21 はじめての、のその後で・・・
お母さん編です
みなさんはじめまして。ネリアイールです。
娘のフィーネリオンが結婚して帝都に向かって出発して、最近は店内が静かに感じます。
家の方もフィーナの居た頃が嘘みたいに静かになりました。ラルフったら、自分の部屋に飾っている絵をフィーナの絵に変えているから相当堪えているみたいです。(・・・気持ち悪いわ~)
フィーナが出発した時に家に居なかった学園組の2人は、帰って来たらフィーナが居なくて寂しそうにしていますからね。3番目の娘のティアーナは普段はあまりそんな素振りは見せないのですが、やっぱり寂しいのかフィーナのよく居た場所を見ています。下の息子スバルに至っては、「なんで?どうして!」って言っていますからね。そろそろ「姉離れ」して欲しいわ。
・・・フィーナは年頃の娘なのでそろそろ結婚の相手を探さなきゃいけないと思っていたのですが、今回のお話は本当に「渡りに船」でした。何もしないでラルフに任せっきりにしていたら、あの子は婚約はおろか恋人だって出来なかったと思いましたよ。最初の「1人」をお嫁に出せば、その後の「2人目」「3人目」もお嫁に行きやすくなりますからね、やっぱり最初の「1人」が大切なのよ!
何よりも「ヴァレンタ家」と言ったら、結構有名な伯爵家だった気がします。此処の商業都市の領主さまの弟様の家名でしたよね?アスライールさんは3男って言っていましたが、あちらの跡取り様はだいぶ前にご結婚していたと記憶しています。アスライールさんは、自立の為に「騎士」になったのでしょうか?あちらのお家の事情は良く分かりませんが、フィーナったら本当に「玉の輿」に乗ってしまうのだから困るわ。
フィーナが少し飛びぬけていますが、私の娘はみんな可愛いのよ!ラルフに内緒でニア達にも「良い人」が居ないのか聞かないと!
そう言えば、そろそろ新緑祭の時期になります。帝都と各都市とでそれぞれ「妖精姫」「妖精の騎士」が選ばれてお祭り中は絵姿が売られるようになります。フィーナは2年前の15歳の時に「妖精姫」に選ばれたのですが、相手の「騎士」役が誰になるのか少し揉めたらしいのです。結局リューイがその役に収まっていましたが、私の記憶が正しければ兄妹が相手役に選ばれるのはその時が初めてだったと思います。
各都市の「妖精姫」「妖精の騎士」の絵姿は1週間後に帝都でも販売されるのですが「商業都市の妖精姫」はとても人気で、姿絵の再版希望も出たらしいのです。ですが、「再版の前例が無い」との事で話は流れたみたいです。
その後暫くの間はフィーナに縁談が来ていたのですが、困った事にラルフったら全て断ってしまったのです。リューイの学院卒業の時も、フィーナの卒業の時も(あの時は凄かったわ!)全て断ってしまうからどうしようかと思ってしまいました。
フィーナの金色の髪はとても珍しくて、産まれた時はそこまで目立たなかったのです。
成長をしたら私達と同じ髪色になると思っていたのに、そのまま変わらず金色のままでした。末の息子スバルも産まれた時は金色の髪でしたが、学園に行くようになった頃には私の亜麻色に近い栗色になっていましたから、フィーナの髪色はこの辺りではとても珍しいのです。瞳の色も私達とは違い「紫」でしたから次の年にニアが産まれるまで「本当に私達の子なのかしら?」とラルフと話し合っていた事はあの子には秘密です。
フィーナについては私の両親が今でも「フィーナは何処かのお嬢様なのではないか?」と言ってくる時があるのですが、私達も心配になるのでやめて欲しいです。フィーナは私の子ですよ!
その珍しい「色」を持つフィーナは少し「特殊」な感覚をお持ちの方には興味を持って頂けたようで、学園に入る迄に何度か誘拐され掛かっていました。その節は兵士団の方々には本当にお世話になりました。それはもう、兵士団の詰め所を新しく近所に建てて貰えるくらいお世話になりました。もともと東区には2つありましたが、この店舗からは離れた所にありましたから、本当に助かりました。
私がフィーナに「知らない人に食べ物を貰ってはダメよ?」と言っても「3かいくらい『あいさつ』しましたよ?」って返事を返してきたり、「知らない人に付いて行ってはダメよ?」と言っても「きのう、おみせであいましたよ?」何て答えが返ってくるので、回収してくれた兵士団の方達に「はははっ!」て笑われた時は恥ずかしくて仕方が無かったわ。
ですが、私達の心配を他所にフィーナは元気にリューイの後ろを(何処までも)付いて行くものだから、「女の子」って言う事を忘れそうになる時もありました。フィーナはお店のお客さんに付いて行ってしまう時があったので、従業員も「目が離せない」と言っていました。すぐ下の二アが「大人し過ぎる」と間違えるくらい元気に成長しました。ニアもいろいろとやっていましたからね、元気に育ってくれて良かったわ。
リューイとフィーナは一緒に居る事が多かったのですが、家の中ではニアも一緒に遊んでいたので兄妹仲は良かったと思います。
・・・世間的に幼い時の女の子は「赤色」「バラ色」「橙色」を好むと言われているみたいなのですが、私の娘達は不思議な事にフィーナは「緑」ニアが「青」を好むという何とも不思議な現象が起きました。
私の姉の所には当時(今も)男の子しか居なかったので嬉々としてそういった色の服を仕立ててくれたのですが、フィーナとニアはあまり着てはくれませんでした・・・。
ラルフがその時の絵を残しているのですが、2人にはとても良く似合っている服でしたよ。ですが2人が普段着るのはいつもの色の服だったので、私はそういった色の服を着せるのは(お祝いの時以外は)諦めました。姉はその後もめげる事無く頑張っていましたから、娘達は服に関しては困らなかったと思うのです。
そんな姉の思いに応えたのがティアーナでした。2人のお下がりのほぼ新品の服を着せていたら、姉がとても喜びました。まぁ、フィーナと二アが「そういった色」の服は着ないと切り替えた姉は「緑」と「青」の生地で可愛らしい服を姉は作っていました。2人がその服を着ていたので問題は無かったのだと思います。
今回の騒動でも心配をしてくれたみたいで、フィーナとアスライールさんの2人(ソール君を入れたら3人かしら?)が話し合っていた時に夫婦で家に来ました。
「大丈夫よ」って伝えたけれど、多分私の不安が姉夫婦にも伝わってしまったのでしょう、「何かあったら言うのよ?」と言われてしまいました。
「騎士様」の事はリューイは最初から好印象だったようですが、私から言わせて貰うならば「胡散臭い」に限ります。
「騎士の制服」を着た男性が、小さな子供を連れて「任務」を行うなんて初めて聞きましたよ!?言っている内容も初めは普通に始まったのですが、「急な訪問」として滞在出来るギリギリで話を反して来ましたからこちらは意表を突かれてしまいました。初めは「断れない話」だったものがこちらが断りを入れる前提で「断る事が出来る話」と勘違いしそうになる提案をしてきましたからね。
・・・多分、フィーナがアスライールさんと一緒に帝都に行かなくても「今回の訪問」自体に意味があるのでしょう。フィーナを「ただ」連れて行くのであれば、夜にでも荷物を纏めて明日の朝1番の馬車で商業都市を出てしまえば良いのです。1日でも私達に「猶予」を与えて私達が「夜逃げ」してしまったら大変ですものね。
ですが、フィーナはアスライールさんと「婚姻」を結んだと言うでは無いですか!
帝国では結婚よりも上位の誓約に「婚姻」があります。
皇帝陛下のお名前で(各都市の領主でも大丈夫)誓約を行うもので、一般にはあまり使われません。
確かに宰相閣下の令状にも「婚姻を認める事」と書いてありましたが、実際に「婚姻を結ぶ」とは書いてありませんでしたから驚きました。
私は、「私達の賢い娘が判断を誤った」と思ったのです。
「良かった!フィーナが結婚できた!」
リューイがその左手についている腕輪を「私に見せて」声を出します。
それは「銀色」の腕輪でした。
「騎士の妻」と言うだけでも平民には憧れの生活が送れます。
平民は騎士とは結婚できますが、貴族との結婚はできません。豪商であればある程度の身分の方に嫁げますが、それは「(お金の)力」があるからです。平民は良い所で「(期間限定の)愛人」程度でしょう。
フィーナの腕についている腕輪は「銀色」でした。この色は貴族の色です。
腕輪の紋章は「ヴァレンタ家」この商業都市の領主さまと「繋ぎのある家」です。
もともと「婚姻」については、私達からしてみれば「結婚」してフィーナがこの家を出て行くのが「遅い」か「早い」かの違いだけですから問題はありません。むしろ、私とリューイがここ最近で「1番」心配していた事です。
「心配事が1つ消えたわ!」
私の口から喜びの声が出ます。・・・リューイ。貴方この方の「身分」を知っていたわね!
「騎士様、どうぞ妹を・・・フィーナをよろしくお願いします!」
リューイがアスライールさんと握手していました。
「私からも、フィーナをお願いしますね。」
・・・何だか悔しいので、アスライールさんの足を踏んで私も握手します。
「!こちらこそ、大切にいたします。」
アスライールさんは足を踏まれた事は特に気にしない様子で返事を返してきました。・・・・悔しい!
その後、ラルフとフィーナが部屋で話し合ってた時にリューイに先程の事を指摘されましたが、アスライールさんは「母君はそのような事はされていませんよ?」と涼しいお顔で返していました。
・・・・まぁ、アスライールさんはフィーナを連れて帝都へと行ってしまいます。フィーナと婚姻したアスライールさんは私の「息子」も同然なので、これくらいで許して差し上げましょう!
夜が更けてフィーナの荷物を纏めるのが一段落した頃、夕食の準備をしていなかったのでフィーナと一緒に夕食の準備をしました。
フィーナと一緒に食事を作るのも、これからは出来なくなるのかと思うと涙が出そうになりましたが、今まで家の事はフィーナに任せきりにしていたのです。家事は苦手ですが「私も頑張らないと」って決意しました!
それで、手始めに夕食には今までとは違った趣向のスープを作ってみました。フィーナは「美味しいです」と味見の時に言ってくれました。良かった!この調子で頑張りましょう。
リューイとニアはフィーナが作った料理を食べていて私の作ったスープはあまり食べてくれなかったけれど、フィーナは「野菜が柔らかいです!」とたくさん食べていました。
ラルフ達の所にも夕食を持って行ったのですが、アスライールさんとソールさんは料理もスープもたくさん食べて下さいました。私のスープもお口に合ったようでとても嬉しいです。ラルフったら「信じられない」何て言っていましたが、どういう事なのでしょう!
アスライールさんは「美味しかったです」と言って下さいましたよ!
こんなに優しい方達を疑ってしまったなんて、とても恥ずかしいです。
帝都への出発は笑顔で見送る事にしましょう!
次の日に「渋る」ラルフを引きずって領主様のお屋敷に行きました。アスライールさんが一緒にいるお陰か、お話は滞りなく領主様に伝わって(ここに皇帝陛下はいらっしゃいませんので)領主様に婚姻の署名の立会人になって頂けました。
領主様が「『甥』をよろしく頼む」ってフィーナに行っていましたが、フィーナは良く分かっていないのか「お任せ下さい!」と言っていました。
・・・フィーナ。いくらアスライールさんが「騎士」だからって言っても、貴女は「貴族」のご子息に嫁ぐのよ?分かっているの?
そんなフィーナに、領主様も「はははっ!頼もしいな!」って言っていますが、貴方様の甥はいくら「騎士」の身分だとしても後ろには「貴族」って言う肩書がありますのよ?大丈夫ですか?
・・・まぁ、フィーナは私の自慢の娘ですもの「ちょっとした事」には対応できるように躾けていますから大丈夫でしょう!
「えぇ!!フィーナちゃん結婚しちゃったの!?」
「うわぁ!おめでとうございます!何処の人ですか?私よりも強いですか?」
本日来店した、旅団の冒険者さんが声を上げます。いそいそと武器を確認していますが、お2人とも後方支援担当の団員でしたよね?そう言っていましたよね?
「私も今回初めてお会いしたのですが、お相手は貴族の御子息です。帝国騎士として騎士団に所属していらっしゃるようですよ?見た目も性格も素敵な人でした。」
この2人は特にフィーナと仲が良かったのでお祝いに来て下さったようです。フィーナ達が急な出発だった為に挨拶が出来なかったみたいなので、今日はお店まで来て下さったのです。どうやら他の団員さんも外に居らっしゃるようです。
「「貴族!?騎士!?何それ!玉の輿じゃないですか!!!」」
お2人が声を揃えて仰いますが、確かにその通りなので私は何も言いません。
ただ、外にいる団員さんの方から「うおぉ~~~!!」って泣いているような声が聞こえます。
こんなに喜んで貰えるなんて嬉しいですね。
「今度帰って来る時には、お知らせしますね。」
「「ぜひ!」」
お2人が帰る時に「泣かないの!」とか「ほら、今日は何か美味しい物を食べよう!」とか外から聞こえましたがフィーナの結婚を祝福して下さるなんて、何て優しい皆さんなのでしょう!
そろそろお昼御飯の時間かしら?最近は、腕を振るう事が無かったので、頑張って料理しますよ!
・・・あら?リューイ、どうしたの?
え?食事はニアが準備しているから大丈夫?・・・そうなの?私もたまには台所に立ちますよ?
・・・え?大丈夫?
あら、そう?じゃあお願いね?
夕食は私が作りますね!・・・・ダメ?
「婚姻」「結婚」は腕輪を相手に渡して、相手が受け取ったら「成立」します。「婚約」は「白い腕輪」ですが、婚姻・結婚に関しては色と形に制限はありません。「銀色」は貴族の色なので平民は使えません。(そもそも「銀」が高級品となっているので、平民には小さな宝石を付けるのが精一杯。)
ニリアイールとネリアイールは双子ですが受け継いだモノはマルっと正反対です。
もともとニリアが跡取りで「婿取り」予定だったけれど「交渉」「取引」はネリアの方が得意だったので、両親はネリアを跡取りにしてラルフを迎えています。両親の予想外だったのはラルフに「商才」があった事。なので、お店はラルフに任せて、ネリアが裏方に回っています。
ネリアが「騎士様」から「アスライールさん」に変わったのは、娘の「夫」なので「名前で呼ぼう!」と言う心境の変化からです。
ネリアの料理は「不味い」のではなく「独創的」です。前世の「日本」の記憶があるフィーナには「ありかな?」と思えるけれど、「家族」は食べなれた料理が(見た目も込みで)「劇的進化」をして食べれないだけなのです。
アスライールは「毒」が入っていなければ何でも食べますし、アスライールが「食べている」からソールも「食べている」ので味は気にしていません。