33 おどろきの・・・ 2ページ目
「ぴぇ~~~っ!!!」
みなさんこんにちは。絶賛、流血中のフィーネリオンです。
え?意味が分からないって?そう言わないで下さい。
ソールさんが泣いていますが、多分1番泣きたいのは私なのではないかと思います。内心、流血している事にドキドキが止まりません。
この怪我は調理中の私にソールさんが飛びついて来て、それに私が驚いて包丁で手を切ってしまったのです。指は動くので神経は大丈夫だと思うのですが、如何せん血が止まりません。
とりあえず身近にあった手巾で止血をしてみたのですが、この付近の治療院って何処ですかね?
お隣さんに聞いたら教えてくれるでしょうか?
「フィーナ!」
あれ?アスラさんの声が聞こえますよ?
アレですか?そろそろヤバい感じですかね。
「フィーナ!大丈夫ですか!?」
アスラさんは泣いているソールさんを抱えています。そう言えば、止血を始めた頃からお家の中が静かだった気がします。
「アスラさん。私、手を切ってしまって・・・、
止血をしてみたのですが、血が止まりません。この付近の治療院って何処にあるのでしょう?」
少し頭がぼんやりとしますが、まだ大丈夫だと思うのです。
「手を出して下さい!」
アスラさんは抱えていたソールさんを下しながらそう言いますが、目線が左手を見ています。アスラさんは手巾で包まれている私の左手を持ち上げます。
「他に何処か痛みを感じる所はありますか?」
私が折角止血の為に巻いた手巾をアスラさんは解いて行きます。まだ血が止まらないので手巾は血で真っ赤に染まっています。ソールさんが「ぴぇっ!!」って言いながら涙を浮かべます。
「ソールさん、大丈夫ですよ。」
そう私が言っても手から流れる血は止まりません。ですがアスラさんが治療してくれているので、私の怪我は治るでしょう。
ソールさんがアスラさんの足にしがみ付きながら「ごめんにゃさい・・・」って言ってくれているので、今回の事は大目に見ましょう?ね?アスラさん。眉間に皺が寄っていますよ?麗しいお顔がとても大変な事になっています。チョッピリですが、怖いですよ?
「フィーナ。血は止まりましたが、どうでしょう?まだ痛みはあると思いますが、ゆっくりと私の手を握って下さい。違和感があるようでしたら、無理をしないでそこで止めて下さい。」
アスラさんはそう言って私の左手に「両手で握手」状態に手を添えてくれます。
もともと指は動かせたので問題はありませんでした。ゆっくりとでしたが私の手がアスラさんの手と握手出来たので、アスラさんは安心したように「大丈夫そうですね」と言って深く息を吐きました。
「ソール。」
アスラさんがソールさんの名前を呼びます。
私の手の治療中、アスラさんはずっと無言でした。ソールさんもアスラさんが怒っているのを察しているのか、小さく「あい」と返事をします。
「ソール。分かっていると思うが、暫くは皇宮で反省するんだ。」
アスラさんがソールさんにそう言うと、ソールさんはイヤイヤをする様に首を横に振ります。
ソールさんは「やっ!いや!」と言って、アスラさんから逃れようと私に手を伸ばします。
「ソール!・・・*******!!」
アスラさんが強くソールさんの名前を呼びます。
私には聞き取れないソールさんの「真名」を呼べるのはこの世界でアスラさんだけです。
「真名」はその「存在」を縛るものですから、私達ヒト族はとても大切にします。
帝国では5歳で「魔力測定」をしますが、18歳の成人の時に自分の「真名」を授かります。
お兄ちゃんが言うには「あぁ、これが自分の『真名』か」っていう感じになるみたいです。
そして、その真名は誰にも知られないようにしなくてはいけません。
真名を使っての命令は「誓約」と同じくらいの威力が有ります。真名を知られてしまうという事はその相手に「隷属」する事と同じなので、なのでたとえ家族であっても知られてはいけないモノだと学院で習いました。
ですが、例外があります。
アスラさんのように精霊であるソールさんとの「契約」は、お互いに種族が違うので「真名」を名乗っての契約だったそうです。
「ゃ・・・や~~~~~!!!!!」
アスラさんの腕の中で抵抗していたソールさんに魔力が集中します。
少し眩しくて視線をソールさんから外したら、お家の中が一瞬眩しく光りました。
「~~~っ!」
目が!目が痛いです!
こんなに強い光を普段の生活では体験しません。前世での「閃光弾」ってこういった効果のある攻撃だったのではないのでしょうか?
目に飛び込んできた強い光に、私は目を押さえます。
「フィーナ、大丈夫ですか?」
あまりの眩しさに目を両手で覆いますが、それでも瞼の裏に強い光が残っている感じがします。
私が目を押さえているとその上からアスラさんの手でしょうか?何かで抑えられているのが分かります。
ジワリと私に流れてくる魔力が何だか心地よくて、色々な事が気になりましたが私の今日の記憶はココまででした。
「アスラさん昨日は怪我の治療、ありがとうございます。」
どうやら昨日は手からの出血による貧血と、強い魔力に晒された事によってアスラさんから治療を受けた後に意識を失っていたようです。
今、私が居るお部屋は、1ヶ月前まで毎日のように使っていたヴァレンタ家のお屋敷にある私のお部屋です。
私が意識を無くした後にアスラさんがこちらに私を運んできたようです。
あの後、私が意識を失った事に驚いたアスラさんが取った行動は「お義母さんに連絡をする」という事でした。
お義母さんも連絡を受けた時に外出していたみたいなのですが、一緒に付いて来ていたニナさんとお屋敷に居たギースさんに指示を出して「お嬢様介護チーム」結成と受け入れの指揮を執ったようです。
・・・いつの間に「お嬢さま」で統一されたのでしょう?
あれ?私がお屋敷でお世話になっていた時は「フィーナさま」で統一されていましたよね?
アスラさんからお義母さんに連絡が行って私がヴァレンタ家に運び込まれる半刻くらいの時間で「全ての準備が整っている」という結果が、このお屋敷の使用人さま達の優秀さを物語っています。
今もアスラさんが私の様子を見に来てくれていますが、このお部屋に居るハズの2人のメイドさんの気配が私には分かりません。
ただ、アスラさんと私のお茶を新しく淹れなおしたりしているので「いるんだろうな」って言うのは分かります。
「いえ、その事は気にしないで下さい。今日は顔色も良いようですが、安静にしていて下さい。」
昨日のアスラさんが嘘のように、いつもの穏やかなアスラさんがいます。私の右手はアスラさんの手と繋がれているのですが、そろそろ手汗が気になってきました。
「今日はこんなに良い天気なんですよ?せっかくアスラさんもお休みの様ですのに残念です・・・。」
ちょっと手を引き抜いてみようと試みてみましたが、シッカリと握られているので無理そうです。
「そうですね。来週は後半5日間休みですので、その時に帝都を散策しましょう。なので、今日はゆっくり休んで下さい。」
そうアスラさんは言いますが、今の状態がゆっくり出来ません!気付いて!
特にする事が無いので「刺繍がしたいなぁ。」とポツリと言葉にしたら、お部屋に控えているメイドさんがそっと刺繍セットを準備してくれました。それによってアスラさんから解放されたので、アスラさんに何か作りましょう。
アスラさんは気にしていないのか、私の隣で本を読んでいます。
私の左手は昨日の怪我が嘘のようにシッカリと動きます。怪我の治療は「体力勝負になる」と言われますが、それは前世の時も同じなので問題はありません。本当に治療魔法の凄さを感じます。
この世界にも「医者」と呼ばれる人たちがいますが、そういった方達は基本的に「薬」を使う治療をします。熱が出た時や湿疹が出来た時なんかにお世話になります。小さな怪我であればお医者さんに薬を出して貰ったり自分の自然治癒能力で何とかなりますが、大きな怪我や出産の時は治療師さんが判断しれいます。
こちらの医療関係は基本的に「治療師」「医者」のどちらかにお世話になるようになります。
治療師が居れば大抵の治療が出来るので、どういった場所であっても最低1人は国から派遣されているようです。ですが、全てを治療師に任せてしまうと大変なので一緒にお医者さんも派遣されるようですよ?
商業都市に居た頃はそういった場所を健康優良児の私はあまり利用した事はありませんでした。利用したとしてもティアちゃんのお薬を貰いに何回か行った事があるくらいですよ。
「・・・ソールさんは元気ですしょうか?寂しくしているのではありませんか?」
刺繍をしていた私がふと、言葉を零します。
私が最後に見たソールさんは、いつも笑顔のソールさんがポロポロと涙を流して私に手を伸ばしている姿です。
今も泣いているのではないかと心配になります。
「ソール達精霊は、強い力を持ちます。
それなのに様々な物がどういった力加減で壊れるのか、どう力を入れたら生き物にとって致命傷になるのかが分からない様なのです。
私達契約者は「力の契約」と「命の契約」を行っているので、精霊達の攻撃は私達には通用しません。なので、精霊であるソールと契約している間は他の精霊達からの攻撃によって命を落とす事もありません。
ですが、今回のフィーナのように意図しない攻撃は私達も怪我をします。
特に気にしないで取った行動がどういった結果に繋がるのか、理解する事が出来れば皇宮から出れますが・・・。
ソールは今回のように『身近な人物が怪我をする』といった事に直面していませんでしたし、『ソール自身の行動の結果が怪我に繋がった』という事も初めてでした。なのでソールには酷な事をしていると分かっているのですが、一度フィーナと離して『どうしてこうなったのか』を考えて貰おうと思ったのです。」
アスラさんも思う所があるのか、読んでいた本を閉じて私の問いに答えます。
「ですが、ソールさんはまだ小さいですから・・・。」
私はそこまで言って疑問が湧き上がってきました。アスラさんは私を見ています。
「そもそも、ソールさんは何歳なのでしょう?精霊さまですもの、私達の『常識』をどこまで理解出来ているのでしょうか?」
そうです。私はソールさんを初めて見た時「幼児」と思いました。
ですがアスラさんや義両親、ヴァレンタ家の皆さんはソールさんに対して「成人」の対応をしています。
ソールさんも口調や動作が可愛らしいですが、キチンとした所ではそれなりの対応をします。
私の疑問は何処までも膨らんでいきます。
「やっぱり、フィーナは凄いです。
フィーナの疑問も今の私には分かる気がします。申し訳ない事に、私達は以前のソールの姿を見ているのでどうしても『子供』扱いが出来ないでいたのです。」
アスラさんが私を見ながらそう言います。
「ソール達はこの帝都に発現した時、既に成人の姿でした。なので最初に城での扱いは『普通の客人』と同じだったそうです。
しかし、私達『ヒト』と『精霊』は根本的に考え方が違います。『当たり前の常識』が通用しない事に皆戸惑ったと聞きます。私達が契約者として選ばれるまでソール達は皇宮で生活をしていたのですが、その間、何人もの部屋付きの者が辞めて行ったと聞きました。
確かに私がソールと一緒に暮らした1年くらいの間、ソールの行動に驚く事がありました。『なんで』『どうして』と聞いてくる事の多さに辟易した時もあります。
ですがどうでしょう、フィーナと過ごした1ヶ月の中でソールは随分とシッカリとしました。『何故やってはいけないのか』『どうしてダメなのか』をキチンと伝えれば、ソールは理解出来ました。
私達が『守って欲しい事』これらの事は、小さな子供の時に大抵教えて貰う事です。
フィーナは最初からソールに対して『幼子』に接するように物事を教えていたっでしょう?その姿を見て、私達は思ったのです。
・・・間違っていたのは『私達の方』だったのだと。」
アスラさんは苦しそうにそう言いました。
確かに私も成人した姿のソールさんを見たら、今と同じように接する事が出来るのか自信がありません。
「困っている人がいたら、助けてあげましょう。」と習っても、実際の行動に移せるヒトはどれだけいるのでしょうか?「文化も生活習慣も違うヒトの補助をして下さい。」と言われたら給金次第では生活の手助けをしても良いと思えますが、申し訳ないのですが自分の生活を犠牲にしてまで「やりたい事」ではありません。
「アスラさん、聞いて下さい。
今回の私の怪我は、確かにソールさんが原因になると思うのです。ですが、だからと言ってソールさんをただ怒るのは止めましょう?
ソールさんがどれだけの年月を生きていたのか私には分かりませんが、良く考えてみればソールさんは私達と同じ世界で生きるのはまだ4年目?なのでは無いのでしょうか。私達『ヒト』で考えると3歳という事になりますよね?
それなのに私が怪我をした事で危ないからって『隔離』されてしまうのは、やっぱり可哀そうな気がします。」
私がアスラさんの方を見てそう言うと、アスラさんも下げていたお顔を私の方に向けて「そうですね。」と言ってくれました。
「ですが、ソール達『精霊』はヒトに危害を加えた事が周りに知られたら、皇宮でもう一度、復習を兼ねた授業を受ける事になっているのです。」
続いたアスラさんの言葉に私は「?」と首を傾げます。
「私への通信用の魔石はソールに渡してあります。それを使って事態を私に知らせてくれていれば、こうは成らなかったのですが・・・。
・・・ソールは『皇宮』にいた私の所に『転移』してきて大きな声で『フィーナが死んでしまう』と騒ぎ、『ソールが!』『ソールが!』と泣いていましたから、察しの良い方は何が起きたのか分かってしまったのです。
それに『問題を犯したとされる』ソールを皇宮に送らないと、私も皇宮に拘束されることになります。私はフィーナの傍に付いていたいので、『それならば』とソールを皇宮に送還したのですよ。」
アスラさんは「ソールさんの送還について」を私に説明して下さいますが、まぁソールさんがお城に送られた理由の大半が「自業自得」という事になるのでしょうか?
あれ?アスラさん、私じゃなくてソールさんの方にこそ付いていてあげた方が良いのでは?
そんな疑問が私の中に浮かび上がりますが・・・
ソールさん、「公共の場」では静かにしないと怒られるのですよ?
私は小さかった時にお母さんに静かに怒られました。
・・・・あの時は、周りに居たチビッ子さん達も一緒に泣きそうになっていました・・・。
ソールさん、公共の場で「騒ぐ」事は本当にダメな事ですよ?
「明日、仕事の帰りにソールに会って来ます。」
とアスラさんが言いますが、今日からソールさんの傍に付いていても良いのでは?なんて思う私は甘やかし過ぎなのでしょうか?
真名はお互いに交換したり、真名を呼ぶ「権利」を相手に与えないと「名前」だと認識できません。
ですが、口の動きなどで思いがけず相手の真名を知ってしまう時があるので、自分の真名を口にするヒトはいません。
フィーナ自身も気が動転していて、自分が持っているアスライールへの魔石の存在を忘れていました。




