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120 ぷんぷんにこにこ






みなさんこんにちは。収穫祭の始まった帝都は今、収穫祭一色となっています。

そんな中、私はプンプンと怒っているソールさんを宥める方法を一生懸命考えています。





新緑祭の時には、それぞれの地区で「妖精姫」と「妖精の騎士」といった代表者が選ばれていますが、収穫祭の時には「これ」といった代表者はいません。

ただ「新緑祭の時には『妖精姫』と『妖精の騎士』がヒトの要望を聞いて女神さまに報告する」という事になっていて、収穫祭は「『ヒトの代表』が女神さまへ感謝の報告をする」という建前のお祭りとなっています。

私は収穫祭を商業都市でしか体験した事がないのですが、おそらく帝都でも「身分の高い」新婚夫婦が女神さまに「収穫の感謝」を祈る様になっているのだと思います。



「収穫祭期間中はヒトの出入りが多くなっています。危険ですので、明日と明後日の外出は控えて欲しいです。」

収穫祭前日の昨日、お休みのアスラさんとお買い物に行く時にそう言われたので、アスラさんの次のお休みくらいまでの食材を買い込んでみました。




つい先程まで、アスラさんの服を作る下準備をしていました。


・・・実は、ここ最近ソールさんの着ている服をアスラさんがジッと見ているのです。アスラさんが見ているソールさんの服は、(私の気のせいでなければ)私の作った服の時が多いと思うのですよ。ソールさんも嬉しそうに「おかしゃんがつくってくれたのよ!」とアスラさんに言っていますからね。その様子を見た初めの内は気にしない様にしていたのですが、先日ついに、アスラさんのお口から「ソールは良いですね」という言葉が出てきたのです。

その言葉にキョトンとソールさんは可愛らしく首を傾げていましたが、そんなソールさんをお膝に乗せたアスラさんが私を見てきたので「これは、もしかしたら催促されているのでしょうか!?」と内心ドキドキしながら続きを待ってみたのですが、アスラさんからその続きを聞く事はありませんでした。



毎日良く動くソールさんは1日に何度もお着替えしているので、お義母さんから頂いた服では足りないのです。お出掛け用の「よそ行き用」の服は、横に除けているので足りているのです。でも、お洗濯をしても乾きが悪い今の時期は、圧倒的にお家用の服が足りていません。なので、ソールさんにはお家用の衣服を私が作っているのです。

アスラさんは基本的には「騎士の制服」が標準装備なので、着替えの数は充分に間に合っていると(勝手に)思っていました。私も新しい服を自分で作っていましたから、アスラさんには申し訳ない事をしてしまいました。


アスラさんも新しい服が欲しかったのですね。気付け無かった事を申し訳なく思ってしまいました。



「フィーナさんは、裁縫が出来ますのね。それなら、アスライールにも何か作って上げて?アスライールの寸法はリランに届けさせるわ。

後・・・、そうでしたわ!旦那様に送って頂いたフィーナさんからの手巾が届きましたの!素敵な模様で、ローラン様とアコライト様も喜んでいましたわ。本当にありがとう。」

次の日にお義母さんに連絡したのですが、お義母さんとのお話はご領地での事と帝都のお話をして終わりました。お義父さんに渡した手巾がお義母さんの所に届けられた様で、手巾のお礼の言葉もいただいてしまいました。


そして、次の日にお義母さんから連絡を受けたリランさんが家を訪ねてきたのです。



・・・アスラさんの寸法とたくさんの生地を持って。



「ガーブ=ポピルシア工房のリランでございます。フロウズ夫人、お久し振りでございます。ヴァレンタ伯爵夫人からの要望で本日は参りました。それと、差し出がましい事かも知れませんが、衣服用の生地と小物類をを幾つか持って参りました。」

とてもお久しぶりなリランさんですが、お名前の前に言った工房名はニアちゃんとティアちゃんが帝都に来た時に「行ってみたい」と言っていたお店の名前でした。その時はお店まで行ってみたのですが、ちょうどお休みの日だった様で扉が閉まっていました。


「お久しぶりです。生地はとても助かります。生地を見ても良いですか?」

私の言葉にリランさんは「はい」と言って、生地見本を私の前に広げます。私の隣りに座っていたソールさんはその生地見本には興味が無い様で、小物類を見ていました。


「普段使いの衣服ですと、これからは濃いめの色の方が良いかと思います。」

リランさんの言葉に「なるほど」と相槌を打ちながら生地見本をめくっていきます。



アスラさんは何色の服でも似合いそうなのですが・・・。そう思いながら私が選んだのは、浅蘇芳あさすおう色と黒鳶くろとび色、月白げっぱく色と似せ紫にせむらさき色の4色でした。


私の選んだ色にリランさんは不思議そうにしていましたが、それ以外にもボタンと裏地用の生地も選びました。


「生地は、浅蘇芳色と似せ紫色の生地は毛織物で、黒鳶色と月白色は綿でお願いします。後、すみません。桃花色の綿生地もお願いしたいのですが。」


そうでした。ライ兄さんに無事に赤ちゃんが産まれたとお手紙を貰っていたのです。

産まれたのは5月の21日だったようで、赤ちゃんが安定するまで報告を控えていたようです。赤ちゃんは女の子で、ライ兄さんと奥さんであるシアさんに良く似ているそうです。ニリアさんも大喜びだった様で、ニリアさんはたくさんの小物を作っているそうです。ジェイ兄さんからのお手紙からは、とても楽しそうな雰囲気が伝わってきました。

これから寒くなってきますし、私からも「贈り物をしましょう」と追加で生地を購入します。ソールさんは色々なボタンを楽しそうに見ていたので、ボタンも幾つか購入しました。


「フロウズ夫人は、裁縫の心得があるのですか?」

「『心得』と言う程ではありませんが、結婚する前は家族の服を作っていましたので、ある程度でしたら作る事が出来ますよ。」

リランさんの言葉に、私は「さすがにドレスや礼服は作れませんけれど」と言葉を続けます。私の言葉を聞いたリランさんは「そうなのですね。ドレスなどは私共もいますので、お任せ下さい」と和やかに返してくれました。



リランさん達は2刻程、お家で生地選びに付き合って貰いました。リランさん達は、この後に貴族さまのお屋敷に向かう事になっていた様で、馬車にはたくさんの荷物が積まれていました。




お昼を食べてから、いただいたアスラさんの寸法を元にジャケットとシャツのデザインを考えます。

あれこれ考えましたが、シャツは普通に作っても良いですよね。ジャケットはテーラードジャケットにしてみましょうか。

先ずは、アスラさんの寸法から型紙を作っていきます。これが有ると便利ですからね。私は作りますよ。



型紙を作って、生地をパーツ毎に切り分けた所まで順調に進める事が出来ました。ここで冒頭に戻るのです。



・・・実は、ソールさんは型紙を作っていた辺りから頻りに「おかしゃ~ん。そーるとあしょびましょ~」とゴロ寝スペースから声を掛けてきていたのです。

ソールさんは、コロコロとゴロ寝スペース上を右へ左へと転がり、私を見ながら「そーるはここでしよ~」と私を誘惑していたのです。そのお誘いに「これが終わったら遊びましょうね~」と返していたのです。でも、いざ型紙を作ってみたら、思いの外お仕事が捗ってしまったのです。

生地をパーツ毎に分けた所で、痺れを切らしたソールさんがプンプンしながら「おかしゃん!まだでしか!」と声を掛けてきた事で、ハッとソールさんの存在を思い出したのです。


それから、いそいそと切り分けたパーツを片付けて「何をして遊びましょう!」とソールさんと向かい合ったのですが、プンプンしているソールさんは「そーるは、おかしゃんをまってたでしよ!」と言いながらクッションにしがみついてしまいました。



こうなったソールさんは、とてもめんど・・・手強いのです。



「放っておけば、そのうち機嫌も直りますよ。」

アスラさんはこう言っていましたが、その間、ソールさんからの視線に耐えなければいけないのです。

機嫌を損ねたソールさんは、ジッと・・・、そう、ジッと私を見ているのです。・・・以前、ソールさんがこの状態になった時があるのですが、私には耐えられませんでした。



・・・こうなった時には、必殺の「おやつ」作戦です!もう少し持つかと思ったのですが、私の自業自得ですからね。そろそろ解禁しましょう。



「きょ、今日のおやつは何にしようかな~。そろそろシロップ漬けを開けましょうかね~。それとも、何か別の物を作りましょうかね~。・・・ソールさんは、どちらが良いかな~?」

チラッチラッとソールさんを見ながら台所に向かい、冷蔵庫の確認をしながらソールさんの様子をチラ見します。


「む~~~~。」

それでも、ソールさんがクッションから剥がれる気配がありません。


「シロップ漬けをソースにして、ホットケーキなんてどうですかね~。」

私の言葉に、ソールさんが「むっ!」と反応しました。


「シロップ漬けにしたピッカの実を冷やして、そのまま食べるのも良いかも知れませんね~。」

ピッカの実は、一粒がライチくらいの大きさのブドウなんです。お屋敷に行った時に始めて口にしました。ソールさんがこのピッカの実を気に入った事をお屋敷の(優秀な)皆さんは気付いた様で、このピッカの実が出回っていた時には、私達がお屋敷に顔を出していた時には必ず準備されていたのです。


ソールさんも「ピッカの実」と聞こえたからでしょうか?クッションから離れて私の所に駆け寄ってきました。



「ソールさん、さっきはすみませんでした。今日のおやつは何が良いですか?」

私がソールさんに謝罪すると、ソールさんは「いいのよ!」と元気な声で返してくれます。


「そーる、おかしゃんのつくった『おやつ』はぜんぶすきでしよ!」

ソールさんは、そう言って私に抱き付いてきました。



おやつには赤ベリーアで作ったソースをたっぷりと掛けたホットケーキを作りました。夕食用にピッカの実を冷蔵庫で冷やしているのですが、ホットケーキを食べながらソールさんが冷蔵庫をガン見している今の状況に思わず笑ってしまいます。


ソールさん、ピッカの実は夕食後ですからね?












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