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132 やさしさは・・・ 1ページ目






「りーぷでしゅのよ!よろしくでしゅの。」

「すていです。・・・よろしく、・・・です。」

みなさんこんにちは。今日はリンカーラさんとアメリアさん達が遊びに来ていますよ。リープさんとステイさんは、ソールさんに紹介されたフォウル君とルカ君にしっかりとあいさつをしています。


でも、フォウル君とルカ君のシッポにくぎ付けのリープさんの手がワキワキと動いていて、フォウル君とルカ君がちょっぴり引き気味です。



「獣人の兄弟か。帝都では苦労しただろうね。」

リンカーラさんの言葉に私は首を傾げてしましましたが、アメリアさんも同じように首を傾げていましたよ。


「共和国との戦争の後、帝都に住んでいた獣人は随分と肩身の狭い思いをしたと聞いている。だからか、今の帝都には獣人は殆ど住んでいないはずだよ。」

「陛下のご弟妹は、共和国との戦時中に獣人の襲撃に遭って亡くなっていますからね。その事で獣人に対して辛くあたるヒトも今でもいるようですし・・・。何よりも、貴族の多い帝都は獣人の方には住みにくくなってしまったようです。」

「帝都以外はそうでも無いんだけどなぁ・・・。ほら、他の都市町村では、市民証さえ持っていれば獣人も普通に暮らせるだろう?」

リンカーラさん、キールさん、ローラントさんがそれぞれ説明をしてくれました。確かに、私がいた商業都市でも獣人の方は普通に生活していましたね。


「私の住んでいた集落では、一緒に働いてくれる獣人の方は貴重だったのに・・・。」

アメリアさんが驚いたようにリンカーラさん達を見ています。アメリアさんの言いたい事は、何となく分かる気がします。でも、商業都市も帝都と似たような所があるので何とも言えません。



商業都市で獣人の皆さんが表のお仕事に就けない理由はお父さんから聞いていました。商業都市で今の雇用形態となった切っ掛けが「帝国と共和国の戦争」なのです。


この戦争によって当時の皇帝陛下の御子息である第2皇子さまと第1皇女さまが獣人さん達の奇襲でお亡くなりになり、それまでは普通に帝都で生活をしていた獣人の皆さんが迫害を受けたのです。戦争が長引くにつれて獣人さん達に対して徐々に風当たりが強くなっていったみたいで、獣人さん達が帝都を出る時には民間の馬車に乗る事が出来なかったみたいなのです。そういった事情で、「歩いて行ける」と判断された比較的近い商業都市に獣人さん達が避難して来たんだそうです。


その時期に商業都市の領主だった先代スターリング候爵さまだったローランさまは、他の都市を治めている候爵さま方に「帝都を追われた獣人の皆さんを受け入れて欲しい」と受け入れを促す書状を送ったんだそうです。それで各都市の領主様達がそれぞれ馬車を帝都に向かわせたんだそうです。農耕地帯は商業都市に近いので、都市間で直接馬車が往復したみたいですよ。


・・・それでも獣人さん達を襲うヒトがいたみたいで、そう言ったヒト達から獣人さん達を守る為に、獣人さん達を雇っているお店や雇用主、もともと商業都市に住んでいた獣人さん達にローランさまはお触れを出したんだそうです。

ローランさまの出したお触れによって初めの内は混乱があったみたいなのですが、お仕事をする上ではヒトと獣人の能力での住み分けがこの時に出来たんだそうです。今では当たり前のようになっていますからね。商業都市では獣人さんとの衝突はあまり聞きませんよ。



「君は家に戻るのだろう?これからどういった仕事に就くんだい?」

リンカーラさんはフォウル君に「何気なく」聞いたのでしょう。でも、リンカーラさんに声を掛けられたフォウル君はビクッとしたようにお耳がピンと立っています。ルカ君はソールさん達とゴロ寝スペースに居るのですが、フォウル君をチラッチラッと気にしているようです。


「・・・え・・・、あの、まだ決めていなくて・・・。」

珍しくしどろもどろと言葉を発しているフォウル君は「どしよう」と視線をさ迷わせます。


「獣人と言う事は、ご両親の仕事を継ぐのでしょうか?」

キールさんの言葉に、困ったお顔のままのフォウル君のお耳がペタンと倒れてしまいました。これにはキールさんも驚いて目を見開きます。


「おい、どうしたんだ!?」

ローラントさんが驚いたようにフォウル君に声を掛けます。



「・・・父さんは、兵士団に居たんです。」

フォウル君が話し始めたので周りの皆がホッとしたように息を吐きます。


「そうか。・・・ん?兵士団に『いた』?」

リンカーラさんはフォウル君の言葉の違和感に気付いたみたいです。



「・・・はい。5年くらい前にケガをして兵士団を辞めたんです。今は何をしているのか分かりません。」

フォウル君の言葉に、周りの空気が冷たくなったような気がします。


「おいおいおい・・・!」

ローラントさんが驚いたように声を上げますが、そうなのです。フォウル君達のお母さんの借金は、ケガをしたお父さんの治療代だったのです。初めの内は兵士団の方から「治療費」としてお金が出ていたみたいなのですが、お父さんが治療をしなくなってからはそのお金は止められてしまったみたいなのです。

フォウル君達のお父さんも初めの内は一生懸命に治療を行っていたみたいなのですが、思うような治療の成果が見えない事に自棄になってしまい、お家に帰らなくなっていたんだそうです。

その後はフォウル君達のお母さんが働いて生活費を稼いでいたようなのですが、自分達の生活費と治療代を賄える程の収入にはならなくて、借金の返済が滞るようになったんだと聞きました。



「それって、フォウル君とルカ君のお母さんはどうなったの?」

アメリアさんが驚いたようにフォウル君に聞いています。


「フォウル君のお母さんは、『参考人』として騎士団の砦に保護されているとアスラさんが言っていました。」

私の言葉を聞いて、アメリアさんが「良かった・・・」と言います。フォウル君にも「良かったね」と声を掛けています。フォウル君は驚いたように私を見ていますが、アスラさんはフォウル君とルカ君に言っていなかったのですね?何だか申し訳ない気持ちになってきました。


「・・・フィーネリオン嬢。フォウルの母君が保護されている砦の場所を知っているかい?」

「いえ、・・・でも、どうしてですか?」

リンカーラさんの問いかけの意味が一瞬分からなかったのですが、アスラさんからは「保護している」としか聞いていないので、場所はちょっと分からないのです。



「そうか。聞いているのであれば、母君に聞きたい事があったのだが・・・。


・・・フィーネリオン嬢。アスライールに今の時刻に連絡をしても大丈夫かい?」

フォウル君を見たリンカーラさんは、何かを決心したように私に聞いてきました。


「今日は帝都内の見回りでは無くて、訓練場の方に居ると言っていたので大丈夫だと思いますよ?連絡しましょうか?」

私の言葉を聞いたリンカーラさんは「いや、大丈夫だよ」と言って席を立ち、お家から出てしまいました。

聞かれたくないお話なのかな?と思ったのですが、外は寒いはずですのでキールさんに肩掛けを持って行って貰いましたよ。



「あの・・・、母さんが保護されてるって・・・。」

フォウル君が恐る恐るといった風に聞いてきたので、私はアスラさんに聞いた事をフォウル君に伝えます。


「はい。フォウル君とルカ君が連れて行かれた後、大分無理をしていたようなのです。フォウル君とルカ君を保護した後に騎士さん達がお母さんを訪ねたんだそうですが、フォウル君とルカ君の無事を確認した時に倒れてしまったようで、そのまま騎士さま方が保護したんだそうです。今は回復していて、フォウル君とルカ君が帰ってくるのを待っているそうですよ。」

私の言葉にフォウル君は目に涙を浮かべて「かあさん・・・」と言います。



「フィーネリオン嬢。何か書く物を貸して貰えないか?出来れば、紙も一緒に。」

お家の中に入ってきたリンカーラさんは、キールさんに何やら指示を出しながら私に声を掛けてきました。


「ペンと紙でしたら・・・。」

最近はフォウル君とルカ君と一緒に文字の勉強をしていたので、近くにペンと紙は置いていたのです。私はリンカーラさんとキールさんにサッとペンと紙を渡します。キールさんも「すみません。私にも貸して下さい」と言ってきたので、一緒に渡しましたよ。



リンカーラさんが連絡を取ったのは、フォウル君達が住んでいた地域を治めている方のようで、リンカーラさんは何個かの魔石を並べてあれこれと話を進めています。キールさんがその隣で要点を纏めているのですが、私の方から読める内容が「離縁に必要な事」と書いてあります。どなたか離縁するのですか?


・・・まさか、お2人では無いですよね?



「すまない、平民であって身元のしっかりとした人物で、これから離縁する女性とその子供の身元引受人になってくれそうなヒトを2人か3人、知っているかい?」

一息吐いたリンカーラさんの言葉に驚いてしまいましたが、驚いたのは私だけでは無いようです。


「何がどうなってそうなった!」

目の前で繰り広げられていたリンカーラさんとキールさんのやり取りに、ローラントさんがツッコミを入れてくれました。


「ローラント殿、すみません。ご夫婦の離縁が成立した場合、女性に帰る家が無い場合には身元引受人が必要になるのです。今回は御子息が2人いらっしゃるので、離縁に踏み切るには確実に2人程必要になります。」

キールさんが「離縁」に付いて説明してくれたのですが、やっぱり「主語」がありません。


「・・・もしかして、その『離縁』をするのって・・・!」

アメリアさんがフォウル君を見て驚いたように言います。



「そう、フォウル達の両親の離縁だ。」

リンカーラさんがキリリッとしたお顔で私達に言います。フォウル君はキョトンとしたように首を傾げています。



「・・・確かにケガをした事は『不幸』な事だ。だが、ケガをしたからと言って自棄になり、治療も中途半端に妻子を残して消えるような夫など待つ必要など無いのだよ。

母君に『夫君を待つ気持ちはあるのか?』と聞いたのだが、母君は君達が連れて行かれた時に夫君に見切りを付けていたようだ。幸いな事に君達はしっかりとしているようだし、母君も若く元気なようだから離縁したとしても問題はないだろう。」

リンカーラさんの言葉にフォウル君はピンと来ないみたいですが、私達は顔を見合わせて頷いていました。



「それなら、俺は爺さんに声を掛けてみるよ。」

ローラントさんはそう言うとアメリアさんから魔石を預かって話し始めます。



「私もお父さんに声を掛けてみます。」

私もそう言って、実家に繋がる魔石に魔力を通しました。




お父さん、居るかなぁ・・・。









フォウルとルカの境遇は、獣人が身近だったリンカーラには許せない事だった模様。リンカーラは元々辺境伯の跡取りだったので、辺境伯領周辺の貴族との繋がりがあります。


訓練中に連絡が来たアスライールは自分の家で何が起きているのか気になっていますが、仕事上がりの時刻がまだまだ先なので次の休憩の時刻になったら連絡しようと思っています。


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