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128 しんぱいしんぱい






月が変わって8月となり、それぞれのご領地に帰っていた貴族さま達が帝都へと戻ってきていると聞くようになりました。そういった貴族の皆さま達の誘導も兼ねて騎士さま達は今まで以上の警備に追われているようです。


騎士団に所属しているアスラさんは、今までの勤務シフトではない「社交期間用」の勤務シフトとなりました。騎士団では社交期間中は貴族さまのお屋敷で開かれる夜会などの警備も(要請があれば)行う様なので、そういった事に合わせて出勤の時刻が早くなったり、帰ってくる時刻が遅くなったりと少しだけ慌ただしくなっています。



社交シーズンに入ったという事で、他所のお屋敷で開かれる夜会からのお誘いがヴァレンタ家へもたくさん来ているそうです。4月の終わりにヴァレンタ家のご領地に遊びに行った時、お義母さんの「夜会で着るドレスを仕立てましょうね」の言葉に戦いていたのですが、そこに救世主の如くアスラさんが「待った」をかけてくれたのです。


どうやら、貴族の方がおよそ半数を占める騎士さま方には、自身が夜会に出席する事により貴族ではない平民出身の騎士の負担を減らすために「社交免除」が言い渡されているようなのです。

そうなると、帝国の夜会などでは「伴侶同伴」が当たり前となっているので、騎士であるご自身がお仕事で警備をしている日に「断る事の出来ない方」から招待を受けた場合、ご自分の伴侶の相手として自身の「代役」を立てなくてはいけなくなってしまいます。その事を嫌がった騎士さまがたくさんいらした事と、その伴侶(妻多め)を人質に他の貴族さまの情報を要求してくる貴族さまも過去にいらした事で、騎士さまの伴侶である「夫」または「妻」も同じように社交免除となっているそうです。



先月の終わりに帝都に戻ってきたお義母さんは、まるで「親の敵」を見る様な目でアスラさんが渡した「入団の栞(騎士団入団の時に配られたようです)」を読んでいました。・・・お義母さんのその様子は、ちょっぴり怖かったです。


きっと、アスラさんの「実家の夜会には出席できるので、屋敷で開かれる夜会には出席します」の言葉がなかったら、お義母さんはチョットした辞書くらいの厚みがある入団の栞をビリビリにしてしまったのでは?何て思ってしまいました。


同じ空間にいらしたローランさまも「今の騎士団長は誰だったっけ?」なんてアスラさんに聞いていましたし、アコライトさまも「まあまあまあ、そんな事が書かれているだなんて」とお義母さんを止めようとしません。

ただ、ソールさんの相手をしていたゼーセス義兄さんだけが「まじか!」と羨ましそうにアスラさんを見ていました。


ゼーセス義兄さんは9月末にコルネリウス義兄さんが帝都に来るまでの間、コルネリウス義兄さんの代役として夜会に参加する事が決まっているようですからね。本当に頑張って下さい。



「あら?それでは、フィーナさんは義兄様の開く夜会には参加してもいいのかしら?」

私を見ながらお義母さんは「折角ドレスを仕立てる事が出来るのですものね、良かったわ」と言います。


・・・お義母さん、ドレスはもう十分ですよ?それに、参加しなくても良いのであれば、それに越した事はないのですが?


「サイアンはカーマインの兄だからな。アスライールの後見人にもなっていると聞いているから、フィーナさんも参加して大丈夫だろう。うん。」

「えぇ、そうね。でも、サイアンはギリギリまでは領地にいるでしょうから、夜会を開くとなると暫くの間はオフェリアさんがユーレインを連れて開く事になるのではないかしら?もちろん、ラヴィアーネも一緒にね。」

アコライトさまがお義母さんにそう言います。ローランさまも「その時には私も顔を出そうかな」と言っているので、スターリング家の夜会はとても豪華な顔ぶれになるのではないのでしょうか?



・・・お義母さんとローランさまアコライトさまの中では、私の両家での夜会参加は決定しているようですね。アスラさんは1人で「無関係者」を装ったように座っていますが、大丈夫なのでしょうか?もちろんアスラさんも参加しますよね?私1人での参加は心細いので、一緒にいて下さいね!



ちょっぴり遠い目をしてしまいましたが、実質「ヴァレンタ伯爵家」と「スターリング侯爵家」で開かれる夜会に主席するだけで良いみたいなので、そこは頑張りましょう。でも、暫くの間は貴族年鑑が手放せなくなりそうです。




この時のお話をアメリアさんとリンカーラさんに言った時、リンカーラさんは軽く「社交界では有名な話だね」と言っていましたが、アメリアさんの「えぇっ!?」と言って私を見てきた時の驚いたお顔は忘れません。

どうやら、アメリアさんはトライデント候爵夫人と一緒に何件かの夜会に参加する事が既に決まっているそうです。そのうち何件かはリンカーラさんもお誘いを受けている様で「アメリア嬢が出席するのであれば私も参加してみようかな」と言っていました。リンカーラさんのその男前な言葉に、アメリアさんは感動していましたよ。


ただ、個人的なお付き合いとなると日中に開かれる「お茶会」に参加するという方法もあります。こちらはアスラさんに聞いてみたら「参加しても大丈夫」と言う事だったので、学院の時の友達からの招待状に「参加」のお返事を出しました。

招待状に書かれていた友達の家名を見て、お義母さんが「まぁ!」と嬉しそうにしていたのですが、お知り合いのお屋敷なのでしょうか?



でもアスラさん達「精霊さまとの契約者」の事は上位貴族の皆さんも認識しているので、「皇家主催」の夜会に関しては精霊さまとの契約者であるアスラさん達は絶対に参加しなくてはいけないようです。

ただ「皇家主催」という夜会はあまり開催されないようで、「皇帝主催」「皇后主催」がほとんどなんだそうです。同年代を集めた「皇太子主催」「皇子主催」「皇女主催」なんかもあるようですが、こちらはお義母さんにも「行かなくて大丈夫よ」と言って貰えたので、私には関係なさそうです。



お義母さんとアコライトさまが「フィーナさんのドレスを考えないといけないわね!・・・ついでにアスライールの衣装も準備しておきましょうか」とルンルンしながらお話ししていたので、もうマルッとドレス周辺の事はお任せしてしまいましたよ。ただ、アスラさんの衣装に関してはとても助かります。ありがとうございます。





それと、8月に入って直ぐにラヴィアーネさまの婚礼衣装用の紗が届きました。



ラヴィアーネさまの婚礼衣装の刺繍が銀糸と金糸を使う様なので、ドレスに使っている糸と同じ物を用意して貰ったのですが、キラキラと輝く銀糸と金糸は見るのも扱うのも初めてだったので、思わず拝んでしまいました。



こちらでは「お尻が隠れるくらいの長さ」が一般的(と後から知りましたよ)のヴェールですが、婚礼衣装についての話し合いをした当時の私は「前世の私」基準で考えていたので、始めに提示された紗の長さに「あれ?」と思い「もう少し長くても良いのでは?」と言ってしまったのです。


私の言葉に皆さんが驚いていましたが、刺繍を入れるのは私なのです。周りの皆さんの「それなら」と言う言葉で、徐々に長くなったヴェールは「前世の私」基準で満足の「ロングヴェール」となりました。



今思うと、前世にだって「ショートヴェール」はあったと思うのです。あの時の私は何て事を言ってしまったのかと、刺繍を入れている今の私は少しだけ後悔してしまいました。でも、自分で薄い生地に「仮刺繍」していたのですが、やっぱり長いヴェールで正解の様な感じがします。


ラヴィアーネさまの婚礼衣装を担当しているルルティナさんにヴェールの形を聞いたのですが、驚いた事に「今、流行っているヴェール」というのは、(生地の角を丸くはする様なのですが)四角い生地をそのままヴェールにするという物なんだそうです。


思わず「えぇ!?(味気ない!)」と言ってしまったのですが、ヴェール用の「刺繍職人」の数がとても少ない事と、ヴェールを着用する様な上流貴族には「お抱え」の刺繍職人がいるので、その方達が刺繍を入れているんだそうです。そういった方達であっても、普段刺繍を入れている生地とは全く違う紗への刺繍は難しいらしく、ヴェールの模様は各お屋敷でバラバラなんだそうです。


それでも、よくよくお話を聞いてみたらヴェールの形に決まりはないそうなので、私はガッツリバッサリと刺繍に合わせて生地を切っていますよ!ラヴィアーネさま用のヴェールへの刺繍は、私の中での「ラヴィアーネさま」のイメージである「ユリの花」のアレンジ刺繍となっています。


ルルティナさんに私が薄い生地に仮刺繍した物を見て貰った時に、もの凄い勢いで刺繍を見ていて驚いたのですが、「仮刺繍」で目もガタガタしていたので何だかとても恥ずかしかったです。


ルルティナさんは興奮した様に「コレで行きましょう!」と言ってくれたので、大きな変更もなく刺繍の案が決定しました。ただ、この刺繍を更に薄い生地である紗に入れるとなると、とても大変な作業となります。

ルルティナさんからは「予備の紗を2枚準備してあります」と言って貰えたので、修正できない様な失敗をした時には遠慮なく連絡しようと思いました。





「おかしゃん、そーるにあうでしか?」

ヴェールの刺繍を入れている合間に「見本」として置いている仮刺繍のヴェールを被って、ソールさんがこう聞いてきた時に「とても可愛らしいですよ」と答えた私は、内心ソールさんの成長が心配で仕方ありませんでした。



・・・でも、ニコニコ笑顔のソールさんを見て「あと3年くらいは大丈夫かなぁ・・・」ともヒッソリと思ってしまいました。











ヴェールの刺繍調整の際には、アスライールにヴェールを着けて貰っていました。


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