108 ようこそ! 5ページ目
みなさんこんにちは。
昨日の夜はヴァレンタ家のお屋敷にお世話になったので、今日はゆっくりとした朝を迎えました。朝起きたら、ソールさんが私のベットで眠っていた事に驚きました。やけにお布団が「暖かい」と思ったのですよ、スヤスヤと眠っているソールさんを見て何だか納得してしまいました。ソールさんはまだ夢の中の様なので、私は自分の身支度をしましょう。
・・・そう言えば、お兄ちゃんたちの着替えは大丈夫だったのでしょうか?
少し経ってから起きたソールさんをジーナさんに託してサロンに向かったら、そこには「貴公子」と言っても差し支えの無いお兄ちゃんがいました。
「・・・おはよう、フィーナ。」
私よりも早起きなお兄ちゃんは、サロンに入った私を見て困った様に笑っています。お兄ちゃんの「何だか凄かった」が、ヴァレンタ家のメイドさんに対する感想みたいです。お着替えの時は従僕さんに手伝って貰ったみたいですよ。
そうですよね、こちらのお屋敷で準備する衣服ですから中途半端なモノを選ぶハズがありませんよね。衣装係のメイドさんも張り切ってしまったのでしょう。栗色のジャケットは、お兄ちゃんにとてもよく似合っています。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おはよう~~。」
お兄ちゃんとお話ししていたら、ティアちゃんがサロンにやって来ました。今日のティアちゃんは、淡いバラ色のワンピースを着ています。
「おはようティアちゃん、とっても可愛いです!ねっ!お兄ちゃん!」
ティアちゃんのチョコレート色の髪の毛にはワンピースと同じ淡いバラ色のリボンが結ばれていました。お兄ちゃんも「そうだね」と言ってティアちゃんに「おはよう」とあいさつをします。
「おはよう・・・。」
ニアちゃんがそう言ってお部屋に入ってきたのですが、ニアちゃんはとても「お疲れ」の様子でした。お部屋に入ってきたニアちゃんは、シンプルな淡い空色のワンピースを着ていました。
「あっ!ニアお姉ちゃん、すっごく似合っているよ!」
ティアちゃんはニアちゃんの所に走って行きます。ティアちゃんはニアちゃんの腕を掴んで、私達の所にUターンしてきました。
「姉さん、何て言うか・・・、凄いね。」
ソファに座ったニアちゃんは、お兄ちゃんと同じ感想を私に言って来ました。今日のニアちゃんはメイドさんの頑張りに驚いてしまったようです。あれ?でも、昨日の夜はとても楽しそうでしたよね?
「なになに!何かあったの?ニアお姉ちゃん!」
ティアちゃんはニアちゃんに詰め寄ります。ニアちゃんは、そんなティアちゃんの様子に若干引いています。
「おはよう。楽しそうだね。」
「おはようございます。」
お父さんがアスラさんと一緒にサロンにやって来ました。アスラさんに抱えられているソールさんが半泣きなのはどうしてなのでしょう?もしかして、まだおねむでしたか?
「おはようございます。昨夜はお世話になりました。」
私達を代表してお兄ちゃんがお義父さんにあいさつします。ニアちゃんとティアちゃんも「おはようございます」とお兄ちゃんに続いてあいさつしています。
「良いんだよ。フィーナさんのご兄妹という事は、私にとっても子供みたいなものだ。こんなに賑やかなのは久し振りだから、私も混ぜて貰おうと思って顔を出しに来たんだよ。」
お義父さんはとても穏やかにこう言っています。
「お義父さん、今日はお仕事お休みなのですか?」
アスラさんがお休みなのは把握しているのですが、お義父さんがお休みなのかはちょっと分からなかったので、聞いてみました。
「・・・うん、今は重要な事案もないし、書類も多くないから休みなんだ。」
お義父さんからの返事は、何ともグレーゾーンな返事でした。隣のアスラさんは気にしていないのか、お義父さんに「そうなのですね」と穏やかに言っています。
朝食を食べた後、ローラントさんとアメリアさんがステイ君を連れて私達の所に来ました。
「昨日は姉さん達がすまなかった。でも、本当に助かった。」
近くのソファに座ったローラントさんは、私達を見てそう言います。ローラントさんのお姉さんたちは、今日の朝一で馬車に乗り工業都市へと帰って行ったと聞きました。ローラントさんたちは、これからアメリアさんのお兄さん家族の所に向かうそうです。
「兄さん達は家で作っている果物類の取引先を探しに来たみたいで、商業都市を通って家に帰るみたいなの。」
アメリアさんの言葉に、私たちは首を傾げます。
「私の実家ではリリンを中心に果物を作っているのだけど、リリンは他にも作っている所が多くて安く取引されているの。それで、帝都よりは少しだけ近い所にある商業都市で、果物の取引が出来ないかを確認しに来たみたい。」
アメリアさんの言葉に、ティアちゃんが「リリンおいしいよね~。」と言っています。ソールさんも「あい」と言って頷いています。
「少し聞いても良いですか?」
そんな中、お兄ちゃんがアメリアさんに声を掛けます。お兄ちゃんの言葉に、アメリアさんは「はい、何でしょう?」と首を傾げて答えています。
「お兄さん方は『商業ギルド』に登録されていますか?もし、登録されていないようでしたら、先に登録しておく事をお勧めします。」
お兄ちゃんの言葉にアメリアさんが首を傾げます。
「商業都市では、商業ギルドに入っていないと、まともに相手をしない店主も多いのです。かと言って、商業都市に入ってから商業ギルドに登録しようとすると、2~3日待つ様になるかも知れません。幸い、帝都の商業ギルドは空いているようですから、登録をしてから商業都市に向かった方が時間は短縮できますし、滞在も少なく出来ますよ。」
お兄ちゃんの言葉に、私も「そうですね」と頷きます。
「商業都市は少し特殊で、商業ギルドに登録されていない店は『違法店舗』と見なされる場合があり、その店と取引をした場合は『違法取引』扱いになる場合があります。取引の賃金が支払われなかったとしても、自己責任扱いとなってしまうのです。
商業ギルドが間に入っていれば、契約書さえ提示できれば取引で受け取り損ねた賃金を支払って貰う事も出来ますし、相手の店を訴える事も出来ます。ただ、逆もあって、取引はしたけれど、賃金に見合わない品物を納品した時には契約を取り下げられる事もあります。もちろん、間に商業ギルドが入って、ですが。」
「確かに商業都市ではギルドの力が強かったな。」
ローラントさんはしみじみとそう言っています。確か、ローラントさんのお家はギルドに関わりがありましたよね?工業都市は違うのですか?
「商業ギルドへの登録は『身分証明書』が必要になりますが、何かそういった物はお持ちだったのでしょうか?」
お兄ちゃんの説明に戸惑っていたアメリアさんは、首を傾げて「馬車に乗る時に必要だったと思うから、持っているはずよ。」と言います。
「アメリアさん、商業都市で取引をするなら、商業ギルドでの登録はしておいた方が良いですよ。商業都市にある商業ギルドの建物は、いつもヒトが多いのです。もしかしたら、今の時期は登録をする為の用紙を貰うだけで1日が終わっちゃうかも!」
「・・・そうだな、あそこの混み具合は本当に酷いから、確かに帝都で登録しておいた方が良いかも知れないな。」
私の言葉にローラントさんも賛成のようです。アメリアさんは目を大きくして「えぇっ!?」と驚いています。
今の時期は、夏期休暇中の学院生たちがギルド登録をする為に集まるのです。あと、再来月の収穫祭に向けての取引もありますからね。
そこを過ぎると、8月からは学校関係の商品になります。学園への入学や進級、学院への進学もあるでしょうし、もしかしたら、騎士学校に進学するヒトもいるかも知れません。準備するモノはたくさんあるので、お店は忙しくなります。
何より、10月の年末には生誕祭や魔力測定が控えているので、贈り物の仕入れに大忙しとなるのです。
取引をする時に「ようやく」ギルド登録をしていたら、取引自体が白紙になってしまうかも知れませんからね。登録は早めの方が良いのです。
「兄さん達に知らせなきゃ!」
アメリアさんはそう言ってローラントさんとお屋敷を出て行きました。その時に「少し話したい事があるから。」と言って、お兄ちゃんも一緒に行ったので、ギルドでの登録は問題ないと思いますよ。
「・・・ニアお姉ちゃん。今の内容、わかった?」
「むっ!」
ティアちゃんとソールさんがニアちゃんに説明を求めていましたが、ニアちゃんは「もう少し大きくなったらね?」と言って、お2人にソッと焼き菓子を渡していました。アスラさんが微笑ましそうにその様子を見ています。
お義父さんは私たちの様子をニコニコと見ていましたが、もしかして、お義父さんに頼んだら登録が簡単にできてしまったりしますか?!
あと、スターリング候爵さまに「商業ギルドの建物を広くして!」と言っては貰えないでしょうか・・・。
あの建物が、もっと広くなったら結構便利になると思うのですよ?
焼き菓子を両手に持ったソールさんが私の所に来る途中に転んで泣き出した事で、その言葉が私の胸の中から出てくる事はありませんでした。
急に休んだカーマインによってヴィクターは「胃」に攻撃を受けたので、しばらく再起不能となりました。書類は待ってくれなかったようです。
ヘスト(アメリア兄)はアメリアと一緒に宿に来たリューイに驚きました。
ヘストは「果樹ギルド」と「農耕ギルド」に登録していたけれど、リューイに「商業ギルド」の説明を聞いて驚いた。
「果樹ギルド」「農耕ギルド」は仲買なので、どんな(傷んでいるモノは論外)作物であっても「一律」料金でした。「商業ギルド」は個人的な取引が無くても、依頼があれば「必要としてくれる所」に商品を紹介してくれるので、ある程度の利益が発生します。逆を言うと「需要が無ければ、声が掛からない」ので、どちらが良いかは個人次第。
商業都市の商業ギルドの建物が広くなる事は、(多分)ありません。
建物が広くなればなっただけ人手が必要になる事がわかっているし、ギルドの建物で商談を始められても困るので、要望が出たとしてもスターリング侯爵は「必要なし」の案件にまわしています。(一応目は通しています)
カーマインは(義理でも)可愛い子供達に囲まれて幸せ。アスライールに対しては「良くやった」と本気で思っています。




