12 はじまりの、のその後で・・・
お兄ちゃん編です。
こんばんは、リューイです。
今、我が家では妹のフィーネリオンが帝都に行く事になったので大急ぎで準備をしている最中です。
明日の朝一で定期馬車に乗る事は無理そうなので、最終便の夕方の定期馬車に乗れるように予約してきたところです。
商業都市からは2泊3日で帝都に付くので1日5便の定期馬車が毎日出ていて、朝一で出発する定期馬車は立ち乗りや相席で満員状態になる事が多いけど、夕方出発の馬車は野営が3回あるから(天気とかによっては1日延びる時もある)乗る人が少ないみたいで、簡単に1マス席(4人掛け)の予約を取る事が出来た。
本当ならば家の馬車を使って帝都に送れれば良いんだけど、仕入れや納品で馬車を使うから(今は学園と学院の入学や進学の時期と重なっているので)、フィーナ達は定期馬車の利用になったんだけど・・・。
「うわ~!これが定期馬車の乗車券ですか~~!!」
「姉さん。私にも見せてください!」
妹達が定期馬車の乗車券にワクワクした表情で話をしているのを聞いて、少し心配になってきた・・・。
「馬車の乗車券、無くさないよう早めに鞄にしまうんだぞ。」
「は~い。もう少し見たらしまいますよ~。」
「は~い。」
大丈夫かなぁ・・・・。まぁ、騎士様がいるから大丈夫か。
オレには3人の妹と1人の弟がいる。
父さんは家族であるオレ達を大切にしていると思う。言い方が良いと「家族思い」だと思う。・・・ダメな方だと「家族バカ」だ、家族が好きすぎて、行き過ぎた行動を取り過ぎる。
父さんはオレと弟の事も大切にしてくれてはいるが、特に娘達をとても可愛がっているので(母さんは別格)、妹達に来る縁談を「全て」断っている。その事が、母さんとオレの悩みで「妹達は結婚できるのか?」と、最近では1番の心配事になっているのは察して欲しい。
フィーナは直ぐ下の妹で、兄贔屓にみても可愛い方だと思う。学院を卒業して家に居るので、フィーナ目当てで店に来る奴もいる。
父さんは妹達をとても可愛がっているので、傍に男を近づけさせないために妹達が店頭に立つ日は少ない。妹が店頭に立っている日は、いつもとは違う客層である男の客が増えるので「暑苦しい」と感じるのは仕方のない事なのだろうか・・・?
フィーナはとても変わった事を口にするので、昔は「変な子」と言われていた時もあった。
・・・言った奴、その後あまりこの辺りで見ないけれど元気かなぁ。・・・まぁ、生活は出来てるだろうし、家も「南区」の奴だったから父さんも流石に手は出さないと思う。・・たぶん。
それでも、よく話を聞いてみれば、「『ざいこ』がたまっているなら、『せーる』でうってしまえばいいのに」とか「しょうひんの『うる』かずをかえて、ねだんをかえればいいのに」なんて自分には思いつかない事を2歳下の妹に言われた時は衝撃を受けた。
フィーナの言った事を父さんに言ったら「やってみよう」と少しづつ店内の商品陳列を変えて行ったんだけど、これが大成功だった。
確かに、よく使う物はたくさん数があってもいいけれど、あまり使わなかったり消費が少ない物の数はあまり要らない。
どうしてその事に気が付かなかったのか・・・両親もずっと働いていた従業員のみんなも、オレも思わず笑ってしまった。父さんの膝の上に居るフィーナだけが首を傾げていて居るのを見て、益々笑い声が大きくなったんだっけ・・・。
そんな中での大事件が「フィーネリオン失踪事件」だと思う。
その時は珍しく学園に父さんが迎えに来て、一緒に家に帰ったら母さんは半狂乱になっていたから「どうしたんだろう?」って思っていたら、ニアから紙を渡された。
そこに書かれていた『文字』に驚いた!「ちょっと、おさんぽいってきます。ふぃーにゃ」っていう書置きが住居スペースの居間に置いてある机に貼ってあったのを、まだ文字の読めないニアが見つけたんだ。
・・・・確かに5歳くらいだったら、あの場所くらいの高さがようやく手の届く範囲だと思う。「フィーナは文字が書ける!」ってオレが思ったとのほぼ同時に、父さんが「兵士団の所に行ってくる!」って行動したからね。本当に、あの行動力は見習いたい。オレだったら近所を探しに行っていたと思う。
その後、なぜか「北区」にいたフィーナは冒険者の旅団員に保護されていたみたいで、兵士団の団員に連れられて東区に帰って来たって聞いたんだ。
・・・フィーナのその行動力は父さん譲りだと思う。(「北区」は子供の足では大分遠かったと思う。)
フィーナは帰って来た時に両親(特に母さん)に怒られて、オレの所に逃げてきた。その時にナゼかオレも一緒に怒られた。
オレが学園に通うようになってから3人目の妹が産まれて、その妹(少し体が弱い)に両親が付きっきりになったのが寂しかったのかも知れない。
その後、ニアに怒られたのが一番効いたのか、外に出る時は誰かに声を掛けて行くようになったらしい。一緒に誰が付いて行くのか、従業員の間でちょっとした争奪戦が起きていたみたいだけど、父さんは気にしていなかったから問題は無かったんだと思う。
お店の方にフィーナ関係でお客さんが増えて(失踪事件の時にお世話になった冒険者の人とか)、その要望に少しずつ応えて言ったら顧客が増えて小口の発注を受ける時もあった。
そうして1年に1回、年の終わりの頃に「せーる」をしながら毎日が過ぎて行ったんだ。
最初は物の値段を下げての販売を従業員みんなが嫌がったけれど、ずっと棚に残っていた「売れ残り」が売れた時に考えが変ったみたいだ。
学園が休みの時なんかは、フィーナと店舗内建物探検をしたり「掘り出し物」を発見したり何だかんだで楽しかった。(フィーナの下のニアはあまり付いてこなかった)
でも、オレが10歳の時に禁断の扉を開いてしまったんだ・・・!
その部屋は、この建物で1番重要な部屋で「お父さんの許可が無いと入っちゃダメよ」って母さんに言われていたんだけど、ずっと室内がどうなっているのか気になっていたからフィーナと一緒に「内緒だ!」って言って入ったのが間違いだった・・・!
壁一面に人の絵が貼ってあって、幼かったオレ達は泣きそうになった。
その時、思わず机に打つかってしまって机の上にあった日誌帳が落ちてきたんだ。
覗いちゃダメだ!って思ったんだけど、その時のオレはどうにかして気分を紛らわせようとしたんだと思う。
・・・・日誌帳を開いた当時のオレを本気でぶん殴りたい!
内容を見たフィーナが泣きそうだったから手を掴んで部屋から出たけれど、あれはダメだ!家族じゃ・・・、父親じゃ無かったら兵士に捕まってもおかしくない内容だった!オレがここの跡を継いだら、責任を持ってアレ等全てを人様の目に触れさせないように処分しないと・・・。
今は学院を卒業して、父さんに付いて仕事を教えて貰っているけれど、久し振りにアノ部屋に入った時、『フィーナ6歳。学園入学時にリューイと手を繋いで歩いていた時の絵』って言うのが壁に掛けられているのを見た時は「いつ描いた!」って本当に驚いた!良く見るとその他にも自分やニア、ティア(3女)と弟の入学式の絵が掛けてあったからその時は学園入学の時の絵で纏められていたんだと思う。
学園を卒業する頃から、周りの奴等に「フィーナかニアに自分を紹介してくれ!」って言われ始めたけれど、そんな事は自分でやってくれ!家にいる父さんが絶対に間に入ってくるから、成功しないのは初めから分かっているだろう?
11歳の時に学園を卒業した後どうしようか、家族と話をしている時に「お兄ちゃんは、お勉強は好きですか~?」ってフィーナが聞いてきた。
「?勉強は好きだよ?」って答えたら、「フィーナと一緒にお勉強しましょう?」って言われて学院に進学したけど、あの時に進学を決めたのは本当に良かったと思う。
・・・確かに「読み」「書き」「計算」は学園で習うけれど、学院で経済学とか大陸史、古代文字とか専門的な事を習って自分の身に付いたと思う。父さんも進学に納得したのか、フィーナとニアも学院に進学している。
・・・オレ自身は憶えていなかったけど、フィーナが学院の寮に興味を持ったみたいでオレに良く聞いていていたのを父さんは憶えていたみたいだ。・・・フィーナが学院の合格発表の時に貰った入学案内の中に入っていた「入寮案内」を物凄く探していたからな・・・。あれは、先手を打っていたのか・・・。
15歳の時に帝国から「お触れが」発令された。
『帝国から生活の保障』って言う内容は魅力的だけれど、オレには跡を継ぐ店もあるし弟妹達を(少しでも)父さんの魔の手から離さないといけないから、帝都には向かわなかった。家族も弟妹達も気にしていないようだったから、すぐに違う方に興味が移ったのは仕方がない事だと思う。
・・・帝国から来ていた学院の友達にその時聞いた話だと、「帝都は物凄い混乱状態だ」って言っていた。だから、その年の長期休暇は「帰らないで寮に居る」って言っていたから、相当酷かったんだと思う・・・。
何だかんだでオレの学院生活は、自分の2年後にフィーナが学院に入学して来て、その次の年はニアの入学で家の経済状況が気になったけれど、両親は「気にするな」と言ってくれた。学園の時と違うのは、周りが『これから先』を見据えた授業を受けている事でお互いに刺激になったんだ。卒業したら実家を継いだり手伝いをしたりしていくようになるんだけど、・・・凄いのは自分で店を建てた奴がいた事だ。(大工志望だった)それぞれ道が分かれるけれど楽しかった。
オレが学院を卒業する年はオレの同級生の家から、フィーナやニアに結婚前提の「婚約」の申込が殺到して父さんが全てに断りを入れていた。・・・オレの所にも何件か来ていたみたいだけど、その行方が分からないから探りを入れてみたら全て断りの連絡をした後だった。
・・・まさか、オレは結婚できないなんて事にならないよな・・・?
そんな事を考えていたけど、父さんが「お前が選んだ人ならば、私は反対しない」なんて格好良い事を言ってきたので、その言葉に甘えさせて貰おうと思う。だけど、今は家の仕事を覚えたいから、結婚はまだ先でも良いと思っている。
そして、去年フィーナが学院を卒業した。
バカみたいな量の結婚の申込みが家に来て、両親もオレも驚いた!
中には、中央区の『魔法道具店』だったり『古文書』を扱う家の跡取りの嫁に!とか。他にも、帝都にも店を構える豪商から「ぜひ、我が家の養女に!」とか意味の分からない話も来ていた。
商業都市は大きく5つの区域に分かれていて、
・中央区は皇室御用達を扱ったり上流貴族が扱う衣服や小物、宝飾品を取り扱っている店が多い。高級店が多いので、あまり行った事がない。
・北区は武器や防具などの装備品を扱っている所が多い。工業都市は王都から西に6日分離れた所に行かないといけないので、冒険者や騎士とかが装備品の手入れに良く来ている。
・西区が薬草関係。西区の門から出てすぐの所に『シアー』(傷薬とか解熱剤の材料になる)の群生している平原が広がっているので、自然と薬関係の店が増えて行った。
・南区は飲食物系。門を出て街道を進むと港町や東側にある農村から食べ物を仕入れてきて露天が開かれるようになった。
・東区は裏方関係。いろいろな物を扱っていて大抵の物はここで揃えられる自信がある。後は、普通に住んでいる人もいるけれど、ここの利便性は他の地区にも引けを取らないと思う。
これらには、父さんも雑に返事が出来ないので、丁重に断りの手紙を相手の家に届けていた。
確かに商業都市で学院を卒業する子女は少ない。余程の事が無ければ、女の子の大半は学園卒業と同時に自分の家の店なり他所の店に働きに出て結婚相手を探すのが一般的な考えだ。・・・ねぇ?フィーナはオレが卒業した後『ナニ』をしたんだろう。真剣に話し合う必要があるのかな?オレの家は中央区の高級店とは係わりの無い、東区にある雑貨屋だったと思うのですが・・・?
フィーナの結婚関係は、今は「本人もまだ成人前ですし・・・」と父さんが断っているけれど、来年になったらまた来ると思う。どうするんだろう?今年二アが学院を卒業するのに。
・・・来年は2人分の量を捌かないといけないのかな・・・・?
・・・なんて思っていた時がオレにもあった。
・・・・今朝、騎士様が店に現れるまでは・・・
「・・・なんだって?」
「旦那様とフィーネリオンお嬢様にお会いしたいと、帝国騎士様が店舗の方に来ていらっしゃるのですが・・・。」
そう、開店作業が終わって店舗ブースの事務所に居たオレの所に従業員のファニーが言いに来たのは、店が開店して少したった頃だった。最初は言われた内容が理解できなくて聞き返してしまったが、何回聞いても『騎士様』と言っている事は変わらなかった。
自分の中でどれだけ考えても、フィーナと『騎士様』の接点は無い。
それに、ここは雑貨を扱う商店だ。騎士様が個人的に購入するような物も、思いつかない。
とりあえずファニーには父さんとフィーナを呼ぶよう伝えて、騎士様がどのような用件でこの店に来たのか聞いておこうと席を立ったんだ。
ちなみに、5歳のフィーナの書いた書置きは、お父さんが大切にしまっています。
ここでの歳の数え方は、生まれた1年は年齢を数えません。(生後1年の生存率の関係)なので、次の生誕祭の時に「1歳」となります。本来ならば「5歳差」の3女はフィーナ達が生誕祭を祝って「新年」を迎える間に生まれたので、書類上は「6歳差」の「11歳」になります。(生誕祭が年末の30日なので、31日~40日生まれの子供は「産まれた年」の「30日」より前に生まれた子の1つ下になります。)