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「いやーーーーー!」
「ソール、大人しくして下さい!」
上のベットに上ろうとしているソールさんをアスラさんが捕まえています。
ソールさんはどうしても上のベットが気になるみたいなのですが、いくらアスラさんが「治療魔法」を使えたとしても、治療には限度があります。あの高さから落ちたら、確実にソールさんは大きな怪我をしてしまう気がするのですよ。
なのでアスラさんも必死になります。
「ソール、つい先程ソファーから落ちたのを忘れたのですか?」
「ふにゅ~~・・・。」
私はその様子を3人分の毛布を準備しながら見ています。
そうなのです。夕食前の事ですが、ソファーの上で転がっていたソールさんはそのままソファーから転がり落ちておでこを擦りむいてしまったのです。擦りむいた傷はアスラさんが治療したのですが、落ちた時にビックリしたのかその後はアスラさんと私の間に座っていました。毎朝無傷だったのは、毛布に包まっていたから怪我をしなかったのだと理解しました。
「ソールさん、今日は私と一緒にソファーのベットに寝ませんか?」
「ふぉ?」
「それは・・・。」
ソールさんはビックリした様に私を見ていますし、アスラさんも私の提案に戸惑っているみたいです。
「このソファーの広さならば少し窮屈かもしれませんが、私とソールさんが一緒に横になっても大丈夫だと思うのですよ。」
よく、弟が小さい時なんかは一緒に眠ったものです。そんな事を思って言ったのですが・・・。
「おかしゃんがそーるといっしょでしか?」
ソールさんは先程までの激闘がウソのように大人しくなりました。
「ですが、それではフィーナが大変ではありませんか?」
アスラさんが私に言います。
「え?そんな事ありませんよ?今日は夜が寒くなりそうなので、ソールさんと一緒に眠ったら暖かいだろうなぁ~って思ったのです。」
そうなのです、今日は何だかんだで雨が降っているので寒いのです。私が起きている間は魔法で部屋を暖かくしている事が出来るのですが、眠っていたり意識が途切れている状態では魔法が使えないので夜は冷えるハズなのです。
「私はソールさんと一緒に眠るので、アスラさんは毛布を2枚使って下さい。」
そう言ってアスラさんに毛布を渡します。ソールさんはソファーに座っているので、私が馬車の中で愛用していた膝掛けをソールさんの肩に掛けます。
「フィーナ達が2枚の方が良いのでは?」アスラさんがこちらに1枚渡して来そうになったので、私が持っていた毛布で私とソールさんを包んでソファーに座りました。
「あったかい!」
「でしょう?」
ソールさんは体温が高いのでこのままでも充分眠れそうです。
「なので、アスラさんが毛布を2枚使って下さい。今日は私が起きている間は部屋を暖めていますから大丈夫ですよ。眠たくなったら寝れますし。」
そう言ってソファーに横になったのですが、私とソールさんが横になっても少し余裕があったので良かったです。
「・・・分かりました。」
アスラさんは私達を見て、そのまま反対側のソファーに横になりました。
「おはようございます、フィーナ。夜はきちんと眠れましたか?」
朝、アスラさんに声を掛けられて起きました。
「・・・・おはようございますアスラさん。・・・ソールさんは無事でしたか?」
アスラさんの声に私はモソモソと起き上がります。
「おかしゃん!そーるね、きょうはおちてなかった!」
ソールさんが私の腕の中で元気いっぱいに朝の挨拶をしてきます。今朝は私の頭にソールさんの声がとても良く響きます。
何とか起きて着替えをしました。朝食を食べ終わると、後は帝都に到着するのを待つだけになりました。
でも、今の私の内心は「眠い」この一言に尽きます。
・・・昨夜のソールさんは怪獣のようでした。
最初は大人しく眠っていたのですが、暫くするとソールさんの動きが「格ゲー」のハメ技のごとく私を追い詰めて行ったのです。最初に膝掛けで包んでいたのが良かったのか「投げ技」とか「掴み技」とかは無く、「蹴り技」もソコ迄の威力が無かったのですが地味に体力を削られて行きました。
「・・・どうやらソールは寝相が悪いらしいのです。この馬車でもソファーから落ちた時には何度かソファーに戻していたのですが、朝方には結局落ちていましたし・・・。昨日はフィーナと一緒だったので私も安心して眠ってしまったのです。」
「アスラさん、そんなに気を落とさないでください。一緒に過ごしていて気が付けなかった私が悪いのです。」
「すみません。」
そうアスラさんが謝ってくれていましたが、せめて2日目とかに気付く余地が私にもあったと思うのです。なので、「気にしないで欲しい」と伝えました。それにしても、ソールさんが夜にソファーから落ちていたのは1度では無かったのですね。
「とりあえず帝都に着くまで時間もありますし、少し眠ってはいかがですか?」
アスラさんからの魅惑の提案ですが荷物を纏めようと思っていたので、その後に少し仮眠をとらせて貰う事にしました。
「フィーナ。起きれそうですか?」
アスラさんに呼ばれて意識が浮上しました。「そろそろ帝都への街道に入ります。もうそろそろ起きてください」アスラさんの言葉にハッと顔を上げます。
「ふぁ・・・。ありがとうございます。」
帝都への街道に入れば、その後1刻くらいで帝都に着くそうです。本当ならまだ眠っていたかったのですが、起こして貰ったのには理由があります。
『帝都へ行くのであれば、帝都の外門を見た方が良い』
お客さんとして来ていた冒険者さんがこう言っていたので、是非見ておこうと思ったのです。
「おかしゃん、おきたでしか?」
ソールさんが私の膝の上に登ってきました。
「はい。おはようございます。」
今日の移動中は私が眠っていたから絵本を見ていたようです。
「おかしゃん、『まど』あけてもいいでしか?」
窓板を外して外が見えるようにします。今日は晴れているので、馬車の中も暖かいのです。さっき荷物を纏めたのでトランクの数は1つ減りましたが、ソールさんの座るトランクに変わりは無いので毛布をのせます。
「アスラさんもありがとうございます。私が寄りかかっていたので重かったでしょう?」
本当に申し訳ないのですが、とても良い寄りかかり具合でした。ごちそうさまです。
「いえ、そんな事はありません。むしろ此処が個室で良かったと心底思いました。」
アスラさんが言った事が良く分からなかったのですが、私は何か変な事を言ってしまったのでしょうか?ケイトが言うには私の素直なお口は寝ていても夢にツッコミを入れる事が出来るようです。だから何を言ったのかが非常に気になります。
「ねえねえ、『あれ』なぁに?」
ソールさんが興奮気味に聞いてきます。
「冒険者達のようですね。何か依頼を受けて此処にいるのでしょう。」
おぉ!冒険者さんですか。お店に「お客さん」としての来店以外での活動は不明なので、私には前世での情報以外が無いので新鮮な感じがします。
「『ろーらんと』といっしょ?」
ソールさんがアスラさんに尋ねます。契約者さんの1人ですよね、もちろん憶えていますよ。
「そうです。ローラント殿と同じ職業です。後で会うと思いますが、とても気さくな方ですよ。」
前半はソールさん。後半は私に向かって答えてくれます。何だかんだ言ってアスラさんは周りの人に対して気使いの出来る人だと思うのですよ?
ソールさんは外に向かって一生懸命手を振っていますが、外にいる冒険者さん達には気付いて貰えませんでした。少しションボリした感じになりましたが、その後は見た事の無いチーラ(鳥)や外を駆けているフェンダを見て喜んでいました。
「そろそろ帝都ですね。」
アスラさんが関所を見て言いました。関所の兵士さんはソールさんが手を振ったら笑顔で振り替えしてくれました。あの人は、きっといい人だと思います。
「うわぁ!大きな門ですね!」
門まではまだ距離があるのですが、とても立派な門が見えます。
「帝都の北門ですね。建国時から変わらない唯一の門ですよ。」
そうそう、帝都には4つの門があります。帝都から街道に出る門はその街道に続く都市が資金を出します。(街道整備の一環らしいです)
東には農耕地帯が続いているので門の規模は大きく無いと聞きます。ただ、収穫時期などそう言った時に開け閉めしやすいように今の形になったみたいです。
西には工業都市があるので門に金属を使われた物になっているようです。門は朝と夜に開け閉めされるのですが、たくさんの人手が欲しいと聞きます。帝都では1番丈夫な門だと思います。
南には港湾都市があります。他国との交易が行われている都市になります。門は1番豪華で立派な装飾がされているので盗難防止の為に兵士が多めに配置されているようです。
北には商業都市があります。ただ、他の都市よりも近い所にあるので修理などメンテナンスをこまめに行っていたからか、門は取り換えられる事無く建国時の門が使用されています。
「たくさんの画家や詩人がこの北門を題材にした作品を書いていますから、実物を見た事が無い人にも知られている『帝都で1番有名な門』になりますね。」
アスラさんがそう言って門を見ています。ソールさんも「しゅごいねぇ!」って言っていますが、確かに見応えのある門です。たしか、他の門とは違って「魔封じの香木」を使っていたはずです。かつては門から帝都内に魔物が入らない様に4箇所の門の扉を「魔封じの香木」を使った扉に変えたと授業で聞きました。時間と共に劣化や時代の変化で門が変わってしまいましたが、今まで使われていた西門の扉は神聖国との国境の砦に使われていると聞きます。(劣化の酷かった東門と南門の扉はバラされて修理用の素材になっているようです。)
馬車は、大きな門をくぐって帝都に入っていきます。
窓から見える建物は商業都市と変わらない感じがしましたが、通りを歩く人もたくさん居ますし、馬車の通る道路が広いのに驚きました。
暫く私達は馬車に乗ったまま進んだのですが、「商業区」入り口前の馬車溜まりに入った時に鐘の音が響きます。馬車は、そろそろ終点に着くようです。
アスラさんがソールさんを抱えます。私はトランクの上に掛けていた毛布を畳んで、元々あった所に3枚重ねました。
「私がトランクを持ちますので、フィーナはソールをお願いしても良いでしょうか?」
アスラさんがそう言ってソールさんを私の方に渡して来ました。
「トランク3個は大変でしょう?焦げ茶色のトランクは軽いので私が持ちますよ!」
「そーるも!」
ソールさんは軽いので、トランクを1つ私が持っても大丈夫です。・・・ソールさんは私に抱えられてくださいね。
「ソールはフィーナにしっかり摑まっているように。「あいっ!」フィーナも、大丈夫ですか?」
アスラさんに言われたようにソールさんは私にしっかりと摑まっています。トランクも重くないので「大丈夫ですよ。」と伝えました。
「そろそろ下車の準備をお願いします。準備が出来た方から下車して下さい!」
御者さんが通路でそれぞれの個室に声を掛けて行きます。
さぁ!帝都の地を踏みしめますよ!
新天地での第1歩です!
ようやく帝都に到着です。




