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94 もふもふの!








みなさんこんにちは!私の知らない間に何かあったのか、マルガさんに「すみませんでした。」と謝られて首を傾げているフィーネリオンです。




・・・本当に何があったのでしょう!?





「マルガが本当にすみません。フィーネリオン様、お気を悪くしているのではありませんか?」

そう言って、オスカーさんが私の前にお茶を置きます。あっ、こちらのナイスミドルな小父さまは、オスカーさんと言います。


「・・・?いえ、本当に大丈夫ですよ?何かあったのですか?」

そのお茶を頂きましたが、とても美味しいです。




昨日のお昼にこちらの別荘に到着してから一晩が経っていて、今日は厚い雲が空を覆っています。結局、昨日1日雨は降り続いていて、私たちは別荘の中で過ごしていました。ソールさんは初めて来た場所に大興奮で、私と一緒に別荘の中を探検をしたりして楽しそうにしていました。


こちらのマルガさんは、コルネリウス義兄さんとゼーセス義兄さん、そしてアスラさんの乳母(!)だった方で、皆さんが大きくなったのでこちらの別荘の管理人をしていると教えて貰いました。オスカーさんとはご夫婦で、オスカーさんはアスラさん達の「マナー」の先生だったみたいです。


オスカーさんの教えが良かったのでしょう、アスラさんの振る舞いは本当に素晴らしいです。







「マルガさん、そんなに謝らないでください。私自身、どうして謝られているのかが分からないですし、謝られるような事があったのかも分からないので、そこまで気にしないでください。」

私の言葉にマルガさんは驚いたようにしています。


「フィーナ、マルガは昨日の到着からの事を謝っているのですよ。」

アスラさんはこう言っていますが、昨日、私たちがこちらの別荘に到着からのマルガさんの対応を思い返してみても、特にコレといって思い当たる節が見当たらないのです。


私がウンウンと考え込んでいる姿を見て、アスラさんがマルガさんに「私の言ったとおりでしょう?」と言います。



・・・何を言ったのですか?アスラさん?



「えぇ・・・。ですが・・・、だからと言って私ったら・・・。」

マルガさんがこう言って恥ずかしそうにしています。



「何だか良く分かりませんが、私、元が平民なので、貴族さま特有の細かい作法とかには気付けないのです。もし、その事が気に障っているようでしたら、本当に申し訳ないです。」

「いえいえいえいえ!そんな事はありません!私の思い込みがいけなかったのです!ですので、フィーネリオン様はお気になさらないで下さい!」

マルガさんの勢いに一瞬引き気味になりましたが、その隣でオスカーさんも苦笑い気味です。


「それなら、謝り合うのはおしまいにしましょう!そうでないと、今日はずっとお互いに謝っている事になりそうです。」



「そうだね、そうした方がいい。そうで無いと・・・。」

オスカーさんはそう言って目線を動かします。その目線の先には・・・。




「・・・そーる、たべてもいいでしか?」

焼き菓子を手に持って、切なそうに私たちを見ているソールさんがそこにいました。




私たちの様子にどうしたらいいのか分からなかったのですね、ソールさんのその切なそうな様子に「どうぞ。」と私たちの声が揃いました。その言葉にソールさんは幸せそうに焼き菓子を食べ始めます。






「今日は雨が降りそうです。外出すると聞いていましたので、外套を準備してあります。出掛ける際、どうぞそちらを着て下さい。」

オスカーさんとマルガさんはそう言ってお部屋から出て行きます。


幸せそうに焼き菓子を食べているソールさんを見ているアスラさんに「マルガさん達に私の事をどう言った感じに伝えたのですか?」と聞いたら、アスラさんは「フィーナは大らかですよ。と2人に言いました。」と私に言います。



・・・何だか良く分かりませんが、褒められていました!「ありがとうございます。」と言ったら、アスラさんにも「私の方こそありがとうございます。」とお互いにお礼の言い合いになりました。「そーるも!なの!」とソールさんが焼き菓子を両手に持って言ってきましたが、その焼き菓子はソールさんのお腹に消えました。その様子が面白くてアスラさんと笑ってしまいました。



ソールさん、そこは、その焼き菓子を私たちに渡す所ですよ?



そう思いましたが、焼き菓子を幸せそうに頬張っているソールさんはとても可愛らしいです。












「結構たくさんの方達がいますね。さすがカンフォレッタの興行です。」



お昼前に別荘を出てきたのですが、保養地の広場はヒトで溢れかえっていました。アスラさんが早い段階でソールさんを抱き抱えていたので、今の所ソールさんが迷子となる危険はありません。




「凄いヒトの数ですね、コレは天幕の中に入れるのでしょうか?・・・何だか無理そうな感じがしますね。」


私たちは天幕内での公演を見る為に並んでいるたくさんのヒトたちの後ろに並ぶ気にはならなくて、往来で行われている演し物を見ています。ソールさんもパチパチと手を叩いて楽しそうにしています。列に並んでいなくても、色々な所が見られるのでこういった感じも良いと思いました。ジッと待っているなんて、退屈ですからね。ソールさんは飽きてしまいますよ。




「アスライールじゃないか!」

ふとアスラさんの名前が呼ばれます。


振り向いた先には騎士の制服を着た方がいました。




「ラズール殿。お久し振りです。」

アスラさんはそう言って略式の敬礼をします。視線の先には灰色の髪の男の人と、赤毛で可愛らしい雰囲気の男のヒトがいました。着ている外套も騎士団の物だったので、お仕事中の騎士さまなのでしょう。アスラさんの同僚さんですね。



「あぁ、休暇中だろう?気にするな。・・・ソール殿も元気そうだな、それと・・・。」

ソールさんはアスラさんに抱きかかえられているので、そのままキリリとしながら「あいっ。」とお返事しています。ラズールさんと男のヒトが私を見ます。


「妻のフィーネリオンです。フィーナ、こちらは第7師団第6部隊の隊長殿で、ラズール殿です。」

ラズールさんの視線に気付いたアスラさんが私を紹介してくれました。



・・・隊長さん?



「はわわっ!アスラさんの妻のフィーネリオンです!よろしくお願いします!」

噛まなかった事を褒めて欲しいくらいの挨拶でしたが、隊長さんは「微笑ましい物」を見るように私を見ています。


「あぁ、俺はエクス=ディ=ラズールだ。好きな様に『エクス様』と呼んでくれ。」

隊長さんはとても真面目そうな瞳で私にそう言って来ます。



「はい。「ラズール殿」エクス様「隊長」ですね。分かりました。」

隣のアスラさんと隊長さんの横にいる騎士さんが、何か言いたげに隊長さんに言葉を掛けています。ソールさんも「めっ!」って言っていますが、どうしたのでしょう?



「・・・あ~~~~。まあ、アレだ、そんな事より、この後なんだが、何か用事はあるか?」

隊長さんは「ゴホン」と咳払いをして私たちに聞いてきます。


「今日は興行を見て、その後に観光地に向かおうとしています。・・・何かあったのですか?」

アスラさんは隊長さんに「今日の予定」を言いますが、隊長さんと隊員さんはお互いに頷き合います。



「カンフォレッタの方はヒトが凄いだろう?それで、だ。ここの他に2組の一座が来ているから、そちらも見てみないか?いや、無理にとは言わないが・・・。」

隊長さんからの言葉に驚きました。「ヒトが1カ所に固まりすぎないように誘導しているんだ。」と続いているので、そちらの2組の一座さんの天幕は空いているのでしょう。


そうですよね、「申請を出しているなら興行が出来る」とアスラさんは言っていました。どうして1組の一座だけが演し物をしていると思っていたのでしょう。こことは別に、違う所で興行を行っている一座がいてもおかしくはないのですよね。アスラさんは私を見て「どうしますか?」と聞いてきますが、カンフォレッタ一座の興行は、帝都に居る時に一度見ています。その時と演目は変わっているのかも知れませんが、カンフォレッタ以外の興行の一座があるなら、そちらでも良いと思いました。



「良いと思います。そちらへ行ってみましょう。」

私の言葉に隊長さんが「助かる」と言ってくれましたが、それでもここにいるヒトたちが私たちと同じように移動するかと言われれば難しい事です。それでも、隊長さんは「暴動さえ無ければ良いと思っている。」と言っています。アスラさんもその言葉に同意していたので、騎士さんも大変なのでしょう。



カバンに入れてきたアメ(ソールさんのおやつ)をそれぞれ1つずつ渡して隊長さんと隊員さんとは別れました。もちろん、ソールさんのお口にも1つ入りましたよ。




隊長さんに教えて貰った一座のうち、カンフォレッタの一座に近い方の一座さんの天幕には、騎士さまに声を掛けられたヒトたちでしょうか?それなりのヒトがいました。それで、もう片方の一座さんの天幕に向かったのですが、こちらは広場からはだいぶ離れた所に天幕が張られているからでしょうか、来ているヒトは少なく感じました。


私たちに気付いた受付の方が「すみませ~~ん。」と言って天幕の上から飛び降りてきた時には驚きに声が出ませんでした。




「わぁ!可愛いお客さんだ~~。」

そう言って受付をしてくれたのは、サラリとした体毛に覆われている獣人の女のヒトでした。




こちらの世界、何て言うか・・・、とても大ざっぱで、前世では「猫」と言っても色々な種類がいたのですが、こちらでは「カリャン」は「ショートヘア」でも「ロングヘア」でも区別される事無く「カリャン」なのです。「フェンダ」も同じなので、もうずっとこうなのでしょう。



それよりも「大ざっぱ」なのは、獣人の皆さんの種族でしょう。



「獣人」は、シッポがあっても無くても獣人なのですが、例え羽が生えていても「獣人」です。何より不思議なのは、ヒトと獣人のハーフが「いない」と言う事です。前世のゲームとかでは「ハーフ」って超人的なパワーを持っていたり、誰にも使えないような魔力を持っていたりするのですが、こちらではヒトと獣人の夫婦はいても、その間に子供は産まれないみたいなのです。



私たちの前に立っている受付の獣人さんは、とても可愛らしいお耳をしているので、「ララニー」の系統の獣人さんなのでしょう。モフりたい。


「あと少ししたら午後の公演を始めるから、座って待っててね!」

ララニーの獣人さんはそう言うと「お客さんだよ~~」って言いながら天幕の中に私たちを誘導してくれます。天幕の中には結構ヒトがいて、私たちは空いている所に座りました。



あぁ・・・。素敵なお耳でした。ぜひともモフらせて欲しいです。



「こちらは獣人達が運営している一座の天幕だったのですね。」

アスラさんの言葉でハッと現実に帰ってきました。アスラさんの腕から降りたソールさんが私をジッと見ています。その手がアスラさんの外套を引っ張っていますが、アスラさんは気にした感じも無く私の隣りに座っています。






獣人さん達の公演は、ソールさん大興奮の演出でした。私もソールさんに負けないくらい手を叩いてステージを見ていましたよ。









公演が終わった後、天幕から外に出ると小雨が降っていました。


「公演が終わる少し前から降ってきたの。」

その丸いお耳は熊さんですかね?こちらでは「アムグ」と呼ばれている熊さんの特徴を持つ女の子が、天幕の入り口でお花を売っています。アスラさんに抱きかかえられているソールさんがそのお花に興味を持ったので、変わった形のお花を咲かせている黄色のルティーを一束購入しました。私はこのお花を初めて見ました。



その時に一座のメンバーさんとお話しをしたのですが、こちらの一座さんはずっと昔に北の共和国から離れて帝国に移ってきた一座さんなんだそうです。帝国に移住してきたのもずっと前のおじいさんの頃で、帝国と共和国の戦争前なんだそうです。



・・・そうですよね、今の帝国は共和国からの移住を認めていないので、こういった興行を帝都で出来ませんよね。


ただ、帝国での「出稼ぎ」は認められているので、辺境伯領にはそういった獣人さん達の住んでいる区域があるそうです。リンカーラさんから聞いた事があります。辺境伯領周辺であれば駐留している騎士さまもいますし、何かあっても対応が出来るのでしょう。




獣人さん達は魔法を使う事が出来ません。・・・いえ、「使えない」と言うのは多分間違いで、魔力の放出が出来ないので「魔法が使えない」と思われているだけなのです。実際は、自分の魔力を使って「自身の体の強化」を行っているので、獣人さん達は頑丈な体を持っていると聞きます。



帝国と共和国の戦争の始まりは、共和国で流行った「流行病」に対する治療が自国だけでは収めきれなくて、その治療の為に「治療師の派遣」を神聖王国に申請したけれど断られた事から、共和国から一番近い国境沿いにある帝国領の辺境伯領から治療師と「水」の魔法が使えるヒトを誘拐した事が始まりです。

その治療師さんが抵抗した事で事態が判明し、その時に一緒に攫われそうになった水の魔法使いさんも何人か亡くなったそうです。その後、諍いから戦争に発展して行って、当時まだ「皇子」だった皇帝陛下の直ぐ下の弟皇子さまと一番下の妹姫さま、それと、その方達の護衛の騎士さまが獣人さんの奇襲を受けて亡くなったと授業で教わりました。今、皇帝陛下のご兄弟でご存命なのは、公爵家を継いでいる弟さまお一人です。

皇帝陛下の従兄弟さま達もいらっしゃるみたいですが、その方たちのお子さんたちは皇子さま方とは年齢がズレているみたいなので、皇子さま方とは縁合わせが無いみたいです。皇太子殿下の婚約者選びが難航しているのは、こういった「大人の事情」も合わさっているみたいです。



・・・どうして共和国の申し出を神聖王国は拒否したのでしょうか?この戦争については、色々と思う所が多いのです。この戦争が起きた事で、西の方ではそうでも無いと聞くのですが、帝国では北に行けば行く程獣人さんに対して態度が厳しくなります。こちらの獣人さん達の興行が端に追いやられているのも、もしかしたらそういった事に関係しているのかも知れません。






「今日はありがとうございました!」

そう言って見送ってくれる獣人さんとの握手は欠かしませんでした。ですが、なぜでしょう?最後の方は皆さんお顔を引きつらせていました。



私の顔の表情筋がお仕事をしていなかったので、ゆるゆるのお顔に引いてしまったのでしょうか・・・。




でも良いのです!皆さん、とても素晴らしいモフモフでした。驚いたのは、獣人さんの手に付いていた「肉球」でしょうか?獣人さんの肉球は手のひらだけで、指の方には付いていませんでした。進化の過程で無くなったのでしょうか?でも、小さな子の手のひらに付いていたプニプニの肉球は、とても至福の触り心地でしたよ!



本当はもっとプニプニしていたかったのですが、アスラさんが「そろそろ街路の方に向かいましょう。」と声を掛けてきたので、現実に戻った私は手を振って獣人さん達の天幕を後にしました。




・・・アスラさん?この辺りはヒトも多くないので、手を繋がなくても大丈夫ですよ・・・?















アスライールが「カンフォレッタ」を把握していたのは、「規模の大きい一座」だったからでした。

興行を行う一座は、1カ所の興行には大抵が1週間くらいの滞在です。カンフォレッタの一座は、保養地で2週間の興行を行うので騎士団内での扱いも大きい物でした。カンフォレッタは、知名度と一座の規模が大きい事と、保養地が今の時期は「避暑」に来る貴族が多くなるので今回の興行が出来ました。



獣人の皆さんが顔を引きつらせていたのは、フィーネリオンの後ろに立っているアスライールの表情がドンドンと「無表情」になってきたから。そうで無ければ、獣人に対して友好的な可愛い女の子との握手は、とても嬉しい。


満面笑顔のフィーネリオンは可愛かった模様。



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