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25 おかしなおかしな  4ページ目







「おかしゃん!」



・・・・えぇ、そうですね。2年ほど前の私が描かれた「姿絵」ですよ。

パッチリと目が覚めたソールさんは余程その絵が気に行ったのか、「おかしゃん!」「おかしゃん!」と言って拍手しています。


お義母さんもそんな様子のソールさんに気を良くしたのか、2枚目・3枚目の絵もソールさんに見せています。



「にゅ!?りゅーい!」

ソールさんはお兄ちゃんがお気に入りなのか、3枚目の「私とお兄ちゃん」が描かれている絵で「バンザイ」をしてその状態で私を振り返りました。そんなお姿も可愛らしいです。



「あら?『妖精の騎士』を知っているの?」

お義母さんが私に尋ねてきました。



「えぇっと・・。私の隣に描かれているのは、私の『兄』です。」

本当ならば、このポジションは「婚約者」の方が行うみたいなのです。ですが、私にはそのような方は居なかったのでお兄ちゃんが選ばれたと聞きました。・・・まぁ、本当かどうかは分かりませんが。




「まぁ!そうなのね。とても良くお似合いな婚約者同士と思いましたのよ?」

お義母さんが手に持っている絵を見て私に言います。


良かったね、お兄ちゃん。私達お似合いだって!


・・・でも、商業都市に住んでいた人だったら私達が「兄妹」だって知っていたハズですし「腕輪」をしていないのもこの衣装だったら分かるハズなのに、縁談の申し込みの「え」の字も見えないくらい私達の周りは静かでしたよね。何ででしょうね。




「えぇ・・・・。とても良く似合っています。」

アスラさんがそう言って私の描かれている絵を見ています。



・・・・?




「アスラさん?どうしたのですか?」


「いえ、2年前の私はどうしてあんな場所に居たのか・・・。せめて帝都に居ればこの姿を見る事が出来たかもしれないと思うと、何だかやる瀬ない気分になります。」



「あんな場所」ってどんな場所ですか?とても気になるのですが・・・。

それに帝都でこの絵姿が売り出されるのは、新緑祭が終わってから1週間後ですよ?

この絵が描かれた時の私はアスラさんとは全くと言っていいほど関わりがありませんし、例えアスラさんが帝都に戻って居たとしてもこの絵が帝都で出回っている頃には新緑祭は終わっていますからね?たとえ「伯父さま」がご領主さまだったとしても、アスラさんは「帝都」で新緑祭を迎えていたと思いますよ?




「全部、皇帝陛下の『お触れ』がいけなかったのよ!」

お義母さんが右手を握りしめて言います。



その様子をソールさんが不思議そうに見ていますが、ソールさんには「がっつり」関係が有ります。

今回は「大人の事情」と言う事になるので、そっと耳を塞がせて頂きます。



「みゅっ!」

私に抱き上げられ耳を塞がれて驚いたソールさんが私を見上げますが、私はシッカリと任務をこなしますよ。



「全ての都市に『お触れ』を同時に出すなんて、あり得ませんのよ!信じられません!

良く考えれば混乱が起きる事くらい分かるでしょうに!」

お義母さんは堰が外れたダムのごとく「皇帝陛下」の事を罵ります。


・・・・あれ?お義母さんは「貴族」ですから、皇帝陛下を敬っていますよね?お義父さんもお止しないのですか?そんな事を想ってお義父さんの方を見たのですが、ナゼかお義父さんはギースさんに慰められていました。

ニナさんもお義母さんを宥める為に傍に寄っていきます。



「おかしゃん?」

私に両耳を押さえられているので、このカオスな状況を1番の特等席(私の膝の上)で見ているソールさんが不安そうに見上げます。ソールさんは、私とお兄ちゃんの描かれた絵を「しっかり」と持っています。


どうしたら良いのか分からなくなって来たのでアスラさんに進退を聞こうと思ったのですが、アスラさんも私の描かれた絵を見ています。



・・・どうしてこうなった!




「アスラさん」

声を潜めてアスラさんの名前を呼んだら、アスラさんが私の方をみました。



「あぁ・・・。フィーナ、どうしました?」


「今日は何だか疲れたのでそろそろ部屋に帰ろうと思うのですが、どうしましょう?」

もう、寝るしかない!疲れた時は、ゆっくりお風呂に入ってから寝るのが1番です。

明日には、こんな騒動は忘れ去られているハズです!



「あぁ、そうですね。ソールも寝る時間ですね。」

お部屋に設置されている柱時計を見てアスラさんがそう言うと、私の絵をテーブルに置きました。

アスラさんはソールさんが持っている絵も受け取ろうと手を伸ばしたのですが、ソールさんは「やっ!」っと言って絵を抱え込もうとします。ですが、物理的に絵の方がソールさんよりも大きいので絵はアスラさんに簡単に剥がされてしまいました。


「や~~!!」

ソールさんは余程「お兄ちゃん」の描かれている絵が気に入ったのか、一生懸命手を伸ばしています。




「令状に書かれていた名前がお兄ちゃんの名前だったなら、ココに居たのはお兄ちゃんだったのに。お兄ちゃんは『素敵お兄ちゃん』なので皆さんとも仲良くなれますよ?」

ソールさんは本当にお兄ちゃんの事が好きなのだと、その様子を見て私は「思わず」口にしてしましました。



「はあっ!?」

「みゅっ!?」

ソールさんを確保していたアスラさんから声が上がります。その状態で抵抗しようとしていたソールさんからも声が上がります。


「「えぇっ!!」」反対側でギースさんに慰められていたお義父さんと、ニナさんに宥められていたお義母さんが私を見ます。


思いも掛けずこの部屋の中に漂っていたカオスな雰囲気が一気に収まりました。

ですが、私が視線を一気に集めてしまったようです・・・。あれ?皆さん私を見ているようですが、どうしたのですか?



「フィーナ・・・。やはり、私とい「嫌ですよ~~!フィーナ様がいらっしゃらないなんて、アスライール様の傍仕えとしての楽しみが一気に無くなってしまうではないですか!!それだけは後生ですから、考え直して下さい!お願いします!」

アスラさんが何か言おうとしましたが、(私が知る限り)この2週間アスラさんのお傍に仕えていた「侍従」(?)さんが私の足元に「土下座」状態で懇願してきます。・・・この世界に土下座はありませんよ?両膝を付くのは「服従の証」となっていますから本気で止めて頂きたいです。



「え、・・えぇ?」

私が困惑で返事が出来ないでいると



「そうですよ!御嬢様がいらっしゃらなかったら、奥方様や旦那様が悲しみますのでその様な事を仰らないで下さい。」

ニナさんも私に言います。


「旦那様も奥方様も、もちろん私共ヴァレンタ家に仕える者一同が御嬢様の事を『ヴァレンタ家の御嬢様』と思っております。ですから、その様に悲しい事を仰らないで下さい。」

まさかギースさんからの言葉が1番重いなんて・・・!


2人とも、いつもは「フィーナさま」でしたよね?今、私の事を「さらり」と「お嬢様」と呼んでいますが、それは間違いですからね?大丈夫ですか?



「いえ、確かにリューイ殿は私よりもしっかりしていますし・・・。リューイ殿はフィーナから信頼されているのでしょうが・・・」

アスラさんが何だか気落ちしています。大丈夫でしょうか?


「おかしゃん・・・」

ソールさんも目に涙を溜めて私を見ています。


私の後ろから「ぐすっ・・」っという音が聞こえます。

後ろを振り向いて見たら、私のお世話をして下さっているメイドさんが泣いていました。どうしたの!?




「えぇ!?皆さんどうしたのですか?私、何か変な事を言いましたか?」

先程とは違うカオス空間が出来上がっている事は分かるのですが、私は「ナニをやらかしたのか」が分かりません。




「フィーナさんは私達が嫌になって先程の事を言ったのでは無いのかい?」

お義父さんが私に確認するように聞いてきます。



「そんな事はありませんよ?」

私がそう言うと、義父さんは「では何故先程の言葉が出てきたのか教えて欲しいのだが良いかい?」と続きます。



「え?『ソールさんはお兄ちゃんが好きなんだなぁ』と思ったからですよ?特に意味は無かったのですが?」

私からの返事にまさか自分の名前が出るとは思っていなかったソールさんは、「ぴょっ?」っと驚いたように私を見ています。



「私の家に来た時の滞在時間は少なかったのですが、ソールさんはお兄ちゃんととても仲良くしていましたしアスラさんもお兄ちゃんと親しくしていました。私はその姿を見て嬉しかったので、皇帝陛下からの令状を受け取るのはお兄ちゃんでも良いのではないかと思ったのです。

・・・まぁ、令状には私の名前が書いてありましたから私が来ましたけれど、どうなのでしょう?」


「いえ、流石にリューイ殿と『婚姻』はできませんよ?フィーナとだから『婚姻』したのですよ?」

私の言った事にすかさずアスラさんからツッコミが入ります。



「むぅ。『共同生活』みたいな感じで一緒に住んでみたらいいのではないですか?」


「いや、流石に息子と『同性』である方と一緒に生活させるのは・・・」

私の提案はお義父さんに却下されました・・・



「むぅ。お兄ちゃんはお掃除とか生活に必要な事はできますよ?」


「それは素晴らしいわね。でも、それはこちらから人を出せば済んでしまいますから大丈夫ですよ。」

こちらもお義母さんに却下されます。



「むぅ。お兄ちゃんは手の空いている時は一緒に遊んでくれますよ?」


「みゅっ!」

ソールさんはとても良い反応をくれました!



「お兄ちゃんはどこに出しても恥ずかしくない、『素敵なお兄ちゃん』ですよ!」


「えぇ、そうですね・・・。」

アスラさんはそう答えてくれます。



「フィーナ様は、御兄様の事がお好きなのですね。」

ニナさんが私にいます。



「はい!大好きです!

私の大切なお兄ちゃんですからね!大好きですよ。もちろん妹のニアちゃんとティアちゃん、弟のスバル君も大好きです。」



私の返事に周りが息を呑んだ様になりましたが、続いた言葉に息を吐いていました。



「?どうしました?」



隣に座っているアスラさんが「良かった・・・」と言っていますが、どうしたのでしょう?


「おかしゃん!」

と言って、アスラさんの膝の上に居るソールさんが手を伸ばして来ます。


「どうしました?」

プニプニしているソールさんの手は触り心地が良いので、ずっと触っていたくなります。



「『おかしゃん』は『おとしゃん』のことは『しゅき』でしか?」




ソールさんから、まさかの爆弾発言です。心なしか周りの皆さんが私達の会話に注目している様な気がしますよ。



「えぇっと・・・?」


「『きらい』でしか?」

大きな瞳に涙が溜まってきているのでソールさんが泣いてしまいそうです。



・・・



「ふぇ・・・。」

「『好き』ですよ!」



そうです「女は度胸!」ですよ!少し忘れかけていましたが、私の「格言」ですからね!(だったような気がします)

「好き」って言いました!言いましたよ!重要な事ですから2回言いました。


泣きだしそうだったソールさんが「ふぇ~」と言って私を見ています。



周りが一気に賑やかになりましたが、そんな事よりも向かい合わせで座っていらっしゃるアスラさんの視線が私に突き刺さりそうです。そんなに見られたら(胃に)穴があいてしまいそうなので、そろそろ違う所を見て欲しいのですが・・・。


そう、そうなのです。「アスラさんの膝の上に居るソールさんと向かい合う」と言う事は「ソールさんを膝の上に乗せているアスラさんと向かい合う」と言う構図になるのです。恥ずかしさで気絶できる「御令嬢」では無いので、ただひたすらに羞恥心との闘いです。



「私、やらなくてはいけない事が出来ましたわ!ニナ、行きますわよ!」

「はい、奥方様。」

お義母さんがニナさんを連れて颯爽とお部屋から出て行きます。


「ギース、確認したい事があるから執務室に行くぞ。」

「かしこまりました。」

お義父さんがギースさんを連れて同じように出て行きます。


「アスライール様。何か用事があったら呼んで下さい。」

「フィーネリオン様。御用がございましたらベルを鳴らして呼んで下さいませ。」

アスラさんの侍従さんとメイドさんが部屋から出て行きます。



な・・・何ですか皆さん!置いて行かないで下さい!私も連れて行って下さい!



私達以外全員が出て行ってしまったので、先程までの賑やかさが懐かしく思います。

今すぐベルを鳴らしても良いですか?




「フィーナ。」

アスラさんが私を呼びます。



「はい。」

恥ずかしさで真っ赤になっているであろう顔を両手で覆っているので、アスラさんへの返事が籠もっている様に聞こえないか心配になります。



「フィーナ。そのままでも良いので聞いて貰えますか?・・・いえ、聞いて下さい。」


アスラさんからそう言われたので、もう少しこのままの姿で聞かせて下さい。
















「家族の中で1番誰が好き?」って聞かれたならば、今までのフィーナであればリューイ「一択」でした。

フィーナが実家にいた時、家族の中では一緒にいた時間が1番長いから「お兄ちゃん」が1番好き。

弟妹はみんな同じくらい好きだけど、ニアが1番仲が良い。

お母さんも同じくらい好き。何だかんだ言ってお父さんも好き。


結局フィーネリオンは「家族みんなが好き」



でも、それは「今まで」のフィーネリオンのお話。



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