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101 リンカーラ


(区切る所が見つけられなかったので)とても長いです。難産でした。









私にも、ずっと欲しかった物があったんだ・・・。

だから、1度目にこの帝都を離れた時に私が失ったモノが、また見つかるとは思わなかった・・・。









「レイドが病になった。治療の成果が見えないから、跡継ぎにリンカーラを任命したい。との事だそうだ。」

15歳の時、学院に通っていた私は父上から依頼を受けた伯父上にこう伝えられた。



初めは「そうなのか。」と思っていただけだったが、それから暫くした頃に領地運営に対する指南をする為のヒトが領地から派遣されてきて、日々の課題の他に「やらなくてはいけない事」が増えた。


だから、15の歳の後半からは、同年代の「友達」と一緒にいた記憶が、私には無い。



それからは、仲の良かった令嬢達は「異質なモノ」を見るように、あからさまに私と距離を取るようになった。それと同時に、学年の令息達も私の事を「腫れ物」を見るような感じで、遠巻きに見られる事が多くなった。



「女なのに爵位を継ぐそうだ。」

「騎獣に乗るなんて、まるで男の方のようね。」


「女のくせに伯爵だとよ!」

「政に女が出しゃばるなんてな!」


「リンカーラ様には、弟様もいらしたでしょう?どうして『跡継ぎ』がリンカーラ様なのでしょう?」

「お兄様がご病気になったと言うけれど、それって本当なのかしら?」



私が「跡継ぎになった」と言う事は、同世代の中で瞬く間に広がっていった。それによって私に取り入ろうとするヒトもいたし、私の悪評を言い回っているヒトもいた。そういったヒトが多い事に疲れはしたけれど、当時の私にはそんな事を気にしている余裕は無かったし、何より一緒に頑張ってくれたキールが居てくれたから学院滞在時は耐える事が出来た。

元々、キールは私の1つ上と言う事もあって、学院を卒業をした後もそのまま帝都に残って私の面倒を見てくれていた。私が課題に躓いたりした時は「気分転換をしましょう。」と色々な所に連れ出して貰ったりした。



確か、この時に「婚約者が居る。」とキールに聞いたんだと思う。



キールは、辺境伯領の貴族の中ではとても穏やかな性格で、同じように穏やかな性格の兄上との仲はとても良かったと思う。・・・辺境伯領付近の貴族は好戦的で、本当に困る。

帝都では「貴族主義」の考えを持っている子息令嬢が多いので、キールの灰色の髪は良く思われていなかったようだが、見る目のある令嬢や子息達との交流がキールにはあったはずだ。


・・・アスライールは多分知らないと思うが、アスライールの兄であるゼーセス殿とキールは、当時から仲が良かったと思う。ゼーセス殿は、アスライールが辺境伯領に駐留していた時にキールにも会いに来た時があったから、間違いないと思うんだが・・・?


・・・今日の披露宴にも呼んでいたみたいだから間違いは無いと思うんだけど、どうなんだろう?




学院を卒業してからは、只管にサイジェル辺境伯爵の跡継ぎとして政務に追われていたから、いつの間にか周囲から「嫁ぎ遅れ」と言われるようになっていた。両親は、その事に対して心配からかいろいろ言って来たけれど、私は結婚よりも政務を憶える事に必死だったし、結婚に対する憧れは殆ど無かったので聞かないようにしていた。



それから暫く経って、皇帝陛下の出した「勅令」によって帝国内が荒れた。帝国内の集落や町、都市部からのヒトの流出に領主達は頭を抱えたと聞く。


かく言う私も頭を抱えた。あの時ばかりは皇帝陛下に恨み言を言いたかった!




それから暫く経った年、その年の新緑祭が終わって一息ついた頃に「ようやく帝都の騒動が落ち着いてきた」と帝都の学院に通っていた妹からの連絡が来た。



「アルバートを連れて帝都へ向かい、エイミールの様子を見てきて貰えないか?」

そう父上に言われた事で、私は2度と戻る事は無いと思っていた帝都へと向かったんだ。




「カーラお姉様!アルバお兄様も!」

本当に久し振りに会ったエイミールは「お久しぶりです!」と言って私に抱き付いてきた。

その時に、エイミールの「友達」だと紹介された令嬢達が、口々に「お姉様!」「お姉様!」と言って私を囲んで来た事に驚いた。アルバートからは「姉上、『男の敵』って言う言葉があるので、程々にして下さいね。」と言われた。・・・・今でもあの時の事は分からないのだが。


帝都滞在中は伯父上の屋敷に世話になっていたのだけれど、領地に帰る頃になって伯父上から「皇城に来て貰えないか?」と言われたんだ。



私とアルバートは軽い気持ちで伯父上に付いていったのだけど、その後が大変だった!








「リープですの。初めまして、私の半身。」



皇城の一室に通された私に対して、そう言って挨拶してきたのは、目の冴える様な美しさの貴婦人だった。



今、この場にいるのは、私達と皇妃様と皇太子殿下の4人で、アルバートは両親に連絡をする為に伯父上の執務室に行っているので、席を外していた。



「これは・・・。一体どう言う・・・?」

私の言葉に、皇妃様が事情を説明してくれました。



皇妃様の言葉は、俄には信じられない内容だったので「冗談でしょう!?」と思わず言葉にしてしまったけれど、皇妃様と皇太子殿下は「真実です。」と言います。私達の会話中、隣に座る貴婦人は静かに座っていたが、私にはそんな事は気にしていられなかった。

戻ってきた伯父上とアルバートがこの話し合いに加わった事で、私はこの貴婦人・・・、精霊様であるリープ様の「契約者」に選ばれた事を「理解」しなくてはいけなかった。



だが、私は既に、正式なサイジェル辺境伯爵の「跡継ぎ」として任命されていたので、その辺りの整理をする為に一度領地に戻る事を許され、急ぎ領地へと戻ったんだ。




・・・それからが大変だった・・・。




実家に戻った私は、直ぐに家族に事情を説明したが、伯父上がある程度の説明をしていてくれたお陰か、腹を括らされた弟が領地を継ぐ事になった。

弟は「仕方ない。これは仕方のない事だから、姉上は気にしないでくれ。」と言ってくれたが、母上の後を継ぐ予定だった弟は、その時には、駐留中の騎士団との橋渡し的な存在となっていた。これは、我が領地にとっては、とても手痛い事態となった。


だから、私から弟に引き継げるものは、全て弟に渡した。

それが弟の役に立てば良いと思っての行動だったけれど、「家族も居るから大丈夫だ」と言ってくれた弟に感謝をして、私は領地を出た。



・・・実はこの時、私はキールに会わないで領地を出たのだが、この事を兄上と弟には物凄く怒られた。



「薄情だ」とは私自身も思った。だけど、どうしても会う事が出来なかった。






私が帝都に戻ると、私以外にも「契約者」と呼ばれる者がいる事を教えて貰った。


1人は冒険者のローラント殿。

名前を聞いて平民だと分かったが、年下だというのに私よりもしっかりとしていて、自分の力で生きていた青年だ。傍に居るのはローラント殿と同じ髪色の青年で、「ステイ」と名乗っていた。


もう1人に驚いた。何年か前まで我が領地にいた騎士の、アスライール殿がそこに居た。

アスライール殿も私に気付いて会釈をしてきたが、つい最近、帝都に戻ってきたそうだ。帝都に戻るまで一体何処にいたのだろう?無事で何よりだった。傍に居るのは、やはりアスライール殿と同じ髪色の青年で、「ソールです。」と名乗ってくれた。




皇妃様と皇太子殿下の説明の中に「精霊様との契約者はヒトとしての時の流れから外れる」というものがあったが、私1人だけでは無い事がこれほど心強いと思った事は無かった。


ローラントは今まで通り冒険者の仕事をしながら生活をすることにした様だし、アスライールも騎士としての仕事を続けていた。私も、ただ無為に日々の生活を過ごすことはしたくなかったので伯父上の手伝いをしていたのだが、ステイ殿はローラントと一緒に行動している様だし、ソール殿もアスライールと共に行動していた。だからかも知れないが、リープ嬢も私と共に行動しようとしていた。


流石にリープ嬢を連れて伯父上の執務室に向かうことは出来なかったので、リープ嬢の為に家の事を任せる家事メイドを雇ったのだが、どうも上手くいっていなかった様だ。結局、私に付いてきていたからな・・・。



それでも、何とかリープ嬢との生活に慣れていったんだ。



皇城での月に1度の顔見せはあったけれど、それでも私達は何とか「平穏」に過ごせていたと思う。





・・・リープ嬢が小さくなった時までは。




去年、皇帝陛下の側室殿が御子様を出産した事は聞いていた。「あぁ、そうか。」と他人事の様に聞いていたから、確実だ。

私は伯父上の「補佐官」だったので参加出来なかったのだが、その御子様の「お披露目」についての話し合いの後に何かがあったのだろう。政務が終わってリープ嬢を客間に迎えに行ったら、そこには途方に暮れた様な顔をしたローラントが3人の「幼児」の相手をしていたんだ。



「かーら!」

そう言って私に向かって駆け寄ってきた幼児はとても可愛らしかった。ただ、私には「幼児」の知り合いは居ないから反応に困った。


「リンカーラ殿、『精霊様』のリープ嬢ですよ。その子。」

私の様子にローラントがそう言って来たが、その時の私は上手くローラントの言葉に反応が出来ていなかったと思う。


「かーら、りーぷでしゅの!」

私の「はぁ!?」という言葉に、私の足元までやって来たリープ嬢(?)は元気に自己紹介をしてきた。戸惑う私が「幼児」リープ嬢に目線を合わせると、とても嬉しそうにしていた。




「ソールど・・・「あしゅらいーる!」

私の後からこの部屋に入ったアスライールは、自分に駆け寄ったソール殿(?)を見て固まっている。


「・・・ソール殿、随分と縮みましたね。どうしたのですか?」

アスライールがソール殿に驚く様な質問をしているが、その冷静さに私とローラントは驚いた。



・・・後から知ったのだが、この時のアスライールは、物凄く混乱していたらしい。



「そーる、ちいさいでし!かわいいでし!」

ソール殿は胸を張って「がんばった!」と言っている。



・・・・・は?



「りーぷのほうが、かわいいでしゅ!」

「すていも!」


精霊様達は、それぞれの契約者に可笑しな主張をしているのだがどう言う事だ!






・・・まぁ、その後、精霊様達が小さくなった「原因」が、皇帝陛下の8番目の御子様だったなんて誰が予想できただろうか・・・。それを置いても、訳の分からない「後押し」をした皇帝陛下には、皇妃様から「お仕置き」があったと聞く。本当に、何て事をしてくれたんだ!


それからの私達は「幼児」となった精霊様の対応に四苦八苦する様になった。ローラントの所はましだった様だが、アスライールの所は全然ダメだった様で、アスライールの実家であるヴァレンタ家の方からヒトが派遣されていた様だった。あの、あまりの有様に私とローラントは本当に驚いた。

私も身の回りの事くらいしか出来ないから、家事メイドを雇っていて良かったと心底思ったよ!





・・・そして、年の変わる10月の最終日。


私達は伯父上に呼び出され、それぞれが2通の封筒を渡された。封蝋を見てローラントが嫌そうに顔をしかめているが、この封蝋は皇城で使われている「一般的」な封蝋だからそこまで構えなくても大丈夫だろう。

私とアスライールの説明を聞いてローラントは安堵した様にしているが、封筒の宛名を見て「これ、誰だ?」と言っていた。私の所にはキールの名前が書いてあったから気にしていなかったが、アスライールも「知らない方です。」と封筒に書かれた名前を見ていた。



「・・・あ~~。その、だな・・・。その封筒に書いてある名前は、そなた達の伴侶殿の名前だ。」

伯父上は何とも歯切れの悪い切り出しで、良く分からない事を言っている。


「・・・伯父上、仰っている事が良く分からないのですが?」

私の言葉に、ローラントとアスライールが頷いている。



「私にも良く分からないのだよ!?何を思ったのか、陛下が急に『契約者殿も結婚すれば良い!』何て言いだして、令状を認め始めていたんだ!思いあまって、『私が書くので仕事して下さい!』と言ってしまったからこうして形にしたんだ!」



・・・伯父上の苦労は何時まで続くのだろうか・・・。



「・・・もしかしたら、陛下によって選ばれたその者達には、想い合う恋人や既に婚約を交わしている相手がいるかも知れん、そういった者達を陛下の思い付きで引き裂くなど以ての外だ!しかし、陛下の令状の威力がどれだけ削げたのかは、受取手の捉え方次第だろう。

・・・もし、この令状を受け取った事でこの者達が不利益を受ける様ならば、『宰相が間に入るので気にする事は無いと』伝えるのだぞ!良いな!」

伯父上はそう言うと、深いため息と共に「そうすれば、陛下の威厳は何とか保たれる。」と呟いていた。



伯父上の(疲れ切った)様子を見ていたローラントが「それならこのヒトに会ってくるか。」と言った事で、私とアスライールも帝都を出発したんだ。






「・・・なる程。」

久し振りに会ったキールは、相変わらずの落ち着いた様子で私の渡した令状を読んで考え込んでいる。



「取り敢えず、『断って貰う』前提の令状だから、あまり深く考えなくてもいい。明後日にはここを出発するから・・・」

「では、それまでに準備をしないといけませんね。」

私の言葉を遮ったキールは「あぁ、すみません。」と言って、「準備があるので失礼します。」と部屋を出て行った。



「・・・いや、だから、断って貰う前提なんだって・・・。」

私の言葉は傍に居た兄上が聞いていたけれど、兄上も「陛下も、たまには良い事するんだね。」なんて意味の分からない事を、暢気に言っていた。



その後、何だかんだで荷物を纏めたキールと帝都に戻ってきてしまったが、私が帝都に到着した日の2日後の夕方、仕事上がりのアスライールと帝都に戻ってきたばかりのローラントが私の家に来た。キールを見たローラントに「リンカーラ殿もですか!?」と言われた事で、ローラントとアスライールも「相手」を連れてきた事を知ったんだ。

私に付いてきたキールは「正しく」令状の意味を把握していたようだが、2人の「相手」に選ばれたヒト達は平民のようだから、理解が難しかったのかも知れない。そう思いながら伯父上との面会に挑んだ。




当日、皇城の準備されていた部屋に先に付いたのは私達だった。その後にローラント、その次がアスライールだった。


ローラントの連れてきたアメンティナ嬢は穏やかそうな雰囲気の持ち主で、私とキールの髪の色に驚いていたけれど、「アメンティナです。よろしくお願いします。」と挨拶をしてくれた。その後に「どうぞアメリアと呼んで下さい。」と続いた。リープの「よろしくでしゅの!」の言葉に「私の方こそ、よろしくね?」と返してくれていた。


何より私達が驚いたのは、アスライールの連れてきたフィーネリオン嬢だ。部屋に入ってきた時、思わず凝視してしまった。金色の髪の毛の話は聞いた事がある。妹が「本当に可愛いのよ!」と言っていた、何年か前の「商業都市の妖精姫」ではないのか?

「リンカーラ様でしょうか?」とフィーネリオン嬢は私に訪ねて来たので、「普通に名前を呼んでくれて構わない。」と私が言ったら、とても嬉しそうに「リンカーラさん、フィーネリオンです。これから、よろしくお願いします。」と挨拶された。


・・・確かに、可愛いな。妹には連絡しておこう。


フィーネリオン嬢はキールとリープにも挨拶をしていて、今はアメリア嬢と話をしているようだ。ソール殿はフィーネリオン嬢の足元をウロウロしていたが、隣りに座って満足そうだ。ステイ殿も同じようにアメリア嬢の隣りに座っているから、2人はだいぶ精霊様と仲が良いのだろう。・・・リープもキールと仲良くして欲しいのだが・・・。



この時、フィーネリオン嬢が「17歳」と言う事と、そんな未成年であるフィーネリオン嬢と「婚姻」してきたアスライールに、私とローラントが驚いた!



・・・アスライール、お前の年齢がいくつなのか、分かっていての事なのか!?



貴族であれば、確かに「ありえる」年齢差ではあるが、相手は平民だろう?私には、犯罪並みの「年の差」だと思えるのだが!?その日の「顔合わせ」は色々と言いたい事はあったけれど、皇家との顔合わせの時の方が大変だったので、もう、気にしない事にした。







それから、私とリープの生活の中にキールが入った。

リープはキールとの生活に慣れないのか、キールの周りをウロウロしてはいるのだが、どう接したら良いのかが分からないようだ。



そんな中、新緑祭も間近に迫った頃に、思いもしなかった事件が起きた。



「リンカーラ、大丈夫ですよ。治療師にも見て頂きました。リープも気にしないで下さい。」

そう言うキールは落ち着いているが、私にしがみついているリープは「ごめんなしゃい・・・。」と言って離れようとしない。

どうやら、私に対する行動と同じ事をキールにしたのだろう。小さくなったリープは「お転婆」だ。精霊様が3人集まった時に1番大人しいのはステイ殿だと思う。リープのお転婆具合に時々頭が痛くなるが、そこを窘める事が出来ない私がいる。

この事でリープを皇城に戻した。その際、リープ達の滞在場所が奥宮殿と言う事もあって、慣れない申請に手こずってしまい、アスライールに様子を見て貰っていたのだが、皇城での生活はリープにとっては「良くない」環境だったようだ。新緑祭の後半、ようやくリープに会いに行ったら、そこにはステイ殿もいた。


どうやら、つい最近までソール殿もいたようで、ソール殿の迎えにフィーネリオン嬢も来ていたようだ。リープが頻りに「ぷりん。ぷりんがおいしかったのでしゅ!」といっていたが、「ぷりん」とは何だ?とキールと首を傾げてしまったが、部屋付きの侍従が「フィーネリオン様が差し入れてくれた甘味です。不思議な口当たりでしたが、とても美味しい甘味でした。」と教えてくれた。

私と入れ替わりでローラントもステイ殿を迎えに来ていたようだが、入れ違ったのか会う事はなかった。



そして、2月の終わりに、お礼を兼ねてアスライールの家を訪ねたのだが、生憎アスライールは仕事で留守だった。


その時に初めて「ぱい」と言うモノを食べたのだが、一口食べて驚いた。アメリア嬢が「フィーナさんの所で食べた『ぱい』がとても美味しかったの。」と言っていたが、確かに美味しい。

リープも「おいしいでしゅの~~。」と言っていた。




それから暫くの間、フィーネリオン嬢の事や私の後を継いだ弟の事など、驚く程たくさんの話をした。何より、キールの事がフィーネリオン嬢には気になったのだろう。



その日の夜、夕食の時に「何か」を決心したリープが「きーるは、おかあしゃまのことはしゅきでしゅか!」と大きな声を出した事に驚いた。思わず噴き出しそうになったが、キールも噎せていたので、聞き間違いでは無かったのだろう。


給仕をしていたラミィも「思わず」と言わんばかりにリープを見ている。


「どうなのでしゅか!」

尚もリープはキールに「答え」を求めているが、キールは戸惑ったように「いや、あのだね・・・。」とリープに言っている。


「リープ、キールを困らせないでやってくれ。」

私の言葉に、リープは下を向いて「・・・ていってたでしゅ・・・。」と何か言っていた。


「りー「ふぃーにゃは『まほうのことば』っていってまちた!」

そういったリープはわんわんと泣いてしまって、私には手に負えなくなってしまった。



「・・・リープ、落ち着いて聞いて下さい。

私にとって、リンカーラはとても大切なヒトなんです。だから、リープが悲しむような事はありませんよ。」

キールがこう言った事によって、リープは泣きながら「ほんとでしゅか?」とキールに言っている。


「えぇ、リンカーラは私の婚約者殿でしたから、嘘はありませんよ。」

リープの涙を拭いながら、キールは私が驚くような事を言っている。


「はぁ!?婚約者だと!?」

思わず口にしてしまったが、キールとリープは私の様子に驚いたように見てきた。



「はぁ!?まさか知らなかったのですか!?」

キールの言葉に、私が驚きから「知らなかった」と口にすれば、キールは「何回か打診されていたと記憶しているのですが?」と言って来た。



・・・。



確かに、そんな話もあったような気がした。でも、結婚には興味も無かったし・・・、そう言われてみると、両親が一生懸命何かを言っていたような・・・。兄上とアルバートも「不憫だろう!?」何て言っていたような気が・・・。



「・・・えぇ、そうですね・・・。一生懸命頑張っていたリンカーラの事は良く理解していたつもりでしたけれど、私だって、どうでも良いヒトの為に人生を棒に振るような事はしませんよ?カーラだったから、私は傍に居たのです。カーラの頼みでなかったら、アルバート様の傍にでは無く、貴女の傍に居ましたよ!」

キールの言葉に私は驚きすぎて、何も言葉が出なかった。私の様子にキールが「知らなかったのなら仕方がありませんね。」と言っているが、リープに「そう言う事です。」と言っている。


ラミィはキールを「不憫なヒト」を見るような目で見ていた。・・・何だろう、心が痛い。


「いや、何だかすまない。」

私の言葉に、キールは「何となく分かってはいましたから、大丈夫です。」と言って来た。



「それなら!おかあしゃまときーるは『りょうおもい』でしゅのね!」

リープの言葉に、キールが私を見てきた。


「きーるは、おとうしゃま!でしゅのね!」

リープの言葉に、ラミィがハッとしたように「おめでとうございます!」と言っている。



「そうですね、では、今度『婚姻届』でも出しに行きましょうか。」

とても嬉しそうにキールがこう言ってきたが、何で嬉しそうなんだ!



興奮したリープがようやく眠りについてから、改めてキールから婚姻の申し込みをされたのだが、何だか恥ずかしかった。

良く分からない状態で、アスライールに「魔法の言葉」とは何だ!と聞いてしまったが、何も知らなかったアスライールに私から色々な事を暴露してしまったので、キールにそっと「それくらいで・・・。」と通信を切るように促された。


「今度、また伺うよ!今度は3人で向かうから、キールを驚かせてやってくれ!」

だけど最後に、フィーネリオン嬢への伝言をアスライールに頼んだ。






今年になってから、私にとって周囲のヒト達が「身近」となった。

何より、アメリア嬢とフィーネリオン嬢、この2人の存在はとても大きかったと思う。ローラントとアスライールと過ごした期間よりも、深い付き合いがあるのでは無いかと思っている。


何かあれば私達は3人で集まっているし、キールも「楽しそうですね」と言っている。

私が今まで続けていた伯父上の「補佐官」の仕事は、「カーラはゆっくりして下さい。」と言ったキールと交代した。元が「補佐官候補」だったキールはとても要領が良いらしく、伯父上も「助かる」と言っていた。


・・・まぁ、書類整理は私が苦手な分野だったから仕方が無い。



アメリア嬢やフィーネリオン嬢と接する事が増えたお陰か、リープが少しだけお淑やかになってキールの怪我が減った事は本当に良かったと思う。


・・・私が「がさつ」だった訳では無いのだと思いたい・・・。



毎日がとても楽しくなって「このまま続けば良い」と思える程の幸せを感じていた。









・・・そして今日。








「カーラ、そろそろ眠った方が良い。」

キールがそう言って私の肩にストールを掛けてくれた。



時刻は、もう日が変わる頃に差し掛かっている。



今、私の前にはとても素晴らしい「贈り物」が広げられている。




私がフィーネリオン嬢とアメリア嬢から贈られたテーブルクロスには、1年を通しての花々が刺繍されていてとても華やかな物だった。テーブルクロスの裾の部分に向かってたくさんの刺繍がされていて、「お花畑みたいね!」とエイミールは言っていた。私はあまり花には詳しくないのだが、母上は「本当に素敵ね。」と言って1つずつ花の名前を教えてくれた。



一番多く刺繍されていたのが「デイジー」と言う花で「『希望』と『平和』と言う花言葉があるのよ。」と母上が教えてくれた。他にも所々に色とりどりの花々が刺繍されていて、そのどれもが私に向けた花言葉が込められていた。


何よりも、中央に刺繍されていた花が「ラナンキュラス」と言う花で、その花には「とても魅力的」や「晴れやかな魅力」なんて花言葉があるらしい・・・。2人は私を買い被りすぎだと思う・・・。




そんな中、兄上が「アレ?」と首を傾げた。「これって・・・?」と言った兄上が、指で一点を指して私達を見てきた。その場所には、たくさんの花々に隠れる様に小さな男の子が笑顔で両手を挙げている姿が刺繍されていて、その手には黄色の「ヒマワリ」が握られているように見える。


「こっちも!」

そう言って来たのはアルバート。その指の先には青い花を持った男の子がいた。


「こっちはリープちゃんかな?」

そこには赤い花を持った女の子がいて、エイミールはリープに見えるように「ほら。」と抱き上げている。


「りーぷでしゅ!」

リープは驚いたようにしているが、エイミールから降りてフィーネリオン嬢から贈られたカバンを見せてきた。そのカバンに刺繍されている花とテーブルクロスに刺繍されている花は同じ色なので、同じ花なんだと分かる。


「あら、ルピナスね。」

母上はそう言って「こちらはブルースターかしら?」と言っている。そして「このテーブルクロスは、本当に貴女の為の物だわ。大切にしなさい。」と私に言ってきた。







兄上の治療が治療師では無く医師へと変わる事は「兄上が望んだから」でもあるけれど、実際「兄上ほどサイジェル辺境伯爵を継ぐのに相応しいヒトはいない」と私達弟妹は思っている。


兄上は辺境伯領を継ぐ為に頑張っていたヒトだけど、自分が病になった事で跡継ぎとなった私と弟がどんなに頑張っても周りに認められない事を悔やんでくれていた。私の事を「所詮は女伯爵」と陰で言っている者がいれば、「カーラは良くやっている。」と言ってくれ、「次期伯爵は、政に向いていない」と言われていた弟の事も、「今までとは違う考えで良いと思う。」と支えてくれていた。


だけど、私達が周りのヒトにそんな風に言われている事を、兄上が「申し訳ない」と思っていた事を、私達は知っていた。だから、私と弟は頑張れたんだ。



暫くの間はアルバートが「次期領主」として動く事になると思うが、フィーネリオン嬢の「お薬は、毎日飲む事が重要なのですよ!」と言って「どんなにまず・・味が微妙だったとしても、飲み続ければそのうちに慣れますって!」と続いた時、私達は笑った。



伯父上がヴァレンタ伯爵と退室した後、アメリア嬢とフィーネリオン嬢もそれぞれローラントとアスライールと共に退室して、この部屋に私達家族だけになった時、兄上の「久し振りに思いっきり笑った気がする。うん、頑張るよ。」といった言葉が、まさかその後直ぐに届いた薬によって「頑張れるかなぁ。」になった時には、また笑いが起きた。

薬を飲んだ兄上曰く「口に痛い。」らしいけれど、医師は「食事の際にお飲み下さい」と言っていたみたいだから、気合いを入れて飲んで、頑張って回復して欲しいと思う。



私よりずっと年下の「友達」は、本当に素晴らしい。

私が諦めていた物を、こんなに簡単に分けてくれたのだから。




・・・でも・・・。




「・・・キール、どうしよう。幸せすぎる。」

私の言葉にキールは驚いたようにしていたけれど、私の隣りに座って「そうですね。」と言っている。


「カーラは今までが目まぐるしすぎたのです。これからは今まで出来なかった事を、ゆっくりとやっていきましょう。」

キールは、そう言ってテーブルクロスを見ている。




「キール・・・「カーラ、・・・刺繍、頑張りましょうね?この様子だと、アメリア嬢とフィーネリオン嬢の披露宴が開かれる際、もしかしたらですが、どちらからか刺繍に誘われる可能性があります。そうなったら・・・。」


キールはテーブルクロスの刺繍を見て「本当に見事な刺繍ですね。」と言っている。やっぱり思う所は一緒だったか・・・。




「あぁ・・・。できる限りは頑張るよ・・・。」

私の言葉にキールは苦笑いを浮かべているが、出来ないモノは出来ないのだ!




・・・まさか、この歳になって刺繍に本腰を入れるようになるとは・・・。


でも、何だか頑張れ「そう」な気がしてきたから、この中の花の「どれか」は刺繍できるように頑張ろうと思う。















ラミィ・・・リンカーラの家の家事メイド。雇われた時、破格の待遇に驚いた。でも、やる事はいっぱいなので、頑張って仕事をしています。


リンカーラも始めはリープ「嬢」と呼んでいたけれど、(子育てをしているような)日々の中で、いつの間にか「リープ」と呼ぶようになった。ローラントとアスライールもそんな感じです。



リンカーラの同級生達は「貴族主義」な考えを持っているヒト達が多かった。実は、コルネリウスの元妻のイレイズもこの年代出身。貴族出身以外の学院生はそうでも無かったのですが、「身分の壁」があったのでリンカーラは孤立していました。


リンカーラは気付いていませんでしたが、実はキールを通してヴァレンタ家との付き合いがヒッソリとありました。メルリードは表立って姪を可愛がる事が出来なかったので、キール→ゼーセス→マゼンタ→カーマイン→メルリードへと情報が流れていました。当然ですが、メルリード周辺にリンカーラと同年代の文官はいません。その前後の年代で補えているので「問題ない」と思っています。


帝都にキールを連れてきたリンカーラにメルリードが結婚について何度も確認していたのは、リンカーラがキールを「嫌って」いたから結婚しなかったと思っていたからです。元々リンカーラとキールの関係を知っていたので、リンカーラの両親には「いつ結婚するんだ?」と聞いていた。まさか「リンカーラが婚約者の存在を知らなかった」と言う事に驚きました。


婚姻届を出した時には、我が子の事のように喜んでいました。


10代くらいの令嬢はリンカーラの「トラウマ」なので、リンカーラは始めの内はフィーネリオンを避けていました。でも、アメリアに「とても明るいヒトでしたよ?」と言われ、ローラントも「ステイも気に入ったようだから、悪意は持って無いと思う。」と言った事で会う決心をした。ただ、時期がだいぶ空いていた事で足が重くなっていたけれど、リープが「ぷりんの『おれい』をいわないと!」と言った事で、アスライールの家に向かいました。


フィーネリオンとアメリアのお陰で、お菓子類を食べる事に「目覚めて」しまったので、キールが休みの時には帝都巡りをしている。時々ローラント達と会う事もあるけれど、そうなるとアスライールの家にお土産を持って集まっている。(大抵アスライールは留守。)

フィーネリオンは焼き菓子に喜んでいるけれど、仕事から帰ってきたアスライールには不満の視線を送られています。


リンカーラのお母さんは、辺境伯領に「押掛け婚約」をしました。

自身が「がさつ」な事を自覚しているので、ヒトの集まる所にはあまり出席していませんでした。最低限の社交の場だけを切り抜けられるように、「貴婦人」としての最低限のマナーは常に意識しています。花々に詳しい理由は「食べられる花」と「食べられない花」を見分ける為。何かあった時の為に食用花を育てています。


ビグンはビワのような果実です。


リープに贈られたポシェットの中には、ソールとステイによって描かれた似顔絵(?)が入っていました。




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