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「ほわ~。見渡す限り緑色ですね~!」
こんな風に自由に外に出たのは、いつ以来でしょう。爽快です!アスラさんと並んで大自然(?)を感じていますよ。
「えぇ、ここは商業都市からはそれ程離れていませんが、この辺りには神聖王国へ向かう街道との中継地点があるので人通りはあります。ですが他には特に何もありませんので、こう言った移動の時くらいにしかこのように周りを見る事は出来無いと思います。ですが、暫くはこの景色が続く様になると思って下さい。」
「む~~!」
「そうなのですね。」
「む~~!」
アスラさんは平原を見て説明をしてくれています。今まで商業都市から出た事の無かった私にはこう言った外の様子を見ながら説明を聞く機会が無かったので新鮮な気持ちで聞く事が出来ます。
今、私達は朝ご飯を終えてスープを頂いた時の器を返してから、護衛の方と馭者さんに声を掛けて外に出ています。ソールさんは昨日ぶりに外に出るのが嬉しかったのでしょう。馬車から飛び出すように走りだしたので、アスラさんに確保されている状態になっています。
「私、商業都市からは遠く離れた事が無かったので、この景色はとても新鮮です!」
花壇で育てられているお花や街路樹、商業都市内にある公園や学園、学院みたいに人の手で整えられている光景は見てきましたが、それ以外でこんなにたくさんの植物を見るのは初めてです。
前世ではハイキングとかキャンプしたりと、季節によっては外に出掛けていましたからね。
「地面が何処までも緑色なのも初めてです!」
感激で言葉が出てきます。
「以前私が聞いた話なのですが、『商業都市で育った人は、他の場所には馴染む事が出来ない』と言われている様なのですが、フィーナは知っていましたか?」
アスラさんは不意に私に聞いてきました。
「?住んでしまえば、いずれその場所に馴染めるのではないですか?・・・もしや、商業都市に住んでいた人が思った事を口にしてしまって、そのせいでお友達が出来ないから帰ってしまう。とか?お家に引き籠ってしまう。とかですかね?」
良く分かりませんが、私は「ご近所さん」が居ればそこに住める気がします。
「違いますよ。商業都市は便利が良すぎて、その土地に馴染む前に帰ってしまうみたいなのです。」
「へぇ~。初めて聞きました!商業都市は確かに便利ですが、私の友達は帝都で働いていたり結婚して移住している人もいますよ?みんな『帝都は楽しいから遊びにおいで~』って言っています。
・・・でも、アスラさんの言っている事は何となく分かる気がします。みんなも帝都での生活に慣れるまでは『商業都市がすぐ隣にあれば良いのに~!』って言っていましたからね!片道2泊3日くらいの距離が小旅行みたいでワクワクするのですが、移動が片道2泊3日での滞在旅行になるとお休みを取るのが大変みたいなのです。なので、帝都で生活しているうちに帝都での暮らしに慣れて行ったみたいですよ。」
みんな元気に帝都で頑張っていますよ!ってアスラさんに伝えます。
「そうですか、そう言って貰えると心強いです。フィーナが『家に帰りたい』と言った時はどうしようか考えますが、取りあえず私の傍にいて貰えるよう頑張りますね。」
・・・アスラさん、私は17年間生きていて男の人に至近距離でそんな事言われた事が無いので返事に困ります!・・・アスラさん、私の心臓はそこまで強くないので、少し威力を落とした柔らかい言葉を選んでください。
あの後、ソールさんはアスラさんから解放されて馬車周辺ではしゃぎ回っていたのですが、馭者さんがルシェにエサを食べさせている所に突撃してしまってアスラさんが平謝りしていました。
ソールさんも一緒に謝っていましたが、ルシェは人に慣れているのか気にする様子も無くエサを食べていましたし、その様子を見て周りの人も笑っていました。馭者さんも笑っていましたから大丈夫だったんだと思いたいです。
「そろそろ出発しますので席に戻ってください。」
馭者さんが外に出ている乗客の皆さんに声を掛けます。周りを見てみると馬車に乗っていた乗客の皆さんもそれなりに外に出てきていたようです。なので、馬車の中には順番に入って行きます。
「おはようございます。」
不意に声を掛けられて振り返ってみたら、昨日オーレの実を配っていた小父さまがいました。隣には同じ年代の女性が立っていたのですが、奥様でしょうか?穏やかそうな感じの方です。
「おはようございます。昨日はオーレの実をたくさんありがとうございました。とても美味しかったです!」
「あい!」
私の言葉にソールさんも同意してくれます。
「それは良かった。私も良く考えずに持っていたままで渡してしまったからね。食べきれなかったら処分しても大丈夫ですよ。」
「この人ったら、『他の部屋に配ってくる』って言ってすぐ帰って来たでしょう?たくさん持って行ったオーレの実をどうしたのか聞いたら『親切な御夫人に渡してきた』って言うものですから・・・。あの数を全て渡して来たって言うのを聞いて本当に申し訳なく思ったのですよ。」
私とソールさんの返事にお2人は安心した様子になりました。
「処分だなんて、そんな!とても美味しいオーレの実でしたよ?オーレの実は私も好きで良く食べますし、みんなでたくさん食べれるのでとても嬉しいお裾分けでした。」
この世界での食べ物は基本的に「自給自足」となっています。食べる物は自分で作り足りなかったらお店で買うのが当たり前なので、一般家庭の家であれば何処かに家庭菜園があります。
食べ物を扱っている商店では、前世と同じ様に野菜・お肉・お魚・穀物・果物を扱っています。野菜なんかは主婦の皆さんが自分で育てているのでそれほど高くは無いのですが、お肉やお魚、穀物や果物はビックリするぐらい高い値段が付いている物もあります。
前世の時のように交通機関が整っていて冷蔵車とかがあれば良いのでしょうが、それを行うには優秀な「氷」属性の術者が必要になるのでたぶん無理だと思います。
商業都市では近くに果樹園があったのでそれほど値段が高くは感じなかったのですが、学院に行っていた時に他所から来ていた同級生は商業都市での果物の販売価格に驚いていましたからね。多分、すごい差があるのだと思います。
「ありがとう。」
「まぁ!そう言って頂けるのでしたら、こちらも嬉しいですわ!」
そう言ってお2人は笑い合っています。お2人はとても仲が良いのですね。馬車の中に入る順番が来たので、小父さまが奥さまの手を引いて馬車の中に誘導します。
「坊やも、優しい御両親で良いわね。」
「あいっ!」
ソールさんの返事を聞いて、奥さまがニッコリと笑って馬車の中に入って行きます。
「・・・どうしました?フィーナ。」
ソールさんを抱きかかえたアスラさんがこちらに手を差し出しています。
「あぁ!すみません。アスラさん、ありがとうございます。」
私はその手を取って馬車の中に入りました。
「・・・どうかしましたか?」
馬車が動き出して暫くたった頃にアスラさんから声を掛けられました。
私の口からは「ふぇ?」なんて間抜けな声が出てしまいましたが、アスラさんは心配そうに私を見ています。
「いえ、特には何もないのですが・・・。
・・・もしかしたら、アスラさんとソールさんと私は『家族』だと周りの方たちに思われているのかしら?って思ったら不思議な感じに思えたのです。」
「最後まで言いなさい。」と言うアスラさんの無言の圧力を受けて、馬車に乗る前に「オーレの実」の奥さまがソールさんに言った言葉が私の中でモヤモヤしてしまった事をアスラさんに言いました。
「フィーナは、私達が『家族』であると見られるのが嫌ですか?」
アスラさんが私に言います。
「ふぃーにぇりおんは、あしゅらいーるとかぞくはいやでしか?」
ソールさんが、私の膝の上で私を見上げてそう言います。
「・・・いえ、そうではないのです。なんて言いますか・・・・。
・・・そう、家族と言う『実感』が湧かないと言った方が良いのでしょうか・・・?」
私の言葉にソールさんは「???」って言うお顔をしています。ほっぺをフニフニしても良いかしら?
「なるほど、確かに言われてみれば私もそのような気がします。」
アスラさんは何となく理解できたのか、私の言った事を考えています。
「確かに、昨日今日で『家族』になれる物ではないので、気長に・・・と考えれば良いのかもしれませんが・・・。」
アスラさんが真面目に考えています。
「ふえぇ~。ふぃーにぇりおんどうしたにょ~?」
私は、私の膝の上にいるソールさんのマシュマロほっぺをフニフニと堪能しています。
「・・・ソール、これから私は『父親』でフィーナが『母親』となる。これで問題はないですね?」
「あい~。」
「・・・フィーナ、今はソールを開放してください・・・。」
むむっ!この触り心地を堪能していたいのに・・・。そうですねまたいつでも触れますからね。
膝の上に居るソールさんは、ほっぺを両手でガードしながらアスラさんの方を向いています。
「ではソール、今日からは私を『父』と呼び、フィーナを『母』と呼ぶ事にしましょう。」
「とりあえず、『形から』家族になりましょう。」
とアスラさんが提案してきましたが、私に異存は無いので「はい。」と答えました。
その後、ソールさんはその呼び方が気に行ったのか「ちち!」「はは!」と私達に言って来ますが、出来れば「お父さん」「お母さん」が良いなぁって私は思います。ソールさん、今からでも呼び方の変更できますか・・・?
フィーナが外に出る機会はお父さんによって尽く潰されていますが、この世界の住人は何か(結婚とか就学・就職など)が起きなければ住んでいる所から離れないので「門をくぐって外の世界に出る」事は結構一大事になります。
それこそ、成人していない子供だけで離れた町に住んでいる知り合いに会いに行く事はありません。大抵身内に止められます。