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98 おいわいのせきで・・・ 







みなさんこんにちは!サイジェル辺境伯爵の帝都邸宅にて、アメリアさんと一緒にリンカーラさんの姿に見とれているフィーネリオンです。



今日は、女のヒトだったら夢に見る、一生の記念日である「披露宴」の日です。




もちろん今日の主役は、リンカーラさんですよ。




今日のリンカーラさんは、真珠で飾られた深紅のマーメイドタイプのドレスを華麗に着こなしています。


スレンダー美人であるリンカーラさんだからなのでしょう。今日のドレス姿は、周りのみなさんが見惚れるくらいに本当に良くお似合いです!

いつもは「動きやすいから。」と男装をしているリンカーラさんのドレス姿を見た私とアメリアさんは、もう何回も「素敵です!」と言っています。こちらの世界、「新婦」の着る衣装の色は決まっていません。でも「色の付いているドレス用の生地」は高いので、平民は比較的料金の安い「白」を選ぶヒトが多いかも知れません。お色直しをするヒトは少ないので、この1着にお金を掛けるそうです。ケイトの衣装は薄い空色でしたが、それはケイトの実家が「布問屋」だからだと思います。リンカーラさんの着ている鮮やかな「深紅」は、一体どれくらいのお値段なのかが気になってしまいます。


・・・何より、そのスカート部分に使われているたっぷりの生地は、本当に素晴らしい物が使われているのでしょう。素人の私でも「綺麗な生地ですねぇ・・・。」と思ってしまったくらいなのですから!






「素敵ですねぇ。」

「本当に!」

私の隣りにいるアメリアさんも感動したようにリンカーラさんを見ています。今日のアメリアさんの装いはトライデント候爵夫人が準備してくれたようで、レースがふんだんに使用されている淡いバラ色のプリンセスラインのドレスです。優しい色合いがアメリアさんによく似合っています。





・・・それにしても、リンカーラさん?「身内だけの式で、あまりヒトを呼ばない。」って言っていませんでした?




お屋敷のホールを埋め尽くすヒトの多さに、私とアメリアさんは早々に動く事を諦めましたよ?






「ローラントったら、どこに行ってしまったのかしら?」

アメリアさんはそう言いながら、ヒトのたくさんいるホールをチラチラ見ています。アメリアさんの隣りに座っているステイ君は、そんなアメリアさんを見ながらモグモグとお菓子を食べています。


「アスラさんも『あいさつに行って来ます』と言って離れたままですから、心配ですね・・・。」

私もアメリアさんと同じ方を見てしまいますが、隣りに座っているソールさんは「だいじょぶよ~~。」と言いながらお菓子に手を伸ばしています。



そうそう、今日の披露宴で振る舞われているお菓子は、私がレシピ提供をしています。



この事については、商業都市に向かう前にリンカーラさんから相談を受けていたのです。快くお菓子作りを受けようと思ったのですが、なにぶん私も「披露宴への参加者」なのです。私がお菓子を作っても良かったのですが、それはリンカーラさんとキールさんに「披露宴の方に出席して貰いたい。」と却下されました。アスラさんとも相談をしたのですが、なかなか良い案が出なかったのです。



ですが、この問題を宰相さまが解決してくれました。


「それなら、フィーネリオン嬢が前日に作り方を料理人に教えてくれれば良い。屋敷に滞在用の部屋を準備するから、その部屋から披露宴に向かえるように手配しよう。」

宰相さまのこの提案に、リンカーラさんが「それなら、アスライールとソールも滞在したら良い。」と言ってくれたので、私達はこちらのお屋敷の離れに1泊したのです。




「ふふふっ。これも不思議なお菓子ね。」

ステイさんがアメリアさんに手渡したのは「プチシュークリーム」です。


何種類か考えたお菓子の中で、料理人さんたちの反応が面白かったのがこのシュークリームだったのです。シュー生地の焼き上がりの膨らみ方に驚いていました。始めに作った時は大きなサイズのシュークリームだったのですが、貴族のご令嬢は「大きく」お口を開かないみたいなので、それならと小さなサイズのシュークリームを作ったら「OK」を貰えました。

小さなシュークリームなので、中に入れるクリームを「カスタードクリーム」にするか「ホイップクリーム」にするかで論争が起きましたが、料理長さんの「迷うなら2種類作ろう」の言葉で、2種類の味が楽しめるようにプチシュークリームが並んでいます。


他にも、ショコラのリクエストをソールさんに貰っていたので、ショコラのお菓子を何種類か出しています。色々なアレンジを加えた物を出しているからか、トリュフは好評のようです。


食べやすい大きさにカットされたチーズケーキも、それなりに人気のようです。


少しだけ意外だったのが、メレンゲクッキーが人気な事でしょうか?三角パイを作った時に卵白が余ってしまったので、特に気にもせずに作ったお菓子だったのです。「皆さんで食べて下さい。」と休憩スペースに置いておいたら、料理人さんよりもお手伝いの女性陣に人気があったようで、その様子を見ていた料理長さんの言葉で、急遽テーブルにソッと並べられたと聞きました。





「お待たせしました。」

そう言ってアスラさんが帰ってきました。その後ろには、お菓子の乗ったお皿を持っているジーナさんがいます。


どうしてジーナさんがこちらに居るのかと言うと、私達(特に私ですかね?)の着替えの為に、お義父さんがこちらのお屋敷に送り出してくれたのです。さすがに私1人ではドレスを着る事が出来ませんから、とても心強いです。こちらのお屋敷にいる間は、私達の身の回りをジーナさんにお世話して貰える事になりました。

今日、私が着ているドレスは、淡い青緑色のAラインのドレスです。腰の所に大きなリボンが付いていて、とても可愛い1着です。リンカーラさんの披露宴の事を宰相さんに聞いていたお義父さんが、お義母さんに伝えていた事で作られていたみたいなのです。私はお屋敷のクロゼットに入っているドレスから選ぼうと考えていたのですが・・・。やっぱりダメでしたか!






こちらのサイジェル辺境伯家を継いでいるのは、宰相さんの弟さんでリンカーラさんのお父さんです。リンカーラさんのお父さんは、リンカーラさんに私達の事を聞いていたのか、私達にも気さくに「よろしく。」と言って下さいました。

リンカーラさんが宰相さんの「姪」と聞いてはいましたが、リンカーラさんのお父さんは、キリッとしたお顔をしていて「男版」リンカーラさんのようでした。リンカーラさんのお母さんは「ほんわか」とした方でしたが、アスラさんは「辺境伯領の私兵団を纏めている方です。」と教えて貰いました。

あいさつの際に「あらあら、本当に可愛らしいわぁ。私の娘達もこんな風に育って欲しかったわぁ。」と言っている姿からは想像が出来ません。きっと、何かの間違いだと思うのですが、どうなのでしょう?



この時に、リンカーラさんのご兄妹の皆さんともお会いしたのですが、リンカーラさんと良く似たお兄さんのレイドさんはとても穏やかそうな方でした。「病気療養中」と聞いていたのですが、ここ最近は調子が良いみたいです。お兄さんも披露宴に安心して出席できそうですね。弟のアルバートさんはお母さんに似たのか、おっとりとした方のようですし、妹さんであるエイミールさんも可愛らしい方でした。


・・・リンカーラさんとエイミールさんの年齢が、10歳差という事を聞いて驚きました。



皆さん帝都には今週末まで滞在をするようです。そうですよね、帝都から辺境伯領までの移動は2週間くらい掛かると聞きます。当主さまであるリンカーラさんのお父さんが、長い間領地を離れるのは難しい事ですよね。今回帝都に来ていない、リンカーラさんのお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが領地に残っているみたいですが、それでも「帝都滞在1週間」はギリギリなんだそうです。


この披露宴が終わった後、リンカーラさんとキールさんはリープさんを連れて1度ご実家に戻るみたいです。帝都に帰ってくるのも、6月の終わりの頃と言っていましたから、ほぼ2月リンカーラさんとはお会いできなくなってしまいます。





「菓子類の所、ヒトが凄いな。」

そう言いながらローラントさんが軽食を持って帰ってきました。


「ローラント、大丈夫だったの?」

アメリアさんは軽食を受け取りながらローラントさんに声を掛けています。




「あぁ、大丈夫だ。・・・ステイ、誰も取らないからもっとゆっくり食べるんだ。」

「む。」


「・・・ソールも。まだありますから、ゆっくり食べなさい。」

「にゅ。」


ローラントさんはステイさんのお菓子を食べるスピードに驚いています。それよりも前からアスラさんとソールさんの静かな攻防がその反対側で行われていましたが、ソールさんのお菓子を食べるスピードは変わりません。まるでチムリスのようにステイさんとソールさんはお口いっぱいにお菓子を詰め込んでいます。その様子が面白くて、私とアメリアさんはお互いに笑ってしまいました。





「あぁ、こちらにいらしたのですね。」

その声に、私達は声の方を向きます。



「本日は本当にありがとうございます。まさか、こんな日が迎えられるとは思ってもいませんでしたの。」

私とアメリアさんの「本日はおめでとうございます。」の言葉に、リンカーラさんのお母さんはそう言います。隣りにいるお父さんも頷いて「ありがとう。」と言います。




リンカーラさんのご両親を立たせたままには出来ませんので、空いているソファーに座って貰います。




「リンカーラが『可愛い友達が出来た。』と言ってきた時には驚いたけれど、こちらにいらっしゃる皆さまは『これから先』あの子と一緒にいる時間が長くなるのでしょう?どんな方達なのかと思いながら帝都に来ましたのよ。」

そう言ったリンカーラさんのご両親はお互いに笑っています。


「辺境伯領は帝都から離れているので、私達は世情に疎い。いや、政治の事は情報を集めているのだが、それ以外の事が後手に回ってしまうんです。

今回、兄が『本当にすまない。』と言ってきた時には『何事だ!』と思いましたが、前回の『無茶振り』に比べれば可愛い内容でした。何より、娘がこうして結婚できたので、結果としては問題なかったのですが。」

リンカーラさんのお父さんはそう言います。


「えぇ、ただ、時期が遅れただけですから、今回の結婚自体は問題ありませんの。」

リンカーラさんのお母さんは、そう言って私とアメリアさんを見ます。



「何よりも私達は、リンカーラに『お友達』が出来た事が嬉しかったのです。」




リンカーラさんは、16歳の学院卒業と同時にサイジェル辺境伯爵の跡継ぎとしての教育が始まったそうです。お兄さんが幼い時から積み重ねていた事を駆け足で覚えなくてはいけなくなったリンカーラさんは、それまでいらした「お友達」と疎遠になってしまったようなのです。

なので「領主代理としての立場になった頃に結婚を・・・。」と家族が思っていたのですが、その年にエイミールさんの居る帝都が不穏な気配になって行って、エイミールさんを心配したご両親がリンカーラさんとアルバートさんを帝都に向かわせたそうなのです。

その時にリンカーラさんから「精霊様の『契約者』に選ばれた。」という通信を貰ったみたいなのです。




「・・・リンカーラさんも波乱の人生を送っているのですね。」

私のお口からこんな言葉が出てしまいましたが、リンカーラさんのご両親は「も?」と言って首を傾げています。



私はソッと隣りに座っているアスラさんを見ます。・・・ナゼか、「当事者」であるアスラさんも首を傾げて私を見ていますよ?




リンカーラさんのご両親は私の「視線の先」に気付いたのか、納得したように「そうだね。」「そうね。」と言っています。分かってくれましたか!




私とリンカーラさんのご両親は頷き合っていますが、アメリアさんたちは首を傾げたままです。




「不思議だろう?私達はエイミールの様子を見に行って貰ったはずなのに、ナゼかリンカーラの近況を報告されたからね。私としては『何があった!?』と思わずにはいられなかったよ・・・。」

「ふふふっ。その後にお義兄様から通信が入って、事の詳細を聞いた時には、お屋敷は上を下への大騒ぎでしたわ。辺境伯爵家の『跡継ぎ』がなかなか決まらないのは、何かあるのでは無いかしら?何て思ってしまったくらいですの。」

リンカーラさんのご両親は、少しだけ遠い目をしながら「あの時は凄かったね。」と言っています。




「何だか楽しそうだね。」

そう言ってリンカーラさんがキールさんと一緒にやって来ました。リープさんはキールさんに抱き抱えられています。リープさんはあいさつ回りにお疲れなのか、いつもはご機嫌なリープさんのまろやかなほっぺが不満の表情を浮かべています。


「あら、リンカーラ。ちょうど貴女達のお話をしていた所よ。」

リンカーラさんは、お母さんの言葉に「可笑しな事は言わないで下さいね。」と言っていますが、ソールさんとステイさんを見たリープさんが「りーぷも!りーぷもたべましゅの!」と言ってキールさんの腕から飛び降りようとします。





ジーナさんがお菓子をたくさん運んで来ているので、ソールさんとステイさんは怒濤の勢いでお菓子を食べていましたが、ここにリープさんが参戦です。




食べ始めのリープさんはまだ良いとしても、ずっと食べたままのソールさんとステイさんの、その小さな体の一体ドコにお菓子が入っていくのでしょう?不思議で仕方がありません。



私達はその様子を本当に感心しながら見ていました。















社交期間が終わった帝都での披露宴は「時季外れ」と言う事もあって、招待客は少なめでした。

でも「滅多に帝都に顔を出さない辺境伯爵夫妻が主催する」と言う事もあって、帝都周辺にいた貴族の皆さんは披露宴に出席しています。


ホールの片隅にいたフィーネリオン達は気付いていなかったけれど、結構目立つ場所にいたので注目されていました。


何より「披露宴ではダンスが無い」と聞いて、フィーネリオンとアメリアは一緒になって喜んでいました。




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