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131 むぐむぐむぐ






「まだアスラさんはお休み中なので、大きな音を立てないようにしましょうね?」

「あいでし!」

「はい。」

眠っているアスラさんを起こさないように、ソールさんとフォウル君とルカ君に対して「シー」と言いながら今日の予定を確認します。

昨日はどちらかのお屋敷で行われた夜会の警備を行うために夜の出勤だったアスラさんは、朝早くに帰ってきました。お家の扉を開けたアスラさんは、私が起きていた事に驚いたようにしていていましたが、私は朝食の準備をするいつも通りの時間に起きていたので、驚いているアスラさんに私が驚いてしまいましたよ?

最近は(お洗濯に使うために)お風呂のお湯を湯船に残しているので、そのお湯を沸かし直してアスラさんにお風呂を促しました。・・・残り湯ですみません。



アスラさんがお風呂に入っている間に、アスラさんの朝食を準備します。スープは昨日の残りでも大丈夫でしょうか?と思いながら、実は「ご飯」派だったアスラさんのために、今日はご飯を炊きますよ!


メイの実を研いで、コンロにセットします。ご飯は半刻も掛からない内に炊けるので、おかずを何にしようかと悩みます。


朝食の「ごはん」の定番のおかずと言ったら、卵焼きでしょうか?・・・そう思ってタマゴに手を伸ばしたのです。でも、今の時間の食事は私にとっての「朝ご飯」ですが、お仕事から帰ってきたばかりのアスラさんにとっては「夜ご飯」になるのでは?と思い、タマゴに伸ばした手をお隣のプギルのお肉に向けました。

最近は風邪も流行ってきていますし短時間でササッと作れるので、ガナリ(生姜っぽい野菜)を使った「プギルの生姜焼きモドキ」を作りましょう。


おかずが決まったので、始めにプギルのお肉を薄くスライスします。お肉をスライスし終わったら、下味用に混ぜ合わせた調味料にプギルのお肉を漬けて置きます。生姜焼きモドキの付け合わせは、ダート(キャベツ)のせん切りで大丈夫でしょうか?葉っぱを2枚せん切りにしてお皿に乗せてスタンバイさせておきますよ。ちょうどご飯が「蒸らし」の状態になったので、コンロから下ろしておきます。


フライパンを温めて油を引いたら、プギルのお肉をフライパンに並べてお肉を漬けていた調味料もフライパンに入れて、フタをしたらお肉を蒸し焼きにします。



「とても良い匂いがします。」

お風呂から上がってきたアスラさんはそう言って私の傍に来ました。


「ふふふっ。もう少しで出来上がるので、座って待っていて下さいね。」

私の言葉にアスラさんは嬉しそうに「はい」と言っています。夜会などの警備のお仕事中は交代で食事を摂っているようなのですが、昨日の夜は何を食べたのでしょう?ちょっぴり気になってしまいましたよ。


蒸し終えたご飯と温めたスープを器に装い、焼き上がったお肉をせん切りにしたダートの上に乗せて、アスラさんの前に並べます。朝食を前に「いただきます」と言って食事を始めたアスラさんは、生姜焼きモドキを「美味しいです」と言って完食してくれました。


「アスラさん、昨日?の夜は何を食べたのですか?」

「夜には、パンとスープを頂きましたよ?」

そんなアスラさんに興味本位で夜食の内容を聞いてしまったのですが、ちょっぴり後悔してしまいました。

お貴族さまの夜会なのですから、もっと良い物を準備できるのでは?何て思ってしまいましたが、スープが出るだけ「良心的」なんだそうです。大抵は、パンとバターがセットになっている物と果実水が出るくらいなんだそうですよ。

夜会の警備をしている騎士さまの多くは、お仕事が終わった後に騎士団内の食堂で食事を摂っているみたいなのです。もともと騎士さまの多くは騎士団内の寮に入っているようなので今の所問題はないみたいなのですが、帝国でも「花形」と言われる騎士さまの扱いが「適当」な事に切なくなってしまいました。


ソッと、今日のために準備したロールケーキを切り分けた内の1つをアスラさんに差し出します。端っこでごめんなさい・・・。


「そうでした。フィーナ、今日の迎えは何時に来るのでしょうか?」

ロールケーキを受け取ったアスラさんは、時計を確認して私に聞いてきました。


「お昼の2刻に迎えの馬車が来る事になっているので、アスラさんはその時刻までお休みして貰って大丈夫ですよ。」

「いえ、フィーナにも準備があるでしょうから、昼食の頃には起きます。」

私の内心を知らないアスラさんは、「美味しかったです」とロールケーキを食べてからお部屋に向かいました。アスラさん、お昼まではゆっくりと眠って欲しいです。


今日は、学院の時の友達に招待された「お茶会」の日なのです。お昼の2刻にお迎えが来るので、それまでにやる事を終わらせないといけませんね!




アスラさんがお部屋に向かってから少し経った頃、フォウル君とルカ君が起きてきました。



今日でフォウル君とルカ君がお家に来て5日が経ちました。


初日にあいさつした時に驚いてしまったのですが、何とフォウル君は13歳でルカ君は11歳なんだそうです。ヒトと違って体格に恵まれる獣人の皆さんは、10歳を超える頃からグンッと身長が伸びるんだそうです。

でも、フォウル君とルカ君は3年くらい前からの過酷な労働とあまり良くない食事事情からか、私よりも身長が低いのです。獣人さんの成人年齢は15歳とヒトよりも早いので心配になりましたが、お2人は私の作った物を綺麗に完食してくれるので、「せめて標準くらいまでは大きくなって貰えたら・・・」と思います。それと、フォウル君はそうでも無いのですが、ルカ君は言葉の発達も遅れているようでした。

騎士団で保護されていた時に、騎士さま達が積極的に話し掛けたりしていたようなのですが、ルカ君は「大人のヒト」が怖いようで、何度か恐慌状態になっていたようです。お兄ちゃんであるフォウル君や一緒に保護された獣人さん達との会話で何とか今の状態になったみたいなのですが、今でも「大人のヒト」は怖いみたいです。お家でも、ソールさんとは仲良く一緒に遊んでいるのですが、アスラさんにはなかなか近付きません。



フォウル君とルカ君が起きてきた後にソールさんも起きてきたので、皆で朝食を食べました。その後、洗濯などの家事をしていたのですが、今日はお出掛けをする予定があるので、ソールさん達のおやつに取り掛からなくてはいけませんね。



ソールさんはもちろんなのですが、フォウル君とルカ君も甘い物がお好きのようなので、今日のおやつは「カステラ」にしましょう。アスラさんは甘い物が苦手のようですが、カステラはアリオスさん達の所に持って行った時にアスラさんも一緒に食べていたので大丈夫でしょう!信じていますよ!


私がカステラを作る準備をしていたら、ゴロ寝スペースでフォウル君に絵本を読んで貰っていたソールさんがトテテッと駆け寄ってきました。


「おかしゃん、なにつくるでしか?」

ソールさんのワクワクした様子に、フォウル君とルカ君もこちらに来ます。


「今日のおやつを作るのですよ~。今日はカステラを作るので、おやつの時刻になったら皆で食べて下さいね?」

私の言葉にソールさんはパァッと笑顔になって「かすてら!」と言います。フォウル君とルカ君は不思議そうに首を傾げていましたが、そんなお2人にソールさんは「かすてらは、ふわふわでしよ!」と言って、いかにカステラが素晴らしいかを説明していました。ゴロ寝スペースに戻ってからは、図解までしてくれていたようです。


暖炉には火が入っているので、水分補給用のお茶と軽いお菓子をソールさんたちに準備したら、早速カステラ作りを始めますよ!





カステラを焼く時に使うフライパンには、あらかじめバターを塗っておきます。


メイの粉を適量とお砂糖、タマゴとミルクとバターを冷蔵庫から出します。そうしたら、メイの粉を篩にかけて、バターは湯煎で溶かしておきます。タマゴは卵黄と卵白にそれぞれ分けます。

私はしっとりとしているカステラが好きなので、卵黄を1個分多く入れていますよ。残りのタマゴ1個分の卵白は、後でメレンゲクッキーにしてしまいましょう。


卵黄を溶いて、ミルクと溶かしておいたバター、お砂糖を入れてしっかりとかき混ぜます。しっかりとタマゴ液を混ぜたら、メイの粉を加えて全体が滑らかになるまで混ぜ合わせますよ。


混ぜていたタマゴ液が滑らかになったら、卵白を泡立てます。今日はアスラさんに氷を準備して貰っているので、泡立ても簡単・・・のハズですよ!


・・・どなたか、本当に技術革命を起こしてくれませんかねぇ・・・。


そんな事を思いながら、せっせとメレンゲ作りを泡立て器で頑張りますよ。全体がある程度泡立ってきたら、お砂糖を加えてさらに泡立てます。これでもか!と泡立て器を動かしていきますよ。


泡立てを終えたら後は簡単です。メレンゲの中に先程作ったタマゴ液を流し入れて、メレンゲの泡を潰さないように底から掬い上げるように混ぜ合わせていきます。ボウルの縁に添うようにヘラで掬い上げるのがコツですよ。しっかりと混ぜ合わせたら、カステラの生地の出来上がりです。


できた生地をフライパンに流し入れていきます。カステラの生地を入れ終えたら、フライパンを軽くトンットンッと落として、生地を整えます。


そうしたら、フタをしたフライパンをコンロに乗せて、火にかけます。火加減はごく弱火ですよ。これ以上絞ったら消えてしまうというくらいの弱火でジックリと焼き上げるのです。

フタをするのは蒸し焼きにするためなので蒸気を逃がさないために、半刻くらいまでは絶対にフタを開けませんよ。



時計を確認したらお昼の11刻くらいなので、お昼を食べている時に焼き上がりそうですね。昼食にはミートパイを準備しているので、サラダとスープを作りましょうか。



お昼の12時を少し過ぎて、アスラさんが起きてきました。ソールさんはアスラさんに向かって一直線にタックルしていましたが、アスラさんの足は大丈夫なのでしょうか?


アスラさんの姿を見たルカ君がサッとフォウル君の後ろに隠れてしまいましたが、アスラさんは気にした風も無くお2人に「おはようございます」と挨拶していました。フォウル君は申し訳なさそうにしていましたが、アスラさんも「大丈夫」と言っていたので、お昼ご飯にしますよ。




今日がお休みのアスラさんには、昼食の後にソールさんたちのおやつと飲み物の説明しました。しっかりと聞いていたように見えたので、私は安心してお出掛けできそうです。


迎えの馬車が来る時刻はお昼の2刻なので、お着替えする為に自分のお部屋に戻ります。今日は学院で同級生だったフロリアちゃんのお家に行くので、お義母さんから頂いたワンピースから選びますよ!

・・・本来ならばお茶会に行く時にはドレスが好ましいみたいなのですが、今回フロリアちゃんのお家で開かれるお茶会は「帝国にいる商業都市の学院での同窓生」がメインなんだそうです。フロリアちゃんが招待した「同窓生」は、貴族以外の商家のヒトもいるので「服装は自由」って書いてありましたよ。本当に助かります!



今日、私が着ていく薄緑色のワンピースは昨日アスラさんに「どちらが良いですか?」と聞いて、選んでもらったワンピースです。昨日の内にアイロンを掛けたので、皺はありませんよ!お義母さんの準備したワンピースなので間違いはないのですが、何分装飾が多いのです。葛篭を開けた時に、ちょっぴり遠い目をしてしまったのは秘密です。


髪型を整えて1階に下りたら、ソールさんに「おかしゃん、きょうはもっとかわいいでし」と褒められてしまいました。ソールさんのこの言葉に嬉しくなって、私も「ソールさん、ありがとうございます。今日のソールさんも、とても可愛らしいですよ」と言ったのですが、ソールさんは「おかしゃんは、いつもかわいいでし!」と私をベタ褒めしてきます。



・・・どうしたのでしょう?



「・・・ソール。ソールは出掛けませんよ。」

「ぴっ!」

アスラさんの言葉にソールさんが驚いたように振り向いていますが、ソールさんは付いてくる気だったのでしょうか?昨日の説明の時には、「ふぉうると、るかとなかよくあそんでいるでし!」と言っていませんでした?

ソールさんは、お迎えの馬車が来た時にアスラさんの腕に抱えられたまま「そーるもけーきたべるでし~」と言っていましたが、どうしてバスケットの中身がロールケーキだと知っていたのでしょう?



・・・ソールさんがバスケットをチラチラッと見ていたのは、気のせいでは無かったのですね。










ソールがロールケーキの存在を知ったのは、フィーネリオンが朝食の時にアスライールに出した事で知りました。カステラには何の不満も持っていませんでしたが、ロールケーキの存在感はカステラよりも大きかったようです。


実は、フォウルとルカはフィーネリオンが起きてくる前に目を覚ましていました。騎士団で保護されていた時も、貴族の屋敷にいた時のように「ヒトに何かされる前に動けるように」と早起きが習慣付いていました。

騎士は皆その事を知っていたけれど、その事については触れていませんでした。


この世界の獣人はヒトと同じような食生活なので、特に「食べてはいけない物」という物はありません。

フォウルとルカにとって、フィーネリオンの作る料理は「未知の世界」の食べ物。


フィーネリオンは、この世界で技術革命が起きる予感が全くしない事に、諦めが付きません。


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