贈り物にも使われたりします。こちらでの「刺繍」は女の子の必須技術となります。商業都市の学園では、授業に組み込まれています。私も、アスラさんやソールさんの持ち物に小さな刺繍を何個か入れました。

腕の良い人は貴族のお屋敷や衣料店で刺繍専門のお抱え職人となれるので、こちらでは刺繍だけで生計を立てられる人もいます。だから刺繍は覚えて損は無い技術となっているのです。


女の子は結婚衣装の刺繍を自分でするのが一般的です。衣装は有る程度出来上がった物を「夫」となる方から送られます。そこに「妻」となる私達が刺繍を入れてお披露目の時に着るのです。・・・平民は、ですけれど。貴族の皆さんはどうなのでしょう?


私は刺繍をそこまで難しいと思わなかったのですが、ケイトは「訳が分からない!」と言いながら刺繍を刺していました。結婚披露を行う来年までに刺繍が終わるのか、私は心配です。

一応ニアちゃんに「様子を見て欲しい。」とは伝えているので大丈夫だと思うのですが、やっぱり気になります。・・・今度手紙を出そうかな・・・。



ジーナさんは「最低限の刺繍は出来ますが・・・。」と言っていますが、マリーさんの「刺繍は心で刺すものだと思っています。」と言った言葉に不安を憶えました。

・・・だって、ケイトと同じ事を言っているのですよ?不安にならない方がおかしいじゃないですか!


私が趣味で刺繍をしている事もお2人には知られています。ですが、どういった刺繍を刺しているのか見せた事は無かったので、お2人に私の作品を見せます。




「!!!えぇ!!!コレは一体どうなっているのですか!?」

「凄いです!」


私の作品(アスラさんへのハンカチ1枚)を手にとって、お2人は私の刺繍技術を褒めます。



そうでしょう!学園の先生にもお母さんにも刺繍の腕は褒められていましたからね!


「この刺繍は、3日前に始めた物ですよね?ココまでの状態に仕上げるのには、とても時間が掛かると思うのですが・・・・。」

ジーナさんが困惑気味に私に言います。


「?いいえ?ある程度集中していれば、この大きさの刺繍はスグに終わりますよ。この刺繍は準備して貰った刺繍糸の色がたくさんあったので、少し頑張っているのです。」

少し凝った模様になると時間は長引きますが、ハンカチへのワンポイント刺繍位ならば1刻で終わります。

ただ、今私が刺繍している物は凝ったデザインなので時間が掛かりそうです。



「・・・もう、ココまで出来てしまうと職人の域ですね。」

「そうね。」



私が「お手本」として一緒に刺繍を刺します。ジーナさんのその手は少し迷いながらですが、確実にお花の模様が浮かんで来ているので問題はなさそうです。

マリーさんもジーナさんの言葉に返事をしながら刺繍を指していますが、何をどうしたらこうなるのかが分かりませんが毒々しいお花の刺繍を仕上げています。



・・・お花の刺繍なのに、何故その色を選んだのか聞かせて欲しいのです。





ようやく1枚のハンカチが出来たのですが、何とも対照的な作品です。


迷いながらですが1針1針丁寧に針を刺していたジーナさんと、迷い無く1針1針刺して行くマリーさん。

圧倒的にジーナさんの刺繍の方が出来が良いのですが、不思議な事に見慣れてくるとマリーさんの刺繍がジワリジワリとアジのある作品に見えてくるのです。



「今までの中で最高傑作です!」

マリーさんがそう言ってハンカチを掲げて見ています。


「はい。私もここまでの刺繍をした事が無かったので、大事にします。」

ジーナさんも刺繍した所が見えるように畳んでハンカチを見ています。


「では、お2人と仲良くなれた(?)記念に私からプレゼントです!」

私はそう言ってお2人の「手本」用に刺したコースターを1枚ずつ渡します。


「ぷれぜんと?」

お2人がそう言うので「贈り物ですよ。」と言ったら、少し驚いたように目を合わせます。


「そんな!頂く訳には・・・「折角お2人の為に刺繍をしたのに・・・。」

受け取ろうとしないお2人に私が言葉を被せます。

お2人と「仲良くなろう」との下心で刺繍した物ですから、受け取って欲しいのです。まぁ、受け取った後にどのような扱いになるのかは分かりませんけれど。


「いえ!折角ですから私は頂きます!」

「マリー!?」

マリーさんの言葉にジーナさんが驚きます。


「お嬢様と一緒に刺繍をしてとても楽しかったですし、私がココまでの作品を仕上げる事が出来たのはお嬢様のお陰です!こちらの『お手本』を見て精進しなさい!との事であれば、私は刺繍を頑張ります!」

マリーさんが斜め上の解釈でコースターを受け取ります。


「いえ、そういった「そうですね!お嬢様がせっかく教えて下さったのですから、お嬢様の期待に背くなんていけませんね!」

私がマリーさんの言葉を否定しようとしたら、ジーナさんもマリーさんの言葉に賛同してコースターを受け取りました。決意に溢れたお2人を見て「・・・まぁ、いっか。」と思った私は間違っていたのでしょうか?今日の出来事が、後で私の頭を悩ませる事になるのです。







お2人との刺繍が一段落付いたので、夕食の時間まではのんびりとアスラさん用の刺繍を仕上げました。

折角なのでお世話になっている義両親にもハンカチへの刺繍をした物を渡そうと思い、ジーナさんに生地を選んで貰っていました。


前世の私からすると、ハンカチを持つ事に抵抗は有りません。ですが、普段身の回りにハンカチを持っていた人って少なかったように思います。

こちらでは「ハンカチ」では無く「手巾」と呼ばれていますが、こちらでの手巾は「出掛ける時に持っていないといけない物」第1位です。特に女のヒトは「季節」や「行事」で使い分けるべき物になります。男のヒトも「手巾を持っている事」が最低限のマナーで「持っていないと女のヒトに相手にされない。」とまで言われているようです。

なので、贈り物で不動の人気を保っているのが「手巾」なのです。


無地の物はそこまで高い値段でも無いので、独身の男の人達に人気がありました。女のヒトから「刺繍を入れますか?」と言われたい男のヒトも「無地の手巾」を持ち歩きます。そこから「恋愛」に発展する事が多いので、私の実家でもお店に出していました。


基本的に刺繍が入っている物を使っているヒトは恋人や奥さんがいるヒトと思われています。


お金のあるヒトや貴族の皆さんは専属の「刺繍職人」に刺繍して貰うみたいですが、そんなヒトは一握りです。

大抵は何かお呼ばれの時に使う為に準備していて、普段は無地の物を使うのです。





ジーナさんに選んで貰った手巾用の生地は「御当主夫妻用で」と伝えたので、さすがに手触りが違います。




お義父さんには家紋に使われている鷹のようなチーラと、今の時期はバラが綺麗なので「鷹とバラ」のワンポイントのハンカチです。

お義母さんに渡す物は頑張ってみました。縁を華やかに形作って刺繍糸で縁取ります。お義父さんのハンカチに刺したバラと同じ色を多めに、縁に添ってぐるりと大小様々なバラを入れます。あまり多く刺すと「くどい」感じになるので、バランスを見ながら入れるのが大変でした。


今日は渡せそうにないので、明日にでも渡しましょう。



出来上がった物を畳んで、一息吐いていたら「これから戻ります。」とアスラさんから連絡が来ました。

「気を付けて帰って来て下さい。」と返事をすると「フィーナも気を付けて下さい。」と言われてしまいました。


あれれ?もしかして、アスラさんはお兄さんの奥さんの事を知っていたのですか?




・・・ようやく朝の言葉の理由が分かりましたよ。














こちらの世界での刺繍は「表側が」綺麗に見えれば良いので、裏側の処理は曖昧です。

地球での刺繍を「知っている」フィーネリオンの刺繍は、裏側がスッキリしているので「見た目」だけでは無く実用性も高い物になっています。

ソコにマリーとジーナは驚いたのです。

そういった事を気にしなければ、ジーナは「優秀」な針使いが出来ていると言われます。

マリーも色使いさえ気にしなければ「優秀」一歩手前扱いです。




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