27 おかしなおかしな、のその後ろでは・・・
ジスリニア編です。
みなさんこんにちは、ジスリニアです。
姉さんが帝都に向かって1ヶ月が経とうとしています。
最近は家事を手伝っているのですが、家事をしていた姉さんを本当に尊敬します。
「嫌な事があったら、お芋を茹でてこれでもか!って潰すとスッキリしますよ」と笑顔で言っていた姉さんが懐かしいです。私も、1月中は家族のご飯を作ったり洗濯をしていました。最初の内は大変で失敗もしたりしていましたが、慣れてくると楽しくなって来るので不思議です。
お父さんもお母さんも「学業優先で!」と言ってくれているので、2月からは休みの日に手伝えればいいなぁと思っています。
私は兄と姉、妹と弟がいる5人兄妹の真ん中に産まれました。
私が物心付いた頃、この辺りでは兄さんと姉さんが1組で扱われていて、2人は有名でした。
後から思いだすと姉さんが兄さんを振り回していたような気もしますが、姉さんは兄さんの後ろを付いて行っていて私と一緒に居る事はあまりなかった気がします。
でも、ふとした時に周りを見ると兄さんも姉さんも傍に居たので「寂しかった」と思った事はありません。
私の小さかった時は家から出る機会が無かったので、家族と一緒の思い出がたくさんあります。
兄さんが学園に通い始めて暫くたった頃、姉さんが「おかしをつくりますよ!」と言ってお菓子を作ってくれました。
出来上がったお菓子を最初に食べた両親が感動していましたし、私も初めて食べる食感に感激しました。とても美味しくて従業員の皆さんにも好評でした。姉さんは「『ぷりん』よ?」と言っていましたが、姉さんはどこで作り方を憶えて来たのでしょう?
姉さんが学園に通い始めの時は色々な物に興味を持って追いかけて行ってしまうので、兄さんと一緒に帰ってきていました。学園に行く時はまっすぐ行けるのに、帰ってくる時は寄り道して帰ってくるのでお父さんは気が気ではなかったと思います。それで兄さんと一緒だったら!とお父さんは考えましたが、結果は、残念な事に兄さんを巻き込んだ姉さんの勝ちでした。
・・・不思議な事に2人の帰りが遅いと近所の人たちが「あそこにいたよ」と教えてくれていたので、余り遅くならないのであれば両親も気にしない様にしていたようです。
どうやら姉さんが小さい時に「散歩」と称した外出で行方不明になる事が多くて、東区の皆さんも姉さんを見かけたら声を掛ける様にしていたようです。
そして、学園時代の姉さんと言えば、ケイトさんの事は外せません。
ケイトさんも、最初は学園で突然変わった事を始めてしまう姉さんを止める目的で一緒にいたみたいですが、姉さんは「友達」として接していました。その時からの付き合いですからケイトさんも姉さんとの関係は「友達」扱いで良いようです。
ある日、お店が忙しくて誰も手を離せそうにない時に、姉さんが「空を飛んでみようと思います!」と言ってシーツを片手に屋根に上った時はケイトさんの家まで全速力で走りましたからね。
兄さんが出掛けていて、お父さんとお母さんの手が離せない時に限って姉さんは「何か」を思いつくようなのですが、あの時ばかりは本気で止めて欲しいと思いました。ケイトさん、あの時は本当にお世話になりました。
ケイトさんは学院には進学しなかったのですが、その後もお互いの家を行き来していたので私も良くお話をします。そんなケイトさんは来年結婚するようで、今は結婚衣装の刺繍をしていると聞きました。
姉さんはケイトさんの結婚式に出席できるのかなぁ?姉さんのお家の住所をケイトさんに教えないといけませんね。
そう言えば、帝国では2月の第3週目に新緑祭があります。
毎年、姉さんと一緒に行っていたのですが、今年は誰か友達を誘ってみようと思います。
新緑祭と言えば、2年前の新緑祭を私は鮮明に憶えています。
新緑祭は「未婚」の男女が「妖精姫」と「妖精の騎士」に選ばれます。
このお祭りは、新緑の頃に「大地の女神の祝福を受けて実りある1年を送れるように」と人々が願い始めたお祭りなんだそうです。
その対になっているのが「収穫祭」となっていて、その年に結婚した夫婦から選ばれます。
こちらは特には何も無いのですが、その年の報告を女神様にして「次の年もよろしくお願いします」とお願いするお祭りです。
収穫祭では屋台や出し物があるので姉さんと良く一緒に行きましたし、興業を見に行く日にはお店を休みにして家族と見に行っていました。
2年前の新緑祭の時は兄さんと姉さんが選ばれたので、毎年の新緑祭の時にはお店を営業していたのですが、お店を休みにして家族で見に行きました。
兄さんと姉さんが着ていた服は領主様が準備して下さったようで、とても良い出来上がりでした。
2人は衣装の仕立てをするのに何回か領主館に行っていましたが「出来上がりは当日を楽しみにして下さい!」と姉さんは言っていました。
なので初めて見る兄さんと姉さんの「妖精の騎士」と「妖精姫」の姿がもう本当に「どちらさま!?」と思う様な仕上がりで、その時の家族の驚き様が今では笑い話になっています。
遠目に見ると何処か貴人の様に見えますが、それでも良く見ると私の兄さんと姉さんなのでどう反応したらいいのか困ります。・・・確かに普段は姉さんにばかり目が行ってしまいますが、兄さんも見た目が良いので私の友達からは人気があります。
姉さんは自分の容姿について、もう少し考えた方が良いと思うのです。妹である私が言うのもなんですが、姉さんは世間では「美少女」扱いなんですよ?
珍しい金色の髪をしている姉さんは世代を問わず女の子の憧れです。
瞳の色も明るい紫の瞳なのでそれに輪をかけて「可愛い」って人気があります。
私の瞳の色も紫色なので姉さんは「一緒ね!」と言いますが、私の瞳の色は「夜の帳」の様に青味が掛かった紫色です。姉さんの「黄昏時」の様な赤味の掛かった紫ではありません。姉さんの容姿は、私達が兄妹だと知らない人であれば「他人」と間違えるくらい見た目が違うのですよ!
兄さんは小さい時から姉さんと一緒に居るからそこまで気にしていないようですが、周りの人はそうでは無かったと思います。
物語から抜け出して来たような姿の兄さんと姉さんは、馬車に乗って街道に居る人達に手を振りながら楽隊や舞を踊る人たちを従えて商業都市を回ります。
中央区の領主館から北区、西区、南区と回って最後に東区に回ってきました。
最後に領主館に戻る時に街道に居る私達を見つけた姉さんが大きく手を振ったので、東区の皆は姉さん達に歓声を送っていました。私の隣に居たティアーナがそんな姉さんを眩しそうに見ていたのを、私は憶えています。
私の家は兄さんと姉さんが「妖精の騎士」「妖精姫」に選ばれたので、後日兄さんと姉さんそれぞれ2枚ずつの姿絵と2人が一緒に描かれている2枚の姿絵、計6枚の姿絵が家に運ばれてきました。
お父さんとお母さんはとても喜んでいましたが、当の2人は姿絵に興味が無いのか納戸に仕舞おうとしていたので暫くの間お店の方に飾っていました。
2人には内緒ですが、私も小さい姿絵を購入して部屋に飾っています。普段とは違う姿の2人ですが、こうして見るとやっぱり私の兄さんと姉さんです。2人が着た衣装は各自のクロゼットの中に入っていますが、果たしてこの先クロゼットから出される日が来るのか・・・。
姉さんは「着ても良いですよ」と言ってこの衣装をクロゼットに入れたまま置いて行きましたが、体型が違うので遠慮させて貰います。私が「着ませんよ」と言ったら姉さんは残念そうにしていましたが、このドレスは商業都市ではとても有名な衣装になってしまったのでどう頑張っても私には着れる気がしません。
去年の「妖精姫」「妖精の騎士」がどんな衣装だったのか忘れてしまうくらいの人気でしたからね。何だか申し訳ない気分です。
今年の「妖精姫」「妖精の騎士」には頑張ってほしいです。
私が小さい時に「親切な人」が「お姉さんはどこからか攫われてきたのではないか」とか「不貞の子」何て言って来る人もいました。お父さんとお母さんの仲を見てそんな事を言える人がいるのにビックリした事を憶えています。
ご近所の皆さんは笑って否定していましたし、私も「違う」と思っていたので気にしない様にしていました。
まず、姉さんは両親に良く似ていると私は兄さんと話しています。
私は記憶にないのですが、お店が今の形態になったのは姉さんが発端らしいのです。
今まで普通に行っていた事だけではなく、時には違う切り込みで物事を見る。こういった「物事を見る」所がお父さんにそっくりだと思うのです。
ただ、私達には付いて行けない所もあるので、お父さんと姉さんの会話に入れる人が居ないのが困った所です。兄さんも悔しそうにその会話を聞いている時があるので、姉さんの性別が「男性」だったら跡取りはどうなっていたのでしょう?・・・姉さんの事なので、兄さんの後ろで働く事を選びそうですね。
お母さんは「やりたい事」と「やりたくない事」がハッキリとしています。
細かい作業なんかは出来る人に任せていますし、融資交渉や仕入れの交渉とかそういった事に対してお母さんはウキウキしながら対応します。
姉さんも、自分がやりたくない事を他の誰か(大抵兄さん)に「お任せします!」と言って押し付けますし、その逆で「楽しそう!」って思った事は自分がやりたがるのです。
姉さんが「楽しそう」と思った事は大抵周りの皆さんの評判も良くて、お店の売り上げにも貢献しています。(・・・まぁ、利益にならない時も多くて一回限りの「いべんと」の方が多いのですが。)
1年で何回か「いべんと」を行っていますが、この日を楽しみにしているお客様もいるみたいなのでこれからも続けて行く予定ですよ。
・・・姉さんに配っていたお菓子の作り方を聞かないと!
ただ、お母さんの要素が真逆に出た「料理」に関して、私達は姉さんに頭が上がりません。
もしかしたら料理に関しては、お母さんのお姉さんであるニリアさんに似ているのかもしれません。私達は夕食を良く伯母さんであるニリアさんの所で食べていたのですが、姉さんが学院に行くようになってから朝食は姉さんが作る様になったのです。
私は、その時に衝撃を受けました。
お父さんも「フィーナは料理も上手だねぇ」と言っていたので、衝撃を受けたのは私だけでは無かったのだと確信しました。
今まで朝食はお母さんが作っていましたが夕食で食べるニリアさんの料理との違いがあっても、其れが「普通」だと思っていたのです。お昼は学園で支給されましたから気にしていませんでした。
なのでその日は、私の常識が一気に崩された日だったのです。兄さんは今までが「普通」では無いと分かっていたのか「ようやく普通の朝食が!」と感動した様に言っていましたからね・・・。
その日からです。
我が家の台所が姉さんの領域になったのは。
姉さんは時々お母さんと一緒に料理をしていましたが、その日の食卓にはあまりにも対照的な料理が並びます。敢えてお母さんの料理を食べる姉さんを私達は尊敬の眼差しで見たものです。
料理の調理法はギルドに1品の調理法から登録する事が出来ます。姉さんが調理法を幾つか登録しているので、ギルドからの収入があるのを私達は知っています。「うふふ~~」と言って明細を見ていたので、毎月の収入として結構な金額が姉さんの所に入って来ていたのではないかと私は思います。
今、私はお父さんに相談して、ニリアさんの所でお手伝いをしながら料理を憶えている所です。ニリアさんも姉さんの結婚は喜んだのですが「ごはん」を炊くのはとても難しいので、「出発にもう少し余裕があったら良かったのにねぇ」と言っています。私も姉さんが商業都市から出て行ってしまうなんて思いもしなかったので、料理を教えて貰わなかった事をとても後悔しています。
それに、下の弟妹が寂しそうなのも気になります。
姉さんの出発はとても急だったので、学園から帰って来た時に姉さんがいなくて悲しそうにしていました。特に姉さんに懐いていた末っ子のスバルは、ほぼ毎日手紙を書いています。
2月から新学期が始まるので学園生活に支障が無ければよいのですが・・・。
私も今学年で学院を卒業する事になりますが、この先どうするのかを決めていません。
姉さんの様に「結婚」と言う縁が私にもあるのでしょうか?
学園の卒業の年に「婚約者」が出来始めた友達は18から22歳で「結婚」することが決まっているようですが、学院を卒業予定の私の所には「縁談」が来ている気配がありません。
姉さんは「結婚は勝ち取るものだよ!」と言っていましたが、私には姉さんの様な華やかさも賢さもありません。
ただの「平凡」な私が結婚するのはまだ先になるのかもしれません。
でも、どうしても結婚したくなったら帝都に行ってみようかなぁって思います。
・・・姉さん、その時はよろしくお願いしますね!
最近、台所に居るとお母さんの視線を感じるようになりました。
私は姉さんの様にお母さんの相手をしながらの料理はできないので、今も気付かないふりをしながらお芋を潰していますがそろそろ限界を感じます。
誰か!お母さんの相手をして下さい!
兄さん助けて!
ジスリニアは上の2人を見て成長してきたので、自分の行動に自信がありません。
学院を現役で卒業できるのでジスリニアも優秀なのですが、リューイやフィーネリオンが色々と目を引くので周りの視線が気になって今の性格になった。
それでも2人の事が好きなので、2人の後を付いて来た子。
両親は子供の行動を後押しするので、ミュー家の上の3人は東区では「優秀な子」扱いになっています。知らないのはリューイとフィーネリオンとジスリニアだけ。
そんなジスリニアはご近所で「お嫁さんにしたい子」NO.1の地位を築いています。
新緑祭は、ヒトの願いを妖精が女神に伝える行事です。ヒトの願いを妖精が女神様に伝える為のお祭りです。豊作の時は皆の声が女神様に伝わったとされています。不作だったり干ばつが起きた時は「女神さまの機嫌が悪い」という扱いになるので妖精姫や妖精の騎士に選ばれた人は、逆に労わられます。
収穫祭は、ヒトが女神さまに1年の感謝の気持ちを表す行事になっています。
賑やかにする事で感謝の気持ちを女神さまに伝えようと、様々な出店が出たり興行が行われたりします。




