35 おどろきの・・・ 4ページ目
みなさんこんにちは!お貴族さまのお財布事情が気になるフィーネリオンです。
昨日お義母さんに言われた「服選び」なのですが、幼い時にニリナさんが作ってくれたフリフリのワンピースドレスを彷彿とさせる衣装たちが目の前に次から次へと並べられて行きます。私の目の前に広がるこの光景が「夢でありますように!」と願わずには居られません。
「やっぱり我慢が出来なくって作ってしまったの。」
お義母さんは「いい仕事をしていますわ。」と言いながら1着1着を確認しながらドレスで埋もれて行くこの状態の中で仰いました。
確かに私も「貴族」の中に入りましたが、リンカーラさん達以外に貴族の知り合いがいないので私はドレスを作っても着て行く所なんてありませんよ?
騎士であれば「騎士伯」と言う物が師団長クラスの方に与えられる時があるそうです。
名誉爵位ですから1代限りの爵位となりますし、本人のみの爵位なので家族は「平民」扱いとなります。
お義母さんに聞いたら、私達の所にソールさんがいるので「身分」は有った方が良いだろうと、お義父さんがヴァレンタ家で使える爵位をアスラさんに叙任したそうです。
アスラさんの賜っている「子爵」位はお家単位で与えられる物で、家族も名乗る事が出来るみたいです。ですが私はアスラさんの「おまけ」状態の身分なので「準貴族」と言われる括りで良いのでは無いかと密かに思っているのです。「平民」扱いの方が気楽ですからね。
領地とかは無いので名前は変わらないそうですが、アスラさんは子爵位である「フロウズ子爵」とも呼ばれるようになるので、なかなかに面倒な状態です。
私も一応「貴族年鑑」を読み直していますが、顔と名前が一致できれば御の字かと思います。
・・・記憶力は良い方だと自認しているので、まぁ何とかなるでしょう。
それにしても、ニナさんもお義母さんをお止しなかったのでしょうか?この状態からの現実逃避が出来そうに無いので、そっとニナさんを見て思います。コレばかりは全力で止めて欲しかった・・・。
衣服に関しては、引越しの時にたくさん頂いたのでそれで充分でした。
ドレス頭からつま先まで一式揃えると、贅沢しなければ2ヶ月は生活が出来る金額ですよ?
ここに並べられているドレスを端から数えてしまいます。
こんな所にお金を使うなんて、後からお義父さんに怒られませんか?
「ドレスを着て行く所が無いと言うならば、この屋敷で着ればいいのよ!」
あれ?「パンが無ければケーキを食べれば良い」何て言って民衆の怒りをかった、とある国の王妃様を連想させるお言葉ですが良いのでしょうか?お義母さん、お金の無駄使いは止めて下さい。
「だって!あの人ったら何時の間にか、離れに台所?を作っていたのよ?私だって、フィーナさんに贈り物がしたかったのに!抜け駆けだわ!」
私の様子を見たお義母さんがそう言います。
!!!
衝撃的なお言葉を聞いてしまいました!
先月滞在した時には無かった台所は、お義父さんによって改装された場所だった様です。
先月一月の間、滞在していた時に見た記憶が無かった理由がようやく分かりました。
・・・いえ、出来れば分かりたくなかったかも知れません。
なんて事をしてくれたのでしょう!
軽くこの一月に使用されたであろう金額を思うと、震えが起きそうです。
私の様子を見て、お義母さんが「お金は使う時に出し惜しみしてはいけないのよ?」と言ってふわりと笑います。
えぇ。言っている内容は良く分かります。
私の実家でも長く使う物はシッカリした物を選んでいたので、それなりの金額の物を購入していました。
そう言った物はお店で保証が付いていたりするので、メンテナンスして貰えたりしますからね。「アフターケア」して貰えると言う事がお客さんの心をガッチリと掴みますよね。
「フィーナさんもドレスを着て一緒に出掛ける事が出来るようになったでしょう?何て言ったって『子爵夫人』ですもの、ドレスは持っていて良いと思うのです。
・・・・それとも、私の贈り物は気に言って貰えないのかしら・・・。」
お義母さんは悲しそうにそう言って、両手でお顔を覆います。
「はわわ・・!そういう訳ではないのです!
このようにたくさんのドレスを保管して置く場所が無いのでどうしようか考えていたのです!」
私がそう言ってお義母さんの傍に行くと「大丈夫よ!」と言ってお顔を上げます。
あれ?私、騙された感じですかね?そのままニナさんを見ると、とても良い笑顔で「ええ、問題は有りませんよ。」と言われました。
お義母さん、どちらかで演技指導を受けて来ました?私は本気で「泣いてしまった」と思いましたよ?
それからはクルクルと「あのドレスを」とか「この靴を」とかの指示の中、何着目かも分からない着せ替えが行われました。心なしかメイドさん達がとても良い笑顔をしていますが、どういう事なのでしょう?
「やっぱり今の時期はバラ色か緑色ね。迷うわ。」
そう言いながらお義母さんはこれ等のドレスを持って来たと思われる女性と話し合っています。
「白のドレスも良いのではないでしょうか?これから仕立てますと、8月から9月納品となります。9月10月と来年の年明けまで着れますし、瞳の色に合わせた紫色を薄く白地に入れるのはどうでしょう?華やかな感じになりますし、レースやフリルを使ったりするのも良いと思います。」
「まぁ!それは良いかも知れませんわね!」
着替えてお披露目をする度にに「素敵!」「お似合いです!」と褒めてくれますが、その合間に聞こえる不穏な会話が私の不安感を煽ります。
「女の子は飾り甲斐があって良いわぁ!」
いつもより興奮気味のお義母さんがニナさんと謎の女性にそう言います。お義母さん、落ち着いて下さい!
こちらのお屋敷でこれ等のドレスを保管するのにも限度があると思うのです!そろそろ落ち着いて現状を見ましょう?
・・・朝にアスラさん達を見送ってからクルクルしていたのでこの時間が永遠に続くのかと思いましたが、ドレス屋さん(?)の女性が「それでは本日はどうなさいますか?」と謎の言葉を言った時の衝撃が分かりますか?
「まだ続くの!?」と私は思いましたが、お義母さんの「そこの緑色とバラ色、菫色のドレスと黒の礼装一式を買うわ。後は持って帰って頂戴。」と言う言葉に驚きました。
その後はお義母さんの指示で、メイドさんが買い取ったドレスのサイズ直しをしてくれました。その様子を見ていたドレス屋さんはそれ以外のドレスを持って帰って行きました。
「ふふっ。驚いた?フィーナさんにどういったドレスが似合うか分からないでしょう?
サイズは屋敷で直したりすれば良いので、色と形の指示を出してある程度作って来て貰ったのよ。
私達が生地や装飾に使われたレースの料金を出すので、職人はキチンとした物を作れるわ。今回私が作ったドレスも、それなりの値段でお店でなり何処かの屋敷で売れるでしょうからフィーナさんは気にしなくて良いのよ。売れれば此方にも幾らか戻ってくるし。ね?」
お義母さんはそう言ってニッコリと微笑みます。
え・・・。
それでも、そんなに簡単に出せる金額ではありませんよね?
「さあ。奥方様、お嬢様も少し休憩をしては如何ですか?
お嬢様も折角ドレスを着ていらっしゃる事ですから、テラスにお茶の準備をしてあります。」
ニナさんがサッとお話の間に入って来て休憩を促します。
そうですね、疲れた頭で考えても何も言い事は思いつきません。私とお義母さんはニナさんの先導でテラスに向かいます。
・・・昨日と同じ出来事なのですが、ナゼかお義父さんが一緒の席にいます。
あれ?デジャヴ?
そんなこと思いながら「良く似合っているよ!」との賛辞に「ありがとうございます。」と答えます。
そっと義両親から視線を外すとヴィクターさんが泣きそうにこちらを見ています。
「・・・ヴィクターさんも一緒にいかがですか?」
その言葉にお義父さんが反応しましたが「あら、良いわよ。」とお義母さんが言った事により、今日はヴィクターさんもお茶会?に参加です。
「・・・父上、職務中に城から出る時にはきちんと手続きをして下さい。」
お茶会を楽しんでいたら、ギースさんの先導でアスラさんが現れました。
・・・あれ?アスラさんはお仕事中ですよね?
お義父さんにアスラさんがイロイロと言っていますが、今回は幻かもしれないので腕に触ってみます。
「・・・フィーナ。どうしました?」
私の隣に立つアスラさんの掌をフニフニと触っていたら、アスラさんから声を掛けて来ました。
「いえ、アスラさんは幻かな?と思ったのです。」
フニフニし続ける私を振り払う事なくそのままにしてくれるので、本物のアスラさんの様です。
「お義父さんを朝に見送ったハズなのですが、この時間に一緒に居るのです。昨日、今日と続くとミステリーだと思うのですがどうなのでしょう?」
アスラさんにそう言うと「まぁ!」と面白そうにしているお義母さんの声がします。
心なしかお義父さんが噎せている様な気がしますが、そちらはお義母さんにお任せします。
「『みすてりー』がどう言った言葉なのかは私には解りかねるのですが、疑問には答えられそうです。
実は、「さて!ヴィクター!城に戻るぞ!」「はいぃ!」
アスラさんが私に「答え」を言おうとしたら、お義父さんが勢い良く立ち上がりヴィクターさんに声を掛けます。どうしたのでしょう?
「アスライール!お前も早く戻るのだぞ!」
そう言ってお部屋から出て行きます。お義母さんは「行ってらっしゃ~い。」と後ろから声を掛けていますが、お義父さんには聞こえていたのでしょうか?
ニナさんが「大丈夫ですよ。」と言っていたので、問題は無いのでしょう。
「まったく・・・。」
アスラさんはそう言って私の隣に座ります。
「あら?貴方は仕事に戻らないの?」
お義母さんがアスラさんにそう言います。
「明日、兄上達が帝都に来る事を伝えたら『今日はもう上がって良い』と言われたので帰ってきました。
それにしても、朝、屋敷を出る時に母上がソワソワしていた理由が分かりました。
・・・フィーナ、良く似合っています。」
そう言ってアスラさんが私を見ます。
「そう!そうなのよ!持って来て貰ったドレスを全て買い取っても良かったのだけれど・・・。
・・・・・アスライール。貴方、騎士学校で一体何を学んで来たというの?今のセリフでは全然ダメよ!フィーナさんくらい若い方を褒めるのならば、もう少し言葉を選びなさい!」
お義母さんはそう言ってアスラさんにダメ出しをします。
アスラさんは自分が言われている事が良く分からないとばかりに私を見ます。
私もお義母さんの言っている内容に首を傾げます。アスラさん、私を見ても答えは出て来ませんよ?
「コレよ!この本でも読んで女心を勉強しなさい!」
何処に持っていたのか、お義母さんがとても見憶えのある本をアスラさんに渡します。
「乙女の騎士」(1~7巻 以下続刊)それは巷の少女から人気のある恋愛小説です。没落寸前の伯爵家の令嬢が騎士となって、お家再興と同僚の騎士との恋に悩む恋愛小説だったと思います。
ですが「騎士」を本職にするアスラさんからしたら「魔の書物」に値するのではないでしょうか。私はニアちゃんとティアちゃんが読んでいたから興味本位で1冊読みましたが、2冊目から読む事は有りませんでした。
隣のアスラさんが表紙に書いてあるタイトルを見て遠い目をします。そんなアスラさんの様子を気にする事無くお義母さんは「全巻あるのでキチンと読む事。」とアスラさんに言います。
アスラさんは小さく息を吐いて本を手にとり表紙を捲ります。
「あ!そう言えば、アスラさんはどうして騎士になったのですか?」
私はアスラさんに聞きます。
「あら?貴方フィーナさんに何も言っていないの?」
お義母さんがアスラさんに言います。
「えぇ。特に面白い事もありませんから話していませんでした。」
アスラさんは本を閉じてお義母さんに言います。
「えぇ!気になります!・・・もし良かったら聞かせて貰えませんか?」
私はアスラさんとお義母さんを交互に見ます。
「そろそろ風が冷たくなってきますから、室内へ戻りましょう。」とニナさんの言葉でお茶会は終了です。
お義母さんもアスラさんのお兄さん達を迎える準備があるみたいなので、私達はそのまま離れに戻って来ました。
私も着替えていつものワンピースに戻りました。アスラさんも普段着に着替えています。
「フィーナ、ありがとうございます。助かりました。」
アスラさんはそう言うと机の上に積み上げられている本を見ます。
そうですね、その本は読むとダメージを受ける恐れがあるので、取り扱いには気を付けて下さい。
「騎士になった理由でしたよね。
何て言って説明すれば良いのでしょう。自分の事を話すのは、難しいですね。
・・・私は、貴族として産まれて生きてきました。ですが、成長するにつれて『自分の立ち位置』が分からなくなってしまったのです。
家には跡取りの兄上が居ます。その補佐をする次兄もいます。では、私は?
そう思った時に、家族は『好きな様に生きていい』と言ってくれたのです。
もちろん学園を卒業した後は学院で学び、その後に城仕えの文官になる事も考えました。どうやら、家族はそちらを望んでいたようです。
ですが、私が選んだのは『騎士』になる事です。家族はあまりいい顔はしませんでしたが、『私の決めた事に口を出さない』と父上が言った事で皆が『納得させられた』形となりました。
騎士学校は余程の事が無い限り、入学から卒業まで家族に会う事はできません。身内の『慶弔事』は騎士学校の関係者が一緒に付いてくる事で敷地から出る事が許されるほどですからね、母上は最後まで不満を言っていましたよ。
騎士学校に入学してからは、毎日が大変でした。それこそ『どうして学院ではなく騎士学校なんて選んでしまったのだろう』と何回思った事か・・・。
恐らく、騎士の大半は『もう一度騎士学校に行って来い』と言われたならば、その日のうちに『辞表』を出せると思います。私も「あの場所」には戻りたくありません。
・・・フィーナ、もしそうなった時には、城の文官になろうと思うのですが、良いでしょうか?」
最後、とても真剣に仰った事はアスラさんの「本音」ですよね? 私は学院に進学しましたが毎日が楽しかったですよ?お話しの中の騎士学校は既に「学校」の域を出ている様な気がしますが大丈夫なのでしょうか?・・・どこかの「養成所」を彷彿させるのですが?
「そうですね・・・。騎士学校生活で1番印象に残っている事は、騎士学校の卒業試験ですね。
学院の卒業判断は分かりませんが、騎士学校は筆記試験でした。
・・・・馬鹿みたいに毎日武術訓練をして、最終学年の時には月1の間隔で野外訓練まで行いました。
それは毎月片道7日、滞在が6日で合計2週間の野外訓練が行われるのです。訓練中は授業はおろか、字を書く事も出来ない状況下に置かれます。そんな中で7月頃に『君達は学生なんだし、卒業試験は筆記試験を行う』と伝えられるのです。
そうして、9月に『本当に良く出来た』筆記試験が行われました。
それまでの2ヶ月は同期の学生と共に夜遅くまで机にしがみ付く様に勉強しました。
・・・不思議です。こう言葉にすると、後半はなかなか『学生』らしい事をしている様に感じますね。」
私の卒業試験も筆記試験でしたよ?アスラさん大丈夫ですよ?だって、学生ですもの!
アスラさんは遠い目をしてお話していますが、その試練を無事にクリアできたから今ココに居るのですよね?
「卒業試験の合格発表の時に私の名前を見つけた時が、それまで生きていた中で1番『安堵』した時ではないでしょうか?共に卒業できた人数が12人でしたが過去最大人数だと言われていました。それで、いつもより試験内容が易しかったのではないかと言われたほどです。
同期の何人かは『今でも夢に見る』とまで言っていますし、私も時々夢に見ます。もしかしたら、他の騎士達も同じかも知れませんね・・・・。」
アスラさんは何を思い出したのか、そっと息を吐いて私を見ます。
・・・何て言う事でしょう。
騎士学校にアスラさんの同期で入学した生徒の人数が分かりませんが、騎士学校の卒業率が低くて恐ろし過ぎます。
夢にまで見る「卒業試験」って何でしょうね・・・。
アスラさん、本当に卒業おめでとうございます。
マゼンタの思っている様な「御令嬢の褒め方」や「口説き方」は騎士学校の授業では行いません。当然ですが騎士学校で教わるのはエスコートの仕方くらいです。
この世界の騎士学校は「先輩」「後輩」の扱いが無い「勝ち上がり」式の進級なので、卒業したかったら必死で勉強しないと何時までも「1年生」のままとなります。入学から6年経っても卒業の見込みが無いようであれば退学を勧告されます。




