34 おどろきの・・・ 3ページ目
気が付いたら、ブックマークが100件を超えていました!
この作品を読んでいらっしゃる皆さん、ありがとうございます!
のんびりとお話は続きますので、これからもよろしくお願いします!
私が怪我をしてアスラさんの実家に戻って3日が過ぎました。
今、私はヴァレンタ家の台所に居ます。
え?「お家に帰らないの?」って?
そうなのです。昨日ゆっくりと休んだので私としては「元気ですよ!」って言っているのですが、アスラさんに「ソールがいない間はゆっくりして欲しい。」と言われて断れなかったのです。
と言うのも、一度お城に送還された場合「最低1週間」は教育の為にお家に帰れないそうなのです。
それと、後少しで「新緑祭」と言う事もあって、明後日にはアスラさんのお兄さん達が帝都にいらっしゃるようです。「どうせ後でまた来るのなら、ここに居て出迎えたらいいじゃないの。」とお義母さんがにこやかに言って、お義父さんも「そうだね、そうしたら良い。」とお義母さんに同意した事で私達のヴァレンタ家滞在が決定しました。
ご長男夫婦は普段は「ヴァレンタ家」の領地にいらっしゃるみたいで、普段は帝都にいらっしゃらないそうです。次兄さんもお兄さんの補佐をしながら領地と帝都を行き来しているようで、私は1度もお会いした事がありません。ただ、ご長男夫婦のお子さんは帝都の学園の寮に入っていて、1月の最後の週に領地から帝都に来た時にヴァレンタ家で過ごしていたので、その時に挨拶しました。
私はお兄さん方に1度もお会いした事が無いので、アスラさんに「どのような方々なのですか?」って聞いたら「普通だと思いますよ?」と言われてしまいました。意味が分からないので、アスラさんのご兄弟ですから素敵な方だと(勝手に)思っています。
そんなこんなで新緑祭まではこちらにお世話になる事になったのですが、如何せん私のやれる事がありません。
「暇です。」とメイドさんに伝えたら刺繍セットを渡されたのですが、そう言った気分ではなかったので「違う事が良いです。」と伝えてみました。メイドさんから困ったように「どんな事をなさりたいですか?」と尋ねて来たので「動ける事がしたいです。」と私は答えたのですが・・・
メイドさんの「それならば、ダンスなどは如何でしょう?」との返事に驚いたのはつい先ほどのお話です。
ダンスとか、そう言った事を私は求めていませんよ。
私が「むーん。」と考えている間、メイドさん達は「お庭の散策などは如何ですか?」と言っていました。とても魅力的だったのですが「今の時間は日差しが強いので、もう少し時間を置いてからにして下さい。」とニナさんから言われてしまいました。この日差しの中出て行くのが良いのに・・・。
それで私の「お菓子作りがしたいです。」の言葉で普段は使われていない「台所」が私の為に解放されました。
「普段の食事はお屋敷の厨房で調理が行われているので、どうぞ御自由に使用して下さい。」とギースさんから使用許可が出たのです。
それにしても、さすがの設備です。
たかが「台所」と侮るなかれ!この調理空間は素敵な事尽くしとなっています。
まず、最新式の魔道具であるコンロ。薪を使う事なく料理が出来るなんて素敵過ぎです。
台に付いている魔石に魔力を注ぐとその量によって威力が変わる仕組みになっています。IHのクッキングヒーターみたいな感じです。実は素材は違う物になるのですが私達のお家の調理台も同じ物が使われています。
次にオーブンです。こちらもコンロと同じ使い方の魔道具です。使い方はそのままオーブンと同じです。
ここにも冷蔵庫があります。中には果物やミルクなどたくさんの物が入っていました。素敵です!
何よりここで一番驚いたのは「自噴水」の水瓶があった事です。
これも魔道具の1つなのですが、水瓶が常に水で満たされている物です。
これ一つのお値段が普通の家庭だったら5年間くらい余裕で生活できるくらいの金額です。私も初めて見ました。本当に驚きましたよ。
・・・貴族、恐ろしい。
水瓶を覗き込んでいる私をメイドさんがハラハラしたように見ていますが、この水瓶は私の腰くらいの高さですからそんなに危なくないですよ。
こんなに素敵な装備一式が詰まったこの台所がどういった目的で作られたのか、私にはさっぱり分からないのですがお菓子の材料も一通り揃っていたので助かります。本当に、この場所はいつ使われているのでしょうか?
今の時期、赤ベリーアの時期なので「タルト」を作ろうと思います。
・・・分かっていた事ですが、こちらの世界には「ケーキ」とかの土台になる「スポンジ型」「タルト型」がありません。今まで「耐熱皿」や「お鍋」で代用していたので問題は無かったのですが、ここに置いてあるお皿が高級感を纏い過ぎているので、とても使い辛いです。ピカピカなお鍋に至っては「オーブンにこのお鍋は入れられないよね・・・」と早々に除外しました。
「何か足りない物がございましたか?」
私がお皿を見てそんな事を考えていたら、後ろに控えていたお手伝い(!)の調理メイドさんが私に声を掛けてきました。
「いえ、そういった事はありません。むしろ素敵な空間なので感動していました。」
私がメイドさんにそう言うと、メイドさんはホッとした様に「良かったです。」と言っていました。
タルト型の代わりにしようとエイッと高級そうなお皿の中でも地味目なお皿を取りだすと、メイドさんは不思議そうに私の行動を見ています。
「赤ベリーアを並べるのでしたら、こちらのお皿の方が色が映えますよ?」
そう言って素敵な絵付けのされているお皿を取りだします。
さすがこのお屋敷の優秀なメイドさんです。取り出されたお皿は、確かに赤ベリーアの赤色ににとても映えるお皿でした。
「うわぁ!素敵なお皿ですね!お菓子が出来たら、そのお皿を使いましょう!」
完成したら乗せるお皿が決定しましたよ。素晴らしい!
メイドさんは「?」といった感じで私を見ていますが、ただ赤ベリーアを並べるのではありませんよ?
私はタルトを作る予定なのです。
先ずは「タルト生地」を作りますよ!
初めて使う耐熱皿でのタルト生地作りだったので、取り出す時にドキドキしながらオーブンを開けて中の状態をを確認します。
少し焼き過ぎたような気がしますが、まぁ許容範囲でしょう。大丈夫です!
タルト生地が出来れば後は難しい事はありません。
タルトに使うカスタードクリームを作ります。
アーモンドクリームが作れると良かったのですが、私は今の所「アーモンド」に代わる物を見た事が無いのでカスタードクリームだけのタルトです。
カスタードのタルトも美味しいのですが、前世の私が「タルトにアーモンドクリームが無いなんて!」と騒ぐので是非ともアーモンドを使ったタルトを食べてみたいです。
「何か手伝える事はありますか?」と言って貰ったので隣でメイドさんが赤ベリーアを切るのを手伝ってくれていますが、そんなにたくさんは要りませんよ?私も軽く「赤ベリーアを切って貰っても良いですか?」と言ってしまいましたが、調理メイドさんの素敵な包丁捌きで用意されていた赤ベリーアの実は全てスライスされていました。
作ったカスタードをいったん冷蔵庫で冷やして置きましょう。
メイドさんによってスライスされた赤ベリーアを贅沢に選別中です。
タルトになった時に綺麗に見えるように、中心部分の大きな所を選んでお皿に分けます。
外側の丸みを帯びた所や少し色が薄い所は赤ベリーアソースにしてしまおうと鍋に入れます。
その間メイドさんはやっぱり不思議そうに私を見ています。
「ビーエの蜜って置いてありますか?」
ビーエは蜂の様な習性があってお花の蜜を集める習性があります。
ジャムを作るなら砂糖が良いのですが、今回はソースを作るのでビーエの蜜の方が美味しい(と私は思っています)からメイドさんに聞いてみます。
「はい。こちらにございます。」
そう言って渡して来たのが、まさかの「メルーナ」印のビーエの蜜!
私もおこずかいを貯めて小瓶を買っていましたが、大瓶(未開封)で出てきましたよ!
どうしましょう、私の夢が一気に叶ってしまいましたよ!この瓶を抱えて夢の世界に旅立てそうです。
「1瓶では足りませんか?」
私の様子にメイドさんがそっともう一瓶差し出して来ますが、一体この場所にどれだけの「夢」が詰まっているのか確認したいです。
「大丈夫です。」と新しく出された方はお断りさせて頂いたのですが、心の奥底では「せめてこの一瓶、開封した物を持ち帰りたい!」と思ってしまったのです。
そのビーエの蜜を使って赤ベリーアのソースを作りましたが、輝きがいつもと違う気がします。
そう思いながら作ったソースを冷やして行きます。
「こちらはどうしましょう?」
そうメイドさんに言われて手元を見てみると、タルト生地の使わなかった所があります。
「そうですねぇ。クッキーにしましょうか?」
そう言ってタルト生地を1つに纏めて薄くのばします。
こちらの世界に可愛らしい「クッキー型」はありませんので、同じくらいの大きさに包丁で切り分けます。
棒状に纏めて凍らせて切るのが一番早いのですが「凍らせる」事が難しい世界ですからね、この方法が一番早いのです。
そうしてオーブンで焼き上げればクッキーの出来上がりです。
ソースも丁度良いくらいに冷えて来たので、カスタードクリームを乗せたタルト台に赤ベリーアを乗せてソースを塗ります。
お手伝いをしてくれていたメイドさんが周りの片付けをしてくれていたので、思った以上に早く作り終える事が出来ました。
最後にメイドさんが選んでくれたお皿にタルトを乗せます。
「うん。素敵なお皿なので赤ベリーアのタルトが美味しそうに見えますね!」
出来あがった赤ベリーアのタルトを前に腕を組んで出来あがりを確認します。
手伝って貰ったメイドさんにクッキーを半分渡してお部屋に戻ったのですが、このタルトを1人で食べるのには少し大きすぎます。
時計を見てみると、もう少しでおやつの時間です。
お義母さんは今日はお屋敷に居るのでしょうか?一緒に食べてくれると良いなぁ・・・
お義母さんから「一緒にお茶会ね!」と言うお返事を頂いたのでサロンに居るのですが、不思議な事に私の目の前に義両親が揃っています。
・・・・おかしいです!明らかにおかしな事が起きていますよ!
あれ?お義父さん?朝、お城に出勤して行きませんでしたっけ?
見送った記憶があるのですが、どういう事なのでしょう?
「まぁ!美味しそうだこと!」
お義母さんがそう言って切り分けられたタルトを口にします。
「本当だ。食べるのが勿体ないくらいだ。」
お義父さんもそう言ってタルトを食べています。
お2人は「美味しい!」と言って私の作ったタルトを食べています。良かった!
・・・・ですが、このお部屋に見た事の無い方がいらっしゃいます。どなたでしょう?
何だか泣きそうに時計を見ています。「時間を気にするのであるならば、そちらに行けば良いのに・・・。」と思いながらタルトを食べます。
その方が気になってそちらに意識が向いているのをお義母さんには気付かれていたようで「フィーナさん。どうかしました?」お義母さんがそう私に言ってきました。
「いえ、あちらの方はどなたなのでしょうか?」
私がお義母さんに尋ねます。
「あぁ!フィーナさんは初めてお会いするのでしたね。あちらはヴィクターといって、この人の補佐官よ。」
サラッとお義母さんに紹介されましたが、お義父さんの補佐官さんと言ったら結構重要な方なのではないのでしょうか?
私は急いで「フィーネリオンです!初めまして!」とその方にあいさつしたのですが、「ヴィクターです。こちらこそ初めまして。」と返事が来たので安心です。
ヴィクターさんはそこそこの年齢に見えますが、もしかしたらお若いのでしょうか?
お近づきの印に分けて置いていたクッキーをヴィクターさんに渡します。
後ろから義両親の視線を感じますが、これから先お世話になるかも知れませんからね!賄賂ですよ!賄賂!食べてしまえば無くなってしまう賄賂なので問題は無いハズ!・・・ですよね?
その後、お義父さんをアスラさんが迎えに来たので、そこでお茶会は終了しました。
小分けにしておいたクッキーをギースさんとニナさんに渡したら、2人とも嬉しそうに受け取ってくれました。「あちらの台所は好きに使って下さい。」とギースさんが言ってくれたので、明日も何か作ろうかなと思います。
何を作ろうか考えていたのですが、お義母さんの「明日は一緒に新緑祭用の服を考えましょう!」の言葉で現実に戻されます。
実感が湧かないので気にしていなかったのですが、新緑祭まで後3日ですよ?クロゼットに入っている服で充分だと思うのですが、一体何をするのでしょう?
明後日に息子さん一家が帰省するのであれば、私に時間を使うのではなくてそちらに時間を使った方が良いのでは無いのでしょうか?
ね?そうは思いませんか?
ヴィクターは既婚者です。
優秀な彼は奥さんと子供が2人の幸せな結婚生活を送っているのですが、上司が無茶をした時にフォーロー出来るように上司と同じ公休日なのでお家以外では心休まる日がありません。
幸せな結婚生活を送っているので、同僚からは羨ましがられています。
今回初めて仕事中に「優しさ」を貰えてので泣きそうになったのは、彼だけの秘密です。