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95 おともだち








「そーる、おとこのこよ!」




みなさんこんにちは。ただ今、ソールさんの言葉に衝撃を受けている少年と、その少年にキリリとご自分の「性別」を言っているソールさんを見て、「初恋」の崩れていく音を聞いたフィーネリオンです。



少年は、1歩下がってソールさんを見ながら「う・・・うそだ・・・。」と言っています。



私は少年に同情を隠せません。



ナゼなら、ソールさんの今の格好は、外套を着ているのでパッと見ただけでは男の子かどうか分からないのです。その上、ソールさんのふわふわの髪の毛と、ほんのりと赤く色づいている軟らかなマシュマロほっぺも相まって、それはもう可愛らしい「女の子」に見えます。手に持っているルティーも「女の子」だと思わせる要因になってしまったのでしょう。



少年はジリジリと後ずさり、離れた所で笑っている方たち(ご両親でしょうか?)の所へと走って行ってしまいました。




「そーる、おとこのこなのよ!」

ソールさんはそう言うと、少しだけションボリとしたように私の所に戻ってきました。でも、ふと見たアスラさんが首を傾げています。



アスラさんも、ついにソールさんの性別を疑い始めたのですか?



そんな事を思ってしまいましたが、不思議なのはアスラさんの視線がソールさんではなくて、少年のご両親に向いている事でしょうか?同じように相手の方もこちらを凝視しています。







「もしかして、アスライールか!?」

「・・・アリオスですか?」

暫くお互いを見ていたアスラさんとそのお相手の方にちょっぴりドキドキしましたが、私の様子を気にすることなく、アスラさん達はお互いの確認をして驚いています。



「いや、本当に久し振りだな!学園の卒業以来か?」

そう言ってアスラさんに「アリオス」さんと呼ばれた男のヒトは、アスラさんの肩をバシバシと叩いています。


「えぇ、そうですね。久し振りです。」

それでもアスラさんは、心なし嬉しそうにしています。



「・・・で?この可愛い子は、アスライールの血縁か?俺に紹介しろ!」

一頻りアスラさんとの再会を喜んだアリオスさんは、私とソールさんを見てこう言います。




「可愛い」ですって!どうしましょう!




「あぁ、こちらは私の妻でフィーネリオンです。ちょっかいは出さないでくださいね。そして、抱きかかえられているのが、息子のソールです。フィーナ、こちらは学園の時の友人で、アリオスです。」

アスラさんはアリオスさんに私を紹介してくれましたが、ちょっかいって・・・。アリオスさんが驚いたように私を見ていますが、どうしたのでしょう?


でも、アスラさんのお友達!アスラさんの同僚の方たちは良く見ていたのですが、お友達は初めてお会いした気がしますよ?



「妻のフィーネリオンです。よろしくお願いします。」

「そーるよ!」

私が挨拶をしたら、ソールさんも元気に挨拶をしてくれました。



「・・・アスライール、お前、どんな弱みを握って結婚したんだ!?これは犯罪だろ!?」

アスラさんに掴みかかるようにして言った、アリオスさんの言葉がお店の中に響きました。



・・・どうしましょう?アスラさんが「犯罪者」に仕立て上げられようとしています。




アスラさん、私はどうすれば良いですか?





ソールさんの「めっ!」って言う言葉で落ち着いたアリオスさんは、今いる場所を思い出したのか一度息を吐いて「うちの別荘がそこに有るから、そこで話をしよう!」とアスラさんの腕を引っ張っていきます。その様子をアワアワと見ていたら、「旦那様がすみません。」と女のヒトに謝られました。









そうですよね、アスラさんの「お友達」ですから、「平民」である可能性は限りなくゼロですよね。知っていましたよ。



アリオスさんのご実家は、アスラさんのご実家であるヴァレンタ家と同じ「伯爵家」で、アリオスさんはそのお屋敷の次男さんなんだそうです。アリオスさん自身は、後継ぎであるお兄さんの補佐に入っていると説明してくれました。ゼーセス義兄さんと同じようにしているのでしょうか?


アリオスさんは、学園に通っている上のお子さんの「夏の休暇」に合わせて別荘地に来ているみたいです。ご両親とご兄弟はご領地にいらっしゃるみたいで、「一月だけの息抜きなんだ。」と言っていました。上のお子さんは、興行を見に使用人さんと出ているみたいで、今は留守のようです。


落ち着いたヴァレンタ家の別荘とは違って、煌びやかなサーザント家の別荘はとても立派な内装でした。私は、ヴァレンタ家の別荘の方が落ち着いていて好きですよ。






「・・・なる程、つまり、順番的にはアスライールがソール君を養子に引き取って、それからフィーネリオン嬢と結婚したと言う事か?」

「えぇ、そうです。」


そんな中、とても真面目にお話をしているのは、この別荘の持ち主であるアリオスさんとアスラさんです。私はそんなお二人を見ながら、アリオスさんの奥さんであるキャロルさんとお茶を飲んでいます。


外套を脱いだソールさんの格好は「男の子」だったので、フローさん(少年)の「恋心」を見事に砕いてしまいました。それでも、フローさんはソールさんと一緒に遊んでくれています。優しい子です。







「・・・でも、とても不思議な感じがします。」


キャロルさんの言葉に、アリオスさんとアスラさんがキャロルさんを見ます。




「アスライール様がこんなにお話をしている所を、私、始めてみているかもしれません。」

「あぁ!言われてみれば、確かに!」

キャロルさんの言葉にアスラさんは首を傾げていますが、アリオスさんは「激しく同意」のスタンスです。



「あぁ、そうだ。フィーネリオン嬢には、アスライールの学園生活時の面白行動とか言っておかないとな!」

アリオスさんは「これは!」と言う、アスラさんの「面白話」を私に教えてくれました。途中、アスラさんが止めに入っていましたが、アリオスさんのお話はとても面白かったです。


安心して下さい。アスラさんの小さな時の行動は、そのままソールさんに引き継がれていますよ!お2人は血が繋がっていないのですが、それと同じくらいに強い「契約」で繋がっているので、ソールさんはどんどんとアスラさんに似ていくのでしょう。




そうそう、学園に通っていた時のアスラさんは、女の子にモテモテだったみたいです。でも、当のアスラさんが女の子の告白に対して「そうですか。それで?」と言って続きを促した事によって、どんどんとアスラさんの立ち位置は「観賞用」となっていったそうです。




・・・



「アスラさん?」

私の言葉に、アスラさんは気まずそうに「そんな事もありました。」と言っていますが、そのお陰で私が結婚できたので、そこは置いておきましょうか・・・。




「何より、彼女たちは『学院に進学したらアスライールも結婚を意識するだろう。』と思っていたみたいだったんだが・・・。」

アリオスさんの言葉に、私はますます気まずそうにしているアスラさんをもう1度見ます。そうですよね?アスラさんは「学院」では無くて、「騎士学校」に進学していますものね。


「ふふふっ。本当に面白かったのですよ?入学から暫くの間、彼女たちは『何でいないの!?』『どこに行ったのよ!?』と言いながらアスライール様を探して教室を1つずつ見て回っていましたから。」

その時の情景を思い出したのでしょうか?キャロルさんは「うふふ」と笑いながらお話をしてくれました。



「アスラさんは人気者だったのですね!」

何て言ったら良いのか分からなくなった私の言葉に、キャロルさんは「えぇ、アスライール様は本当に人気がありましたのよ。」と言いますが、アリオスさんは「いや、アレは怖かった!」と言っています。アスラさんはご自身の事なのに首を傾げていましたが、きっと貴族の女のヒトにも「婚約者」のいない方がいるのでしょう。平民の中には、結婚をしないで自分が働いて一人暮らしをしている女のヒトがいますが、貴族の女性は結婚できなかったらどうするのでしょうか?








それから暫くの間、アリオスさんキャロルさんとお話をしていたのですが、日が沈んできたのでお暇しました。アリオスさん家族は5月いっぱいはこちらの保養地にいるみたいですが「6月になったら帝都に帰るから、その時はアスライールの休みの時にでも遊びに来い。」とアスラさんはアリオスさんに言われていました。帰りに、ソールさんがフローさんに「ありがと!」って言ってルティーのお花を半分渡していました。そのお花を、フローさんは嬉しそうに受け取っていました。





帰り道、ふと見た西の空に虹が架かっていました。アスラさんは「明日は晴れそうですね。」と言っていますが、その基準が分かりませんよ?でも、虹を見たソールさんは嬉しそうにしています。




明日は帝都に帰るので、良い天気でありますように!
















貴族の中には、学園を卒業して実家に帰るヒトもいます。ですが、それはほんの一握りで、大抵の子息令嬢は(入学確定の)学院を受験します。アスライールのように騎士学校を受験したヒトもいるけれど、騎士学校には入学できなくて、学院に入学したヒトもいます。


アリオスはアスライールが騎士学校に行った事を知っていたので、学院で騒動が起きた時には「なんて恐ろしい!」と思っていましたが、実際、騎士学校に報告に行こうとはしませんでした。(面倒だったから。)


婚約者のいない貴族の子女は、学院で「婚約者」を見つけるようになります。大貴族の3男は格好の標的となるので、両親の期待を一身に背負った子女も少なくはありません。それでも婚約者を見つけられなかった場合は、宮殿に出仕するか、親の見つけてきたヒトと結婚するようになります。自分から働こうとするヒトは「少数派」です。



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