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18 はじめての・・・  6ページ目






あの後、ソールさんは頻りに「ちち!」「はは!」と私達を呼んでいました。


暫くたってアスラさんに「何かが違うような気がします」と言われたので、「『お父さん』『お母さん』と呼んで貰うのはどうでしょう?」と提案させていただきました。



なので、ソールさんは今ではアスラさんと私の事を「おとしゃん」「おかしゃん」と呼んでいます。

そんなソールさんの様子が可愛らし過ぎて、喜びに震えている私の姿をアスラさんは優しい瞳で見守ってくれていました。その瞳に私が耐えられないので、少し外に出て落ち着いて来ようと思います。





「おかしゃん、そーるね、『そと』がみたいでし。」


外に出ようと席を立とうとしたら、ソールさんは窓の外を指さして私に言います。ソールさんは外を見るのが好きなのか、昨日と同じように窓際に即席のトランク椅子を作ると喜んで外を見ています。



「・・・呼び方1つで、ここまで自分の認識が変わるなんて不思議ですね。」

アスラさんがソールさんを見て言います。


「本当ですね。不思議と『家族』みたいな気持になりますね。」

私も部屋の外に出るのを諦めてソファーに座りなおしました。傍に置いていたオーレの実の皮を剥きながらアスラさんに答えます。





・・・そうなると、私はアスラさんの事は「旦那さま」とお呼びした方が良いのでしょうか?


そうお呼びするのは恥ずかしいし、その呼び方では精神的にハードルが高すぎて私には無理っぽいなと思ってオーレの実の皮剥きに戻ろうとしたら「構いませんよ?」なんて返事が来てビックリしました。その上、アスラさんは「それならば、私は何て呼びましょうか?」と続けたので、必死に止めました。どうやら、私は無意識に声に出してしまったみたいです。



「すみません!私には『旦那さま』呼びは少しハードルが高いので、『アスラさん』と呼ばせて下さい。」

私は皮を剥いたオーレの実を献上しつつアスラさんに謝罪します。



「そうですか?・・・残念です。ですが、私は呼びやすい方で構いませんよ。ところで『はーどる』とはどんな意味なのですか?」

・・・うふふ。アスラさんったら、冗談がお上手ですね!アスラさんはオーレの実を受け取って「ハードル」について聞いてきました


「『ハードルが高い』で一括りの言葉です。『乗り越えなければいけない障害が多い』という意味で私は使っているのです。」

確かそんな感じでしたよね?



「・・・?

フィーナと私は夫婦ですから『乗り越えなければいけない障害が多い』事が何にあたるのか私には分からないのですが・・・?」

・・・きっと、アスラさんは意識の切り替えが早いのでしょうね。何だか、羨ましいですよ。



「『気持ち』の問題と言いますか・・・。いえ、『心構え』と言いますか・・・。『旦那さま』とお呼びするのには少し時間がかかりそうです・・・。雇われている状態であるのならば、雇用主さまですから『旦那さま』と呼べる気がするのですが。・・・すみません。」


・・・その呼び方では、私の心が耐えられそうにないのです。




「いえ!私の事はそのまま名前で呼んで頂いて結構ですので、そのように気にしないでください!」

アスラさんがアタフタと言葉を返して下さいますが、アスラさんがアタフタとしている姿が可笑しくて私は笑ってしまいました。



「ふふふっ。すみません、何だかアスラさんには申し訳ないのですが、面白いですね。」

「ははっ。いえ、私も自分が面白く思えたので気にしないでください。」

アスラさんも自分の中で何か思う所があったのか、お互いに笑ってしまいましたよ。夢中で窓の外を見ていたソールさんは「???」って言うお顔でアスラさんと私を振り返るように見ていましたが、オーレの実を渡したら美味しそうに食べてくれたので良かったです。「おいしいね」ってソールさんがニコニコしながら言うので、私はますます笑ってしまったのです。







「そろそろお昼でしょうか?」

馬車は止まる事無く走り続けているので、感覚がわからなくなります。


「そうですね。日も高くなっていますから、そろそろお昼でしょう。」


アスラさんは外を見て太陽の位置で確認しています。・・・それは、どう言った感覚なのでしょう?同じように空の様子を見ますが、太陽の位置が変わっているのは分かるのですが私にはサッパリ判断が付きません。







お昼の話をして暫くした時に個室の中に鐘の音が響きました。



「お昼です!アスラさん、私、干し肉が食べてみたいです!」

「そーる、ぱん!」


さっそく御者さんがお昼ご飯を聞きに来たので、右手を挙げてアスラさんに伝えます。私を見たソールさんは、両手を挙げていましたよ。かわいい。






お昼は「パン」と「スープ」「干し肉」を選びました。他にも何種類かあったのですが、馬車に乗っているとそこまでお腹が空かないので今回はこのメニューとなりました。夜はどんなメニューが出てくるのか楽しみです。オーレの実は明日の分もありそうなので、1日3食デザート付で豪華な感じですよ。



「意外です。フィーナは干し肉とか食べなさそうに見えます。」

アスラさんはそう言ってきましたが、前世ではジャーキーとかサラミ・カルパスを食べていたので「干し肉」は気になっていたのです。干し肉は、我が家では「非常食」の分類に分けられていて、食べる時は調理時に「煮て」しまうのでそのまま食べるのは初チャレンジです。



いざ!実食!




もぐもぐもぐもぐもぐもぐ・・・





「・・・・フィーナ?」

「おかしゃん?」

干し肉を噛み続ける私を、お2人が訝しげに見ています。




もぐもぐもぐもぐもぐもぐ・・・・






私は手を動かす事無く口をモグモグさせていますが、私の様子を怪訝に思ったアスラさんの食事の手が止まります。


・・・どうしましょう。噛めば噛むほど美味しいお肉の味がするのですが、飲み込むタイミングが掴めません。それと、干し肉をかみ続けているせいか、顎が疲れてきました。この干し肉は、どう飲み込めばいいのでしょう?



「フィーナ、口に入っているのを1度出してはいかがですか?」

アスラさんが提案していますが、一度口に入れた食べ物を出すだなんて私はそんな事はしません。


フルフルと首を横に振る私にアスラさんは実力行使に出ようとしましたが、そんなアスラさんと心配そうに私を見ているソールさん。そんなお2人を見ながら咀嚼を続けます。









「・・・なるほど、食べなれない干し肉だったので今の状態になったのですね。」

アスラさんは食事を終えた後に私に確認をとりました。ソールさんにも心配を掛けてしまったようで、私の膝の上にいます。



「もう少し小さくして口に入れれば良かったみたいなので、夕食の時にはそうしますね!」

私が気合を入れて再チャレンジを誓っていたのですが、アスラさんからは「夜の干し肉は禁止します」と非情な一言を言われてしまいました。



・・・・次は失敗しないので、この残っている干し肉を食べさせて欲しいなぁ・・・。




「とりあえず・・・」そう言ったアスラさんの手が私の両頬に伸ばされて、固定されました。がっつり頬を触られている状況なのですが、今、一体何が起きているのでしょう!?



私がアスラさんに両頬を挟まれてフリーズ状態になったので、「そーるも!」って言ってソールさんが私のお腹に抱きついてきます。もうどうしたら良いのか分からないので、私の心を鎮めるためにソールさんの頭を撫で続けます。



「はい、動いても大丈夫ですよ。」

アスラさんのその声と同時に手が離れて行きました。「声が出し辛そうだったので、少し治療を・・・」ここまで言って、アスラさんは状況を把握したみたいです。



「す・・・すみません!」

一気にアスラさんの両頬が赤くなります。イケメンさんの赤面だなんて眼福です。帝都にはカメラって売っているのかしら?今なら余裕でスキップしながら買いに行けますよ!私の顔は同じくらい赤くなっているハズなので、お揃いですね!





もう、どうしたらいいか分からないので、私の膝の上でスヤスヤと眠っているソールさんが羨ましく思います。「これは夢でした~」って言われるのを待っていたのですが、どうやら現実だったようです。




「もう少し窓を開けていても大丈夫だと思います」私の主張はアスラさんに受け入れて頂けました。



頬を撫でる風が気持ちイイですね!







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