121 しゅうかくの・・・ 1ページ目
みなさんこんにちは。今日は収穫祭が始まって4日目、アスラさんのヨレヨレ具合に磨きが掛かってきました。
アスラさんのあまりのヨレヨレ具合に、昨日の夕食時にはソールさんがソッと私が剥いたミシュの実をアスラさんのお皿に乗せていました。
今朝の出勤の時にも、ソールさんはアスラさんを元気付ける為に一生懸命「不思議な踊り」を踊っていましたよ。今日を乗り越えれば、お休みを挟んで夜番の勤務になると勤務表には描いてありましたから、アスラさんには頑張って今日を乗り越えて欲しいです。
リンカーラさん達との収穫祭回りは明後日なので、明日はアスラさんがゆっくり出来る様にしましょう!そう思いながらオーブンから焼き上がったプガのパイを取り出します。
プガはカボチャの様なお野菜なんです。昨日、お隣のミーシェさんから「今年はたくさん採れたから、お裾分け!」と、このプガを2つ頂いたのです。プガで作るパイは甘くて美味しいので、頂いた時には喜びました。
そして今日。
私がプガと対峙して既に1刻半、普段なら切れ味の良い包丁なのですが、私の愛用の包丁ではプガの固い皮を切る事は出来ませんでした。プガのあまりの固さに驚きましたよ。プガのあまりの切れ無さに、私は「プガを丸ごと茹でましょう」と考えて、お鍋を準備します。私がプガと格闘している間、ソールさんはハラハラとした様に台所前で私の様子を見ていましたよ。
・・・そう思えば、商業都市に居た時はニリアさんから「カット済み」のプガを貰っていたので、丸ごと1個のプガを調理するのは初めてでした。ニリアさんは、このプガをどうやって切っていたのでしょうか・・・?
こちらの世界には「電子レンジ」という便利な機器はありません。私がプガを切る事に使える「有効な方法」は、プガを「丸ごと1個」茹でてしまう事なのですが、こちらのプガは結構な大きさがあります。このプガを丸ごと茹でてしまった場合、使い切れる自信がありません・・・。
アスラさんとソールさんのお腹を、私は信じますよ!
昼食後にプガをマルッと1個茹でて、へたの部分を切って中身をくり抜いたら、「これでもか!」という量のハンバーグ種を詰め込みました。こちらは、アスラさんが帰って来る時間に合わせて焼き上げる様にしましょう。ソールさんは、私の様子よりもハンバーグ種の量に大興奮していました。真ん中にチーズを入れたハンバーグはソールさんも大好きなので、きっと食べきってくれますよね。信じていますよ!
ソールさんは私が料理をしている時には、とても大人しくコロコロしています。特に今の時間は「おやつを作る時間」と理解している様で、出来上がりまでソワソワとゴロ寝スペースとテーブル席を往復してします。そんなソールさんを見ているから、おやつは少しだけ頑張っているのです。ソールさんの様子に癒やされた私は、先程くり抜いたプガを使って「プガパイ」を作ります。
種と綿を取り除いたプガをお鍋に入れて、少しのお水とミルクを入れて弱火で混ぜ合わせます。良く混ざったら、バターを加えて火を止めます。
耐熱皿にバターを塗って、パイ生地を敷きます。お鍋から器にプガを移して、プガにビーネの蜜を塗ってパイ生地で蓋をします。蓋にしたパイ生地に卵黄を塗ってオーブンで焼き上げれば、プガパイの出来上がりです。
今回、私はプガのパイを2つ作りました。
・・・どうしてプガパイを2つ作ったのかというと、お隣のミーシェさんへのお裾分けなんです。ミーシェさんは、昨日プガを頂いた時に「明日、上の娘が子供を連れて帰ってくるんだよ」と嬉しそうに言っていました。
「孫達が好きそうな料理を作らないとね!」
ミーシェさんはお料理がとても上手なのです。私も毎日の献立に困った時にはミーシェさんに相談したりしているのですが、どうやらミーシェさんは「お菓子」を作るのが苦手の様なのです。
・・・そう、こちらの世界のお菓子は、お砂糖を大量に使います。ミーシェさんはそのお砂糖の量を受け入れられなかった様で色々とアレンジしていたようですが、上手くいかなかったみたいでした。いつもお野菜を頂いている私ですが、お礼をする時が遂に来たようです!
それを聞いたので、私は「頂いたプガを使ってのプガパイをミーシェさんにお裾分けしよう!」と昨日思ったのです。思いのほかプガが堅くて手こずりましたが、ソールさんのおやつも一緒に作れたので結果としては良かったと思います。プガパイを1枚お皿に乗せて、バスケットに入れます。ソールさんが不思議そうに首を傾げて私を見て来ました。
「お隣のミーシェさんへの差し入れですよ」
私がこう言ったら、ソールさんも付いてきてくれました。
「おや?どうしたんだい?」
ソールさんと一緒にお隣のミーシェさんのお家のベルを鳴らしたら、ミーシェさんは驚いた様にお家の門を開けてくれました。ミーシェさんの後ろ、ミーシェさんのお家の扉からは見た事のない子供達がこちらを覗いています。
「昨日ミーシェさんに頂いたプガでお菓子?を作ったので、良かったら食べて貰おうと思って持ってきたのです。」
私がバスケットを持ち上げてミーシャさんにこう言ったら、ミーシェさんは驚いた様に「プガで作ったのかい!?」と言って私を見ています。
「はい。お口に合うと良いのですが・・・。」
バスケットの蓋を開けてミーシェさんにプガパイを見せます。
「驚いた!プガでお菓子を作るなんて聞いた事が無いよ!?」
バスケットの中のプガパイを見たミーシェさんの驚きは、何となく予感していました。私が商業都市に居た時にプガパイを作ったら、ニリアさんとダンさんにも同じように驚かれましたからね。
こちらの世界では「お菓子」というと、お砂糖を使う「焼き菓子」が一般的ですからね。果物はそのまま食べるか、生菓子の「添え物」です。なので、お野菜を「お菓子の材料として使う」事は無かったそうです。
ニリアさんとダンさんの意識改革をした私は、せっせと生活ギルドにレシピを登録して商業都市の皆さんの意識改革に努めましたよ!・・・多少は、主婦の皆さんの意識改革が出来たと思っているのですが、どうだったのでしょう?あまり自信はありません。
「おいしいのよ!」
ソールさんがミーシェさんに一生懸命プガパイの美味しさを訴えています。私がミーシェさんへの差し入れを準備している間に、ソールさんは一切れ食べていましたからね。
「分かっているよ。とても美味しそうに焼き上げられているから、驚いたのよ。でも、本当に良いのかい?」
ミーシェさんはそう言って、バスケットを受け取ろうとはしません。
「はい。ミーシェさんにはいつもお世話になっていますし、頂いたお野菜はとても美味しいのです。コレも元はミーシェさんから頂いたプガから作ったので、是非とも食べて貰いたいです。」
私の言葉にミーシェさんは「何だか悪いねぇ」と言っていますが、お顔は先程とは違って笑顔を浮かべています。
「前に貰った焼き菓子は、孫達も喜んでくれたんだよ。普段は甘い物なんて口にしない息子も『この焼き菓子は、ドコから買ってきたんだ?』てしつこく聞いてきたくらいだからね。だから、コレもきっと喜ぶよ。ありがとうね。」
ミーシェさんはそう言ってプガパイを受け取ってくれました。
お家に戻ってソールさんとおやつのプガパイを食べて、ソッとお鍋にまだ残っているプガの調理法を考えます。
・・・丸めて衣を付けてリップにしても良いですし・・・、いえ、駄目です。さっき、ハンバーグ種を詰め込んだ物を作りましたよ。・・・お野菜とマヨネーズで和えても良いですね。
・・・いえ、ミルクを使ってしまわないといけないので、プガのスープにしましょう!そうと決まれば、後は実行に移すだけです!
元々ペースト状になっているプガに、少しずつミルクを入れながらかき混ぜます。お鍋の中のプガが程よく滑らかな感じになったら、お塩を入れて味を調えます。
「うん、美味しい。」
私はお鍋いっぱいのプガのスープにちょっぴり現実逃避をしながら、スープの出来に満足しました。
・・・アスラさん、ソールさん。私は信じていますよ!
「まぁ、今の時期でしたら、明日に残しても大丈夫でしょう。」
明日の朝食は、ちょっぴり楽が出来そうです。そんな事を思いながら、プガの器で作ったハンバーグを中火にセットしたオーブンに入れます。
その時です。いつもより少し早めにアスラさんからの連絡が入ったのは。私は「珍しいですね」と思いながら魔石に魔力を通します。
「・・・フィーナ。今、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。お疲れ様です。アスラさん。」
私がアスラさんからの言葉に答えた時、魔石の向こうから「おぉーーーーっ!」と歓声が聞こえてきました。後ろにいらっしゃる皆さんは、何か観戦しているのでしょうか?
「・・・実は、少し急なのですが・・・・、同僚を連れて帰っても良いですか?無理にとは言いません。駄目なようでしたら、無理せずに断って頂いて大丈夫ですよ。本当に!」
アスラさんの言い出しは戸惑いがちだったのですが、後半はとてもしっかりと強い意志を感じました。
「えぇっと、たいしたおもてなしは出来ませんが、それでも良ければ・・・。」
今日、私が準備しているのは、大きなハンバーグとスープだけです。後はお野菜を刻んでサラダを作れば、それなりにバランスが取れた食事になると思うのですが、どうなのでしょう?あっ!パンはもちろん出しますよ!
「フィーナ・・・、そんなに気を遣わなくても良いのですよ・・・?」
アスラさんはそう言っていますが、リンカーラさんやアメリアさん達以外でこちらのお家に遊びに来る方は今までいなかったので、張り切っておもてなししますよ!
「何か、買って帰る物はありますか?」
アスラさんは気遣いが出来るヒトですねぇ。私は「大丈夫ですよ。気を付けて帰ってきて下さいね」と言って通信を終えます。
「ソールさん。今日はお客様がこれから来るので、少しだけお片付けをしましょうか!」
私とアスラさんの通信を傍で聞いていたソールさんは、元気に「あい!」とお返事をしてゴロ寝スペースに向かいます。
そう言えば、アスラさんの「同僚さん」は何人くらい来るのでしょうか。聞くのを忘れてしまいました。何とかなりますよね?
でも、「パンの数は数えておいた方が良いかも」と思い、私はカゴに入れてあるパンを数えに台所に戻りました。
収穫祭の期間中は、早番が2日。中番が2日。夜番が3日。お休みが3日。で勤務表が作成されていました。アスライールの勤務日程は、中番→早番→休み→遅番となっています。
フィーネリオンは「お休みの次の日から夜番なので、楽になりますね」と思っているけれど、収穫祭の一番忙しい初日に中番で入り、帰る人でごった返す最終日に夜番という、アスライールの勤務日程は騎士が嫌がる順番となっています。
フィーネリオンは、アスライールが帰ってきた時に「あっ!」と声を上げてしまいますが、それは「アスライールに冷凍して貰ったら、良かったのでは・・・!」と思ったから。
ミーシェの家族はプガのパイに驚きましたが、美味しく食べました。




