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「・・・・なぜそうなるのですか・・・!?」
騎士さまが不思議な生き物を見るように(失礼な!)私を見ながら言葉を出しました。
「騎士さまは私に『私はフィーネリオン嬢にしか頼める方がいないのです』と先程仰いましたよね?
私はその言葉を『私からこちらの令状の内容を破棄する事』を申し立てる前提でおっしゃったのだと私は捉えました。」
「・・・その通りです。そうすればフィーネリオン嬢への被害は少なく済みます。」
私の言葉に、騎士さまは未だ唖然としたように答えてくださいます。
「仮に、1度目の私の時には成功するのかもしれません。
ですがその後、2回、3回と相手を変え回数を増やして言って、最終的に皇帝陛下直々にお相手の所に行ってしまったら?・・・その方がどれだけ強く望んだ相手がいたとしても、騎士さまと一緒に帝都に居なくてはならなくなってしまいます。そちらの方が騎士さまのお相手に選ばれた方も、騎士さまと精霊さまも不幸な事だと私は思うのです。」
皇帝陛下が出てきたら、その言葉に従うように周りも説得しますからね。・・・確実に。
「幸い?な事に私には『婚約者』と呼べる相手も居ませんし、家はお兄ちゃんが継ぎます。私の弟妹が両親とお兄ちゃんの手助けをしますから、私はとても身軽なのです。私との生活は騎士さまには不本意かも知れませんが・・・。これでも私は家事が得意な方ですので、ある程度はお家の事も出来ますよ?」
騎士さまは、私の話を聞きながら「だがしかし!」と言葉を発します。
「何よりも、お連れさまがこんなにも可愛らしいですもの!このようにされてはご一緒に帝都に行っても良いかなぁって思ってしまいます。」
騎士さまは私の目線が下に下がったのを目で追い、ソールさんが私にしがみ付いているのを見て驚きました。
「・・・『あしゅらいーる』は『ふぃーにぇりおん』がいっしょにくるの、はんたいでしか・・・?」
ソールさんは、大きな瞳にたくさんの涙を浮かべて騎士さまに訴えます。
・・・・私の鼓動が激しく打ち鳴らされています!
そうですね、これから私の名前は「ふぃーにぇりおん」としましょう。
そんな事を私が思っている隣では、騎士さまとソールさんのお話が続いています。ソールさんが私にしがみ付いているので騎士さんはどうにかしてその手を離そうとしていますが、ソールさんは益々私にしがみ付いてきます。
・・・ソールさんはお父さんである騎士さまに似ているのか、幼児さまにしては力強いので優秀な騎士さまになれると思いますよ。騎士さまも安心ですね?
そんな事を思っていたのですが騎士さまが何か仰って、ついに強硬手段に出ました!
何と、騎士さまがソールさんを叩いたのです!
「ふにゃ~~~~~~~~!!」
なんて可愛らし・・・げふんっ!
ソールさんが「泣いた」その瞬間、応接間内で突風が起きました!
私はビックリして固まってしまったのですが、騎士さまご自身が着ていた外套(対魔法用!)を私に(少し雑に)かけて下さいましたので大きな被害はありませんでした。お部屋の中も何か魔法が掛かっているのか、変化が起きません。私に抱き付いているので、私とソールさんの周囲にだけ局地的竜巻が起きているようです。
「ぴゃ~~~~!!にゃんで~~~!!」
・・・みなさん、この状況で悶える私を許して下さい・・・
舌っ足らずのソールさんは、どんな事をどんなに真面目に言葉にしても(私には)全て可愛らしく聞こえてしまいます。今の状況も騎士さまの外套があるお陰か、私には実質的な被害がありません。お部屋の中も特に変化が無いので、そちらを気にする必要が無いのです。
・・・気にするとしたら今の私を見て、少し引き気味の騎士さまについてでしょうか?
「この状況が、異常だとは思わないのですか?」
私から離されてイヤイヤをするソールさんを捕まえた状態で、騎士さまが私に尋ねます。
「え・・・?
騎士さまが・・・、お父さんがお子さんを叱る事がですか?それとも、こちらの局地的台風のことですか?」
「おとっ!・・・私達はそんな風に見えるのですか?」
私の言葉に衝撃を受けた騎士様は、そのまま唖然としたように立っています。
「えっ!・・・すみません!もしや、随分とお歳が離れているように見えますが、ご兄弟ですか?」
「いえ、・・・そうか。成るほど・・・。
・・・ようやく、彼らの言っていた事が分かりました・・・。」
あれ?違ったのかな?と思い謝罪をしたのですが、騎士様は力なくソファーに座り込みます。
少し肩を落とした騎士さまは意識が遠い所まで旅立ってしまったので、騎士さまの腕に抱えられているソールさん(半泣き)を撫でて騎士さまが帰ってくるのを待ちます。
ソールさんが「あのね」「あのね」と話しかけてきたので、私は耳を傾けて聞く態勢になりました。
「今、私とフィーネリオン嬢がこうして話している『原因』が『何』なのか、お分かりですか?」
不意にアスラさんが私に聞いてきました。
・・・もう騎士さまったら、さっきから何回も皇帝陛下のお話はしているので分かっていますよ!
「ソール・・・、いえ、こちらの『精霊様』の世話をするために『フィーネリオン嬢と私が帝国に向かう』と言う皇帝陛下からの令状の内容が原因となって今の状況になっているのですよ?」
・・・
・・・・?
騎士さまに抱きかかえられて、半泣き状態で「どやぁ」っとお顔をキリリとさせているソールさんが私を見ています・・・。
可愛い。カメラと言う物が切実に欲しい。
あれ?
・・・だって、さっき・・・。わたしは、ソールさんを見たまま固まってしまいます。
「精霊さまのお姿は『青年に近い少年』って仰いませんでした!?えぇっ!?幼児ですよ!えっ?どうしちゃったのですか!?」
私の口から、とり繕う事なく出た言葉に騎士さまは「やはり」と言って、言葉を続けます。
「先程フィーネリオン嬢に伝えた内容では、確かに今もその状態であるように思いますから仕方が無いと思います。私も、フィーネリオン嬢がソールの事に気付いていないのは、何となく分かっていました。
・・・実は、ソールがこの状態になったのは、つい最近なのです。
陛下の御子様がお生まれになるまでは、確かに先程お話した通りの見た目だったのです。ですが、御子様がお生まれになった後に陛下が何かをしたようなのです。『なんて事を・・・』と魔術師長が言っていたので確実だと思われます。」
もう「皇帝陛下」って呼ばなくてもいいよね。周りの皆さんの為にも、皇太子さまに譲位しちゃいなよ。
「あにょね、」
少し小さな声でソールさ・・・精霊さまが言葉を紡ぎます。
「あのね、そーるね『じーく』のところにいる『ちいさいの』がきたときに『いいなぁ・・・』っていったでし!だってね、『ちいさいの』がきたとき『じーく』と『えりー』のまわりにいたみんなが『にこにこ』していたでしよ・・・。
そしたら、『じーく』が『かぞくがほしいの?』っていってきたでし。
そーる、『かぞく』ってしらないでしが『ちいさいの』がきたとき『じーく』のまわりにいたみんなが『にこにこ』してたでし、『かぞく』がいたら、『あしゅらいーる』もずっと『にこにこ』するとおもったでしよ。だから、そーる『ほしい』っていったでし!『じーく』は『あいてをさがさないと!』っていったでしけど、そーる『あしゅらいーる』には『ふぃーにぇりおん』がいいでしって『じーく』にいったでし。『ほかの』も『おなじ』だっていってたにょ・・・。」
精霊さまは、最初は一生懸命声をお出しになっていたのですが、最後の方は声が小さくなって騎士さまの胸元に顔を埋めて泣きだしてしまいました。
・・・精霊さまのお話の中で「エリー」さんと名前が出てきましたが、皇后さまのお名前が「エルリーゼ」だったと記憶しています。精霊さまの周りは上流階級の方で纏まっていますねぇ。
騎士さまと私は顔を見合わせます。
私と視線が合うと、騎士さまは困ったように笑いました。
「・・・どうやら、今回は私達『契約者』の為に精霊様達や皇帝陛下が動いたようですね。」
騎士さまはもう言う事が無いのか、精霊さまの髪を撫でながら私に仰いました。
そうして、精霊さまをソファーに下ろして私の左手をとり跪いてこう仰いました。
「フィーネリオン嬢。私、帝国騎士第3師団第5部隊アスライール=ディ=ヴァレンタは、フィーネリオン嬢との婚姻を望みます。」
・・・。
・・・・・?
あんれ~~?
騎士さま?それって、婚姻の申し込みですよね?婚約とかでは無くて?
私と騎士さまは今日初めて会ったのですよ?「婚約」をすっ飛ばしていますが、大丈夫ですか!?
先程旅立った、騎士さまの(紳士担当の)意識さーーん!帰ってきてーー!
平仮名の読み辛さったら・・・