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ようやく旅立ちます。
みなさんおはようございます!みなさん、聞いて下さい!私、生まれて初めて定期馬車に乗る事になりました!嬉しさでテンションMAXですよ!なフィーネリオンが、お届します!
ついさっき私達を見送りに来ていた家族とケイトと別れて、今は馭者さんと馬車の護衛さんが馬車に乗る人の人数と荷物を確認をしています。
なんだか、前世での遠足みたいな感じがしてワクワクします。
昨日お兄ちゃんが馬車の利用券を買ってきてくれたので、私達は確認が終わったらスグに中に入れました。
馬車は4頭のルシェ(馬みたいなんだけど、一部硬い鱗で覆われているので強そうな感じがしますよ)が牽くもので30人乗りの大きい馬車でした。席も奥の一マス席だったので、アスラさんが驚いていました。(本当の一番奥は馭者さんと護衛さんの使う席なんだそうです)
席には人数分の毛布と簡単な案内状が置いてありました。「秘密基地みたいですね」ってアスラさんに言ったら、アスラさんから「そうですね」と返事が頂けたので楽しい旅になると思います。
ソールさんもワクワクしているのか、窓から見える景色を眺めています。
「あ!りゅーい!」
ソールさんの言葉に窓から外を見ると、少し離れた所にお母さんとお兄ちゃんがいます。
「お母さん!お兄ちゃん!」
2人に手を振ったら、お兄ちゃんが気が付いてお母さんと一緒に馬車の近くに来ました。
「騎士様も一緒だから大丈夫だと思うけれど、何かあったら連絡を寄こすんだよ。」
「あまり騎士様を困らせないようにするのよ?あと、体に気を付けてね。私達はいつでもフィーナの事を想っているわ。だから、たまには手紙をよこしなさい。分かったわね?」
2人からの言葉が嬉しくて、私は「うん」とか「はい」って相槌を打っていました。
「・・・そう言えば、お父さん達はどうしたのですか?」
さっきまでは一緒にいたお父さんの姿が見えません。私の質問は、何となく予想していたのか、お兄ちゃんとお母さんは困ったように顔を見合わせてしまいました。
「ラルフったら『フィーナを、どんな顔で見送れば良いのか分からない・・・』何て言って『ケイトさんを家に送って来る・・・』ってニアを連れて行ってしまったの。だけど、今頃どこかで此処を見ていると思うの。ラルフの事は大丈夫よ、フィーナ。
・・・それに、この機会を逃したらアナタ結婚できなかったかもしれないのよ!?ですから、今回の事は本当に騎士様に感謝していますわ。」
お母さんは「本当に困ったヒトよね」なんて良いながらソールさんのほっぺを突いています。
・・・えぇっと、何だか衝撃的なお言葉が混ざっていましたが、お父さんはいつも通りみたいなので安心しました。
「母君、リューイ殿、今回は本当にご迷惑をお掛けしました。
フィーネリオン嬢は私が・・・、私が持てる力で精一杯守らせて頂きます。「そーるも!」『安心して下さい』なんて軽々しくは言えませんが、フィーネリオン嬢には『精霊の加護』が付いています。
皆さんが願う『幸せな暮らし』を、フィーネリオン嬢とソールと私とで送れるよう、約束を致します。今回お会いできなかった御弟妹殿にも、本来ならば挨拶をしなければ行けないのでしょうが・・・。
時期を見て、もう1度挨拶に伺おうと思います。その時は、もう少し話が出来るように時間を作って来たたいと思います。」
アスラさんの言葉に2人が驚きます。
お母さんの「精霊の加護・・・」という言葉に、お兄ちゃんも驚いています。
2人の視線の先には「ソールさん」が居て、どやぁ!ってお顔で2人を見ています。私も最初は驚いたので、その気持ちが分かります。とっても可愛いらしいですよね!
「そちらがどう言った事なのか私には信じられませんが、騎士様のお言葉を私達は信用いたしますわ。あの人だって本当にこのお話が嫌だったら、風評なんて気にしないでこのお話を断っている筈ですもの。
騎士様、娘を・・・フィーネリオンをどうぞよろしくお願い致します。」
馭者さんと馬車の護衛さんの乗客確認が終わったようで、出発の合図が出ました。お母さんとお兄ちゃんは馬車が出発しても、「外」との出入り口である門が閉まるまで私達に手を振ってくれました。
「とても良い御家族ですね。」
「はい・・・。・・・ありがとうございます。」
騎士様から渡された手巾を受け取って、目元を抑えます。
私の目からは涙が止まらなくて、それでもアスラさんとソールさんはそっとしてくれました。
「私もフィーネリオン嬢の家族として、これからを一緒に過ごせればと思うのですが・・・。」
アスラさんの言葉が馬車のお部屋に響きます。
「今回、このような形でフィーネリオン嬢を帝都にお連れする形となりましたが・・・。
フィーネリオン嬢、私は貴女と共に生きていく事を望んでも宜しいですか?」
アスラさんは、私の手を取り言葉を続けます。アスラさんの言葉は、とても簡単に私の心に響きました。
・・・だからかもしれません。
「私がフィーネリオン嬢を王城にお連れしても、陛下との謁見でこのお話を断れば御実家に帰る事が出来ます。そうなれば、誰もフィーネリオン嬢を責める事はできません。」
「・・・先程、アスラさんがお母さんに言った事はウソですか?ホントですか?私は、アスラさんとソールさんお2人と一緒に帝都に行くと決めました。なので、私のお家に帰る時はアスラさん、ソールさん、私の3人で帰りましょう?そうしたら、私の家族はみんなが笑って迎えてくれますよ?保障します、アスラさんもソールさんも私の家族ですからね!」
どーーーん!と胸を張ってアスラさんに答えます。大丈夫ですよ、お父さんの事は横に置いておいても、他のみんなは笑って迎えてくれますよ!
「私は、フィーネリオン嬢の伴侶としては不甲斐ないかもしれません、ですが・・・・フィーネリオン嬢とでしたら、この子との生活も楽しくなりそうです。」
「あい?」
ソールさんを見て、それから困ったような笑顔でアスラさんが答えてくれます。
「アスラさんは難しく考えすぎなのですよ。私達が新しく生活するのですから、間違う事もあります。その時には、お互いに話をして問題を解決するようにしたら良いのです。それでもダメな時には、一晩くらいぐっすり眠ったら、次の日の朝には起きた時に解決しますよ!
・・・それに私的には、お母さんの言っていた言葉が気になるので・・・。アスラさんがやっぱり私との婚姻を無かった事にしたい!と思った時には、お知り合いの方を誰か紹介して下さい!そのまま1人でお家に帰ったら、何だかとても嫌な予感がします!」
「・・・私は難しく考えすぎなのでしょうか?同僚に『急に現れた人物と婚姻を結べ』と言われたなら、普通は断られると聞いたのですが・・・。フィーネリオン嬢と御家族の皆さんは大らかな心をお持ちなのですね・・・。
それならば、私から婚姻の破棄は致しません。ですので、私から紹介する異性は期待しないでください。」
昨日から私の格言くらいまでランクアップした「女は度胸です!」と言うその言葉をアスラさんに伝えたら、アスラさんはそんな言葉にもとても真面目に答えてくれます。きっと、真面目なアスラさんは今回のこの案件に本当に真剣に悩んだのだと思うのです。ですが、話の内容が私の「未来の事」に関わる事なので私は譲りませんよ!一生独り身で居る予定はありませんので、アスラさんの優しさにどこまでも付いて行きます!
・・・でも、・・・もしも、やっぱり婚姻を破棄するってなった時には、誰か紹介して欲しいのですが・・・。そんな事を思ってしまいましたが、その事は心にしまってアスラさんと笑い合っています。
不思議そうに私達を見ているソールさんが可愛いので、私は「ふふふっ」って笑ってソールさんのほっぺを突きます。最初は、されるが儘に受け入れてくれていたのに、ソールさんはアスラさんの隣に移動してしまいました。悲しい・・・。
「アスラさん。私は『騎士様の妻』として不甲斐ないかもしれません。ですが、精一杯頑張らせて頂きます。ですので、どうぞ朝の時のように『フィーナ』とお呼びください。」
そうですよ。何だかんだで私の名前は言い辛いと思うのです。他の兄妹の名前は呼びやすいのに、私の名前は少し気を付けないと呼び辛いって言うのが昔から気になっていたのです。
「そんな事は・・・。あぁ、失礼しました。どうにも妙齢の女性と会話する機会がありませんでしたので、・・・お名前を呼ぶのも緊張します。・・・安心して下さい。フィーナは私には過ぎた『妻』ですよ。こちらこそ、よろしく頼みます。」
?騎士さまはイケメンさまですから、お話とかする女性がいるのでは??私が心の中で思った事を騎士さまは察したのか、困ったように笑います。
「騎士とはいえ、貴族の令嬢の傍に護衛として立てるようになるには、長い年月が掛かります。・・・ましてや、高位貴族ともなれば自分の身内に害の無い人物を護衛騎士に選びます。貴族たちは自分の身内を騎士学校に入れて専属の護衛騎士を作り上げているので『貴族令嬢の護衛騎士』となるのは狭き門です。私達も余程の事が無ければ、そう言った関係の繋がりに割り込もうとはしません。だから、騎士学校を卒業した騎士は、皆が師団に入るのですよ。」
あれれ・・?何だか騎士さまのお話を聞くと、よく本で読むような展開は出来ない様な気がしますよ?
「よく、女性がお読みになる小説などに出てくるような騎士も居るには居るのですが・・・。
私達は騎士学校で絶対に習う事があります。それが、『護衛』と『護衛対象』の話です。
此処帝国では、貴族の子息と令嬢は基本的に幼い時に婚約者が出来ます。それなのに、『貴族の令嬢が年若い騎士と恋に落ちる』こんな事になれば相手の騎士が平民であった場合は『騎士』の称号の剥奪、その上でよくて国外追放、最悪死刑となります。令嬢の方も本来の婚約者との結婚をするか、修道院行きとなります。
逆もありまして、貴族の青年が騎士となって護衛をしていた令嬢と『親し過ぎる仲』になるという事もあります。結果的に貴族の青年は『騎士』の称号の剥奪、場合によっては実家との絶縁や悪くて国外追放となります。令嬢は何れかの貴族の後添い、もしくは修道院行きになる。と、私達は授業で教わります。
騎士と令嬢の恋愛自体は問題では無く『婚約者の居る騎士』や『婚約者の居る令嬢』との恋愛が禁止されていますので、きちんと手順を踏まえ周囲を納得させた上でならば、問題は無いかと・・・。」
・・・こんな所でも身分の差が出るのですね。騎士の出身身分によって『言われ方』と『処罰』の内容が違うのですか・・・。
そう言えば、こちらの世界は前世の世界と同じで「一夫一妻」ですが、『家』と『家』の繋がりが強いこちらの世界では『離縁』に関してはとても厳しい世界でした・・・。
(例外はありますが)身分で言うと、皇族に嫁げるのは公爵家と侯爵家の皇族から血の遠い女性に限られています。
伯爵家から下の男爵家は伯爵家より上の貴族には嫁ぐ事ができません。伯爵家は侯爵家くらいまでは嫁ぐ事が出来ますが、男爵家と伯爵家の令嬢がその上に嫁ぐとなるとイロイロな作法や仕来たりなど覚える事が多くなるのであまり跡継ぎの奥さまには選ばれないそうです。(愛人なんかはOKみたいなので、「どうしても・・・」と言う方はそう言った扱いでお屋敷に居る場合もあるみたいです)
・・・もしも、跡継ぎの方がそう言った方を正妻に選んでしまうと、お相手の方が優秀な方で無い場合「不幸な事故」や「原因不明の病気」によって「ご夫婦で」お亡くなりになる場合があるそうです。初めて聞いた時、「何それコワイ!」って思ったのは私だけでは無いはず・・・!
貴族のランクは・・・ 皇族>>>公爵家>>侯爵家>伯爵家>>男爵家=豪商みたいな感じです。お城の後宮に居るのは公爵家と侯爵家、力のある伯爵家の令嬢様達なのです。その他にも「子爵」なんかの称号や「騎士伯」と言うのもありますが、「騎士伯」は個人称号みたいな感じの扱いなので割愛します。
婚姻なり結婚した夫婦が離縁する時は、離縁専門の官吏が来て2人が離縁に至った状況を纏めるそうです。それから暫くして離縁の成立を周囲に伝えていたような気がします。
「そーる、そとがみたい!」
私達の話を聞いていて退屈になったのか、ソールさんが声を上げます。
ソールさんは窓側に座っていたアスラさんと席を交換します。席を交換してウキウキしたように窓際に座ったソールさんの目線は馬車の窓枠と同じくらいでした。一生懸命外を見ようとしているソールさんは衝撃を受けたようにこちらを見ます。
「・・・そとがみえないでし・・・。」
「・・・・・」
「・・・・・」
ソールさんのその言葉に、私とアスラさんは一生懸命に笑いを噛み殺そうと頑張りましたよ。
「・・・膝の上に来るか?」
アスラさんは笑うのを堪えているので、声が震えています。
さっき、お母さんとお兄ちゃんとお話した時は窓の正面に立っていましたからね。もそもそとアスラさんの膝の上に移動していたソールさんを見ていて、前世の私が囁いたのです。
「アスラさんソールさん、少しそのままでいて下さいね。」
馬車は向かい合わせにシートがあるので、私とアスラさんの足元にトランクを置いていました。
窓際に私の荷物が入っている大きなトランクを寄せて、間にアスラさんとソールさん用にと準備した少し小さめのトランクを入れます。トランクむき出しの状態だとお尻が冷たいので、毛布を上に乗せてずれない様に固定したら即席の椅子の出来上がりです。
アスラさんは直ぐに理解できたようで、その上にソールさんを座らせます。
「そとがみえるでし!」
ソールさんが嬉しそうにはしゃいでいるので、良かったです。ソールさんが落ちない様に気を付けないといけませんが、楽しそうなので良かったです。
「フィーナは凄いですね。」
ポツリとアスラさんが私を褒めてくれました。どうしたのでしょう?
「ソールの身長ではこの馬車では、立っていないと窓から外が見えないでしょう?まさか、トランクを座れるようにするなんて大抵は考えません。機転が利くというのがフィーナの美点だと私は思います。」
私の様子に気付いたアスラさんは「凄いです」と言ってくれました。
・・・やだ、もっと褒めて!
「私は不思議に思ったのですが・・・。
昨日から話をしている時にも思ったのです。ヒトを相手にする環境で育ったからかフィーナの言葉は聞きやすいです。その上、商業都市の学院を卒業していて、振る舞いも流石に上級貴族とは行きませんが下級貴族と言われても納得できると思います。御両親はフィーナをどこか良い所に嫁がせようとしていたのでしょうか?」
「・・・?それは無いと思いますよ?今まで婚約の申し込みが来た事がありませんから。」
「・・・・・・はぁ!?一通も!?」
あれ?今、アスラさん素が出ましたね。
「・・・失礼しました。ですが一通も婚約の申し込みが無いと言うのは、何かの間違いでは無いのですか?」
アスラさんは余程驚いたのか、「信じられません・・・」と言っています。
そのままでも良かったのですが・・・。
そう!そうなのです、一通も申し込みが来ないという事は「問題ありの娘」と判断されている様なものなのですよ!
「いえ、本当ですよ?
私の周りでは学園を卒業と同時に婚約をした方が多いのですが、私には学院を卒業した時にも婚約の申し込みが無かったのです。今まで『婚約』と言う物とは無縁だったのです。昨日までは、ですが。」
「・・・まさか、先程母君が言っていた事は・・・」
『この機会を逃したらアナタ結婚できなかったかもしれないのよ』
「・・・えぇ、多分ですが、本当だったと思います。」
アスラさんが『信じられない』と言わんばかりに私を見ています。
・・・・犯人は、実家にいるハズなのです。
商業都市から帝都まで本来ならば『2泊3日』ですが、フィーナ達は最終便での出発なので『3泊4日』となります。(帝都の街道に続く馬車の通る門の開閉時間の都合です)
『2泊3日』コースであれば、朝出発→帝都には夜の閉門前に着きます(何も無ければ)
『3泊4日』コースであれば、夕方出発→帝都にはお昼頃着きます(何も無ければ)
帝国領では現在「公爵家」2家「侯爵家」7家「伯爵家」21家「男爵家」64家(一代限り含む)となっています。
「辺境伯」は「侯爵家」と同じくらいの扱いですが、帝国領では1家しかありません。今は「宰相閣下の実家」と認識されていて実際は「公爵家」と「侯爵家」の間くらいの扱いです。