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117 ふわふわふわん・・・ 2ページ目





「お姉様!ソールさんもお久しぶりです!」

お屋敷に到着すると、シルミアさんがホールで出迎えてくれました。今日のシルミアさんは可愛らしいワンピース姿です。



「こっちです!」

シルミアさん先導で、1階にあるサロンに案内されます。でも、今日のお呼ばれは「シルミアさんのお話なのかな?」と思っていたのですが、お部屋の中には既に2人のお客様がいらっしゃいました。



「お久し振りです。フィーネリオンさん。」

「お、お久しぶりです!」

お部屋の中にいたのは、久し振りの再会となるラヴィアーネさまとプリシエラさんです。ラヴィアーネさまとは帝都に戻ってきてから1度、披露宴用のヴェールの刺繍について話し合う為にお会いしました。その時にラヴィアーネさまの披露宴用の衣装のデザイン画を見たのですが、さすが候爵家です。横に書き込まれた生地の種類や、使用されるレースや刺繍のデザインに妥協がありませんでした。後から思うと、ラヴィアーネさまの婚約者さんのご実家も「候爵家」なので、これが普通なのでしょうか?

ヴェール用の紗もスターリング侯爵家の方で用意してくれるそうなので、衣装に使われる色が紺色という事を踏まえて、「白」では無く「紺」色の物を準備して貰いました。この配色に衣装を担当した方が驚いている様なのですが、ヴェール用の紗は生地がとても薄いですし、こちらの世界ではお顔を隠す物では無いので「白」で無くても大丈夫だと思ったのです。なので、生地が届いたら、デザイン画とにらめっこしながら刺繍を入れたいと思います。


プリシエラさんとはご領地でお会いしたのが最後だったので、本当にお久しぶりです。実はプリシエラさん、こちらの世界ではとても貴重な「ツンデレ」さんだったのです。

私の「初」ツンデレさんはケイトだったのですが、貴族「初」ツンデレさんはプリシエラさんでした。何より微笑ましく思ったのは、ケイトのツンデレは同世代の中で幅広く発揮されていたのですが、プリシエラさんのツンデレはギリアムさん「限定」なのです。初めてお会いした私やソールさんに対しては普通に接していたのですが、ギリアムさんに対してだけは「ツンデレ」が本領発揮されるようです。私はご領地でのお2人のやり取りを見て、ニヨニヨしてしまいました。

一応、ギリアムさんには「プリシエラさんの言葉は愛情の裏返しなんですよ」と伝えておきました。ツンデレさんに理解がないと、「嫌われているんじゃないか」と思ってしまいますからね。


「今日は、お姉様にお願いがあってお呼びしましたの!どうか、私たちを助けると思ってお願いを聞いて欲しいのです。」

椅子に座った私を見て、シルミアさんはそう言ってきました。



「私でお役に立てるな「本当ですか!」・・・・えぇ。」

「ありがとうございます。」

「ありがとうございます!」

私の言葉に、シルミアさんだけでなくラヴィアーネさまとプリシエラさんも嬉しそうにします。



「えぇっと・・・?私は何をすれば良いのでしょうか?」

私がそう言うと、私の隣りに座っていたラヴィアーネさまが恥ずかしそうに「刺繍を教えて欲しいのです」と言ってきました。その言葉に驚いて、反対側に座っていたシルミアさんとプリシエラさんを見ます。


「実は、『大切なヒトへの贈り物』という題材で刺繍の課題が出たのです。私はお父様への手巾に刺繍を入れて渡そうと思ったのですが、あんまり刺繍が得意ではないので終わらないのです・・・。」

「私も同じ課題が出たのです。・・・ギ、・・・ギリアム様に渡そうと思ったのですが、良い構図が思い付かなくて・・・。すみません。」

「私もクラヴィス様用に、これから始まる社交期間に使う手巾の刺繍をしようと思ったのですが、どんな構図にしたら良いのか分からなくなってしまって・・・。」

それぞれの言葉に驚きます。少し頬が緩みそうになりましたが、私には断る理由が思い付きません。ソールさんはゼーセス義兄さんと一緒にいますし、時間が許す限り皆さんにお付き合いしましょう。



「そういう事なら、私もお手伝いしますよ!」

私のこの言葉に皆さんは顔を見合わせて、それぞれ持ってきたのでしょうか?刺繍箱をソッと机の上に出しました。その準備万端さに私は笑ってしまいました。お部屋に控えていたジーナさんが「失礼します」と言って、私がお屋敷で使っている刺繍箱を私の前に置いてくれました。そうですね、私もアスラさん用に手巾の刺繍をしましょうか。



「皆さん贈る相手が決まっている様なので、どんな図案を考えているのでしょう?」

私の言葉に、皆さんがキョトンとした様に私を見てきます。その様子に、私はジーナさんに紙とペンを用意して貰います。一応、植物の図鑑も持ってきて貰いました。



「お父様は優しいので、どんな構図でも喜んでくれると思うのです。」

そう言ったシルミアさんは、イニシャルだけが描かれた紙を自信満々に私に見せてきます。


「ギリアム様も贈り物は受け取って下さるので。」

プリシエラさんの紙には、とても見事なダリアの絵が描いてありました。


「クラヴィス様は、あまり拘りの無い方なので・・・。」

ラヴィアーネさまはこれまた控えめな構図である「縁取りのみ」を描いています。



「・・・皆さん、もう1度考え直してみましょうか。」

私の言葉に、皆さんが驚いた様に「えぇ!」と声を出します。


「お姉様、どうしてですか!?」

シルミアさんが「見捨てないで下さい!」と続けます。



「いえ、皆さんは『刺繍をしたい構図』をキチンと持っているようですが・・・。

・・・何て言うか・・・、ありきた・・・いえ、『安直な構図』だとか『男性が持つには華やか』だなんて・・・、ましてや『無難な刺繍ですね』なんて思っていませんよ?」

私のお口から「するり」と出てきた言葉に自分でも驚きましたが、唯一プリシエラさんの手巾が「贈り物」っぽい構図でした。以前、ラヴィアーネさまとシルミアさんは「構図のバリエーションがない」みたいな事を言っていましたが、目の前に植物の図鑑を置いたのにそれをマルッと無視された事に驚きました。ジーナさんはキチンと「刺繍の構図に使える」図鑑を選んでくれたのですよ?コレを使わずに何を使うというのですか!



「・・・実は、お父様の好きな物が良く分からないのです。」

確かに手巾の贈り物であれば、イニシャルは喜ばれるので。でも、きっとこの構図の手巾を「課題」として提出したら「再提出となる事間違いなし」なのです。ションボリとしたシルミアさんは可哀想なのですが、ここは心を鬼にしますよ!

シルミアさんには「ゼーセス義兄さんだったら、コルネリウス義兄さんの好きな物を知っているのではありませんか?」とさり気なく言ってみました。私の言葉にハッとしたシルミアさんは、椅子から立ち上がり「聞いてきます!」と言ってお部屋から出て行きました。



「すみません、私、こういった刺繍しか刺せませんの。ギリアム様が持つには、やっぱりお2人の様な手巾の方が良いのでしょうか・・・。」

プリシエラさんの構図は、贈る相手が女性であれば合格点を出せる構図なのですが、「課題」の内容としたら不合格でしょう。ションボリとした様なプリシエラさんには申し訳ないのですが、鮮やかなバラ色のダリアの刺繍は「女性が持ってこそ」の構図だと思いますよ。

プリシエラさんにはソッと図鑑を手渡して「今の時期ですと、キキョウとかペンタスのお花の時期ですよ。色合いも男性が持っても違和感のないお花にしてはいかがでしょう?果物とかも良いですね」と言ってみました。魔獣を刺繍するのにはハードルも高いですし、お花の刺繍が出来るのであれば、お手本になる図鑑があれば大丈夫でしょう。「先にお花を決めて、それから構図を考えれば良いのです」私の言葉にプリシエラさんは図鑑を開いて、どんなお花が良いのかを確認し始めました。今の時期に咲くお花は種類が少ないので、果物も選択肢に入れさせて貰いました。



「うぅ・・・。良い構図が全く思い付きません・・・。」

そうなのです。この時点で1番頭を悩ませているのが、ラヴィアーネさまなのです。手巾を贈る相手の方は成人しています。この場合は家紋を刺繍しても良いのですが、お相手の方はラヴィアーネ様とのご結婚を機に何れかの爵位を賜る事が決定している様なので、下手に家紋の刺繍は出来ないそうなのです。そうなると、好きなお花の刺繍や趣味の小物を刺繍するしかありません。1番安全なのは、相手の方から「こういった刺繍が良い」と指定して貰える事なのですが・・・。



「すみません。ラヴィアーネさま、婚約者の方はどういった方なのですか?」

私の知らないラヴィアーネさまの婚約者の方は、純粋に気になります。


「クラヴィス様ですか?そうですね・・・、クラヴィス様は私よりも2歳年上で、皇城で文官として出仕していらっしゃいます。」

ラヴィアーネさまはそう言うと首を傾げて私を見てきます。



・・・?



「・・・それ以外には・・・?」

「・・・?・・・あぁ!そうでした、お仕事は『伯父様と同じ』だと仰っていました。」

私に質問に首を傾げたままだったラヴィアーネさまは、和やかに付け加えてくれました。お義父さんと一緒に働いていると言う事は、高位文官さんなのでしょうか?


「・・・好きな食べ物とか・・・?」

「知りませんわ?」


「・・・好きな色とか・・・。」

「・・・?さぁ・・・。」

私の質問に、ラヴィアーネさまは首を傾げたまま「?」とお返事を返してきます。



「・・・ジーナさん、リヒトさんを呼んできて欲しいのですが・・・。」

「かしこまりました。」

首を傾げたままのラヴィアーネ様はとても可愛らしいのですが、私はジーナさんに声を掛けます。





少ししてからジーナさんと一緒にお部屋に来たリヒトさんは、私の言葉を聞いて「なるほど」と言って納得した様に頷きます。


「確か、ラヴィアーネ様の婚約者はウルゴーラ家のクラヴィス殿でしたね。クラヴィス殿に付いて知りたい事があるのでしたら、本人に尋ねてみると良いですよ。彼もラヴィアーネ様にお会いしたいでしょう。」

リヒトさんの言葉にラヴィアーネさまは困惑した様に「でも・・・、お仕事の邪魔をしてはいけませんわ」と言います。



「ラヴィアーネさま、話し合う事はとても大切ですよ?そうで無いと、アスラさんの様にある日突然、大量のミシュを抱えて帰ってきたりしますよ?」

私の言葉にお部屋の中にいる皆さんが驚いた様に私を見ます。プリシエラさんも図鑑からお顔を上げていますからね。ミシュはミカンの様な感じで、とても甘い果物なのです。リリンとは今の時期の果物の双璧なのですよ。


「えぇっと・・・、それはどういった経緯でそうなったのですか?」

こめかみを押さえたリヒトさんがそう言ってきます。


「経緯は良く分からないのですが、アスラさんがミシュを買ってきたのは、お家で食べる為に買っておいたミシュが無くなった次の日でした。あまりの量に、本当に驚きました。ミシュは傷みやすいので、ソールさんと毎日食べていますよ。」

「アスライール様は、その前の日辺りに何か言っていませんでした?」

私の言葉にリヒトさんが尋ねてきます。その言葉に私は「むぅ?」と考えてみます。



その前の日は、確か私が買ったミシュの最後の1個をソールさんと分けた日でした。買ったのは5個入りのミシュだったので、食後のおやつにしていました。



「・・・経緯と言って良いのかは分かりませんが、そう言われてみると、アスラさんが大量のミシュを買ってきたのは、お家で食べる為に買っておいたミシュが無くなった日の次の日です。」

「・・・お嬢様、その時にアスライール様に何か仰いましたか?ソール様でも良いのですが、『また食べたい』何て言葉とか?」

私の言葉にジーナさんが尋ねてきます。その言葉に、私は深く考え込みます。その時の会話は確か・・・。




「今日食べたミシュが最後の1つだったので、ソールさんと分けて食べちゃいました。」

と言った私に対して、アスラさんからのお返事は「そうだったのですね」だったと思います。



「・・・リヒトさん、ジーナさん、・・・もしかしたら、切っ掛けは多分私なのかも知れません。」



私の思い出した会話をお2人に伝えたら、お2人も「それかも知れませんね」と言ってくれました。



「やっぱり、そうだったのですね!アスラさんもミシュを食べたかったのですね。」

私が「確かにあの量でしたら、アスラさんもたくさん食べる事が出来ますよ」と続けたら、皆さんは「信じられない!」と言います。ただ、ラヴィアーネ様だけは「そうですね」と言ってくれたので、私の味方ですね!


「確かにそうなのかも知れませんが、どうしてそうなるのですか!?」

「お嬢様、もう少し考えましょう?それでは、あまりにもアスライール様が・・・。」

「ち・・・、違うと思います。」

私の言葉は、このお部屋にいる私とラヴィアーネさま以外の皆さんに否定されました。もしかしたら、同時にラヴィアーネ様の言葉も否定したのでしょうか?



私とラヴィアーネさまは揃って「あれ?」と首を傾げてしまいました。今はラヴィアーネ様の存在が心強いのですが、何だか皆さんの私たちを見る目が「可愛そうな子」を見る様な目なのです。


どうしてなのでしょう?ますます私とラヴィアーネ様は首を傾げてしまいました。













シルミアとプリシエラは仲が良いです。シルミアからギリアムへのフォローがあったのですが、ギリアムはプリシエラから「嫌われているかも」と思っていました。そしてフィーネリオンからは「愛情の裏返し」という言葉が出てきたので、ますます混乱します。

混乱の極みに落ちいったギリアムは、ソッとコルネリウスに相談をします。そこで、フィーネリオンの言葉の意味を知ります。それからは、プリシエラの言葉が面白いので気にしなくなりました。


実は、プリシエラの刺繍の腕はとても良いので、シルミアの誘いに乗らなくても課題は終わらせる事が出来ました。ただ、贈る時になって、刺繍した構図が「女性用」と言う事に気付きます。


コルネリウスはシルミアからの贈り物であれば、どんな構図でも喜びます。安心の子煩悩。


一応、フィーネリオンたちの居る部屋にはプリシエラとラヴィアーネ付きの侍女が控えています。自分の主に対するフィーネリオンの言葉に驚きましたが、主が不快感を示さなかった為にそっと控えています。


最後のフィーネリオンの言葉には「内心」でツッコミを入れています。



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